「えーっと、本日お集まりいただきありがとうございまーす」  
この日、ミクは居間にリンとレンを呼んで、緊急ミーティングを開いていた。  
議題は『母の日』について。  
普段お母さん代わりのメイコに、カーネーションの一本でもプレゼントしようと考えていたのだ。  
 
「ねぇ、ミク姉。私やっぱりこのお金でお菓子買いたいんだけど……」  
「だめだめっ! 3人でお金出しあって買うって決めたでしょ?」  
ギリギリまでぐずったリンを説得し、小遣いを机に並べる。  
ミクが50円、レンが30円、リンが20円……  
 
「ミク姉ちゃん、100円でお花買えるの?」  
「う〜ん……分からないけど、ちょっと不安な気がするね……」  
レンの指摘に考え込むミク。  
 
――――ガチャッ  
「ただいまー」  
 
そこに現れたのは、両手にアイスを抱えたカイトだった。  
すると3人は走ってカイトに群がり、いっせいに小遣いを要求。  
「カイト兄、お小遣い頂戴!」  
「お小遣いちょーだい!!」  
「ちょうだい!」  
 
圧倒され思わず後ずさりするカイトに、3人は更に詰め寄る。  
レン「今度肩揉みするから!」  
リン「もうロードローラーで轢かないから!」  
ミク「一緒にお風呂入ってあげるから!!」  
 
「小遣いって言っても、そんなにお金持ってないよ?」  
一体誰のどの要求に心が揺らいだのか分からないが、カイトはポケットから財布を取り出す。  
 
―――チャリンッ  
 
机の上に悲しく広がる音色。カイトの全財産100円。  
あからさまに落胆の色を見せる3人だったが、とりあえずそのお金を持って花屋へ向かった。  
 
「あっ! ミク姉、あそこに売ってるよ!!」  
リンが指差したその先には、確かにカーネーションが置かれていた。しかし――――  
「ダメだよリンちゃん。あそこに500円って書いてあるでしょ?」  
「えぇー! そんなにするの?」  
 
こうして最初の花屋を諦め、ミク御一行は次の花屋へ向かう。  
しかしそこでも500円。次の店では300円……200円の花もあるにはあるのだが、いまいちピンとこずミク達は次の花屋へ……  
そしてあっという間に日は暮れ、結局3人は何も買わずに家に向かって歩いていた。  
 
「ミク姉ちゃん、もう200円のでいいんじゃないかな?」  
「うん、そうだね。でも……せっかくだし綺麗な花あげたかったなぁ……」  
ミクは納得いかない顔をしながらも、仕方なく最初の店で一番安いカーネーションを買う事にした。  
すると、何かを発見したリンが慌ててミクの手を引っ張り、花屋へ直行。  
 
「ミク姉! あれっ! あれ見て!!」  
「アレって? ……あっ! ……半額?」  
リンの見つけたもの、それは行きに見た500円のカーネーションに置かれた半額の看板。  
おそらくはあまっても仕方無いので、半額で売りさばく算段なんだろう。  
 
「ねぇ、ミク姉。500円の半額っていくらなの?」  
「えっと……500円の半分だから…………」  
「聞いた方が早いんじゃないかな?」  
またもやレンの鋭い指摘にミクは頷き、二人を連れ花屋に入って行く。  
 
「あの……この花、200円で買えますか?」  
「え? ……えっと…………」  
 
――――50円足りませんよ。……なんて事を、目をキラキラさせて尋ねる子供たちに言う事が出来る訳も無く、  
「はい、ちょうど200円ですよ」  
と、花屋さんは返事をしてしまった。  
 
気にいった花を手に入れた3人は、大急ぎで家へ向かう。  
そして夕食の時間、食卓に並んだ3人はニヤニヤしながらメイコの顔を見ていた。  
 
「えっと……私の顔に何か付いてる?」  
さすがに不審に思ったメイコが尋ねると、3人は、  
「えへへ、……リンちゃん、レンちゃん、……せーのッ」  
 
『めーちゃん、いつもありがと!』  
 
声をそろえ、そう言って机に花を置くと、MEIKOは少しキョトンとしていた様子で花を眺め、  
しばらくの間なぜ自分が花をもらったのかを考えていた。  
「めーちゃんはこの家のお母さん代わりだから、これは母の日のプレゼントなの」  
 
ミクに説明されようやく意味を理解したMEIKOは、少し照れくさそうにしながらも3人の頭を撫で、  
「ありがとう」  
と言って花を受け取った。  
そして何やらポケットをゴソゴソあさり、小銭を取り出すとそれを3人に渡す。  
 
「それ、さっきお酒買った時のお釣りだけど、あんた達にあげるね。こんな立派な花、高かったでしょ?」  
ミク達の手の中には100円づつ握られていた。  
最初、3人合わせて100円だったお金が、終わってみれば300円。そしてMEIKOがもらった花も元は500円。  
 
こうして、みんな嬉しい気分で母の日を終える事が出来たのでした。……一人除いて。  
 
(……まいったなぁ、あの花代オレもお金出したんだけど……今更言いずらいな……)  
 
 
 
 
 
おまけ  
 
「ところでカイトくぅ〜ん? あなたからは何も無いのかしら?」  
「え? オレ?! あ……っと、オレは……ほらっ、あの……今夜頑張るよ! 絶対めーちゃんより先にイかない!」  
とっさに出たかいとの言葉を聞いて、メイコはニヤッと笑みを浮かべる。  
 
「それじゃあ私、今からお風呂入って楽しみに待ってるからね〜」  
「あっ……うん」  
お風呂場に向かうメイコの背中を見ながら、カイトは思った、  
――――めーちゃんがお風呂入ってる間に一度……  
 
「あっ、やっぱり一緒に入ろっか」  
「えぇ?! どうして急にそんな……」  
「だって、私がお風呂入ってる間に、あんたトイレで抜いたりしそうだし」  
 
 
こうしてカイトの企みは見事に読まれ、風呂場に連行されたのでした。  
 
 
 
おしまい  
 

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