「マ、マスター! 大変だ! こっちに食べ物がいっぱいあるぞ!!」
まるで宝の山でも発見したように、お弁当コーナーにて一人で騒ぐネル。
どうやらそれらが食べ物である事は認知しているらしい。
「そりゃコンビニなんだから、たくさん食べ物が売ってて当然だよ。さぁ、ケーキはこっちに……って、こら!」
「な、なんだよ、いきなり!」
なんだよって、それはこっちのセリフだ……ネルはその場で弁当を開けようとしていたのだから。
しかし知らなかったものは仕方無い。とりあえず、購入してからじゃないと食べれない事を告げると、
ネルはそのハンバーグ弁当を持って駆け寄ってきた。
「じゃあマスター、これ買ってくれ」
「買ってくれって……まだ食べるのか? って言うか、それハンバーグだぞ?」
「うん、知ってる。ハンバーグだ」
あぁ、やっぱり気にいってたんだ……でもそんなに食べさせて大丈夫なのか?
人間じゃないんだから、食べすぎて壊れたりしたら大変だ。ここは心を鬼にして……
「食べすぎは良くないよ。我慢しなさい」
「そんなぁ……」
ネルは悲しそうな表情でこちらを見つめる。
「や……やめろ、そんな目でこっちを見ないでくれ。これじゃあまるでオレが悪者じゃないか」
ネルは身長が小さい、それゆえに意識してなくても、こちらを見つめると自然に上目遣いになる。
なんて言うか……これの上目遣いはずるい。
「……うーん……わかったよ、そのかわり明日のお昼御飯だからな」
それを聞くと、ネルはニカッと笑い、
「さっすがあたしのマスター!」
と言って、弁当をカゴに入れてデザートコーナーを通り過ぎ、お菓子売り場に行ってしまった。
両手いっぱいに持てるだけお菓子を持って、こちらへ走ってくるネルを見て先が思いやられる。
帰り道、ケーキを買いにきただけのオレの手には大きな袋が二つもあり、その中身はすべて食料品。
結局ネルのあの目に負けて、持ってくる物すべて買ってしまった。
コンビニで5000円近く使ったのなんて初めてだ。
「ネル、こんな買い物……本当に今回だけだからな」
「わかってるって♪」
そう答えたものの、上機嫌でクルクル回りながら前を歩くネルを見ていると、
もう頭のなかは食べる事だけと言った感じで、どうにもその言葉が信用できない。
「あのなぁ……5000円稼ごうと思ったらどれだけ働ら……」
――――ちゅっ♪
その音と同時に右の頬に触れる髪と、柔らかい感触。
驚いてそちらを振り向くと、ついさっきまで前を歩いていたネルの顔がすぐそこにあり、
「お金の事はよく分からないけどさ、あたしのキスなら5000円以上の価値はあるだろ?」
と言って笑顔を浮かべて、再び前をクルクルと回りながら走り始めた。
どうして犬もコンビニもお金も知らないネルが、こんな女の技みたいな事を知っているのか、
けしからん、実にけしからん!……と思いながら、オレは家に着くまでずっとドキドキしていた。
家に着くと宴会でも始める様に、ネルは机の上に買って来たものを並べて、嬉しそうに拍手している。
「さぁー、どれから食べようかなぁー♪」
ネルが迷っているうちに、オレはその中からハンバーグ弁当を取り、台所の棚上に置く。
このままでは今夜中に食べられてしまいそうだし……ここに置いておけばひとまずネルの手は届かない。
「あぁー! あたしのハンバーグ返せよー!」
「ダーメーだ、明日会社に行く時まではあそこに置いておく」
ネルはしばらくブーブー文句を言っていたが、しばらくすると他のお菓子等を必死に食べていた。
「そんなに食べると太っちゃうぞ?」
「大丈夫だよ、あたしは成長期なんだから。いっぱい食べて、身長も胸も大きくなって……そしたらマスターは欲情しちゃうかもな」
「そうか、まぁ期待せずに待ってるよ。それじゃあオレは風呂に入ってくるから」
適当にネルの話を聞き流し、オレが風呂に入って20分後くらいに出てくると、そこにはお菓子が無残にも食い散らかされた机と、
その横で満足げに横たわるネルの姿があった。
「もぉー、食べれない」
そりゃそうだ、買ってきたお菓子の8割は食べたんだから。
このまま放っておいたらそのまま寝かねない、オレはベッドの横に布団をひいてネルに尋ねる。
「ネル、ベッドと布団どっちが良い?」
「え?……じゃあベッドで」
「そうか、ならオレは布団で寝るから。明日も早いしもう電気切るぞ」
ネルがベッドに入ったのを確認して電気を切る。
明日からまた仕事だ。ネルは一人でちゃんと留守番が出来るんだろうか?
食べ物につられやすいから、外に出たらあっという間に誘拐されてしまいそうだ。
そんな心配をしていると、背なかのあたりで何かがモゾモゾ動くのを感じる……
振り返るとネルが布団に潜り込んでいた。
「ネル? なんでこっちに?」
「……あ……っと、やっぱり布団が良かったんだよっ! 何か文句あるか!?」
「別に文句はないけど……そんなに怒らなくても、言ってくれれば変わったのに」
オレは布団をネルに譲り、開いているベッドに入る。
しかし、しばらくすると今度はベッドに潜り込んできた。
「あの、どうしたの?」
「や、……やっぱりベッドが良かったんだよ!!」
「えぇ?! …………じゃあオレは布団に……」
ネルに寝床を占拠され、渋々ベッドを後にしようとする……と、重力以外の強い力を感じる、
その中心と思われる所に目をやると、ベッドの中から伸びた手が、オレの服の裾を掴んでいた。
「えっと……離してくれないと布団に入れないんだけど」
「…………」
布団の中でモゾモゾ動いてはいるが、返事がない。
「おーい、聞こえて……」
「マ、……マスターがどうしてもって言うなら……その、一緒に寝てやってもいいけど……」
そう言えばネルって見た目によらず怖がりだったし、
もしかしたら一人で寝るのが怖いのかもしれない。
オレはネルの気持ちをくんで、ベッドの中へ戻った。
それにしてもネルが小さいとは言え、シングルのベッドに二人は狭すぎて眠りにくい。
「ネル、やっぱり狭くない?」
「大丈夫だよ。それにこうしてひっついてると暖かいし」
ひょっこり顔を出して答えるネル。
……いや、こうも体が密着していては気になって眠れない……ってのが本音なんだけど……それに、
いくらネルがぺったん娘とは言え、背中に僅かではあるが柔らかいものが当たっている。
「あのさ、……さすがにこんなひっつかれたら、ネルの胸が大きく無くても欲情しちゃいそうかなー……なんちゃって……」
「な゛っ……!!」
半分冗談で言ったつもりだったけど、ネルの反応を見てすぐに思った……このままでは殴られる。
それなら殴られる前になんとかフォローを……
「えっ、いや……ほら、ネルって胸なんて無くても、顔がすごく可愛いから!」
「な……なな、なんのつもりだよ……いきなりそんな事言われても……その、困るって言うか……」
あれ?なんだこの予想外の反応……ネルは喋りながら、再びベッドに潜り込んでしまった。
でも、これはこれで、からかい甲斐があって面白そうだ。
せっかくなので、もう少しだけからかってみる事にする。
掛け布団を捲り、ネルの顔を覗き込む。頭から煙が上がりそうなくらい顔を真っ赤にしている。
「ヤッ……やめろっ! なんだよ、もう! こっち見るな!」
「恥ずかしがってるネルも可愛いよ」
その言葉を聞いて、目をまん丸にして何か言いたそうな顔で足をジタバタし始める。よほど恥ずかしかったようだ。
「ネルは本当に可愛う゛ぇ…………」
今日会って何回目だろう……目の前のネルの顔が霞む。みぞおちには拳が……
「あっ、あんまり可愛いとか言うなよ! は……恥ずかしいだろ…………ん? マスター? マスター?!」
あぁ、恥ずかしくてつい殴っちゃったのか。薄れゆく意識の中、ネルが何かを言っていたような気がする。
でも良かったんだ。これで何も気にせず眠りにつけるんだから……
オレはそのまま、気を失うように眠った。……いや、眠る様に気を失った。
朝、目覚ましが鳴り目が覚めると体中が痛い……おそらく全部ネルに殴られた所だ。
とは言え会社を休むわけにもいかない。なんとかボロボロの体に鞭を打って起き上がろうとする。
しかし体が動かない。なんて言うか、左半身だけが異常に重く、振り向いてみると、
そこには腕をガッチリ抱きしめて幸せそうに眠るネルの姿があった。
「はぁ……寝てる時は静かで可愛いんだけどなぁ…………」
オレはため息をつき、起こさない様にゆっくりとネルの腕の間から、自分の腕を引き抜く。
「……ぁ……んっ…………」
いや、……確かに腕の間から引き抜く際に、胸に擦れたかもしれないけど、
こういう女の子らしい反応をされると少し困る。一応オレも男なんだから。
なんとか無事起こさずに腕を引き抜き、その場で息子が落ち着くまでしばらく待機。
結局布団から出たのは10分後の事だった。
まず昨日棚の上に乗せておいたハンバーグ弁当を降ろしておく。
その後、朝食を適当にちゃっちゃと作り、テーブルに二人分の朝ご飯を並べる。
と言っても、卵焼きに昨日の味噌汁、後はベーコンを焼いただけの簡単な物だ。
出来あがったと同時に匂いにつられたのか、ネルが眠たそうに目を擦りながら現れた。
「ふぁ〜……、おはよ〜マスター。いただきます」
「おはよ……えっ?! もう食べるの?」
正確にはもう食べていた。ネルの食への執着心には驚かされる。
朝からご飯を三杯。その後にお菓子をバリバリ食べていた。
そんなネルをよそに、会社に行く支度をしていると、何やら不思議そうな顔でこちらを見ている。
「マスター、朝から何してるの? どっか行くのか?」
「まぁ平日だからね。って言っても、会社に行くだけだよ」
「はぁ?! そう言う事はもっと早く言えよな! まったく……」
そう言うとネルはお菓子を片づけ、何やらいそいそと準備をし始めた。
もしかして自分も行くつもりじゃないだろうなぁ……
「ネル? 何してるの?」
「え? 何って……会社へ行く支度に決まってるだろ」
やっぱり……。オレはネルの支度を止めて留守番をするように告げ、
ついでに食べ物いつられて誘拐されても困るので、外に出ない様にも言っておく。
しかし一日中家でいるのも暇だろうから、パソコンの使い方を教えて会社に行くことにした。
さすがVOCAROIDと言うべきか……10分程度の説明で、おおかたの使い方は分かったらしい。
そうこうしていると、時間も無くなってきたので、ネルを置いて会社へ向かう。ものすごく心配だ……
どう言う風の吹きまわしか、ネルは甲斐甲斐しく玄関まで着いて来て、オレを送り出してくれた。
「じゃあ行ってくるけど、お弁当は12時まで食べちゃダメだからな」
「分かってるって♪」
絶対分かっていない。この顔はオレが行ったらすぐ食べるつもりの顔だ。
……まぁ半日くらい食べなくても死にはしないだろう。
「じゃあ行ってきます」
そう言って玄関を閉めようとした時、突然ネルが慌てて話しかけてきた。
「あっ、あのさっ! その……夜は危ないから、絶対に暗くなる前に帰ってくるんだぞ!」
素直に、一人でいるのが怖いって言えば可愛げがある物を……まぁ、これはこれで可愛いけど。
「うん、暗くなる前には必ず帰るよ」
「絶対だからな!!」
こうしてオレはようやく会社へ向かった。
会社に来てもネルの事ばかり考えてしまう。勝手に火を使って火事にでもなってないだろうか?
家の物をいろいろ壊して無いだろうか?そんな心配が絶えない。
夕方5時、終業のサイレンと共に会社を飛び出し、急いで家に向かう。
……っと、その前にデパートに寄って、ネルの身の回りの必需品を揃えなくては。
結局自宅マンションに到着したのは6時半、ぎりぎりセーフと言ったところか……
ふと自分の部屋のベランダに目をやると、ネルが手すりに肘をついて辺りを見渡している。
もしかして待っていてくれてるのだろうか?
「おーい、ただいまー」
とりあえず手をあげて合図してみる。しかし、ネルは気づいたと思うと、ツンとした態度ですぐに部屋に入ってしまった。
「あれ……? 何か怒ってるのかな?」
急いで家に帰ると、そこにはパソコンに向かうネルの姿があった。
「ん? あぁ、マスターか。おかえり」
「ごめん、ベランダでずっと待っててくれたの?」
「は、……はぁ? あたしはずっとパソコンしてたよ」
いったいネルは何に対して意地を張っているのだろう?
ずっとパソコンをしていたと言っているが、まだパソコンがたちあがってすらいない。
きっと、帰ってきたのを確認してから、慌ててパソコンをしていたふりをしたんだろう。
でも本人は気付かれていないつもりらしいし、ここは黙っておく事にする。
「そうだ、今日はネルにお土産を買って来たんだよ」
オレは袋の中から買って来たものを次々と取り出した。
ハブラシ・パジャマ・枕に箸、コップ……果ては下着まで。
買うのは恥ずかしかったが、さすがにこのまま生活させるのは可哀そうだし。
ネルは新しいパジャマと下着を手にとって、珍しくキャッキャッ言いながら喜んでいる。
この辺りはさすがに女の子と言うべきか……
「マスター、このパジャマとパンツすごく可愛いよ! ありがと!」
「え? あっ、あぁ、どういたしまして」
こんなに喜んでもらえるとは思ってもいなかったし、
何よりネルの口から『ありがとう』って言う言葉が出た事に驚いた。
「今日から早速これ着て寝る……って言うか、ちょっと着替えてくる!」
ネルは張り切って脱衣所へ向かった。
しかしコレだけ喜ばれると嬉しいもんだ。恥ずかしい思いをして、子供服売り場へ行って良かった。
「マスター、見て見て!」
嬉しそうに現れたネルは上にパジャマを着て、下にはパンダの絵がプリントされた下着をつけ……
ん? 下着?
「ネル!? パジャマのズボンはどうしたんだ?!」
「えっ? あぁ、だってあれ穿いたらパンダ見えなくなっちゃうんだもん」
……そう言う問題なのか?それ以前に、最初に出会った時の恥じらいは何処へ行ったんだ?
結局ネルはズボンを穿かずにそのまま過ごし、食事までその格好で食べ始めてしまった。
「ん? マスター、食べないのか?」
「んーと、ちょっとね……」
正直食事どころじゃない。それじゃなくても、寝起きの一件以来からこう……気分的に盛り上がってしまっていると言うか、
それにプラスしてネルの格好。いくら色気が無いとは言え、目に毒すぎるよ。
朝と同様に、息子が激しく自己主張し始めてしまっている。
とにかくこのままじゃ、ネルにまで欲情しかねない。しかたない……オレは気分を落ち着かせる為、トイレに向かった。
「あれ? マスター勃起してる……のか?」
「え゛?!」
何故そんな事を……いや、確かに見たらすぐ分かるくらいに大きくなってはいるけど、
なぜネルがその言葉を知っているんだ?
「ネル、そんな言葉……どこで覚えたの?」
「どこって……一応コンピューターに基礎知識は入ってるから」
いやいや、犬もケーキもお金も入ってないのに、何で勃起が入ってるんだよ!
あっ、そう言えば、昨日も欲情がどうこうって話したな……なんだ?製造者は変態なのか?
とにかく誤魔化さないと……
「あのっ、これは……」
「あ……あたしの格好見たから……その、……勃起したのか?」
まずいな……恥ずかしそうにしている所を見ると、意味までしっかり分かってるっぽいぞ。
どうなるんだオレ……殴られて骨折とかしちゃうのか?明日会社に行けるのか?明日、生きてるのか?
「あたしが…………性欲処理……しようか?」
「……へ?」
思わず力ない返事をしてしまったオレに対し、ネルは怒ったような口調で話しを続ける。
「そのっ……勘違いするなよ! ……ただ、パジャマのお礼もしたいし……一応どうしたら良いかも分かってるから……」
「あっ、あははっ、そっか。じゃあお願いしようかなー……なんて」
笑いながら半分冗談……じゃなくて、2割冗談8割本気で言ってみた。
するとネルは、オレの前にしゃがんでゆっくりとジーンズのファスナーを降ろし、中から大きくなったソレを手に取る。
「一応知識は入ってるけど、上手く出来るかは分からないからな……」
ネルはそう言うと、いきなりソレを根元まで咥えこみ、ゆっくりと頭を動かし始めた。