桜も散りきらぬ4月中旬、まだまだ現役で頑張るコタツに入っているメイコ・ミク・リン・レンの4人。
レンはバナナをモシャモシャと食べ、リンは机の上でロードローラーのおもちゃを走らせ、
ミクはネギをガジガジとかじり、メイコはワンカップを片手にスルメをモグモグ。
「ねぇねぇ、めーちゃん。それ美味しいの?」
ネギを口の中でモグモグしながら、美味しそうにお酒を飲むメイコを見て、そう問いかけるミク。
「うーん……美味しいけど、ミクにはまだちょっと早いかなぁ」
ミクは、何が早いのか良く分からないといった顔で、メイコの持つワンカップを見つめている。
そんな、のほほんとした日常の中、窓の近くで物思いに耽っている男が一人……
手には大きいサイズのハーゲンダッツ。彼の名はカイト。
「やっぱり春と言えばアイスだよね……」
外に向かって意味の分からない独り言を呟く姿を見て、
リンとレンは変な物を見るような、少しひきつった顔をしている。
「ちょっと、カイト。あんた夏も秋も冬も同じ事言って無かった?」
呆れた顔で少し馬鹿にしながら、そう言うメイコ。その横でミクもコクコクと頷いている。
ところが、振り返ったカイトの顔はいつに無く真剣だった。
何か深い意味があるのかと、メイコは息をのむ……
「仙台にね、牛タンアイス……ってのがあるらしいんだ」
(――またコイツは、バカな事を……)
メイコは深いため息をついて、カイトの言った事を聞かなかった事にし、晩酌の続きを始める。
しかし、その隣にいたミクは目をキラキラさせてカイトの元へ駆け寄って行く。
「ねぇ、カイト! ネギは? ねぎアイスは無いの?」
ミクにそう言いよられたカイトは、『アイスの事ならお任せあれ』と、自信に満ちた顔で答えた。
「あるともっ! やっこねぎアイスに、白ねぎアイス! いろんなアイスがあるぞーっ!」
それを聞いたミクは、さらに目を輝かせてピョンピョンとび跳ね、カイトにおねだりを始める。
「カイト! 私、ねぎアイス食べたい食べたい! 一緒に食べにいこーよぉ」
「……よーしっ、それじゃあ決まりだ! 目指せ仙台! 目指せ牛タンアイス&ねぎアイスだ!!」
「わーぃ! えいえい、おーっ♪」
テンション上がりっぱなしの二人。……しかしコタツでは、メイコがまたもや深いため息をつく。
「はぁ……あのねぇ、言っとくけど旅行って結構お金かかるんだよ? そんなお金どこにあるの?」
確かにメイコの言う通り、旅行はお金がかかる。ミクはポケットの中をゴソゴソと探り始めた。
つい最近、CDの売上金で広大な土地を買い、ねぎ畑を作ったばかりのミクの全財産……650円。
「650円…………35円足りない……?」
「うーん……残念ながら、もっともーっと足りないわねぇ」
メイコの言葉に、旅行を諦めガックリと肩を落とすミク。
そう、この時誰もがカイトに期待などしていなかった。
「ちょーっと待ったぁー! 諦めるのはまだ早いぞ!」
部屋中に響き渡るカイトの声。一瞬で分かる、皆からの期待されていない視線。
しかしカイトが懐から財布を取り出すと、その中身を見て一同は驚きを隠せないでいる。
「ちょっ……カイト、ど……どうしたのこんな大金?!」
メイコの言う通り、カイトの財布には凄い大金が入っていた。
「いやぁ、何か今頃になってオレのCD売れてるらしくてさ、臨時ボーナス貰っちゃったんだよ」
思いもよらなかったカイトのサプライズ。
ミクも、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように、元気を取り戻していく。
「すごいすごいっ! カイト、すごいよ!」
思い起こせば、こんなにも妹分達に感謝され、あてにされた事があっただろうか……
カイトは思わず涙ぐみながら、皆の前に勢いよく人差し指を突き出す。
「さぁ! お金もある! オレと一緒に旅行に行く者は……この指とーまれっ!」
「はいはいっ! はーぃ♪」
「…………とーまれっ!!」
「はーい♪ はーい♪」
「………………」
哀れカイト……突き出したその指にはミクしか止まらならなかった。
「えっと……リン? レン? あの、……行かないの?」
「うん、メンドクサイから止めとく」
「私もパース」
そう言い残し、自分の部屋に戻って行く二人。
誰も付いてこない……カイトは改めて自分の人徳の無さに愕然としながらも、残るメイコの方へ視線を送る。
「えっ、あっ、あははっ……わ、私もメンドクサイからパス!」
適当に笑ってごまかし、リン・レンに続き、自室へ戻ろうとするメイコ。
カイトは膝をついて崩れ落ちてしまいそうになる……が、ここで起死回生の一言。
「確か地酒アイスってのもあったんだけどなぁ……」
メイコは、思わずピクッと反応し動きを止める。
「地酒アイスってのがあるって事は、美味しい地酒もあるんだろうなぁ……」
この一言でメイコ陥落。振り返るとニコッと微笑み、ミクと共にカイトの指を掴んだ。
「よーし! それじゃあ行くわよー! めざせ仙台! 目指せ地酒!!」
「うん、待ってろよ牛タンアイス!!」
「ねぎねぎ! ねぎ〜!」
こうして3人は、それぞれの野望を胸に、仙台へ向かって出発した。
約一時間、空の旅を終えたカイト御一行は、無事仙台空港へと到着。
まずは持ってきた荷物を預ける為、宿泊先の旅館へと向かった。
「到着ー。ここが今日宿泊する為に予約した旅館です!」
「おおー! 凄いよカイト!」
「おっきぃー♪」
「驚くのはまだ早いぞ! なにしろ今日は、この大きい旅館の一番いい部屋を予約してあるんだ!」
予想を遙かに上回る立派な旅館に、一番いい部屋。メイコとミクは手をぱちぱち叩いて喜ぶ。
久々……いや、はじめての尊敬の眼差しに、カイトも鼻高々と言った様子で腰に手を当てている。
「ねぇねぇ、カイト。ここの旅館なんて名前なんなの?」
「名前? そう言えばなんだっけなぁ?」
ミクの一言で看板を探し始める一同。そして建物の大きさと比べて、かなり小さい看板を三人ほぼ同時に発見。
そこにはこう書かれていた。
『旅館 弱音』
ココまで完璧すぎるカイトの計画。ミクは何とも思っていなかったが、
メイコは何か落とし穴でもあるんじゃないかと、旅館の名前を見て急に不安になる。
「カイト。『弱音』って……名前からして不安になるんだけど、大丈夫なの?」
「だ、……大丈夫!…………さぁ、名前なんか気にしてないで中に入ろう」
そう言ってドキドキしながら旅館に入ってみると、意外にもまとも……と言うか、趣きのある凄く良い感じ。
メイコはホッと胸を撫で下ろし、カイトはチェックインをする為にフロントへ向かった。
しばらくして戻ってきたカイトは、後ろに美人の女の人を連れている。
年は若そうだが、髪は銀っぽい色で、ミクと同じかそれ以上のロングヘアー。
「おまたせっ! で、こちらは旅館の女将さんのハクさん」
「この度は、旅館弱音をご利用いただき、誠にありがとうございます」
「あっ……と、こ、こちらこそ、ありがとうございます!」
礼儀正しいあいさつに、何故かメイコまで思わずお礼を言ってしまう。
「さてと、あいさつはコレくらいにして、荷物もあるんで部屋に案内してもらえますか?」
両手に持った3人分の荷物を見せ、案内を促すカイト。
しかしハクが俯いたと思うと、その口からは思いもよらない言葉が飛び出した。
「はぁ…………めんどくせっ」
「えぇ?! あ、あの……今、なんて……」
いきなりの事に、カイトは思わず聞きなおしてしまう。
すると、今度はにっこり笑ってエレベーターへ案内された。
(――さっきのは、気のせい……だよな……? 変な人じゃないよな?)
そう思いながらカイトはエレベーターの中でハクの様子を伺う。……とてもそんな風には見えない。
すると、その視線に気づいたハクは、カイトの方を向いて首を傾げる。
「あの……私の顔に何か付いてますか?」
「えっ、……あっ、いや、少し顔色が悪い様なので、気になってつい……」
その場をやり過ごそうと、適当に行ったこの言葉を聞いくと、ハクの表情が再び曇り、ボソボソと喋り出す。
「やっぱりそう思いますか……実は私、二日酔いなんです」
「あっ……そうなんですか……」
「はい。しんどくて医務室で寝てたんですけど、一番いい部屋を予約したお客様がいたもので、
めんどくさかったんですが、仕方なく出て来たんです……」
エレベーターの中、カイトの周りをどんよりとした空気が漂う……
しかし言っている本人にはまったく悪気が無い様で、部屋に着くと笑顔で案内を始めた。
「こちらがこの旅館一番の部屋、鳳凰の間です」
20畳ほどの部屋と、隣に10畳程ある大きな部屋。
到着すると、ミクは部屋の中を嬉しそうに走り回っている。
「すごーい! ひろーい! あははっ♪ ねぇー、めーちゃん。旅館の中探検しよー!」
「しょうがないわねぇ……カイト、ちょっとミクと旅館の中まわってくるから」
そう言い残し、二人は部屋を後にした。
「フフッ、元気のいい女の子ですね。3人で御旅行は初めてなんですか?」
「はい、初めてなんです。もう飛行機の中でもはしゃいじゃって大変だったんですよ」
カイトは自分に言い聞かせる。さっきまでの事は、全部自分の聞き間違いだったのだと。
「それにしても広くて綺麗な部屋ですね! さすが一番いい部屋! 予約して良かったですよ!」
「まぁ、旅館なんて寝るだけですから、どの部屋でもあんまり変わらないんですけどね……」
先程までの事を忘れようと、明るくふるまうカイト。
しかし、ハクはまたもや笑顔で、カイトを現実へ引き戻した。
(――ダメだ、話題を変えよう……)
カイトはそう思い、この部屋のメインの一つ、家族露天風呂(温泉)へ向かった。
「わぁー、ここが家族風呂ですか! 思った以上に大きいし、夜には星がいっぱい見えて綺麗なんですよねっ!」
パンフレットで調べた情報で、必死に場の空気を盛り上げようと、カイトは大きな声で部屋を褒める。
しかしハクは空を見上げて、
「でも、今日は雲が多いですから……どうせ星なんて一つも見えませんよ……」
無情なる一言。もはやカイトの心は折れ、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「あの……だいたい部屋の事は分かったんで、戻って頂いても結構ですけど……」
「はい。私も丁度、チップ的な物を貰って、さっさと医務室に帰りたいと思っていた所なんです」
こうしてハクは満面の笑みでチップを受け取り、カイトにとどめを刺して部屋を後にした。
ハクが部屋を後にすると、それと入れ違いにメイコとミクの二人が帰ってきた。
メイコの手には、さっそくお酒の瓶が持たれている。
戻ってきて早々に、メイコは部屋の隅で体育座りをして、いじけるカイトを発見。
「うわっ、なになに? どうしたの?!」
「いいんだいいんだ……別に星なんて見えなくったって……」
「え? なに?」
メイコの問いかけにも答えず、一人事を続けるカイト。
そんな中、ミクは大声をあげた。
「うわぁー! このお部屋、おっきいお風呂があるよ〜!」
さっきはすぐに部屋を出た為、どうやら露天風呂の存在に気づいていなかったらしい。
すると、ミクはそのばでポイポイっと服を脱ぎ捨て、お風呂へ入った。
「こらっ、ミク。お風呂入るのはいいけど、もう子供じゃ無いんだから、ちゃんと服たたまないとダメだよ」
「え〜、そんな事言わないでさ、めーちゃんも一緒にはいろーよー」
ミクはお風呂からメイコを手招きしている。
「何言ってんの、まだお昼なんだから、お風呂なんて……」
そう言いかけて、ふと手元目をやるメイコ。そこには酒の入った一升瓶。
「露天の温泉で一杯……悪くないわねぇ……うぅん、……良い、凄く良いよそれ!」
メイコはパァっと明るい表情でそう言うと、ミク同様その場に服を脱ぎ捨てお風呂へ向かった。
「カァ――、美味い! 温泉最高ー! 地酒最高ー!!」
「いーなぁ、いーなぁ。めーちゃん、私にもちょっとちょーだぃ」
「だーめっ、お酒は大人になってから……ってね」
外から聞こえる賑やかな声は、部屋でいじけるカイトの耳にも届き、
徐々にカイトも気になり始める。
「ねー、カイトー。めーちゃんが一人だけ美味しいの飲んでるの。私にもジュース取ってー」
その声に反応してカイトがそちらを見ると、窓の外でミクが手を振って合図している。
カイトは思わず顔を赤くして目を伏せる。
冷蔵庫へ向かいオレンジジュースを取り、カイトは斜め上を見ながらミクにジュースを手渡す。
「ありがとー♪ オレンジジュース♪ オレンジジュース♪」
即興オレンジジュースの歌を歌いながら、ミクはお風呂へ戻って行く。
しかし、戻る途中で立ち止まったと思うと、ミクはカイトの方を振り帰った。
「ねぇねぇ、カイトも一緒に入ろーよ♪」
「そりゃ良い、ヒック……カイト、ミクの代わりに一杯付き合いなさい!」
いくら兄妹同然で暮らしているとは言え、そんな事は……と、いつものカイトなら思っただろう。
でもこの時、カイトはこんな事を考えていた。
(――さっきあんな事があったし……これは神様がくれたプレゼントなのかも知れない!)
そう思ったカイトは、二人と同様に服を脱ぎ捨て、ラッキースケベな展開を期待し、風呂場へ向かった。
ラッキースケベ……それはマンガとかでよくある、転んだ拍子に好きな女の子に抱きついてしまった等、
偶然によるラッキーな嬉しい展開。
つまり、この時カイトが考えていたラッキースケベと言うのは、タオルを巻いてるから大丈夫と、ミクがふざけて抱きついてきたり、
メイコがお風呂でお酒を飲んでるときに、胸の谷間が見えてしまったり、お風呂を上がる時にタオルがハラリと落ちたり……
とにかく、そんな不純な事を考えながら、カイトは腰にタオルを巻み、張り切ってお風呂に入った。
……しかしそこで見た光景は、そんな予想とはかけ離れる物だった。
「い〜ち、に〜い、さ〜ん――」
最初に目に入ったのは、お風呂に飽きたのか、裸で風呂の周りを走り回るミクの姿。
タイムでも図っているのだろうか? 時間を口ずさみながら結構必死に走っている。
ミクは家の中でも一番の不思議少女。いったい何を考えて走っているかなんて想像もつかない。
カイトは普段から、そんなミクを子供みたいにしか思ってなく、まったく気付かなかったが、
なんて言うか……知らない間に、体の作りはすっかり女の子になって、走る度にかすかではあるが胸も揺れている。
この予想を超えた光景に、最初の勢いはどこへやら……
すっかり目のやり場に困ったカイトは、ミクにタオルを巻くように言ってもらおうと、
風呂に浸かって酒を飲むメイコの方へ視線を送った。
「あははっ、ほら、がんばれがんばれ〜」
メイコは上機嫌で手を叩き、酒を飲みながらミクが走るのを応援している。
もちろんミクが走っている意味なんて分かっていない。
しかし、カイトがそんな事よりも気になったのは、メイコもまたタオルを巻いていない事。
確かにお湯にタオルを付けないのは常識と言えばそうだが、一応男も入るという事で、
テレビのリポーターみたいなのをカイトは予想していた。
「ん? 何してんのカイト、そんな所に突っ立ってたら風邪ひくよ」
カイトの存在に気づいても、そう言うだけで恥じらいのかけらすら見せないで、フルオープンなメイコ。
それに対し、カイトは恥ずかしそうにタオルを巻いたまま御湯に浸かった。
「ふぁ〜、疲れちゃった〜」
勢いよく走っていたミクはそう言うと、足を開いて大の字になって寝転がる。
そこはカイトの視点から言って、非常にまずいアングル。
たまらずカイトはメイコに助けを求めた。
「め、……めーちゃん!」
「ん? どーしたー?」
「あのさっ、なんて言うか……オレ達は家族同然だけど、一応オレも男だからさ……その……」
「??」
カイトのハッキリしない言い回しに、メイコは頭に?マークを浮かべている。
「だから……えっと、タオル巻いたりしないで恥ずかしくないのかな……って言うか、
せめてミクに何とか言ってくれないかな……あんな格好されたら目のやり場にこまるんだ……」
勇気を出してそう言ったカイト、
しかしその顔を、メイコはニヤニヤ笑みを浮かべながら見ていた。
「ふふっ、……なになに? カイト、もしかしてミクの裸見て欲情しちゃったとか?」
メイコは面白い物でも見つけた様な嬉しそうな顔をして、カイトにズイズイと近づいてくる。
(――いや、ミクもだけど、めーちゃんに欲情しちゃいそうです。)
カイトはそんな事を思いながら、メイコの胸が視界に入らない様に、空を見上げた。
「そ、そんなんじゃ無いよっ……だって、さっき言ったけどミクは家族同然なんだよ?」
「そーよねぇ〜、家族同然なのに欲情するわけ無いわよねぇ〜」
「はっ……ははっ……あ、あたりまえだよ」
必死にごまかしたつもりのカイトを見て、メイコは更に悪戯な笑みを浮かべてカイトに寄り添った。
右腕に当たる柔らかい感触。カイトは、つい目線をそちらへ向けてしまう。
「うわわっ! め、めーちゃん?!」
カイトの細い右腕は、メイコの大きな胸の谷間に挟まれていた。
「私も家族同然なんらから、欲情なんてしないわよねぇー?」
「だっ……そんな、ダメだって! って、めーちゃん、酔ってるんじゃないの?!」
「ばかっ! 私がこれくらいで酔っぱらう訳ないれしょ!」
そう言ったメイコの後ろに転がる、半分以上中身が無くなった一升瓶。
いったいどんなペースで飲めばこの短時間でそんなに飲めるのか……
とにかく身の危険を感じたカイトは、慌てて胸の谷間から腕を引き抜こうと引っ張った。
「あんっ……」
腕に力を入れたと同時に、メイコの口から漏れる喘ぎ声に、カイトの思考は一時停止。
その隙にメイコはカイトの耳元へ口を近づける。
「本当は欲情してるんじゃないの?」
耳にかかる息と、わざと出しているのか……普段と違う、色っぽい声にカイトは背筋をゾクッとさせる。
その様子を見てクスッと笑うと、メイコはもう一言。
「じゃあ……お姉さんが気持ちいい事してあげよっか……」
「なっ、なななっっ! ダメだって、ミクもいるのに…………って、うわぁっ!!」
驚くカイトの視線の先には、先程まで寝転がっていたミクが、二人のやり取りを座りながら、指を咥えて見ている。
「ねぇねぇ、めーちゃんとカイトは何してるの?」
二人見つめる純粋無垢な少女の目に、カイトは慌てふためく。
「えーっと、あの……これはね…………なんて言うか……」
「こうするとね、カイトは嬉しいんだって!」
「ちょっ、ちょっと、めーちゃん! ミクに変な事言わないでよ!」
すると、メイコの言う事を聞いて、何かを思いついたように二人に近づいてくるミク。
そしてカイトの左側に座ると、左腕に胸を押し付け、耳元でささやく。
「カイト、気持ち良い事してあげよっか♪」
カイトは思わずビクッと反応し、ミクの方を向く。
いつも通りニコニコ笑いながら、様子を窺うようにカイトの顔をを見ている。
どうやら、意味も分からずにメイコの真似をしただけの様だ。
……とは言え、この状況は非常によろしくない。
右腕は巨乳に挟まれ、右手には発達途上の胸。理性が吹っ飛びそうになる。
カイトは理性を保とうと、頭の中で必死に関係ない事を考え、遠い世界に旅立っていた。
(――心頭滅却すればなんとかって言うし……今、手には何も当たっていない……ましてや胸なんて絶対に!
そうだよ、これはアレだ、あー……っと、肉まん! 右は大きい200円の肉まんだ! で、左が100円の肉まん!
それと、この硬いのは肉まんに乗ってる…………ん?硬いの??)
「あ……やだっ、乳首たってきちゃった……」
メイコの一言で、カイトは遠い世界から一瞬で現実に引き戻された。
――――バシャーンッ!!
「わ……わあぁぁぁぁーー!!」
カイトは水しぶきと大声をあげて立ち上がり、二人から走って離れる。
「……?ねぇ、めーちゃん。あれ、カイト喜んでるの?」
ただならぬ様子で逃げて行ったカイトを見て、ミクは不思議そうに尋ねた。
するとメイコは、カイトのタオルを巻いている部分を指差しミクに告げる。
「ほら、あそこが大きくなってるでしょ。アレが嬉しい証拠」
「んー……あっ、ホントだ! カイトのそこ大きくなってる! カイト、嬉しいんだ♪」
ニヤニヤ笑うメイコ。嬉しそうに笑うミク。ひきつった笑顔のカイト。
三人は別々の意味で笑顔を浮かべ、カイトは股間を押さえて、逃げる様に風呂を後にした。
「うわぁーん! もうお婿に行けないよぉー……」
――――ドンッ!
「……ってて……」
涙を浮かべながら風呂場を飛び出したカイトは、出てすぐに何かにぶつかり転んでしまう。
ぶつけた頭を押さえながら、カイトは何にぶつかったのか確かめる……
「……ん?あなたは確か女将さんの……って、何で裸なんですか?!」
「それは……お風呂に入るからですよ……」
ハクは、さも当然と言った顔で不思議そうに答えた。
「さっきフロントで、この部屋の人が高いお酒を買ったと聞いたので……お風呂で一杯してるんじゃないかと思いまして」
「そんな理由でですか?! だからって、裸で入って来られたらこっちも困ると言うか、目のやり場に……」
「そんな事言っても……あなただって裸じゃないですか」
「……へ?」
ふと腰に目をやる。さっきまで巻いていたタオルが無い。
ぶつかった拍子にとれてしまったのか無残にも横に落ちていた。
勃起したそれをジーッと眺めるハク。そして一言。
「…………ツマンネッ……」
ナニがどうつまらなかったのか……それはハクにしか分からない。
しかしカイトは心に大きな傷を負い、再び部屋の隅でいじけてしまった。
「それではお風呂お借りしますね」
こうしてハクは、カイトをそこに放置し、二人(酒)のいる風呂場へ向かった。