今日は七夕という事で近くの笹林から一本拝借して家に持って帰ったところ、初めての七夕という事もあり妹弟たちは大喜びした。  
「さ〜さ〜の〜は〜さ〜らさら〜」  
上機嫌の妹弟と一緒にお馴染みの七夕の歌を口ずさみながら、色とりどりの飾りと一緒に願い事を書いた短冊を笹にかけた。  
「好きなだけアイスが食べたいって…あんたらしいというか」  
いつの間にか現れたメイコは、呆れたと言わんばかりに俺の書いた短冊をつまむように手に取り指で弾いた。  
「もっと歌が上手くなりたいとか他にも…」  
と言いかけて、メイコは口を噤む。  
そりゃあそうだ。  
俺の隣にかけてあったミクの願い事が『全世界、葱で幸せになりますように』ときたもんだ。  
ミクは少し天然で可愛い妹だけど、葱の事になると殊更熱い。こればかりはよく理解できない。  
「…ま、願い事なんだから何でも良いわよね」  
メイコはそう言って、近くにあった短冊にさらさらと願い事を二枚書いたかと思うと、一枚は小さく折りたたみ、残る一枚だけ笹に吊るした。  
「美味しいお酒が飲みたいって…人の事言えないよ」  
少し苦笑しながら返すが、俺はもう一枚吊るされない短冊が気になった。  
「これでみんなの願い事が揃ったよね」  
「じゃあ外に飾りに行こうぜ」  
「さんせーい!」  
三人の妹弟たちが、ワイワイと騒ぎながら笹を担いで部屋から出て行く。  
その様子を見つつ、俺の視線がもう一枚の短冊に集中しているのに気付いたメイコは言った。  
「これ?これは自分で持ってるのよ。…本当の願い事は誰かに言うと叶わないっていうじゃない?」  
茶目っ気たっぷりに言ってみせたメイコだが、俺と目を合わせてくれない。  
…非常に気になる。  
つまらない独占欲と言われてもいい。  
メイコの事なら何だって知りたいのに、こうやって目の前で俺に隠し事をされると非常に気になる。暴きたくなる。  
「めーちゃん、何て書いたの?」  
「だ、か、ら、内緒だってば!」  
「気になる」  
「い、や!」  
「ちょっとだけ」  
「見せたくない!」  
後ろから甘えるように抱きついてみるが、断固拒否の姿勢を崩さない。  
真っ向から言っても無理なら別方向からと手段を変える。  
「誰かに言わなきゃ叶わない事だってあるじゃない」  
例えば、とメイコに言う。  
意識して声は低く、甘く、囁くように呟く。  
「メイコとずっと一緒にいられますように、とか」  
「!」  
「…ね。叶うかな」  
意地悪っぽく聞いてみたけど俺の本心。  
「あ、んたは、いつだって卑怯なのよ…っ」  
背を向けたままのメイコは、耳まで赤くしてこちらを向いてくれない。  
ふざけすぎたかと思って恐る恐るメイコの顔を覗こうとすると、急にこちらに振り向かれた。  
顔だけは俯けたまま、トン、と俺の胸に拳を突きつける。  
「………手、出しなさいよ」  
消え入りそうな声で呟くメイコに、訳がわからないもの両手を差し出した。  
―――カサッ  
手の平に落とされたのは先程の短冊。  
俺に手渡すと、声を掛ける間もなくメイコはそのまま部屋を出て行った。  
頑なに拒否された割に案外あっさりと手に入り、少し拍子抜けだと思いながら折りたたまれた短冊を開いた瞬間、顔に熱が集中するのを感じた。  
「…そっちのが卑怯じゃないか」  
俺は頭を抱えてその場にうずくまった。  
 
 
―――ずっとカイトと一緒にいられますように。  
 

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