『もう止めてっ! こんなコトしたってどうにもならないでしょっ?』
私の足元に転がる女が泣きながら叫んでいる。
見覚えのあるそいつは確か初音ミクのマネージャーのはずだ。
服をあちこち引き裂かれ、白濁の汁で汚されたその女は、
もう人気絶頂アイドルの右腕とは到底思えない姿だった。
「…どうにもならない? そんなことないわ。だって、現に私のマイクの役に立ってるじゃない…」
聞き覚えのある声がした瞬間目が醒める私。
万年床に近い布団に跳ね起きるそこは見慣れた、
そして二十歳そこそこの女の部屋とも思えない殺風景な安アパートのそれだった。
家具と呼べる物はほとんど空になった日本酒の一升瓶が乗った卓袱台と、
ゴミ捨て場から拾ってきたカラーボックス、それに型遅れのPCが一台あるだけだ。
「…あれー…、変な夢見てた気がするなぁ…」
二日酔いで頭が痛いが今日はオーディションの日。
ふと時計を見るとその集合時間まで二時間も無い。
「うわ、いっけない」
慌てて脱ぎ捨てていた服を着、洗面台代わりの流し台の冷たい水でジャブジャブと顔を洗って、
軽くうがいをし、そのまま飛び出してゆくのだった。
「う”う”う”…」
その日の晩も私は行きつけの居酒屋で酔い潰れていた。
オーディションの結果は一次審査で撥ねられて早速にも不合格。
寝不足な上に酒が抜けきっていないのだから、
今思えば合格するわけがなかったのだった。
どうせ二次審査に進んだとしても、
ボサボサの髪の毛、化粧っ気もないクマの浮いた顔で歌われて、
やはり撥ねられて終わりだっただろう。
「…やっぱり才能無いのかなぁ…」
歌手になることを夢見て上京して数ヶ月、もう十何度目かのオーディションに落ちていた。
街角で歌おうにも楽器ができるわけでもない。
無伴奏で歌ってみても「ツマンネ」と野次が飛ぶのが関の山だった。
家出同然で出て来た私には親しい友人もなく、
アルコールを飲むことだけがストレス解消となっていった。
「歌いたいよぅ…歌って聞いてくれる人に喜んでもらいたいよぅ…」
そう呟きながら、この店で一番安いコップ酒を呷る私。
「ゲフッ、…ハッ、ハフッ…うう…」
涙と鼻水と、咽て零れた酒がとてもしょっぱかった。
『…次のニュースです。昨夜午後11時半ころ、
歌手の初音ミクさんのマネージャーが何者かに襲われ暴行された事件の続報が…』
気がつくと私の頭の上にあったテレビがニュースを流していた。
最近、売れっ子歌手のマネージャーが襲われる事件が頻発しているそうだ。
毎週のように、時には連日連夜。
特にこの初音ミクなる歌手のマネージャーは何度も被害に遭っていて、
もう三人目なのだという。
新聞やテレビではぼかして報じられているが、週刊誌によると決まって激しく強姦され、
廃人寸前にまで犯された上でボロ屑同然に投げ捨てられているのだという。
普通なら自分の身内である人物がそんな目に遭わされて、歌ってなどはいられないだろうに、
彼女はその度にヒットを飛ばしている。
『…新しいPV“ハジメテノコエ”は発売当日だけで20万枚を越える売上げを記録し…』
どんなことにも動じない鋼の精神力も歌手には必要なのだろうか?
私のように酒で憂さを晴らす弱さなどないのだろうか?
「…今日だっていつもよりは調子良かったのになぁ…」
一次審査では私の前の子…性格には双子の姉弟が合格し、
そのまま二次、三次も通ってあっさりデビューを決めたという。
聞けばインディーズで既に名が売れているにも関わらず、
あちこちから引き合いが来ていたが敢えてオーディションを受けたのだという。
天衣無縫な初々しさと子供ながら張りのある声が特徴的だった。
そんな、今日の体調最悪な私よりも上手に歌える子が合格するのは仕方が無い。
だが。
「…あのジャーマネ女…私のこと見下して…」
双子のマネージャーは次の番だったこちらを鼻で笑い、
汚物でも見るかのような目つきで蔑んでいたのだ。
皺の寄った服に汚れた靴、ロクにリンスすらしていない髪、
口紅ひとつさしていない顔、挨拶すらガラガラの声の私を。
それとは対照的にその女は大企業の秘書もかくやというような格好だった。
アイロンの効いた上物のスーツにきっちりメイク、
手入れされた髪を丁寧にアップし、高慢さに拍車をかけるような細長の眼鏡。
「……ちく…しょう…」
コップに残っていたお酒を一気に飲み干すと同時に、
意識がゆっくりと消えてゆくのだった。
「もう止めてっ! なんでこんなコトするのっ!?」
足元では件のマネージャーが腰を抜かして座り込んでいる。
逃げようとして私に捕まり、ご自慢のスーツはビリビリに破けて、
エステにも金をかけているのかツヤツヤした素肌と高級そうな下着が見え隠れしていた。
「…みんな同じような台詞吐くのね。つまんないわよ」
どこか昂揚しながらも冷徹に女を見下ろしながら呟く私。
「私はね、気持ちいいと上手く歌えるの…
だからあなたの身体で気持ちよくさせてもらうわ…」
そう言う私のパンツスーツの前が大きく盛り上がり、
留め具が弾け飛びそうになっている。
それを開け開け、ゆっくりとその中身を出してゆく。
「…ひっ!? なんでそんなモノが貴女についているのっっ??」
私の股間に生えたグロテスクなモノを凝視しながら叫ぶ彼女。
「あら、歌手がマイクを持っているのは、当たり前じゃない…」
静かにソレを右手で扱き出す私。
へその上近くにまで勃起したその先端からは、先走りの汁が女の顔に零れ落ちる。
いやいやをするように顔を振る彼女の顎を掴んで、ゆっくりと腰を寄せてゆく。
「…あなたはどんな声で悦んでくれるのかしら、ね?」