俺たちは本当の姉弟ではない。
世間ではボカロ家族などと言われて初めは戸惑いこそあったもの、みんなと一緒に過ごす中で生まれた絆だったり、居心地の良い空間だったり、それがいつしか本当の家族のようだと思えるようになっていた。
だからこそ、この感情に気付いてはいけなかったと思う。
「めーちゃんが好きだ」
その言葉はまるで、柔らかに突き刺さる棘のようだ。
刺さったことすら気付かなかったのに、自覚すると疼く、なかなか抜けることのない。
いつから目の前にいる人を、姉ではなく女性としてみるようになったのか。
もしかすると初めからだったのかもしれない。
だけどそれに気付かず、むしろ気付かない振りをして、完璧な弟であったはずだ。
それなのに、気付いてしまった。
その隣に並びたい。支えたい。
姉弟という、触れれば届く距離。
だけど、触れたくても触れられない距離。
それ以上を望むという事は、”姉弟”が壊れて”家族”が壊れるということ。
あの、甘やかで愛おしい空間が失われていくだろう。
自己保身と言われても仕方がないくらい。
今が壊れてしまう。それがとても怖い。
「…それでも、好き、なんだ」
呟いた言葉を伝えたとしても、きっと彼女はこう答える。
「私も好きよ」
大好きな”弟”だと笑顔で言う。