給料3日前、時給700円のわずかな給料は底をつき、残りは僅か300円。  
その小銭を握りしめ、コンビニへやってきたアタシは、本日の夕飯を何にするか考えていた。  
計算すると一日あたり100円。う〜ん……パン一個買えるか微妙な金額だ。  
そんな時、ふと目に入ったおでんコーナー。カウンターの定員を捕まえ問いかける。  
「ねぇねぇ、これって汁は入れ放題だよね?」  
「はい、そうですけど?」  
 
ソレを聞いて私は一番安い大根(70円)を一番大きな容器に一つ、  
……そして、なみなみ御汁を入れレジへ運んだ。  
大根は夕飯で、御汁は明日の朝と昼ご飯だ!  
70円で3回分の食事を手に入れたアタシは、自分のアイディアに大満足して気分よく出口へ向かう。  
……しかしその時、悲劇は起きた。  
 
――――バシャッッ!!!  
 
まさに出ようとしたその瞬間、突然扉が開き手元を直撃。アタシはおでんの容器をひっくり返してしまったのだ。  
「いててッ!! ……あっちぃなぁ、もう…………うわぁっ!! 私の夕飯が!! あ、朝ごはんも……昼ごはんまで!!」  
衝撃で尻もちをついたアタシの目の前に広がる惨劇。  
たっぷりの御汁は床にぶちまけられ、服にまでシミを作り、  
メインディッシュの大根はと言うと、私のお尻の下で無残な最期を遂げていた……  
コレは……慰謝料を請求してやる!! 夕飯代にクリーニング代! それから、それから…………とにかく!!  
 
「おい! どうしてくれるんだよ!! これはアタシの大切……な…………夕……」  
怒鳴りつけた先にいたのは、アタシと同じ髪色のまだ小さな少年。  
驚いたのか目をウルウルしながら必死に謝ってくる。  
「ご……ごめんなさい……ごめんなさい! ちゃんと全部弁償します、だから……ごめんなさい!」  
な、なんだ?! この胸のトキメキみたいなのは……?   
 
「い、良いよ別に。どうせ大根しか入って無かったし」  
気がつくとさっきの考えは何所へやら、アタシはこの少年に気を使っていた。  
「でも……」  
「それに、全然お腹も空いてな――――」  
 
――――ぐぎゅるるるるぅ〜……  
 
うぅ……最悪のタイミングでお腹がなっちゃったぞ…………  
「あの、……もし良かったらお詫びに家で一緒に夕飯食べませんか? それくらいさせてください、お願いします」  
いくらアタシが善良で誠実そうだからって、このご時世、知らない人をいきなり家に連れて行くなんて危険じゃないか?  
ここはひとつアタシがビシッと言ってやらないと!!  
 
 
――――で、少年宅。……はい、来てしまいました。 だってこの子可愛いんだもん……。  
来る途中に少年の名前がレンって事もチェック済み、  
「今日は皆仕事でいないんです。適当に座っててください」  
そう言って一人台所へ向かったレン君は、手際よく調理を始めた。  
う〜ん、人の家って落ち着かない。……ってか、良く考えたら知らない人の家に着いてきちゃったアタシもまずいんじゃぁ……  
「おーい、レン君。アタシも何か手伝うよ」  
「そうですか? それじゃあ……これを適当な大きさに切ってください。」  
気を紛らわせる為に手伝いをかってでると、レン君は私にじゃがいもを渡しそう言った。  
正直料理ってあんまりした事無いけど、コレくらいなら私にも――――  
 
「……って! イタッ!! さっそく指切った! 何これ?! 何でこんなアタシって不器用なの?!」  
「あっ、ちょっと見せてください! ――――あむっ……ちゅぱっ。」  
「あぁん……ちょっ、んッ……なに?」  
「んー……ちゅっ……こうすれば血が止まるってお姉ちゃんが言ってたんです」  
いきなり指を咥えて舐めはじめたレン君に、アタシは思わずたじろいでしまう……その時、  
 
――――トクンッ……と恋に落ちる音がした。  
 
「や……ちょっと、レン君……んっ、……そんなに吸っちゃ、ダメ……ッ」  
「んー……ん? ちゅぷっ……大丈夫ですか?」  
うぅ、上目づかいで指を咥えるレン君に、不覚にもときめいてしまった……  
お願いだからそんな目で私を見ないで。その視線で溶けちゃいそうだよ。  
 
「それじゃあボクはご飯作っちゃうんで、お姉ちゃんはゆっくりしててください」  
「うん……ごめんね邪魔しちゃって」  
レン君を台所へ残し、アタシは一人居間へ戻って指の傷口を眺めていた。  
さっきまでレン君が咥えていた指にはまだ唾液が付いてて、風が当たる度にスースーする。  
 
「あっ、こ……これ舐めたりしたら、か……かか、間接キスとかになっちゃうのかな?」  
なんだかそう考えると興奮してきちゃった……チラッとレン君の方をチェック、  
料理に夢中のレン君はこちらを見ていない。やるなら今しかないよね……  
「あ……あ〜! なんだかまた血が滲んできたみたい。よーし、仕方ない、指を咥えて血を止めるかぁ……」  
よし、演技は完璧。これで思う存分指を舐め――――  
 
――――プツンッ……  
 
突然テレビも電気もすべて消え、真っ暗になる室内。  
もしかしてコレって停電ってやつ?  
とにかく、指が乾いちゃう前に……いただきま――――……ん?  
何か横で服を引っ張られる様な感覚に気づき振り向いて見ると、  
そこにはアタシの服の裾を掴んで離さないレン君の姿が。  
 
「えーっと……どうしたの?」  
「う、ううん、何でも無いよ。大丈夫……大丈夫だから」  
うーん……声も体も震わせて、どう考えても大丈夫そうじゃないけど……  
もしかしてレン君って……  
「停電で真っ暗になったから怖いの?」  
「そ、そんなんじゃないよ! ただ、ちょっと……暗いから…………」  
 
うん、怖いんだね。  
ハアァ……でも、意地張りながら脅えたレン君ってのも可愛いなぁ。  
よし、ここはお姉さんアピールをして高感度アップを狙おう!……って事で、  
「大丈夫だよ、レン君。お姉ちゃんが付いてるからね♪」  
「お姉ちゃん…………ありがと。……ホントはね、ちょっとだけ怖かったんだ……」  
 
恥ずかしそうに本音を言うレン君。知ってた、知ってたけど! ……か、可愛い。  
どうしてレン君は、こうもアタシの心を擽る様な事するのかな……もう、ホントに!  
……と、その時。  
 
――――カチャッ  
 
台所の方で何やら物音が……おそらく重ねていた食器が崩れて音を立てたんだろう。  
なんにせよ、そんな大した音じゃない。……でもレン君は、  
「お姉ちゃん……今、台所で何か音が…………怖いよ……」  
と言って、私の体に抱きついてきたのだった。  
 
これは……神様。夕飯の前にレン君と言う前菜いただいても良いのでしょうか?  
 
 
 

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