めーちゃんは意地っ張りだ。
辛いことがあっても辛いって言わない。
嫌なことがあっても愚痴ったりしない。
涙を見せたくないから、感動映画を見ても終わってから一人こっそり泣く。
そんなだから情事の最中でも声なんか聞かせないと言う。
自分としてはもっと声を聞きたいとは思うのだけれども、恥ずかしいから嫌だの一点張りだ。
もっと恥ずかしい事してるのに今更、と口答えしたら酒瓶で殴られたのでそれ以来言わないようにしているんだけど…。
組み敷かれたメイコは、紅く染められた頬にうすく涙で滲む目で、自らの口を塞いで耐えている。
本人はまるで気付いていないけれど、非常に扇情的だと思う。時々零れる吐息がますますそれを助長させる。
首から胸へなぞる様に唇を這わせてその先端を軽く甘噛みし、わざと音を立てて吸い上げた。
手は腰からなぞる様に下半身へと這わせ、十分に濡れている事を確認して指を中に進入させる。くちゅくちゅという音を立て軽く指を動かすと、メイコは声にならない吐息を漏らして少し身を捩った。
我慢している姿が何とも堪らないのだが、我慢されるとどうしても声を出させたくなるんだよな。
「ね、声、聞かせてよ」
「………嫌」
分かりきった否定の言葉。これは想定済み。本当は声どころか、こんなところ誰にも見せたくない筈だろうし。
だけどそれは自分だけに許されたものであり、そんな風に出来るのも自分なのだ。顔を紅くさせるのも、肌を重ねるのも、愛していると囁くのもすべて自分だけの特権。
それだけでとても贅沢なんだけど、少しぐらいはいいんじゃない?とちょっとした悪戯心が芽生えたりする。
「じゃあ、挑発してみてもいい?」
答えは聞かずに、中に入れた指を一気に三本へと増やす。急な刺激に熱い粘膜が軽く指を押し返したが、痛みを感じない程度に指を奥まで咥えるさせる。
「っは……あ…」
吐息と共にようやく漏れた嬌声。それを聞いて満足そうに口元を歪めた自分はきっと、酷く意地悪な顔をしていただろう。
粘着質な液体を奥から掬い取るように絡め、ぐちゅっと指を引き抜く。そして、ぽたぽたと零れ落ちるそれを目の前で舐めてみせた。
羞恥心からか、メイコは先ほどから赤い頬を更に紅潮させて軽く拳を握った。
「…っ!調子に、乗っ……あん…っ…」
胸に落ちた液体を掬い上げるついでにその先端を歯で軽く噛み、舌で転がす。
再び与えられた刺激により、振り下ろされた拳は力なく空を切り、思わず漏れた嬌声に慌てて口を塞ぐ。
まずは第一声。だけどまだ口を塞ぐ余裕なんてものを持ち合わせているから、そう簡単には聞かせてもらえなさそうだ、とぼんやり思う。
指はもう一度下腹部へと這わる。今度は焦らす様に入り口付近をなぞる。中に入れる訳でもなく、強く擦ったりする訳でもなく、軽くなぞるだけ。
火照った体にこれ程辛いことはないんじゃないかと思うと同時に、自分にこんな嗜虐心があったなんてとちょっと驚いた。
なんとも言えないもどかしさで身を捩るメイコだが、決して「欲しい」なんて言わない事も知っている。
だから言葉で攻めて、頃合を見計らって執拗に肉体を攻め立てる。
「……んっ……ふ…っ…」
相変わらず吐息しか漏れないが、口元を抑える手も随分力を失くしている。もう無意識に”置いている”という状態に近いんじゃないか。でもそろそろ邪魔だなと思い、手をかけた。
「そんなにされたらいい加減キスも出来ない」
口を塞ぐ手をゆっくりと剥がし、軽く手首にキスした。額・瞼・鼻・唇…と、キスしながら自分の首に腕を回させる。
そして自分のモノをメイコの入り口にあてがい、目で促してから一気に突き上げた。
「んんっ…はっ……っ…」
腰を動かせば声を出すまいと必死に俺の首にしがみつく。大きく肩で息をしながら、甘噛みするように肩に唇を押し当てている。
時々ちゅっと唇が離れる音と、続く嬌声。後はぐちゅぐちゅと擦れる音だけが部屋に響き、その音は次第に早くなっていく。
咥え込まれたモノは絡み取られるように締め付けられ、快感を助長する。二人とも限界が近い。
「…んっ…は…っ……ぁ…」
「っ、は……メイコ…もう…!」
自分から断続的に吐き出されるモノに、ビクビクッと小刻みに体を震えさせる。
「カ、イト……っ!」
熱を含んだ吐息と共に、耳元に零れた自分を求められる声。
一瞬とんで、果てた。
めーちゃんは意地っ張りだ。
けど最近は、俺にだけ零す愚痴や我侭が増えてきた。ゆっくりだけど、一つ一つ増えていく新しい顔。
今こうやって無防備な顔で眠っているのも俺だけの前。それがとても嬉しくて、愛おしい。
全部、なんて贅沢な事は言わないからもっと色んな顔を見てみたいと思う。
柔らかな髪を少しだけ掻き上げて、そっと瞼に唇を落とした。
おわり