三人に分身したカイトに抵抗する術もなく、いとも容易く捕らえられた。
「は…離しなさいよ!こん…の、バカイト!!」
そう言って抵抗を試みてみたが壁を背に、両隣と正面をカイトに囲まれてしまっているので結局は形だけで終わってしまう。
「だってめーちゃん、あんまりさせてくれないし」
「いっつもお預けばっかだし」
「だからたまには強引にでもいいかなって」
人畜無害としか言いようのない顔でシュンと項垂れてみせているが、この状況とセリフではそれも台無しだ。
「「「という訳で、デリケートに好きにしちゃうよー!」」」
何がという訳だとか、待ってと静止する間もなく、三人のカイトは啄むように体中にキスしていく。
そっと、だけど印が残るよう、ゆっくり、音を立てて、貪るように啄む。
ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…
しつこい位に立ててくる幾重もの音が無性に恥ずかしく、一気に耳まで赤くなるのを感じた。
「や…っあ…」
唇も塞がれてしまい言葉が後に続かない。最も唇が塞がれていなくとも、息も続かない程に体を弄られて言葉にならない。
抵抗するという思いとは裏腹に、体は熱を帯び、頭は何も考えられない程に麻痺していく。
自分だけで立っていられない位に力が入らない癖に、首だけは何度も横に振る。
首を振る様子が余りにも必至に見えたのだろうか、カイトは一度手を止めた。それから、
「「メイコは俺のこと、嫌い?」」
お約束ともいえるそのセリフを、両隣のカイトが耳元で囁く。
…卑怯だ。こんな時だけ呼び捨てで。それに…答えなんて決まっている。嫌いな訳が、ない。
一つ一つ触れられる手や甘く吹きかけられた吐息、軽く甘噛みされた耳たぶの感触に息が詰まりそうになる位なのに。
そんな気持ちはいつだっておくびにも出さない様にしてるだけに、この状況で言ってしまうのは非常に悔しい。
「………知ってる癖に…っ」
睨み付けながらそう言い放つのが精一杯だった。
その言葉を肯定と捕らえたカイトはにっこり微笑むと、メイコを丁寧に床に組み敷いた。
それから三つの唇から愛してると囁かれ、六つの手が執拗に責め立てる。
三人も居る訳だからいつもより激しく、それでも優しく扱ってくれているのが分かってメイコは少し嬉しく思う。
だがやはりどこか抜けているのがカイト。
「ちょっ…三人でするつもり?!」
「「「そうだけど?」」」
平然と言い放つ三人に、思わずこめかみを押さえたくなる。実際は動くことも出来なかったが。
「デリケートに扱ってくれるんでしょ。三人なんて、…無理」
最初の言葉は嘘だったのかと思わず溜息が漏れた。それに、と続ける。
「カイトは一人で十分よ。それ以上は好きになんてなれない」
その言葉にカイトが顔を赤くした。
いつもは一方通行の好きという言葉。だからたまに与えられる告白は、カイトにとって新鮮で衝撃的だったようだ。
「〜〜〜っ、めーちゃん大好き…っ!」
カイトの分身は一瞬にして掻き消え、感激の余りメイコを抱きしめた。
強く抱き締められて腕の中で小さく悲鳴を上たが、目の前の嬉しそうな顔を見ればそれも構わないかと思う。
「…カイト」
ようやく自由になった手を、カイトの頭の後ろに回す。そっと髪に触れ、首筋までするりと愛おしく撫でるように下ろし、
「ごめん」
え…、とカイトが口を開くまでのわずかな瞬間に襟元を掴み上げ、床に叩きつけた。ガンッ!という鈍い音に被さる様に鉄拳の追い討ち。
「…卑怯でも要は勝てばいいんでしょ?反省なさい」
勝ち誇ったように放った言葉は、床に撃沈したカイトに到底届くものではなかった。
<終>