『性別すら選べないKAITO』というタグを見たことはあった。
僕はそれらの動画をクリックしたことはないけれど、見かける度に、またカイト兄ちゃんがおもしろいことをやらされてるなあ、と思っていたものだ。
だけど兄ちゃんの女装なんて特に興味は沸かなかったし。
兄ちゃんも僕らに見られたいもんじゃないだろうなと思って、スルーしていた。
のだけれど。
…今日、帰宅して家の玄関を開けると、見知らぬ女の子がそこに立っていた。
青いショートカットの髪、水色のマフラー、厚手の黒っぽいかわいらしいワンピースには、袖や裾にふわふわとした白いファーがあしらわれている。
するりと肘までのびる黒い手袋。
短めのスカートと白いニーソックスの間に、ちらっとだけふとももが覗いていて、僕はどきりとする。
誰だ、この子。どうしてうちにいるんだ。
ドアを開いた状態で立ち尽くしている僕に気づいて、その子が振り返った。
僕を認めると、はにかんだようににこっと微笑む。
ドキン!
僕は言葉も出ない。誰だこの子。誰だこの子。
知らない子だ。でも、どこかで見たことのあるような。
すごく、可愛い。
小首をかしげるようにして、大きな水色の目で僕を見ている。(まあ、今にして思えば髪の色とマフラーで、正体に気づけというものだけれど。この時の僕にはまったく思いつきもしなかったのだ。)
僕が身動きも出来ずにいると、その子はとてとてとこちらに歩み寄ってきた。
僕は思わず半歩身を引く。誰だこの子。誰だこの子。
自分の顔が赤くなっているのがわかって、それを彼女に見られたくなかった。
「レンくん、お帰り」
にっこりと笑って、意外とハスキーな声で彼女は僕に言った。
レン、くん?僕のこと知ってるのか?
…というか、今の声、は。
「カ、カイトにいちゃ、ん?」
恐る恐る僕は聞く。
完全に女性の声のようだったが、わずかに兄ちゃんの声の癖があった。
「そうだよー」
目を細めてにこにこと言う。
まさか。まさか。
目の前の現実にくらくらと目が回りそうだ。
そんな僕に構わず、カイト兄ちゃんは少し照れたようにしながら、自身の格好の説明をしだした。
「変だよねえ、こんなの」
スカートのすそをつかんで少し持ち上げて見せる。ふとももの見える面積がわずかに増える。
ああ、やめてください。
「あのね、少し前に私がジェンダーファクターを調整して歌った歌が結構好評もらえたみたいで」
「それで、その歌に似合うボディ端末があったらいいんじゃないかって、開発部のひとが。」
「今日出来たから、試運転中なんだぁ」
「なんかすーすーするし、変な感じだよ」
僕はちらちら覗く絶対領域に気を取られていて、半分も聞いていなかった。
「でね、私…」
あれ?何か違和感があって、僕はカイト兄ちゃんの顔を見る。
目が合う。僕は慌てて目をそらす。
「レンくん?どうしたの?」
また違和感。僕はカイト兄ちゃんに言う。
「カイト兄ちゃん、自分のこと『私』って言ってる?いつもは『俺』じゃん?それにさっきから、僕のこと『レンくん』って。」
いつもは「レン」って呼び捨てなのに。
「あれ、そう?」
言われて気づいたようにしてカイト兄ちゃんはこめかみに手をあてる。
「ちょっと待ってね」
内部データに検索をかけているみたいだ。
「ああ、人称に修正がかかってるみたい。手が込んでるね」
とカイト兄ちゃんが笑う。
開発部め、余計なことをしてくれる。これじゃほんとに女の子じゃないか。
俯いたままちらっと目だけでカイト兄ちゃんを盗み見る。
しかも、女の子の顔ながら兄ちゃんの面影が残っているからタチが悪い。
どきどきとする度に僕は自己嫌悪でいっぱいになる。
「KAIKO、なんて呼ばれるんだよ。私恥ずかしくって。」
兄ちゃんは顔を少し赤くして、頬をふくらませる。
カイコちゃん。僕は無意識に頭の中で反芻する。
いつもは見上げる程のカイト兄ちゃんの身長が、今は僕よりほんの数センチ高いだけである。
リンよりは大きくて、ミク姉ちゃんよりはちょっぴり小さい、かな?
動揺して顔を直視出来ない。
と、どうしても視線がふとももへ行ってしまう。
ミク姉ちゃんの絶対領域は、健康的な萌え要素だけれど、カイコちゃんのそれはミク姉ちゃんのそれとはまた違った魔力があるようだった。
色気、というか、艶、というか。
14歳、という設定で作られたせいで、僕は万年思春期である。
その上家にはメイコ姉ちゃん、ミク姉ちゃん、リンと、それぞれ違うタイプの女性が同居しているのだから、白状すれば僕は3人でやましい想像をしたことも一度や二度ではない。
ああ、だけど、だけど、
よりによってカイコちゃんにときめかなくても。
正直に言ってしまえば僕は今自分史上最高にどきどきしていた。
なぜ、よりによって、カイコちゃんに。
心拍数の上昇をすべて背徳感だけのせいにしてしまいたい。
「体、その、まるっきり女の子なの?」
僕はなるべく平静を装って聞く。
「? まるっきりって?」
だからその、小首をかしげる動作をやめてほしい。
「だからさ、その、胸とか。…下の方とか」
頭の中がぐるぐると回る。
僕は何を聞いているんだろう。
カイト兄ちゃんは一瞬きょとん、とした後で、
「どうだろう。多分そうだと思うけど」
と言った。
多分?そんなもんなのか。
僕なら自分の体が女の子になったら、すぐさまあらゆる所をチェックするけどな。
というか、なんなら、チェックさせてほしい。
そんなことを考えていると、ちょっと待ってて、と言ってカイト兄ちゃんが洗面所に入っていった。
「開けないでねー」
と告げて、ぱたんとドアを閉める。
? どうしたんだろう。
ドアの前まで行ってみる。
中からごそごそと音が聞こえる。
??? 何してるんだ?
気になったので忠告を無視して、そっとドアを開いてみる。
気づかれないように、薄く開いたその隙間から片目で覗く。
カイコちゃんは服をずらして自分の胸をチェックしていた。
なっ…!
声をあげそうになって、慌てて口を閉じる。
カイト兄ちゃんは向こうを向いていて、ここからはおっぱいは見えないが、前をずり下げて胸をつついたり、手で寄せて上げたりしているのがわかる。
ああ、あと数cmこちらを向いてくれたら。
ひとしきり胸を調べ終わると、今度は洗面台の下の棚に顔をつっこんでごそごそと何かを探している。
何してるんだろう?
そのまま覗いていると、カイト兄ちゃんはそこから鏡を取り出した。
しばらく使っていない、30cm角ぐらいの大きさの卓上鏡だ。
それを床に置くと、カイト兄ちゃんはその前にぺたんと座った。
まさか。まさか。まさか。まさか。
カイト兄ちゃんはおもむろにスカートに手をつっこむと、一瞬だけ腰を浮かせて、うんしょうんしょ、とパンツを膝の下まで下ろした。
そして控えめに足を開いて、自分のふとももの奥を鏡に映している。
着ている服の清楚さも相まって、これはかなり卑猥な図だった。
ああ、だから、あと数cmこちらを向いてくれたら!!
頭に血が上るのを感じながら、僕はドアに額を押し付けるようにして食い入るように覗き込んでいた。
カイト兄ちゃんがパンツを上げ、鏡を仕舞いはじめたので僕は慌ててドアを閉めてリビングへ走りこむ。
ソファに座って荒くなった息を整える。だけど、興奮してしまった下半身はどうしようもない。
周りを見渡して、手近なクッションを膝の上に抱え込む。
ばれなきゃいいけど。
僕がどきどきしていると、服を整えたカイコちゃんがリビングのドアを開けた。
「完璧に女性ボディだったよー」
にこっと笑って、男同士の気軽さでカイト兄ちゃんが言う。(というか、カイト兄ちゃんが「完璧な女性ボディ」を知っている、ということも、僕には軽いショックではあった)
僕は何食わぬ顔で、ふうん、とかなんとか返事をした。
カイト兄ちゃんはソファの近くの床にぺたんと座る。
動悸が治まらない。僕の体の奥、興奮は鎮まらない。
ああ僕は何を考えているんだ。自己嫌悪と罪悪感で泣きそうだ。
カイト兄ちゃんの気軽さに比べて僕ときたら。
男兄弟だと思っているからこそ、カイト兄ちゃんはこんなことを気軽に話してくれるんだぞ。
カイコちゃんは今のこの状況なんかなんとも思っていないんだ。
男同士だからこそ、男兄弟だと思っているからこそ、
僕の思考がそこではたと止まる。
そう、カイコちゃんはこの状況なんかなんとも思っていないんだ。
僕のことを男同士の兄弟だと思っているんだ。
それなら。
「あの、相談があるんだけど」
「えっ相談?なーに?」
少しうれしそうにカイト兄ちゃんが言う。
弟が自分を頼るのがうれしいんだろう。
「あの、僕、思春期、っていうか」
「うん」
「やっぱり女性に興味があって」
「うん」
「でも、その、こういうの、人には言いづらいし」
「うん」
カイト兄ちゃんはうれしそうにコクコクと頷きながら、そうだよねえ、レンくんぐらいの男の子はそういう時期だよねえ、なんて、悠長な相槌を打っている。
「それで、その、女の子の体とか、見てみたいなって前から思ってて」
「うん」
「どうなってるのかなって。男とどう違うのかとか」
「うん」
「でもこんなこと、姉ちゃんたちやリンには頼めないし。」
「うん」
「だから、その…見せてくれない?」
「うん」
うんうんと頷いていた兄ちゃんの顔が、相槌を打ってしまった後で、え?と、笑顔のまま停止する。
そのまま硬直して僕を見つめている。
「だから、その、カイコちゃんのボディを。」
沈黙が続き、僕の言葉に兄ちゃんが反応するまでたっぷり10秒はかかった。
突如慌てたような顔になり、
「いや、でも、それは、」
としどろもどろに返答する。
「別にいいじゃん、お、男同士、なんだし」
自分で自分が情けなくなるくらい、男同士、の部分を強調する。
「それは、その、そうだけど、」
兄ちゃんはもごもごと口ごもる。
「ちょっと見せてくれるだけでいいから」
「でも、その、そういうのは、でも、」
カイコちゃんは口元に手をやり、おどおどと困ったように下を向いている。
あと一押しのような感じだ。
僕は自分でもずるいと思うセリフを口にする。
「お願い、こんなこと、カイト兄ちゃんにしか頼めないんだ」
それを聞いて、カイト兄ちゃんが、うっ、と口を閉じる。
ああ、奥の手を使ってしまった。
カイト兄ちゃんが僕たち妹弟に兄として頼られると断れないことを、僕は知っているのだ。
僕は何をしているんだろう。頭の中がぐるぐると回る。
今僕の頭の中は、自分を責める声と、カイコちゃんを脱がす方法でいっぱいになっていた。
いや、でも、そう、僕はさっき自分で言ったようにあくまで女の子の体に興味があるのであって。
どうなってるのか前から見てみたかったし。その機会をずっと待っていたんだし。
だから、決して、決して、カイコちゃん個人に興味を持っているわけではないのだ!
誰に向けてともなく僕は心の中で言い訳する。
でもじゃあなんで僕はこんなに必死になってるんだ?
ああ、オーバーヒートしそうだ。
ぐらぐらとした頭で視線を落とすと、またもやカイコちゃんの絶対領域に目を奪われる。
洗面所で衣服を整えた時、ついでにニーソックスもひっぱり上げたのだろう。
さっきは膝の上ぐらいの位置で履きこまれていたソックスが、ふとももの中程くらいまでずり上げられている。
さっきまでの位置よりずり上げられたニーソックスは、さっきまでよりもキツめにふとももに食い込んでいて、それがひどくいやらしい。
そしてふとももからそろそろと視線を上へ移動させる。
華奢な腰を包む短いスカートに集中する。
ああ僕は今、気が狂うほどこの中が見たい!!!
「ちょ、ちょっとだけだよ」
カイコちゃんがぼそっと言って、僕はびくっとする。
自分の思考の世界に入り込んでいた僕を、聞こえるか聞こえないかというような声でカイト兄ちゃんが現実に引き戻した。
「い、いいの!?」
自分からお願いしておいて僕は聞いた。
「み、みるだけだよ!!」
顔を真っ赤にしてカイト兄ちゃんが言う。
僕はコクコクと頷く。
僕がバッとワンピースの胸元に手を伸ばすと、カイコちゃんがびくっと体を強張らせて身を引く。
「じ、自分でぬぐからっ!!」
真っ赤な顔で制される。
僕はまたコクコクと頷く。
そろそろと、カイト兄ちゃんがマフラーはそのままに肩からワンピースをずらしていく。
途中まではのろのろとした動きだったが、一瞬ためらいがちに手を止めると、次の瞬間覚悟を決めたように、目をつむってえいっと一気におへその位置までワンピースの襟口をずらした。
真っ白な肌に赤みが差したおっぱいがあらわになる。
僕はまさに食い入るようにそれを見つめる。
ぷりっとした、なだらかな胸だ。そんなに大きくはないが、曲線がとてもきれいだった。
先端はすごくきれいな薄紅色だ。
「ブラ、ジャーとかは、してないの?」
僕は胸から視線を外さずに聞く。
「うん、さすがにその、そういうのつけるのは恥ずかしくて」
開発部の人に勘弁してもらった。とぼそぼそとカイコちゃんが言う。
ニーソックスはセーフだけどブラジャーはアウトなのか。
良くわからないけれど、カイト兄ちゃんのボーダーラインはそのへんにあるのだろう。
それなりに胸のある女性はみんなブラジャーをしているもの、と思っていた僕には意外だった。
そろっと右手を伸ばして、おっぱいの上にぴとっと乗せる。
カイト兄ちゃんが真っ赤な顔で飛び上がる。
「み、見るだけって言ったよ!」
体を後ろに反らして僕の手から逃げようとするが、僕はそれを追うようにして腕を伸ばす。
手のひら全体で感触を確かめるように、僕は手首をゆっくりと回した。
「う 、 ゎ、 」
赤い顔で変な声をあげながらカイト兄ちゃんが慌てたように両手で僕の手首を掴む。
見事な下がり眉で、僕を睨んでいる。
やわらかくて、きもちいい。
手首を固定されて手のひらが動かせないので、僕は指先をそっと左右にすべらせる。
カイト兄ちゃんは肩を竦めて体を硬直させる。ぎゅっと目をつむっている。
と。
胸の先端を淡くピンクに色づけていただけだった乳首が、徐々にぷくっと立ち上がって僕の手のひらに小さな感触を押しつけてきている。
こ、れって。
「ちく、び、勃ってる」
僕がぼそっと言うとカイコちゃんは耳まで真っ赤になる。
「ちがうよ!!!ちがっ ちがうよっ」
何が違うというのか。
僕はそのまま手の平を押しつけるようにして親指の付け根でそれを刺激する。
ひゃ、とかそんな声がして、兄ちゃんが息も止めるようにして体を震わせる。
つと見上げると真っ赤な顔で目を固くつむっていた。
時折薄く漏らすように熱い息を吐いている。
僕が手を下の方へずらそうとすると、カイト兄ちゃんが慌てたように目を開く。
と、カイト兄ちゃんは困ったような、焦ったような、そんな顔をして固まった。
その視線を追うと、僕の興奮したアレを見ている。
僕の分身は最早我慢できないといった勢いでズボンを突出させている。
どうしようもなく出来上がってしまっている。
僕は一気に恥ずかしくなって、それを隠すように、体の向きを変える。
勃ってるのばれた。
どうすればいいかわからず、僕は顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。
くそっ、男同士だからって言っておいて、変態だと思われたかもしれない。
僕の中でぐるぐると恥ずかしさと後悔が回る。
「あ、の」
カイコちゃんの声に僕は体を硬直させる。ああ、ちょっと泣きそうだ。
カイト兄ちゃんが真っ赤な顔で、おずおずと僕に言う。
「レ、レンくんは、お、おとこのこなんだから、おんなのこの体見てそうなっちゃってもおかしくないんだよ」
「だ、だから、その、そんなに気にしなくていいし、」
「し、自然なことだから、ね。」
こんな状況で僕を励ますように声をかけてくる。
ただ、なるべく僕の股間は見ないようにしているみたいだった。
「…ほんと?変じゃないの?」
僕は純粋な弟を装って聞く。
「う、うん!ちっとも変じゃないよ!」
カイコちゃんが無理をして笑う。
「誰でも女の子の体見たらこうなる?」
「なるよ!」
「興奮したらこうなるの?」
「うん、そう!」
「カイト兄ちゃんも?」
僕の質問にカイコちゃんは一瞬固まるが、この場は僕を励ますことを最優先と考えたようだ。
「うん!な、なるよ!」
と笑顔で言う。
僕はたまらなくなって、カイコちゃんのボディに抱きつくようにしてその背後に手を回す。
おしりの方からスカートの中に手を突っ込み、パンツに手をかける。
カイト兄ちゃんが僕がしようとしてることに気づいて慌てて声を上げる。
「じ、自分でぬぐから!!やっ」
じたばたと僕の腕の中もがいているが、僕はそれを無視する。
顔が熱い。頭の中が熱い。全身の血が頭とアレに行ってるみたいで、僕は何も考えられない。
乱暴に、床に座っているカイト兄ちゃんを引っくり返すようにして、僕はパンツを脱がせる。
「レンくんっ」
真っ赤な顔で兄ちゃんが僕を叱責する。
体勢を立て直しながら2本の脚をぴったりと閉じて、僕を睨みつける。
ああ、怒った顔もかわいいな。
「ごめん、ちゃんと見せて」
僕は息をつきながら言う。
早く。早く。早く見たい。
今度はカイト兄ちゃんの方が泣きそうだ。真っ赤な顔でどうしようか悩んでいるようだった。
ただ、僕が大人しく辛抱強く待っていると、
「み、みるだけだよ」
と蚊の鳴くような声で言って内股気味にほんの少しだけ膝を開いた。
でもそんな開き方じゃ全然見えない。
「見えないよっ」
僕ははあはあと言う。
カイト兄ちゃんは、うっ、と困り顔をして、顔を更に赤くしながら、またほんの少しだけ脚を開く。
でもまだそんなんじゃ見えない。
見えそうで見えないこの状況は耐え難い。
僕は左手をカイコちゃんの右ひざの下に潜り込ませる。
ばっと外側に持ち上げると、すべすべしたふとももに、僕の指が柔らかく食い込む。
意外とむちっとした感触が手のひらに伝わった。
「レンくんっ!」
カイト兄ちゃんが慌てたように僕を叱る。
僕は構わずようやく見えた女の子の部分に手を伸ばす。
「見るだけだってばっ」
カイコちゃんが泣きそうな声で言う。でももう僕は止まれない。
光の下に晒されたその部分を僕は見つめる。
これが、女の子の。
ふっくらした曲線の中心、花びらが二枚合わさったような割れ目を僕は人差し指でなぞる。
「わ、ぁっ」
カイコちゃんがぎゅっと体をすくませる。
真っ赤な顔で、肩をすくめて小さく震えている。
指先が微かに湿る。僕は更に撫でるように指を何度か上下に行き来させる。
すると、すっと閉じていたそのスリットが少しずつほころんでいく。
「、 ぁっ ぁっ」
カイコちゃんが小さく声を漏らす。
ちゅ、ちゅ、と、僕の指の下で水音がする。
なぞる花びらをくちゅっと指で少し押すようにすると、僅かな溝の一番下に、とろっ、としたしずくが一つ生まれる。
そして、おしりの曲線をなぞるようにして下へ流れた。
「濡れてる」
僕がはあはあと言うと、今にも泣きそうな顔でカイト兄ちゃんが言う。
「ち、ちがっ、 濡れてないよっ」
ちがうよ、これは、と目をつむったまま耳まで真っ赤にして言い訳を探している。
僕は新たに生まれたしずくを指ですくうと、入り口周辺にくりくりと塗っていく。
「ぅあ」
カイト兄ちゃんがまた身をすくませる。
僕が愛液をまぶした指を、そのまま溝の奥に滑り込ませようとすると、慌てたように
「レンくんっ!お兄ちゃん怒るよ!」
と、真っ赤な顔で目を潤ませて兄ちゃんが叫んだ。
でも、普段だって有って無いようなものの兄の威光を、こんなところで振りかざしても、何の役にも立たない。
僕は人差し指を第二間接までカイコちゃんの中に挿入する。
ぎゅっと体に力を入れて、兄ちゃんは眉根を寄せる。
「、やっ」
カイコちゃんの中で、しっとりとした熱い粘膜が僕の指をきゅっと押し返す。
こんなに狭いのか。
こんなとこに男のアレなんか入るのか?
回らない頭で僕は考える。
カイト兄ちゃんは震える手でスカートを握り締めている。
僕は指をカイコちゃんの中でゆっくりと回すようにする。
「、あっ」
赤い顔でカイト兄ちゃんは軽くしかめる。
スカートを握る手に力がこもっている。
「にいちゃ、ん、今って」
僕ははあはあと息を吐きながら尋ねる。
「やっぱり男の時と全然違うの」
「わ、わかんなっ」
カイト兄ちゃんは真っ赤な顔で泣きそうな声を出す。口をきゅっときつく結ぶ。
「、じ、んじん、するうっ!」
うわっエロい顔!
顔は俯き加減にして、しかし背筋は弓なりに反っている。
真っ白なふとももは刺激に耐えるように細かに震えている。
足先を見るとかかとが浮いていた。
僕の中で最後の理性がエマージェンシーを叫んでいる。
落ち着け。
これはカイト兄ちゃんだぞ。
これはカイト兄ちゃんだぞ。
濡れて潤んだ瞳がどんなに扇情的でも。
薄く開いた桜色の唇がどんなに色っぽくても。
その唇と良く似た色の乳首がどんなに可愛らしく僕を誘っていても。
すべすべのふとももの一番奥で、濡れた女の子の部分が準備を万端に整えていても。
僕のアクセルはすでに痛い程踏み込まれている。
なけなしの最後の理性がか細くブレーキを踏んでいる状態だ。
落ち着け。落ち着け。
頭の中でもう一人の僕が叫んでいる。
脳内とは裏腹に僕の手だけが勝手に動いていく。
ぬるっと溝から指を上にずらす。
僕の指先がカイコちゃんのクリトリス(多分これがそうだろう)に伸びる。
触れるか触れないか、というように、ごくごく軽く掠めたその瞬間、びくんとカイト兄ちゃんの体が大きく跳ねた。
「そ、こ、だめえっ!!!」
聞いたことも無いような鼻に抜ける甘い声で、カイト兄ちゃんが叫んだ。
かくして僕のブレーキはいともあっけなく放たれた。
元が兄ちゃんだからなんだっていうんだ。
美 し け れ ば そ れ で い い 。
僕はファスナーを下ろして急いで自分のものを取り出す。
カイト兄ちゃんは、はあはあと息をつきながら薄く目を開いて、僕の行動を認めると、途端固まった。
一瞬で顔が青ざめる。
「むり!むりむりむりむり!!!!」
ぶんぶんと首を振りながら、目を見開いている。
「お願い、兄ちゃん、僕、しんどくて、」
眉根を寄せて懇願するように僕は言う。
お願い、兄ちゃん、を強調することも忘れない。
「だめ!ぜったいむり!むり!」
しかしカイト兄ちゃんも、いくら弟の嘆願といってもさすがに今回はゆずらなかった。
真っ青な顔でNOを繰り返す。
そりゃそうだよな。
僕だって男に突っ込まれるなんて死んでも御免だ。
「じゃあどうすればいいの?」
僕が声を裏返しながら聞くと、カイト兄ちゃんはしばらくあーとかうーとか言って解決策を探しているようだったが、やがて困った顔で口を開いて、
「レンくんは、一人でしたことないの?」
と蚊の鳴くような声で言った。
ここから先はお一人でどうぞってか。そんなご無体な。
カイコちゃんは意外と残酷だ。
「一人でなんてしたことないよ。どーすればいいかわかんない。」
僕の口があっさりと嘘をつく。
カイト兄ちゃんの表情はどんどん追い詰められたものになっていくが、僕だって切羽詰まっているのだ。
我慢の限界を超えた自分のアレを握って、僕は息も荒くカイコちゃんを見る。
きっとこの時の僕はとんでもなく情けない顔をしていたことだろう。
ううう、と困ったような顔で兄ちゃんは僕の顔を見つめ返していたが、僕がカイコちゃんの方へ少し体を動かすと、びくっと体を跳ねさせて、慌てたように右手の手袋を外した。
そしてするりと伸びた綺麗な指を僕のものに這わせる。
「す、すぐ終わるからっ!」
宣言してカイコちゃんはためらいがちに手を動かす。(すぐ終わるって、後になって思い返せばひどい言われようだ。)
根元から先端へ何度も手を上下させる。
「うあ」
刺激に耐えるために僕はぎゅっと目をつむる。
指で作った輪っかを上下させるだけの単調なしごきだったが、さすが中身は男と言うべきか、具合のいい場所を完全にわかってくれているみたいだった。
僕はたまらない。頭の中が真っ白になる。
カイコちゃんの手の反復運動が速度を上げていく。
「で、るっ!」
僕のセリフが先だったか、それとも発射が先だったか。
快感に耐え切れなくなった僕のそれは、勢いよく跳ねて我慢を吐き出した。
それからしばらく、僕は、寝転がって息を整えていた。
はあはあと息をつきながら、自分の顔を自分の両腕で覆い隠すようにする。
絶頂の余韻がだんだんと引いてくると、自分のした行動が目の前にフラッシュバックのように浮かぶ。
顔から火が出そうである。カイト兄ちゃんの顔が見れない。
あんなに熱に浮かされていた頭が、射精を経て恨めしいぐらいに冴えてくる。
腕の下から、ちらっとカイト兄ちゃんを盗み見た。
兄ちゃんは顔まで飛びかかった僕の精液を、ティッシュでぬぐっているところだった。
自己嫌悪で今この場で死んでしまいたかった。
「あ、の、」
僕が恐る恐る声をかけると、カイコちゃんはびくっと体を緊張させたあと、こっちを見た。
僕と目が合うと、無理をして笑顔を作ってくれる。
「落ち着いた?」
「あ、の…うん、ありがと」
情けない気持ちで僕はお礼を言う。
「今日は、その、ご、ごめんね」
もごもごと謝る。
心からの謝罪だった。
「その、ぼ、僕は落ち着いたけど。」
「うん」
カイコちゃんがにこっと頷く。
「兄ちゃんは、その、いいの?…からだ」
僕にいじられてそれなりに昂ぶっているはずだ。
カイト兄ちゃんは顔を赤くして、
「だ、大丈夫だよっ」
と慌てたように言った。
「でも、濡れてた、し」
「濡れてないよっ!!」
顔を真っ赤にして否定する。
いや、でもあれは。
しばらく沈黙が続く。
僕がぼんやりカイコちゃんを見つめていると、
彼女は赤い顔で視線を落としたまま
「わ、私は、だいじょうぶ。あとでなんとかするから」
とぼそぼそと言った。
あとでなんとか、って
それって。
僕は想像して鼻血が出そうになる。
なんて勿体無い。
顔が熱くなるのを感じながら、僕はまた自己嫌悪に陥る。
くそっ今日の僕は変だ。完璧におかしい。
もう一度カイト兄ちゃんを見る。
黒の衣装が目に入る。
視線をずらすと魔の絶対領域が見える。
ああ、この、この衣装のせいで!
僕の中でふつふつと怒りが沸いてくる。
すべてこの衣装のせいのような気がしてきた。
清楚なふうでいて、男を惑わす意匠がそこかしこに施されている。
そうだ、僕がおかしくなったのは全部この衣装のせいだ!
全部、全部この服が悪いんだ。
僕の中で無理矢理な結論が出て、僕はばっと起き上がって、カイト兄ちゃんに言う。
「兄ちゃん、すべてはその衣装のせいだったんだよ!!」
「え?」
きょとんとして、カイコちゃんが僕を見る。
「だからその、女の子らしい衣装とか!手袋とかさ!ニーソックスとか!スカートも短いし、ふとももが見えるでしょ?」
僕は急いで自分の考えを話す。
カイト兄ちゃんがうんうんと頷く。
「だからさ、その、今日僕がおかしかったのは全部その衣装のせいなんだよ!」
自分で頷きながら力説する。
カイト兄ちゃんも、力強くうんうんと頷いている。
なんだか納得している様子である。
後になって考えれば僕のセリフにひとつも筋なんか通っていないのだが、カイト兄ちゃんだって、弟に襲われかけたという事実を何かのせいにしたかったのだろう。
そっかあ、そうだったのかあとまだ一人で頷いている。
「だからさ!今すぐ着替えてきて!いつもの服に!」
僕が興奮ぎみに言うと、わかった!と返事をして、カイコちゃんはすっくと立ち上がる。
脚に力が入らないような感じで、よろよろと兄ちゃんの部屋の方へ歩いていった。
(黒くて可憐な衣装には、僕の白濁した精液がたっぷりと縦断していて、どっちみち着替えなければならないような状態だったけれど、そのことについて兄ちゃんは何も言わなかった。)
リビングで一人になってみると、ますます先ほどの自分の考えが正しいように思えてくる。
そうだ。あの衣装が悪いんだ。
何が絶対領域だ。そんなものは法律で取り締まるべきだ。
そんなことを頭の中で繰り返し考えて、僕の中で完全に結論は出た。
今日の僕の奇行はすべてあの衣装の魔力によるものである!
そうとわかれば気が楽になる。
鼻歌でも歌いたい気分だった。
「着替えたよ〜」
ドアが開く音がして、未だ可愛いカイコちゃんの声がする。
僕は晴れやかな気持ちで背後を振り返る。
カイト兄ちゃんがちょこんと部屋の入り口に立っていた。
確かに見慣れたいつもの服に着替えている。
しかし
小さい体にいつものコートは足首までの長さ。
盛大にだぼだぼと余った袖口は手のひらを隠して、その先からちらりとだけ指先が覗いている。
本来肩の位置にあるべき袖の付け根の縫い目は、大幅に下に移動して二の腕の位置。
そしてトレードマークのマフラーは華奢な肩に乗り、口元まで覆い隠しそうだ。
目が合って、えへへ、とカイト兄ちゃんが笑う。
僕は返事も出来ない。
また頭に血がのぼるのを感じながら
…ああ、僕は思ってしまった。
くそっ!これはこれで!!!
<終わり>