「あー気持ちいい〜」  
   
 肩までお湯につかると全身が内から熱くなっていく。水滴が一滴、天井  
から落ちて鼻に当たった。それすらも熱っぽい体には丁度いい。  
 薄く緑色に色づき、気持ちのいい檜の香りがする湯が体と心をリラック  
スさせてくれる。「風呂」という文化を作った日本人をこの時ばかりは心  
から尊敬する。本当、まじノーベル賞ものだと思う。  
 レンは一度両手で湯を掬い取ると、それで勢いよく顔をこすった。  
   
 湯が目に入らないぬように手で水を弾きながら横目で風呂に備え付けら  
れているテレビを確認する。時刻は6時20分、まだまだ夕方のニュース  
の時間帯だ。またどっかの企業だか政治だかの悪行がばれたらしく、頭の  
はげた親父たちがそろって頭を下げているのが見えた。  
 それもあと40分もすれば終わる。そして彼の入浴時間はそんなには長  
くない。これなら7時に放送されるドラマの視聴には十分間に合うだろう  
。本当はこのまま風呂場で見てもいいのだが、食事がある上に後がつかえ  
てしまう。おまけにのぼせてしまう可能性も否めないのでやめておくので  
ある。  
 風呂あがった後はどうしようか。今日の夕飯担当はカイ兄だからおやつ  
にアイスでるよな。絶対。んで夕飯食べながらドラマ見て、それが終わっ  
たら・・・あ、そういえばビート系の曲1本届いてたんだ。あれも聞かな  
きゃ。  
   
 湯船につかりながら黙々と今日の予定を立てるレンの耳に、がたがたと  
騒がしい音が聞こえた。どうやら誰かが洗濯機を回しているらしい。  
 家の水周りはこの近くに集まっていて、風呂のすぐ近くに洗濯機と洗面  
台がある。広さはそれなりにあるのだが、朝の通勤ラッシュ時には場所の  
取り合い戦争になるのがこの家の日常である。  
 こんな時間に洗濯機を回すのは珍しい、とぼんやり考えていると、突然  
ガラッと風呂のドアが開けられた。瞬間、レンは固まる。  
   
 「レンー入るよー」  
 「・・・は?リン・・・・?」  
   
 入るよってなんだ入るよって。お前もう入ってんじゃないか。っていう  
か何でリン?リンって女の子だよな。女の子って俺と違うんだよな。だっ  
て全身にタオル巻いてるし。俺はそんなのしねえもん。今だってなんにも  
腰にまいてな・・・・ってあれ?  
   
 「うわあああああああああああ!!何してんだよリン!!」  
   
 頭の上においておいたタオルをあわてて湯船にいれ、レンは股間をそれ  
で隠す。このさいマナー違反なんて気にする暇もない。  
 慌てふためくレンとは対照的に、リンはケロッとした表情で何の気もな  
いし平然と言い放った。  
   
 「だって7時から見たいテレビあるんだもん。その前にお風呂入っちゃ  
いたかったからさー。まぁいいじゃん」  
 「よくねぇよ!早く出てけ!アホリン!」  
 「そんな事言ってももう服は洗濯機の中だし、リンは湯船に入っちゃう  
もーん。ほら入っちゃいましたー」  
   
 言ってるそばから湯船へと強引に押し入ってくる。拝啓マスター様、僕  
の思い人は多少、いやかなり変わっていたようです。  
 少し大きめの湯船とはいえ、今まで一人でのんびりと浸かっていた湯船  
に二人が入ると狭いものがある。レンは伸ばしていた足を折りたたみ、体  
育座りのような格好でリンから距離をとろうと後退してみたが、背中はす  
ぐに湯船のふちについてしまった。  
 その状態のまましばらく二人は睨み合ったが、こうなったリンは引かな  
いと知っているレンが先に折れた。心底呆れたようにため息を吐くと、レ  
ンはもたれかかる様にふちに体を預けた。  
   
 「信じらんねぇ・・・女じゃないな・・・」  
 「どーゆーことー?」  
 「普通入ってこないだろ・・・それに」  
   
 ため息と共に吐き出された言葉に、リンが噛み付く。レンはちらりとリ  
ンに視線を移した後、ボソリと呟いた。  
   
 「胸ねぇし」  
 「んなっ!失礼な!!」  
   
 急に立ち上がるリンの迫力に湯船が波立つ。思いっきりとばっちりの水  
飛沫を顔面に受け、レンは渋い顔をした。真実を言ってなにが悪いとその  
目が語る。  
 実際、見比べる対象がミクやメイコしかいないレンにとってリンが持つ  
一般的な女としての魅力はほぼないに等しい。まぁそんな所も好きなのだ  
が。  
   
 「このナイスボディのどこに文句があるのよ!」  
 「お前・・・『鏡』がなんであるのか、その理由しってる・・・?」  
   
 レンの発言にリンが言葉を詰まらせる。どうやら本人も気にしているこ  
とではあるらしかった。急にしおらしくなって湯船に戻っていく。リンは  
しばしば自分の胸とレンの顔を見比べながら、何かを考えているようだっ  
た。その次に飛び出してくる提案が先ほど以上にレンを驚かせるとはまだ  
思いもしない。  
   
 「ねぇ・・・・レン」  
 「なに?」  
 「胸・・・・・揉んでくれない?」  
   
 ゴンッっとタイル壁に頭を打ち付ける。あまりの驚きに、痛みは殆ど感  
じなかった。数秒送れてようやく神経から脳へ衝撃が伝わってくる。  
   
 「は?・・・いや、リン・・・はぁ!?」  
 「だって・・・揉んでもらったり気持ちいいと大きくなるって言うし」  
   
 いや、確かにそんな話もあるが。  
   
 「第一・・・揉むところあるのかよ」  
 「あのね・・・それぐらいはあるよ!ほら」  
   
 僅かだった隙間をリンが縮める。それにひるみ、レンは距離を置くべく  
後退しようとしたが、体はそれ以上後ろには進めなかった。行き場を無く  
していたレンの左手がもぎ取られ、手がリンの胸にそえられる。バスタオ  
ル越しでもわかる、自分にはない柔らかさと僅かに存在を主張する膨らみ  
に高揚していたレンの頬がますます赤くなった。  
 一方、リンの方も羞恥心からか頬が薄く染まり始めていた。レンとは目  
を合わせようとはせず、どこか曖昧な眼差しが遠慮がちに宙を泳いでいる  
。普段は見かけることのないリンの表情に、レンの中に眠る悪戯心が何事  
かを呟いた。  
   
 「タオル越しじゃわからないんだけど・・・」  
 「う・・・ちょ、直接でもいいよ!」  
   
 はんばヤケクソのような発言だ。勢いよく啖呵をきった割には微かに肩  
が震えているのを、レンは見逃さなかった。  
 ゆっくりとバスタオルをはずして行くとやはり自分とは違う体が目の前  
に現れる。ゆったりとした曲線を描くラインは女性への変わり目なのだろ  
う。こうして自分と比べてみると、結構胸があるように見えるのだから実  
に不思議なものである。  
 丁度手のひらに収まるサイズのそれを包み込むように触ってみると、ピ  
クリとリンの睫が震えた。  
 今までカイ兄に所謂AVやエロ本見せられ、存在を知ってはいたのだが。  
   
 (柔らか・・・)  
   
 触ってみるとよくわかる、男の自分にはない女性特有の柔らかさ。同じ  
人間なのにこうも違うのかとある意味関心もする。上下左右、どこから触  
っても平等に柔らかく動くたびに共に揺れる薄紅色の乳首が胸の大きさに  
似合わぬ官能さを醸し出しレンの喉を鳴らした。  
 画面を通してみる女よりも、リンの肌はきれいな桜色に染まり怪しげな  
雰囲気を醸し出していて色っぽかった。いうなれば処女の雰囲気。処女の  
色気。  
 湯船に落ちたタオルを小さな手で握り締め、焦点が定まらずか弱く揺れ  
る瞳はカイ兄に散々見せられた女優たちにはないものだ。薄く開けられた  
唇から漏れ出る息は艶かしく、湿っぽい。  
 天井から、水滴が一滴、湯船へと落ちた。  
   
 「や・・あ、ん・・・」  
   
 淡々とニュースを告げるだけのテレビの音に混じって聞こえたリンの喘  
ぎ声に、レンは現実に引き戻される  
   
 「あ、ごめ、痛かった・・・?」  
 「ちが・・・痛いとか、じゃなくて・・・あ、はぁん」  
   
 静電気に似たような、痺れる様な感覚を生み出すレンの指先にリンは翻  
弄され、声を出すまいと絶えるリンの姿にレンが翻弄される。指の力に軽  
く強弱をつけるだけで面白いぐらいに反応する。レンの肩に置かれたリン  
の手が快楽に酔いしれる毎に「もっと」とレンに訴えるようだった。それ  
に夢中になって初めて触る感触をレンは楽しむ。  
 薄緑色のお湯の中で淫らに揺れる肢体は、とても綺麗だと思った。  
   
 「ひぅ!レンなにやって・・・・やぁ!」  
 「あんま暴れんなって・・・」  
   
 細い背中を引き寄せお湯からリンを少しだけ浮かせるように持ち上げる  
。浮力も手伝ってか、案外簡単にリンの体は持ち上がり、腕に負担もなか  
った。目の前に曝け出された丸出しの胸に、舌を這わせる。  
   
 「あ・・・はっ・・・あぁっ」  
   
 乳輪にそって舌を這わし、乳首の部分を緩く噛めばリンの肩が震えた。  
檜の香りしかしないはずなのに、リンからは甘い香りがしたような気がし  
た。  
   
 「気持ちいい?リン」  
 「わ、分から、ない・・・はっ、なんか体中がじんじんして、ん!」  
 「ふーん」  
   
 ここらへんまでは、確か無理やり風呂に入ってきた復讐のつもりだった  
のだと、後に彼は弁明していた。  
   
 「んじゃ、もう少しだけ気持ちよくしてあげるよ」  
 「あ、やっ・・・!」  
   
 腰骨あたりに引っかかっていたバスタオルを引っ張り上げ、リンの手が  
届かないところへ転がす。露になった秘部に人差し指を這わせるとそこは  
明らかにお湯ではないなにかでぬかるんでいた。  
   
 「あー・・・濡れてるよ、リン」  
 「そ・・・れは、お風呂に!はっん、入ってるから・・・」  
 「分かってるくせにー」  
   
 意地悪いなーとは自覚している。けれど、普段はあまりない状況条件で  
リンの悔しそうな、切なそうな表情をみるとやはり男としての何かが自分  
の中で疼いているのだとレンは確信した。口元のにやけが、何故かとまら  
ない。  
 それと、もう二つだけ確信する事実がある。  
   
 「こんな姿誰にも見せちゃだめだよー、リン」   
 「なに言って・・・あ、やぁ」  
   
 自分が思っていた以上に相方は官能的で、自分は思っていた以上に独占  
欲が強いらしい。  
   
 所有印を押すようにきつめに薄桃色の肌を吸い上げる。くっきりと咲い  
た薔薇色のキスマークはリンの肌に良く映えていた。赤い舌でキスマーク  
の上から肌を舐めると、ほんのり甘い味がした。  
   
 「ねぇ、リン」  
 「や、・・・あん、な・・・に?ふぁ・・・」  
 「キス、していい?」  
   
 呼吸を整えさせるためにレンが手を止めると、リンの秘部が切なそうに  
疼いた。口元から漏れ出る息は艶かしくどうして手を止めるのかと言いた  
げな瞳がレンをじっと見つめた。  
   
 「え・・・?」  
 「キス、したいんだけど。いいの?ダメならダメって言っていいから」  
   
 多分、これは交渉に近いんじゃないかと思う。ダメだと言った瞬間この  
行為自体も終わりを告げるのだろう、けれど了承した時からきっと最後ま  
で進むことが簡単に予測できた。  
 いまやリンの体は換気扇から吹く僅かな風にも反応するほど高まってい  
て、この熱をどうにかしたいと今はそれしか考えていない。しっとりと濡  
れそぼった膣からは薄白い愛液が湯船に混ざっているのが見えた。  
 是も日もない。答なんか最初から決まっているのだ。  
 リンは返事代わりにゆっくり目を瞑ると、手を伸ばしてレンの頭を引き  
寄せその唇に自分のそれを落とした。  
   
 くちゅり、と舌が絡まる音がした。  
   
 「うんっ・・・ふっ、ふぁ・・・ん」  
   
 レンは自分の中で何かが外れた事に気がついた。多分これは愛情とか欲  
情とか今までリンに持っていてけれど、決して表に出していなかった感情  
の渦。予定とは全然違う順番で進んでいく行為に戸惑いを覚えながら、も  
う片方では貪欲にリンを求め始めている自分がいた。  
 中指をゆっくりとリンの中に入れるとやんわりと締め付けられる。生理  
的に流れているのだろう涙が頬を伝って湯船に落ち、そこから波紋が広が  
っていくのが見えた。湯船にぼんやりと映し出されるリンの姿にレンの中  
で「雄」が立ち上り始めた。  
   
 「あ・・・はぁ、レ・・・ン」  
 「リン可愛い・・・もっと声聞かせて」  
 「んあっ・・・はっ、ああん!」  
   
 入り口付近から一気に奥まで指を突き入れる。すんなりとは行かなかっ  
たがゆるい抵抗も難なく押しのけてレンは中を探った。これは確かに神秘  
的な感覚である。一体中の構造がどうなっているのか。柔らかい壁がきゅ  
うきゅうと包み込む感覚が気持ちいい。  
 唇の横にキスをするとリンの肩が震えた。それにあわせて二本目の指が  
リンの中に押し入ってくる。  
 生まれて初めて他人に触れられた秘部から押し寄せる快感と異物感がリ  
ンの頭では入り混じる。現状を受け止められるほどしっかりとした意識は  
なく、リンはひたすらレンを求めた。  
 膣の中からゆっくりとレンの指が引き抜かれ、次に当てられたものに一  
瞬リンの背中が反応した。  
   
 「あ・・・レ、レン・・・?」   
 「・・・・えっと・・・」  
 「これ・・・」  
 「い、嫌?」  
   
 押し付けられる熱が熱い。その熱の持ち主は自分以上に混乱してるらし  
かった。これから最後まで終わらない行為への恐怖と不安と、少しの喜び  
から震えるレンの頬をリンがゆっくりと包み込んだ。  
 漏れ出る笑顔は「相方」でも「姉」のものでもない。リンは悪戯っぽい  
目で笑いながら「恋人」の笑顔を浮かべた。  
   
 「レンじゃ・・・な、きゃ嫌なの・・・レン、がいい」  
 「・・・・リン」  
 「・・・ね?」  
   
 本当、バカだなぁ御互いに――――。  
 自分で言うのもなんだが、あえて言っておこうと思う。この一言の先に  
あるのは僅かながらの幸福と罪悪感、それから壊れる兄弟愛。  
   
 「途中でやめろっていっても、やめねぇぞ・・・」  
 「ん、いーよ・・・」  
   
 そういえばアダムとイブも一応兄弟みたいなもんなんだよなぁ、とぼん  
やり思った。   
   
 「んうッ・・・!!」  
   
 レンの分身がずんっと押し入ってくる。体の震えが止まらずにビクビク  
と全身が波をうつような感じがした。  
   
 「・・・あぁっ、んっ・・・あうっ」  
   
 リンが快感を感じ、体を震わせる度にゆっくりとレンが締め付けられ、  
同時にレンに快楽をもたらした。慣れない律動のはずなのに、体が分かる  
のか本能が動かすのか、レンの意思とはどこか無関係に腰がグラインドす  
る。  
   
 「んんっ、う、あぁぁああ!」  
   
 一際深くリンの中に進んでいくと、ずぶずぶと際限なく飲み込まれてい  
きそうな感覚を覚える。不思議と恐れは感じなかった。びくびくと震え、  
今にも逃げ出しそうなリンの腰を掴み、レンは尚一層腰を押し付けた。  
 目の前に突き出されるリンの胸を舌で舐め上げ、乳首を緩く噛むと、心  
地いい締め付けと浮遊感がレンをとりまいた。  
   
 「あっ・・・あ・・・あっ」  
 
 ガタガタと洗濯機の音が聞こえる。ガヤガヤとバステレビから漏れる音  
が聞こえる。それよりもはっきりと、リンの喘ぐ声がバスルーム全体に響  
き渡ってレンの何かを刺激した。  
   
 「はぁ・・は、んっ!」  
   
 性急な口付けを受け止めてくれる体は、酷く熱っぽい。  
   
 「ふっ、んんッ・・・ん!」  
   
 腰を動かす度に湯船がざぶざぶと波打つ。ぬるくなり掛けていたお湯が  
体にあたると気持ちが良かった。膣のなかに幾分か御湯が入り込んだのか  
リンの中で水がゆれる。それを抜き出すためにぎりぎりまで引き抜いてか  
らもう一度一気に突き上げた。仰け反った白いうなじを吸い上げる。咲き  
ほこる紅い花に口が釣りあがった。  
   
 「あ、あぁぁ!レン、レンレン!」  
 「やっべぇ・・・リンめっちゃ気持ちい、とまんね、っ・・・!」  
 「レ・・・うぁ・・ぁん」  
   
 今までとは違って根元から締め付けられる感覚にレンの顔が歪む。御互  
いにもう直ぐこの行為が終焉を迎えるのだと意図せずに体が反応した。  
   
 「ごめ・・・リン、でる・・・!」  
 「あ、あ、あぁぁぁ!ふっ・・・あ」  
   
 全身が雷に打たれたようににびりびりと震えながらレンが吐き出した欲  
をリンは精一杯受け止めた。  
 体が上せたように熱い、ふらふらと上手く動かない頭は重く、リンはレ  
ンにもたれかかるようにゆっくりと体を倒した。  
   
 洗濯機が完了を知らせる時に鳴らす音と、バステレビがなにかのニュー  
スを読み上げる声が聞こえた――――。  
   
 「で、結局胸って大きくなるの?」  
 「俺に言われても・・・」  
   
 それじゃあ話が違うとばかりにリンがレンを睨みつける。7時をゆうに  
過ぎてしまい、見たいテレビは結局みれず夕飯は自己責任で自分で作る事  
になってしまった。それがハウスルールなのだから仕方ないと言えばそう  
なのだが。  
   
 「あのテレビ・・・見たかったんだからね」  
 「だからそれは悪かったって・・・」  
   
 バツが悪そうにレンが顔を歪める。あれから結局御湯を入れなおし、今  
度は桜の香りがする薄桃色に色づいた湯船で、レンはリンを抱きかかえる  
ように向かい合いながら湯船に使っていた。ぬるめの御湯は、長湯するに  
は丁度いい。  
   
 「見た感じ大きくなってない気がする・・・」  
 「そりゃあ一朝一夕で変わるもんじゃないだろうから・・・持続するの  
が大切なんじゃないの?」  
 「・・・ってことは、またするの?」  
   
 少し目線を泳がせた後、ぼそりとレンが呟く。  
   
 「そりゃあ・・・リンが望むんなら俺は構わないけど」  
 「ふーん・・・」  
   
 納得のいかないと言う表情。しかしこれ以上何を言えというのか、今の  
レンには見当もつかない。  
 濡れた手で髪の毛を触ればさらりとした感触が伝わってきた。ただ今は  
愛しいとしか言いようのない存在は、自分に何を求めているのか。   
   
 「で、鏡音レン君、私に言う事があるんじゃない?」  
 「いや・・・これ以上何を言えと・・・」  
 「順番が逆になっただけでしょ?ちゃーんと言ってくれなきゃ、ね?」  
   
 悪戯っぽく笑う顔はどの表情だろうか。「相方」?「友人」?「兄弟」  
?どれにも当てはまらない新しい二人の関係を示すもの。それで気がつい  
た。言わなくちゃいけない言葉は、たった二文字なのに唇が重たくて動か  
ない。   
 あーでもないこーでもない、と自分の中で格闘して、ようやくレンは口  
を開いた。  
   
 「・・・・リン、好き。愛している」  
 「はい、よく出来ました」  
   
 愛しい人にはどうにも適わない。それは兄弟そろって同じらしい、と兄  
貴分のカイトを少しだけ不憫に思う。  
 このあと風呂をあがったら体を拭いて洗濯物を干して、それから夕飯と  
おやつのアイスを食べながら録画したドラマでもみようか。なんて話し合  
いながら二人はゆっくりキスをした。  
   
 時刻は午後7時30分をつげるニュースキャスターの声が聞こえる。柔  
らかい御湯と愛情に包まれて、今何かが変わり始めたカモミールバスルー  
ム。  
 

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