カイメイ【僕の彼女を紹介します】
一週間前にある劇的な事件があって、俺とめーちゃんは、おつきあい、をすることになった。
はじめて会った時からめーちゃんが好きだった俺にとっては、本当に夢のような話で(実は今もまだ時々本当は夢なんじゃないかと疑っている)、
あの時だって、酔いつぶれてしまう前にはそんなこと夢のまた夢のまた夢だと思っていたのだから、人生って数時間で何が起こるかわからない。
お酒の勢いって、偉大だなあと思う。
それから今日までと言えばそれは幸せに過ぎて、まず俺たちは、ミクたちに隠れてこっそり毎晩どちらかの部屋のベッドで一緒に寝ている。
以前から、この家で一番遅く寝るのも、一番早く起きるのも俺とめーちゃんだったから、このことはまだみんなにはばれていない、と思う。
めーちゃんは告白以前に思っていたよりもずっと甘えんぼうさんで、俺に頭を撫でてもらうのが大好きだ。
かわいいなあ、と思う。
ミクやリンやレンにはまだ俺たちのことを話していない。
みんな祝福してくれるだろうとは思うけれど、びっくりするだろうし、そのうち折り合いを見て話そうと、めーちゃんと話し合って決めたのだ。
ただ、めーちゃんは、秘密の関係、という今もそれなりに楽しんでいるみたい。
みんなのいる居間で、テーブルの下、俺の脚に自分の脚を触れさせて来たりする。
俺もうれしくて、しばらくはこっそりお互いのつまさき同士を触れ合わせているのだけれど、めーちゃんはいちゃいちゃしていると段々いじわるな気分になってくる傾向があるみたいで、その、すごく、困る。
だんだんつまさきが上の方に上ってくるのだ。
その先を予測して俺は小声で抗議をするのだけれど、めーちゃんはにこにこ笑ってそれを無視する。
俺は、その、あんまり、気持ちいいのを我慢できる方ではないから、これは本当に困るのだ。
めーちゃんはすごく器用に足の指を動かす。まるで手の指さながらで、思わず感心してしまうほどだ。
つまむのも握るのもはじくのもお手のものなのだから、そんなもので大事な所をいじられる俺はたまったものではない。
その上、リンやレンが近くで遊びだせば、例え俺がどんな状態でもその行為はあっさりと中断されてしまうのだから、本当にたまったものではないのである。
そう言えば先日、ミクとリンがとある企画書を持って帰ってきた。
「あのねえ、前に録った歌のPVを作ることになったの!」
ミクがネギを振り回しながらにこにこと言う。
「アリスをテーマにした歌でね、私がうさぎ、リンちゃんがアリスっていうのは決まってるんだけど、ストーリー仕立てのプロモにしたいから、お姉ちゃんもお兄ちゃんもレンくんも、何かの役で出て欲しいんだって!」
「役はまだ具体的に決まってないから、おうちでみんなで話し合って、アイディアがあれば提案してって言われたの」
渡された企画書に目を通してみると、近未来、うさぎが世界を崩壊させるのを止める正義のアリス、という設定のSFらしい。
俺たちの役の案もすでにいくつか書き込んであった。
俺の役のイメージはというと、
・ボロボロになって立ったまま皆を待ってるカイト
・「みんなの処には行かせない」仁王立ちのカイト
すごくおいしいけど、見事に死亡フラグが立っている感じだ。
「めーちゃんにはね、ハートのMEIKO女王!って案があがってるよ!」
リンがはしゃぎながらめーちゃんに言う。
「あら、いいわねえ」
「うんうん、ぴったりだよねっ」
両手を合わせてミクが言う。
そうかなあ?
「うーん」
俺の声にみんなが振り向く。
しまった。思うだけのつもりが声に出てしまった。
「カイト兄ちゃん、なんか案があんの?」
みんながびっくりするような正体の役、とだけ案が挙がっているレンが俺に聞いた。
「なによう、私に女王はつとまらないって言うの?」
めーちゃんが口を尖らせる。
「いや、そうじゃないけど!」
俺は慌てて言う。
うーん、でも。
「でもさあ、めーちゃんは、女王様よりお姫様、って感じじゃない?」
俺が思ったことをそのまま口にすると、4人はみんなきょとんとしている。
めーちゃんの顔だけが時間をかけてじわじわと赤くなっていく。
あれ?どうしたのかな?
「えー、お姉ちゃんはクイーン!って感じだよっ」
「うんうん、めーちゃんはきれいでかっこよくてセクシーだもん!」
ミクとリンが俺に抗議する。
うん、俺もそれには同意なんだけど…
きゃいきゃいとミクとリンが、レンを巻き込んで話し合いに戻る。
めーちゃんはというと、まだ顔を赤くしたままだまって俯いていた。
結局それから話し合いが終わるまでめーちゃんはひとことも喋らなかった。
大体アイディアが出尽くして、みんながテーブルから解散していく。
めーちゃんも立ち上がると、つかつかと俺の方に向って歩いてきて、
「あんた、今晩覚えてなさいよっ」
と赤い顔でぼそぼそと言うとそのまま早足で通り過ぎて行ってしまった。
俺は何が何だかわからない。
え、え、俺何か悪いこと言った?
思い返すが何も思い当たらない。
今晩覚えてなさいって、何をされるんだろう。
めーちゃんはなんで怒ったんだろう。
まさか、今日は手を繋いで寝てくれない、とか…
想像して泣きそうになる。
俺は一人、暗い顔でテーブルに残っていた。
でも結局、その晩寝る段になってみると、めーちゃんは怒ったような赤い顔をしてはいたが、いつも以上に俺に優しくしてくれた。
いつもよりキスをいっぱいしてくれた。
そしてそれに加えておやすみのキスを5回もして、俺より先に眠ってしまった。
いつものように手を繋いだ布団の中で、その日はその上俺の右腕にぴったりとおっぱいをくっつけて、俺の右足を両のふとももで挟み込んでくれている。
お仕置きじゃなかったのかな。それとも寝る前にいちゃいちゃしているうちに忘れちゃったのか。
どっちにせよ俺は幸せだ。
繋いだ手にぎゅっと力をこめる。
可愛い寝顔を見ていると、めーちゃんは本当にお姫様みたいだな、と思う。
甘えんぼうで、時々ちょっといじわるな、俺のお姫様。
髪を撫でてあげると、うーんと寝返りを打って、めーちゃんはくすぐったそうに笑った。
めーちゃん、俺のめーちゃん。好きと言えずにいた俺を叱ってくれためーちゃん。
俺は、本当にめーちゃんのために作られたんだな、なんて、一人で実感する。
右半身にめーちゃんの柔らかさと温かさを感じながら、その日俺は眠りについた。
そして奇跡の夜から一週間目の今日に至る。今は朝で、俺の隣にはこの前と同じようにめーちゃんが眠っている。
めーちゃんより少し早めに起きて、寝顔を眺めるのが俺の最近の日課なのだ。
ああ、この人が俺の恋人。幸せが胸をせりあがってくるのがわかる。
このままずっと寝顔を見ていたいけれど、おはようのキスも待ち遠しい。
俺はまたあの日と同じようにめーちゃんの髪を撫でた。
それにしてもどうしてあの時、めーちゃんはあんなに顔を真っ赤にして怒ったのかな?
何度聞いてもめーちゃんは教えてくれないし、
あれから数日経った今も、俺には未だにわからないのだ。
<終わり>