ボーカロイドもうたた寝をするらしい。  
スリープモードをトロトロと彷徨い再びセンサー類が働き始めた時  
カーテンから差し込む光は随分太くなっていた。  
身じろぎをすると鳩尾の辺りにふにふにと柔らかく張りのある感触が返る。あたたかい。  
肌に馴染む温度が心地よい。  
思わず擦り寄って三度寝に突入しかけたところでハッと気がつき一気に目が覚めた。  
腕の中でメイコがすぴょすぴょと眠っている。  
その身体のそこここに残る、紛れもなく自分が刻んだ情事の痕。  
 
喉が干上がりカーッと頭に熱が集まる。  
口元を手のひらで押さえつけても、顔が緩んでしまうのを止められない。  
信じられない。僕がメイコを抱いたなんて。  
そもそもボーカロイドの体で女性とそういう関係になるなどありえないと思っていた。  
ましてやマスターと歌うことしか頭になく、僕のことなど歯牙にもかけていなかったメイコと。  
ここに至るまでの紆余曲折をしみじみ思う。  
もっとも作り物の身体同士、行為は人間のそれと全く同じ、というわけではないのだろうけど。  
触れ合って、僕らを動かす動力の音を体全体で確かめ合った。  
生体部品を守る潤みを舌に含み、その味を覚え、交換し合った。  
繋がった場所から膨らむ熱に脳髄を焼かれ、そしてあの、思い通りに音を支配し  
複雑なパートを高らかに歌い上げた時と似ている昂揚と絶頂感…  
 
「いっ?!」  
昨夜の記憶を反芻し、桃色に迷走する思考をギリギリと引き攣れる痛みが現実に戻した。  
「痛い、い、痛いって、ちょ、え、め、めーちゃん?!痛い、痛い」  
いつの間に目が覚めていたのか、メイコのすんなりと伸びた腕が僕の首に回され  
そのしなやかな指が僕の髪を絡めて……力任せに引っ張っていた。  
「ギブ!ギブ!痛いですメイコ様やめて下さい、ハゲるハゲる!ホントハゲる!!」  
涙目で懇願すると、至近距離でメイコと目が合った。縁がピンクに染まって頬が赤い。  
「…だって、…よ」  
「え?」  
何かを呟くと慌てて目を逸らし、顔を伏せてしまう。  
「…」  
「うん?」  
「…ゆうべ」  
「何?どうしたの?」  
何かを言いたいようなので、引き攣れる頭皮の痛みに必死に耐えて、辛抱強くメイコの言葉を待つ。  
穏やかに促す声に何を思ったか、俯いていたメイコがキッと顔を上げた。  
猫の目のような、少しきつめの眦をさらに吊り上げて一声、  
「あたしだって、痛かったのよ!このバカイトっ」  
「え、えええっ?!」  
そこはかとなく漂っていた甘いムードがきれいさっぱり吹っ飛んだ。  
ガーンという擬音が落ちてくる。  
「…うそ」  
「うそじゃないっ! 大体何よ! カイトのくせにやたら強引だし  
あたしが待ってって言っても聞きゃしないし、全然いつものアンタじゃなくって別人みたいで…」  
 
「気持ちよくなかった?」  
「ばっ、な、何てこと言うのバカッ!  
そ、そりゃ、その、ちょっとは……じゃなくて!ホント痛かったのよ、壊れるかと思ったわよ」  
もう調子狂うったら!と、自分の髪をかき混ぜヤケクソ気味に言うメイコを見ながら、僕は反省した。  
確かに最初に貫いた時、道など無いような固く狭く閉ざされた場所を  
無理やり押し広げて進む感覚はあったけれど(あれは気持ちよかった)  
収めてしまえば、そこは計ったかのようにぴったりで、僕らの設計者は絶対変態だなあとは考えても  
メイコの身体にそんなに負担をかけていたとは思わなかった。  
いや、正直に言うとテンパっていてそこまで気遣う余裕なんて無かったのだ。  
 
「大丈夫?どこか痛めた?」  
「やっ!どこ触って、っ、あっ…あん!」  
昨夜散々貪ったそこに指を走らせると、途端に尖っていたメイコの声が丸く潤んだ。  
指の腹で複雑な襞の一枚一枚を丹念に確かめるようになぞれば  
力強く伸びやかな普段の声とはまた違った、可愛い悲鳴が歌になる。  
これは、楽しい。  
特に傷も見当たらず、またメイコが僕を少なくとも嫌いになったわけでは無いと分かって安心したところで、  
ほんのちょっと、嗜虐心(こんなものが自分にあったなんて!)が頭をもたげた。  
 
逃げようとする身体を押さえつけ、マスター気取りで楽曲を奏でるように指を動かす。  
刺激を逃がそうとくねる白い腹部が目に眩しい。罠にかかってもがく小動物のようだと思う。  
舌先を尖らせて濡れた軌跡を引きながら乳房を上り、先端を絡めとったら、  
抱えた腰が跳ねて背筋がピンと綺麗な弧を描いた。  
持ち重りのする楽器を手にする慎重さで、下から上まで撫で上げてやる。  
そうこうする内すっかり溢れたとろみを指にたっぷり絡め、つぷりと熱く溶けた箇所に指を沈めてみれば  
見事なソプラノが耳朶を打った。あたたかくぬめやかなそこが、楽器を扱うことに特化した  
長い指にぴったりと吸い付き、きゅうと噛む。とても可愛い。  
反応に気をよくして、浅く深く中を探りしばらくメイコを鳴かせることに没頭する。  
かと思えば指を抜き、わざとゆっくり、狭い入り口を円を描くようになぞり煽ってもみる。  
ここに、……入るのだ。  
「あっ、あ、んっ、や、やめ、っん、ふ、え、えっ、く」  
耳に心地よい悲鳴が次第にすすり泣くような声に変わった頃、  
ぬめりに隠れてぷっくりと立ち上がった小さな突起を見つけた。中を犯す指はそのままに  
手のひらで押しつぶすようにこね回してみる。  
効果は劇的で、メイコはひときわ高い声で鳴いたかと思うと  
糸が切れた人形のようにぐったりと、ささやかな重みを僕に預けて甘く崩れた。  
「めーこ?」  
「……バカ」  
激しい呼吸が収まるのを待って、唇に触れようと顔を寄せたら、ついと逸らされた。  
そのまま首に腕を絡めてしがみついてくる。  
やばい、今度こそ髪を引っこ抜かれると青くなった僕の耳に  
ボーカロイドの可聴域ギリギリの小さな声でメイコが囁いた。  
 
別人みたいなカイト、嫌いじゃないわ  
痛くしてもいいから、掴まえて、はなさないでいて  
あたしが違う方へ飛んでいってしまわないように  
 
 

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