「ねぇレンー、だっこー」  
 「・・・もうしてるでしょ・・・」  
 「そうじゃなくて、もっと。こうギューってして。ギューって」  
 「・・・・はいはい」  
   
 仕方がないから注文どおりに、既にお姫様抱っこのような状態でレンの  
膝にちょこんと座っているリンをレンは少しだけ腕の力を強めて抱きしめ  
る。そうすれば、レンの首に腕を回して嬉しそうにリンは擦り寄る。まさ  
に子犬だ。もし尻尾があるなら、今彼女は千切れんばかりにその尻尾を振  
るんだろう。簡単に想像できるところがなんとも可愛い。  
 さっきからドラマはいい所を迎えていると言うのに全くと言っていいほ  
ど頭に入ってこない。それもこれもリンのせいだ。  
   
 「レーン」  
 「なにー・・・」  
 「ううん、なんでもない。名前呼びたかっただけ」  
 「あ、そう」  
 「えへへへへー」  
   
 だめだ、完全にこれはまた始まってしまったらしい。  
 溜息をつきたくなる衝動を何とか抑える。レンは、これから何分、いや  
下手をすれば何時間も続くのであろう理性との戦いを覚悟した。  
 普段は大人っぽい、いや一生懸命大人の振りをするリンは、時折何かが  
壊れたように極度に甘えたがる。  
 いつもは一応弟分に当たるレンの姉であり、母であろうとするのか、と  
にかくレンの世話をやこうとする。もう14歳なんだから一人で出来ると  
いってもとにかく何かをしようとする。そのくせ、自分は年上の兄弟姉妹  
には手を煩わせないよう何でもかんでも背負いむ。それがリンなりに頑張  
っている証なのだと言う事をレンも他のボーカロイド兄弟も知っているの  
で、とやかく言うような事は特にはしない。いえばリンが傷つくかもしれ  
ないからだ。  
 ところが、たまにこんな状態になる。  
 頑張っていた緊張が時折切れるのか、それとも頑張りすぎた反動なのか  
。たまに、ベッタリと、それこそ幼い妹のようになってレンにくっつくの  
だ。人目もはばからずに。  
 それが何故レンなのかと言うとやはりたった二人の兄弟であるし、リン  
なりにメイコやカイトに頼るのは気恥ずかしい所があるのだろう。普段の  
リンを面倒見のいい母犬(仮)とするならば、レンはなすがままにされる  
子犬。逆に今のリンは完全に甘え盛りの子犬である。そしてレンはその子  
犬をあやす父犬、と言うところであろう。  
 とにかくこうなったリンは気が済むまでレンから離れない。ご飯を食べ  
る時もテレビを見るときも風呂に入るときも何をするときも四六時中ベッ  
タリなのである。  
 しかし何か特別不可能な願いを言われるわけでもないのがレンの心中に  
拍車をかける。ご飯食べさせて、とか手を握って、とか。そんな事ばっか  
りでなにか物を要求されたりする事はない。正直、好きな女の子のこんな  
無防備な姿を見て大人しく出来るという男が居たら、問い詰めたやりたい  
。  
 お前は耳元で甘ったるい声で己の名前を呼ばれ、首に腕を回されながら  
、かつ抱きしめろと要求してくる恋人を襲わずにいられるのか、と。  
   
 「リン・・・そろそろ降りない?」  
 「やー。もうちょっとレンとくっついてたいのー。重い・・・?」  
 「いや、重くはないけど・・・むしろ軽いけど・・・」  
 「レンはリンにくっつかれるの、いやー?」  
 「いや、全然いやじゃないですけど・・・むしろ嬉しいですけど・・・」  
 「じゃあいいじゃん」  
 「はい、そうでうすね・・・」  
   
 いや、本当はそろそろ限界です。一杯一杯なんです。主に俺の理性とか  
理性とか理性とか。  
 そんなレンの心境など知る由もなく、リンはぺったりと己の体をレンに  
密着させる。二人の間には僅かな隙間すら存在しない。  
 本当、誰か早く帰ってきてくれ。レンは切実にそれを願った。そうすれ  
ば、なけなしの理性にも鍵がかけられるのに。すると不意にリンとおそろ  
いで買ったオレンジ色の携帯が光った。この着信音はメイ姉からのメール  
である。いやな予感がした。  
   
 『ごめーん。これからちょっと飲みに行って来るから帰り遅くなるねw  
ちゃんと戸締りして寝るのよ。お休みw』  
   
 それと共に既に酔っ払いかけているメイコに首を絞められているカイト  
と恐らく写メをとったのであろうミクの指が写真に写りこんでいた。  
   
 (まじかよ・・・)  
 
 希望が潰えるとは、このことを言うのかもしれない。  
   
 「メイ姉なんだって?」  
 「あー・・・今日三人で飲みに行くから遅くなるって」  
 「そう、じゃあ今日レンとリンの二人っきりだね」  
 「そうだね・・・」  
   
 久々に兄弟水入らずだね。と無邪気にリンが笑う横で、レンは頭を抱え  
たくなった。こうなったら、必死にテレビに集中してなんとか誤魔化すし  
かないだろう。そんで今日は疲れたから風呂は明日の朝にするってことに  
して、とっとと寝てしまおう。よし、完璧だ。これでいけば何とか持ちこ  
たえられる自信がある。  
 っていう計画を立てていたのに。天使の笑顔を被った子悪魔は、その計  
画をぶち壊す発言をした。  
   
 「ねぇ、レンキスして?」  
   
 瞬間、口に含んでいた麦茶を思いっきり噴出した。「レン大丈夫!?」  
とリンが背中をさすってくれる。責任は君にあるんですけど・・・。幸い  
リンにも俺にも麦茶はかからなかったので、それで一応よしとする。  
 ゆっくりと背中をさすってもらいながらレンは数回むせて咳を吐き出し  
た。  
   
 「ちょっ・・・っげほ、リン今なんて」  
 「キス、しよ?」  
   
 首をかしげてにっこり微笑むとか。そんな高等技術どこで覚えたんです  
がリンさん。  
   
 「し、しなきゃダメなの?」  
 「だーめ。しなくちゃ罰金100万円だよ。それとも・・・レンはいや  
?」  
   
 いえ、全くいやじゃないんですけど。むしろやりたいんですけれども。  
 こうやって甘えてくる事があるといっても、ここまで甘えてくるのは正  
直初めてだ。どうしたらいいのか分からなくてレンはの体は固まった。  
 普段はツン全開のリンをそれころ無理やりと言う四文字が似合うぐらい  
強引に押して押して行為に及んでいるので、こんなに積極的でかつ純情な  
リンにはどうしていいのか分からない。むしろ無理やりやる時の表情がい  
いというのもあるのだが、これはこれで可愛いのではないだろうか。って  
問題はそこじゃなくて。  
   
 「レン、ね?」  
   
 あぁ、ちくしょう。目を閉じて求めるその横顔とか可愛くてしかたねぇ  
っつの。明日になってから今日のこと恥ずかしがったって知らないからな  
。  
 蕩けそうなほどに柔らかく甘い唇に追いかけて、二人でソファにダイブ  
する。今日の夜はまだ終わりそうもない。  
 

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