俺はコンピ研の部室で、椅子をゆらゆらさせながら部員の噂話を何となく聞いていた。  
「VocaListenerってすげーよな」  
「歌声のデータから似たパラメータを随時作り出してミクに真似させられるそうっすね。なんか犯罪に転用できそう」  
 
 
がったーん  
 
 
「まっマジかー!痛ってぇぇ!」  
話の内容に驚き椅子ごと床にブッ倒れた上に、床の開きっ放しだった開閉式コンセントにしたたか頭をぶつけた俺は、それでも痛みを訴える事より驚きを声にすることを優先した。  
「いや、マジっすけど…頭大丈夫すか?部長」と後輩の谷内。  
「ああ、心配すんなヤっちん」今更俺の脳細胞の一万や二万弾けようが、A判定全国一位の俺が落ちるわけがない。  
「あのな〜、四月しょっぱなの模試っくらいで余裕ぶっかましてたら足下すくわれっぞ、部長。つーか何?お前ボカロやってんの?」  
この、俺の心の声を見透かす男は同級生の中村。  
「っさいわ、ド低能が。B判定のくせに」  
「Fラン大志望のAとMARCH志望のBを一緒にすんな、そしてBじゃなくてB+だ。ゆとりが感染るからしゃべんな」  
「くっ、なんていやな奴…ってか、んなことはどうでもいい!そのボカリ…なんとかってのはどこで買えるんだ?!」  
中村がDTMをやらないのは知っていたので、ヤっちんににじり寄る。  
「えっと、今特許申請したばかりらしいすから、製品化はまだ先じゃないすか?」  
「え〜、まだなのかよ…」  
「部長、お前は今から俺に感謝する」と中村が急に割り込んできた。  
「なんだよ、ゆとりを感染されたいのか?学歴という過去の遺産に拘泥し続けるステレオタイプメンよ」  
「非常に腹立たしい言われようだが、お前の可哀想なゆとり脳が口走らせた猥雑なノイズとして聞かなかったことにしてやろう。今、ファイル共有ソフトでくだんの<ぼかりす>を拾った」  
 
ガタン、ごんっ  
 
俺は椅子から小さく飛び上がりそのまま額を床に打ち据えたのち擦りつけた。フライング土下座である。  
「大中村閣下、今までの数々の非礼謝っても謝りきれるものではない事重々承知しておりますが謝らせていただきます。どうかどうかこの卑しいコンピ研部長めにそのデータをお譲りください」  
「うむ、くるしゅうない。恵んでやろう」中村は校内用のスリッパを脱いだ足で俺の頭をグリグリ踏み付けながらメモリを差し出した。  
「へへ〜〜」  
俺は恭しく中村からUSBメモリーを受け取った。  
「じゃあ俺先帰るわ!」中村の足を頭で押し返して椅子ごと転倒させ、鞄すら持たずに部室を飛び出した。が、PCの前に根を生やして以来運動と縁の無い身体は上手く回らなかった。  
ディアスポライズ、電脳化、なんでもいいから早く開発して俺を物理制約から解き放ってくれ。  
 
───────  
 
ただいま、おかえり、ご飯は?まだいらない。と一応形式的な帰宅風景を演じつつ階段をのぼり自室に駆け込んだ。  
脱いだブレザーをベッドに放り投げ、我が家のPCのスイッチを叩き込み起動させる。  
荷物ぜんぶ部室にほっぽって来たけど、最後に退室する奴が部室の鍵を締めてくる決まりになっているから大丈夫だろう。  
起動したPCのディスプレイには、キオ式ミクが女の子座りでぺたんと座っている様が映し出された。  
PCのなかの歌姫にキーボードで語りかける。我が家のボーカロイドはチャット形式でコミュニケーションが取れるのだ。  
Me>ただいま!  
Miku.H>あら、お帰りなさいブチョーさん(^^)  
彼女は文字列に顔文字を付けながら、太陽みたいな笑顔をした。眩しすぎてくしゃみが出そうだ。  
眩しさに目を細めつつ、彼女と目線を合わせて(もっとも、カメラも付いてないあちらからは俺の顔など見えちゃいないが)文字をタイプする。  
Me>聞いてくれ!やっと君に歌わせてあげられる目処が立った!  
Miku.H>え(*'o'*)曲、作ってくれたんですか?  
Me>君のパラメーターを自動で調整してくれるプログラムが、ぼかりすが出来たんだよ1!!  
俺が誤字の訂正も惜しんで興奮してタイプすると、ミクは一瞬キョトンとして、それから何故かちょっとつまらなそうに目を伏せた。  
嬉しくないの?  
Miku.H>歌えるのは嬉しいです。でもそれは、誰かの歌をトレースする技術なんでしょう?ブチョーさんの曲じゃない  
Me>…なんで知ってるの?  
Miku.H>光速で世界と繋がってますから  
Me>…_  
へー、ボーカロイドってネット回線利用したりできるんだ。  
とか思いながら文字入力を待って明滅するアンダーバーをぼんやり見やり、俺は頭の隅っこでミクを説得する文句を考えた。  
次はオリジナル作るから。ミクの歌を聴いてから作るよ。とにかく君の声が聞きたいんだ。  
なにやら別れてからも未練タラタラで留守電を入れまくるストーカーのようなセリフを考えているうちに、妙な沈黙に耐えられなくなったのかミクが折れてくれた。  
Miku.H>…まぁ、少し試すくらいなら良いですよ。ぼかりす。でも次はブチョーさんのオリジナル曲作ってくださいねっ  
Me>やってくれるの?ありがとう!  
Miku.H>言っときますけど、次はオリジナルですからね?指切りげんまんしましょ。ええと、指は無いから…LANケーブル揺すってください  
俺はLANケーブルを揺すりながら節を付けて歌うように、  
Me>ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのます  
と打ち込んだ。  
Miku.H>指きった!( ^^)人(^^ )  
ディスプレイに映ったミクは、や く そ く と1字ずつ区切って口で形を作り、最後にくしゃみのでそうな笑顔をはじけさせた。  
 

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