マフラーや服をすべて脱ぎそのことごとくを綺麗なブティックたたみにする。
そののち姿見の前で一通りジョジョ立ちポージングをしていたら、くしゃみがでた。まだ寒いな。マフラーを巻いた。
全裸マフラーという扇情的スタイルで俺の舞台は始まった。
独りエッチは喜劇である。大団円を目指して努力を惜しむことは許されない。
良き舞台装置は演技の善し悪し以前の問題であり、万全で確実でなくてはならない。
(ティッシュスタンバイ、おかずスタンバイ、ローションスタンバイ。)
心の中で声だし指差し確認してゆく。
ちなみに“おかず”はミクの染みパンだ。
普通、女性の下着はオリモノや生理や身体の構造上の問題で尿などが付きやすく染みになりやすい。
だが我が家の女性陣は相当気を使っているらしく汚れた下着など見たことがなかった。
この染みパンもミクがライブから帰ってきた日、彼女が洗濯機を動かし忘れるほど疲れていたからこそ入手できたものだ。
(…装弾完了)
舞台も役者もととのった。
天突く我が尖端にティッシュの天蓋を被せ聖なる手を差し伸べる。
ライブの汗と染みの付いたミクのパンツを不浄の手でつまみあげる。
甘いような酸っぱいような、とにかく官能的な匂いがした。女性の香りだ。
(この布がライブの間じゅうミクの内腿の湿りを吸っていたのか…)
そう思うと、いますぐ口に含んで味わってしまいたい衝動に駆られた。
(だめだ!)
衝動を抑え込む。超貴重品のお宝を一時の気の迷いで台無しにする訳にいかない。
恐る恐る鼻先にあてがい、匂いを楽しむ。
(ああっ!)
感動的だった。足は痙攣し、心臓は心音が聞こえるほど拍動し、顔がニヤけた。匂いだけで絶頂に至るかと思ったほどだ。
ライブ会場の控え室でミクを押し倒す妄想をしてみる。
──あっ、ダメだよカイト…私いま汗くさいよ…
(我慢しなくてもいいよ。ホラ、ミクのここ、濡れてる)
──違うよ!それは、だから、あの、汗が染みてるんだよう…
(ミク、かわいいよ)
喜劇はソツなく進行してゆく。
聖なる手が性なる一物を擦ると、スグに絶頂が訪れた。
(ああっ、イクっ)
その時だった。
コンコン
「カイト〜入るよー」
(な、なにぃぃぃ!)
俺は喜劇と悲劇の境目に突如立たされた。
(誰か入って来る!!)
俺の脳は生を受けてからの時の中で最もクロックアップして思考した。
最悪見られても気まずいだけで済むのはメイコとレン。いつも合体してるメイコと♂のレンなら理解してくれるだろうとの考えだ。
だが今の声は間違いなくリン。
やばいやばいやばいどうしようどうしよう。
ドアノブがガチャガチャと音を立てる。鍵を締め忘れていた。舞台装置は重要である。
(そうだ!とりあえず射精を止めてベッドに潜り込もう!)
力強く根元を締め上げる、が。
(む、無理だぁぁぁぁあ!あああああああ!!!)
ガチャ
ドピュドクドクドク…
リンがドアを開けて中を見たと同時、俺はベッドの上にザーメンをぶちまけた。
「な、何やってるの」
リンは怪訝な顔をしている。
(終わった…)
賢者タイムに突入した俺はすべてを受け入れる覚悟をした。が、まだ喜劇と悲劇の境は曖昧に揺らめいていたようだ。
「私それ知ってる!身体にヒルが寄生してるんでしょ!?ハンターハンターで読んだもの!」
(…はい?ヒル?)
「白いオシッコが出たらヒルの卵が排出された証拠なんだって。良かったねカイト」
…そういえば蜘蛛の旅団のくだりにそんなシーンがあった気が…。
リンは本当に安心した顔をしている。
まだ喜劇の可能性が残っていることに気付いた俺は、その可能性に望みをかけた。
「そ、そうなんだよ!ヒル、蛭にやられちゃってさぁ!もう死ぬかと思ったよ!はははは」
「でもカイト、まだ白いオシッコ垂れてるよ…ちゃんと全部出さなきゃ危ないよ」
「え、や、ちょっとリンちゃん…はうあ!」
リンは俺の萎え始めたナニを牛乳搾りの手つきでしごき、左手に持ったティッシュで鈴口から溢れる白濁液を拭った。
想像してみてほしい。
とびっきりカワイイ女の子が心配そうに上目遣いでこちらを見ている。まつげのカールが綺麗だ。
そしてその女の子は、あなたの愚息から白濁液を搾り取っている。
そうです、ここでの勃起は仕方のないことなんです。
もしそれでも立たない人はEDの治療を勧めるがそのまえに俺の愚息に改正児ポ法を切々と説いて鎮めてくれ。
「うわ!ご、ごめん!私が触ったせいかな?腫れちゃった」
リンはますます心配そうな顔をする。
そそり立ったモノに合わせてしごく手の持ち方を変えた。
興奮覚め遣らぬ俺の一物は既に第二射に備えた先走りの分泌を始めていて、リンがいつまでしごこうともその流出は止どまらなかった。
(ああ、もう、ダメだ)
ここまで来てやめさせられるはずがない。俺はリンにイカせてもらうように仕向けることにした。
「リン、俺もう死ぬかもしんない」
「ちょ、ちょっとぉ!頑張ってよぉ!!」
もはやリンは半泣きである。
「もっと速く、こう、擦るみたいにして。そうしたら全部のヒル、出る…と思う」
「こう?これでいい?ねぇカイト、私頑張るから死なないでよお!」
ぎこちなさが気持ち良い。
桜貝の爪が、潤んだ瞳が、心配そうな困り眉が。
全部が俺を興奮させた。
ビュルビュル!どぽぉ
「ひゃうっ」肩を竦めて後ずさるリン。
本日の2発目は彼女の顔面に受け止められた。
「…あ、ありがと、リン。これで、多、分…死ななくてすみ、そ」
射精の快感で頭の芯がクラクラしている。
「良かった…私、カイトが死んだらどうしようかと思っちゃった…ほんとに良かった…」
ザーメン塗れでしゃくりあげて泣いて居るリンを見たら、ものすごく罪悪感が沸いてきた。せっかく助かった設定なのに今すぐ死にたい気分だ。
「ホラ、もう俺、元気だからさ。顔洗っておい…で」
舞台装置は重要である。
半開きのドアの向こうでミクが携帯を握り締め盛んになにか話している。
「はやく警官を寄越して!変態が!変態がいるのっ!児童虐待よ!!」
あわてた俺はパンツだけ穿いて止めに走った。
「待ってくれミク!これには深い訳が」
ミクの顔が真っ青になる。
違和感に気付いて俺も真っ青になる。
俺はミクの染み付きパンツを穿いていた。