確かにはっきりと言葉にだして好きと言えなかったのは自分の責任だ。
思わせぶりな態度を取ってきたくせに、その言葉だけは言えずにずるずる
とどの関係にも当てはまらない変な状況がずっと続いている。
今だってリンが俺のベッドで丸まって寝ている。俺は多分このあとリン
に覆いかぶさってキスして、起きる前に体をまさぐって、それでリンが起
きたら「おはよう」なんていいながら最後まで行為をするんだろう。簡単
にそんな薄汚い未来図が描ける自分の想像力を今は呪う。
リンは俺を好きで、俺はリンが―――。
ゆっくりと鞄を、音を立てないよう床に下ろす。無防備に寝ているリン
の肩は規則正しく上下して、熟睡している事が見て取れた。
最初の、原因はリンだ。だから俺には関係ない。なんて甘ったれた考え。
言い訳する自分がすぐ傍に居た。
―――頭なでてもらうのがすきなの。
子供っぽい姉はそういって俺に頭をなでてくれと要求してくる。最初は
可愛い姉のためだった。頭をなでてあげる位自分にはなんの労力も要しな
い動作、それぐらいならいつでもその役を買って出た。
次に求められたのは抱きしめると言う行為だった。確か、あれは仕事で
リンが失敗して泣きじゃくって、慰めるために頭を撫でていたんだけどそ
れじゃあ足りないとリンがぼやき、抱きしめる事を求めたから俺もそれに
従った。自分であって自分じゃない相方の体は風船みたいに柔らかくて強
く抱きしめてしまえば割れてしまうんじゃないかと恐れていた事を覚えてる。
それから、何度かそんなことがあって。風呂上りにいつものように抱き
しめる事を求めてくるリンを俺は当たり前にように抱きしめてた。髪が、
柔らかかった。同じボディーソープを使っているのに、全然違う、凄くい
い匂いがするリンの髪の匂いをかいだら、自然とそうしたくなってしまって。
俺は、リンに、キスをした。
そうしたら怒られるか怒鳴られるか泣かれるか突き飛ばされるか。とり
あえずそういった拒否をされるもんだと思っていたら、驚いた事にリンは
笑って俺の口付けを受け止めてた。むしろ、喜んでいるんじゃないかって
都合のいい解釈が出来てしまうくらいの反応で、俺は夢中になってリンに
キスしてた。何度も何度も。
もうそこから先はなし崩し。覚えてるのはリンの柔らかい体と甘い匂い、
それからココロをくすぐる喘ぎ声と、散った純潔の証。
何度抱いたか分からない。リンがこうやって俺の部屋にやってきて、俺
の帰りを待っているときは体に触れてほしい。ぬくもりが欲しいというサ
インだと言う事を、俺は知っている。
けれど御互いに決定的な言葉は口にしない。なし崩し的な形で始まった
どの型にも当てはまらない脆くて危うい関係は、今のところリンのおかげ
で何とか保っている、風前の灯のような状態で、いつ俺達の関係が破壊さ
れるのか、俺には全然わからない。
最初は体が欲しかった――――。
圧し掛かったシングルベッドは俺の重さなんてものともせずに柔軟なス
プリングが全てを受け止めてくれる。カーテンが閉められずに窓から入る
月明りの明るさが、今日は満月なのだと教えてくれた。
まるで死人のように白く、深い眠りに落ちているリンの顔を覗き込む。
今は閉じられたエメラルドの瞳が潤み、自分を上目に見るその目線を思い
出すと局部に熱が集中した。
眠り姫を起す王子様の気分でキスをする。実態はただの狼男なのだと童
話の眠り姫はその一生の中で気がつく事がきたのだろうか。今俺の目の前
にいるお姫様は気がついていないのだろう。純粋すぎるのは時として愚か
でもっとも恐ろしい。
半ば強引に薄く開いた唇を抉じ開けて舌先を差し入れれば、くぐもった
吐息が零れてでる。これで起きるのかと思えば安眠を貪る少女はまだ眠り
に落ちたままだった。
あぁ、早く起きてくださいお姫様。そして王子様を連れてきて私を殺してください。
あぁ、早く起きてくださいお姫様。でないと私はあなたの全てを食べつくしてしまう。
ゆっくりと胸に彩るリボンを解き、捲り上げた裾から覗き見える女性と
しての膨らみを手に包み込む。顔を近づける。誓いのキスをする。確かに
生きているのだと証拠になる胸の鼓動を聞きながら、ゆっくりと絹のよう
な肌を舐め上げた。我ながら器用だと思えるぐらい、慣れた手つきでベル
トを外し、ハーフパンツのチャックを下ろす。ゆるゆるとそれを下に下げ、
露になるあられもない痴態にレンの心はどこまでも高鳴った。
確かに瞼を閉じているはずなのに、汗ばみ始めている体に嗜虐心に似た
ようなものがこみ上げ、口がゆっくりと弧を描く。足を開かせ、中心部の
下着を剥ぎ取れば、しとどに濡れそぼったそこにたどり着き、同時にふる
ふると震えていた睫がうっすらと開かれる前兆を感じた。
あぁ、残念お姫様。あなたの王子様は今日も来ない。
「おはよう、リン」
消えかかる灯火に、ひゅう、と風が吹いた。