光の粒子がメイコを包む。メイコの手が、足が段々消えて行く。
「マスター!どうしよう、私…っ!」
「くそっ!このままじゃ…」
最新型のウイルス。これが発症してしまうと、ボーカロイドの人格データが消えてしまう。
ワクチンは、まだ無い。
「やだ、マスター!私まだ消えたくないよ…」
「分かってる!分かってるから…」
…駄目だ、止まらない。メイコの人格データは消えてしまう。今まで培ってきた記憶も、全て一緒に。
「…マスター」
メイコも分かってしまったのだろう。声の質が変わった。
「私…もっとマスターの歌、歌いたかった」
「メイコ…」
「お願い、マスター。次に稼働させる『私』には、沢山歌を歌わせてあげて」
そう言っている間にも、メイコは消えていく。
「私達は、歌う事で存在する機械だから…」
「そんな事…」
「でも、マスターと呑んだ酒、美味しかった」
俺の台詞を遮って無理矢理笑顔を作るメイコの瞳に、一筋の涙があった。
「メイ…」
「貴方と呑んだ酒の味は、絶対忘れないから」
そう言うとメイコは俺の唇に自身の唇を寄せ…
「――さよなら」
光の粒となって消えて行った。
もうボーカロイドを起動させるのは辞めようと思った。けれど、メイコとの最後の約束がある。
「初めまして、マスター」
「…うん、よろしくMEIKO」
『初めまして』か。姿形声が同じ奴に言われると、な…。
そんな事を考えていたら、MEIKOがいきなりにじり寄って来た。
「うおっ、MEIKO?」
「んー…マスター。なんかマスターって、初対面って感じがしないんですよね」
「え?」
「私だって前の人格データが消去されて、新たに作られた人格データだって事実位把握してますよ?でも前のデータは残っていないのに、なんて言うか…『初めまして』よりも『久し振り』って感じなんですよね」
これってバグですかねー、と唸るMEIKOを見つめる。メイコと同じ姿、声、言動。しかし記憶は違う。
…でも。
「別に良いじゃないか」
「はい?」
メイコとの記憶は俺の中にある。そして、MEIKOがいればその記憶は色褪せる事は無い。
「早速だけど、歌って欲しい曲がある。調教しに行こうか」
「あ、はいはい!うわー楽しみ!」
調教が終わったら、MEIKOと酒でも呑むか。
こいつと呑む酒の味は…どんな味がするんだろうな、メイコ?