悪逆非道の限りをつくしたその国は、  
赤の国・青の国・緑の国からなる三国の攻撃により、わずか2日の戦いでその姿を消した。  
かつて王女が暮らした城の前には、その王女の斬首刑を待つ国民であふれかえっている。  
やがて、目隠しをされ後ろ手に縛られた王女が両脇を抱えられるように連れて来られると、国民達はざわめき出す。  
 
「おい、見えるか?」  
「いや、断頭台のある位置が高すぎて良く見えねぇ……けどあの黄色い髪、間違いないだろう」  
一部の国民からこう言う声があがるのも仕方無い。  
断頭台の置かれているのは城の最も高い位置、つまり皆ハッキリとは見えないのだ。  
 
手を縛られた王女は、あまりの恐怖に足がすくんだのか一歩も動かず、  
兵士に両脇を抱えられたまま断頭台へ……  
柱の間に寝かされ王女の首が挟まれると、  
「これより、斬首刑を行う」  
その言葉を聞いて国民達を息をのみ、その時を待った。  
そして……  
 
――――ストンッ……  
 
鋭い歯はまっすぐに落とされ、あまりにもあっけない王女の最後に国民達は一瞬キョトンとしてしまう。  
しかし束の間、兵士がその首を持ち上げると、  
一人の男が大声を上げ、それと同時に周りの者も歓喜の声を上げ始めた。  
 
「悪逆非道の王女は死んだ!」  
「オレ達は自由だ!!」  
 
皆手を取り喜び合い、ある者は泣いて喜び、またある者は踊り出す。  
城の前はお祭り騒ぎ。  
だから気付かない。王女の切られた首から一滴の血も流れていない事に……  
 
 
「う……ん…………ここは……?」  
「おっ、ようやくお目覚めかい? 色男」  
それはかつて姫が使っていたベッド。そこに眠るは黄色い髪の少年。  
すぐさま体を起こし身構える少年に、赤い女はこう言った。  
「そんなに構えなくても取って食いやしないよ。それにその体じゃ戦えないでしょ?」  
確かに……少年の体は包帯で巻かれ、体中には激痛が走る。  
「こうでもしないとさ、他の連中に殺されかねなかったからね」  
 
城に踏み込んだ際、二人の入れ替わりに気づいていた赤い女は、誰よりも早く切りかかり少年の意識を断ち切った。  
もし、他の者が切りかかったなら、その場で殺してしまうかもしれないからだ。  
「今頃はあんたの処刑の最中だよ。……って言っても人形なんだけどね」  
「何故……僕を助ける様な事を……?」  
「何故って言われてもねぇ……この国は滅んだ。私の復讐はそれだけで十分だったから。  
 ……まぁ、一人なっとくのいかない奴もいるみたいだけど……」  
 
赤い女の視線の先には青い男……すると青い男は少年の胸ぐらを掴み、  
「王女を……っ! ミクを殺した王女を何処へ逃がした!!」  
と大声をあげて激怒した。  
「ちょっと、落ち着きなさい。彼は自分が死ぬ覚悟をして王女を逃がしたのよ?  
 そんな事したって何も言わないわ」  
恋人でもある緑の姫を殺され、怒りに震える青い男をなだめると、  
少年はハッとした表情で辺りを見渡す。  
 
「今日は……僕が意識を失ってどれくらい経ちましたか!?」  
「うーん、丁度丸一日眠ってたわね」  
「いけない、早く行かないと……」  
何かを思い出したように体を起こす少年、それを赤い女が静止し訳を聞く。  
「何? どうしたってのよ?」  
「井戸に……緑の国のお姫様がいるんです。早く行かないと、昨日の夜から食事を――――」  
 
それを聞いた青い男は再び少年に掴みかかり、  
「それは本当か!? 何所だ、何所にいる!!!」  
と、声を荒げた。  
 
少年に場所を聞いた青い男は、馬にまたがり急いでその井戸へ向かう。  
たどり着くと確かに井戸の中には、緑の姫が体を小さくして座り込んでいた。  
「ミク……ミク! 大丈夫か!?」  
その声に反応して外を見上げる緑の女。  
「カイトッ!」  
少し痩せた気はするが元気に返事をしたのを見て、  
青い男は急いでロープを上から垂らす。  
 
「ミク、それに掴まれ!」  
「うん」  
青い男に救出され約一週間ぶりに再会した二人は、その場で強く抱き合った。  
「よく無事でいてくれた……本当に…………よかった……」  
「泣かないでカイト、私は無事だったんだから」  
肩を震わせ涙を流す青い男にそう言うと、  
青い男はようやく安堵の笑顔を見せ、二人は城へと戻った。  
 
城への帰り道、青い男はいろいろな事を聞いた。  
緑の姫を井戸へ落したのが黄色い髪の少年である事、  
しかし毎日井戸へ食事を運んだのもまた少年である事、  
そして、少年が緑の姫を井戸へ落とすとき、泣きながら謝っていた事を……  
 
城へ到着すると青い男は少年へ歩み寄り、右頬へ拳を一撃。  
「本当はミクと同じだけ井戸に閉じ込めてやりたいが……食事を運ぶのが面倒だ。……だから俺はこれで許してやる」  
それを見た赤い女と緑の姫は、顔を見合せて笑いあい、  
「私は平気です。あなたも王女様に命令され、仕方なくやったのでしょ? そんなあなたを責める事など出来ません」  
「私や国民は国を滅ぼす事で復讐を果たし、青い男も姫を取り返した。  
 そして緑の姫はあんたを許すと言ってる。 だからもうあんたは自由だ」  
 
その言葉を聞いた少年は、すぐに傷ついた体を起こし旅の支度を始める。  
「あんた、どこへ行くんだい?」  
「僕は王女を探します。一人じゃ何もできない……きっと何処かで泣いている。早く行かなきゃ……」  
「何所か目星は付いてるのか?」  
「…………失礼します」  
ペコッと頭を下げ、少年はそのまま城を後にした。  
 
城から殆ど出た事の無い王女の行き先など全く分からない。  
少年は途方に暮れながらも波打ち際を歩いていた。  
そこに打ち上げられた一つの小瓶。  
少年はそれに吸い寄せられるように歩み寄り、蓋を開けて中身を取り出す。  
 
「これは……っ!」  
 
中にあった羊皮紙に書かれた文字が、王女の筆跡である事に少年は一目で気づいた。  
内要は少年に対する感謝の言葉、謝罪の言葉、無事を祈る言葉で埋め尽くされている。  
 
昔からこの海にある密かな言い伝え、  
『願いを書いた羊皮紙を小瓶に入れて、海に流せばいつか祈りは実るでしょう』  
 
そして、少年の頭を過る王女の言葉。  
『ほら! あの海岸、あそこから流せばきっと遠くまで流れていくに違いないわ!』  
 
その時王女の指差していた方を見つめる。  
そこに王女がいるとは限らない。でも、そこから流した可能性は極めて高い。  
歩けば相当時間がかかる。それでも少年はその方角に向って歩みを進めた。  
 
「お〜い、色男〜! やっと見つけた!」  
波打ち際から離れた道を、馬に乗って表れたのは赤い女、青い男、緑の姫の3人。  
「あたし達も王女様探しに付き合ってやるよ!」  
赤い女のその言葉に、少年は驚いた表情を見せる。  
「どうして……僕の探す王女はあなたたちを苦しめ悪逆非道と言われた王女なんですよ?」  
「その国は滅んだ、もう王女じゃなくてただの少女だろ? それにコイツも手伝いたいってさ!」  
 
赤い女の指差す先には青い男。表情はブスッとしている。  
「俺はミクに頼まれたから仕方なく手伝ってやるだけだ!」  
「傷つき困っている人を見過ごすわけにはいきませんから♪」  
「あははっ、だってさ! それに馬の方が絶対早いって!」  
 
確かに赤い女の言うとおり、馬で行った方がはるかに早く王女を探す事が出来る。  
少年は恥をしのんで3人に頭を下げた。  
「一緒に王女を探す手伝いをして貰えますか……?」  
「だから、手伝うために来たって言ってるだろ? 私はメイコ。で、こっちがカイトでそっちがミクね。あんたの名前は?」  
「僕の名前はレン。……そして探す王女の名はリン」  
「よっし、それじゃサクッとリンちゃんを探しますか!」  
 
 
こうしてレン、メイコ、カイト、ミクの4人はリンを探す旅に出た。  
 

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