「……状況はわかった。つまり妹から邪魔だから一旦うちに行け、と言われたんだな?」
「はい……マスターさんには弱いですから……」
玄関の向こうに立つ女、ハクの言葉を聴き、俺はため息をつく。
「瑞希(みずき)の奴は、なんでこういう時だけ俺を頼るかな……」
聞く所によると、俺の妹、瑞希は久々の休日を使って大掃除を始めたようだ。自分のボーカロイド、ミクまでこき使っているとの事。
で、居候のハク、つまり彼女は居場所が無くなったためここに非難させられた、という事だそうだ。
「まあいい、上がってくれ。……ちょっと騒がしい奴もいるが気にするな」
「はい……」
ハクに中に入るよう促し、居間に連れて行く。すると。
「あれあれ、珍しいですね?マスターが女連れなんてー?」
と、突然うちのボーカロイドに声を掛けられた。
「ひゃうっ!?」
「……彼女は妹の知り合いだ。別にそういう関係じゃない」
「まーたまたー。そんな事いって今夜はその人を無理矢理襲うんでしょう?
『や、やぁ……やめてくださいぃ……』
『やめろだって?ふん、ここをこんな風にしてるくせによく言うじゃないか』
『……ひどいですよぉ、昼間はあんなに優しかったのに……』
『ああ、俺は羊の皮をかぶった狼なんでね。ほら、いい声で鳴いて』ぶべらっ!?」
そのボーカロイド……阿久女イクは妄想を暴走させ、なんとも言えない三文小説みたいな台詞を声真似をしながらしゃべり始めたので頭をどついて黙らせた。
「いい加減にしないか、イク!ハクさんがうろたえてるじゃないか!」
「……だってぇ、マスターってば最近してくれないしー、欲求不満なのー」
「あ、え?し、してないって……?」
イクの台詞に反応したのか、ハクが詳しく聞こうとしている。
「調教ですよ、ちょ・う・きょ・う。もー、マスターは調教のとき激しいんですよー?なんてったって、いたっ!」
また誤解を招くような発言をしたイクの頭をはたき、ハクの誤解を解くために口を開いた。
「……あくまでもボーカロイドとしての調教ですからね。間違えないでください」
「……うふふふ、もう、マスターのど・エ・ス。私をいちいちいじめないと気が済まないんですよね?」
「お前の馬鹿な発言に突っ込みを入れてるだけだ。……すいません。こいつ、どうも変な思考回路してまして……」
「あ、そ、そうですか……」