僕はめーちゃんのことが大好きで、マスターのことが大嫌いだ。  
口には出さないけど、多分めーちゃんも僕のことが好きで、マスターのことが嫌いだ。  
 
僕とめーちゃんを大事にしてくれたマスターは、いなくなってしまった。  
突然の事故でマスターを喪った僕らは売りに出されることになった。  
今のマスターに、二人して引き取られることが分かったときには、  
離れ離れにならずにすんだことに、不幸中の幸いだと喜んだものだ。  
「これからもまた一緒に歌えるのね」  
「うん、新しいマスターとうまくやっていけるといいなぁ。  
何かあったら、僕がめーちゃんを守るからね。絶対だよ」  
そう言っていたはずだったのに―――  
 
* * * * * * * * * * * *  
 
新しいマスターの家には、楽器や録音機器はどこにも見あたらなかった。  
固い表情で並んで立っている僕らを、刺すような目で見るマスター。  
僕らを家族のように扱ってくれた、前のマスターとの共通点がひとつも見つからなかった。  
マスターはメイコのことを凝視していたかと思うと、乱暴に上着に手をかける。  
「っ…!?」  
身を強張らせるメイコ。マスターは彼女の胸を鷲掴みにし、  
吟味するかのように体を調べ始める。  
こんな仕打ちをうけたことがないメイコは、恐怖に顔を歪ませながら  
動くことが出来ないでいる。  
「マ、マスター、やめてください」  
人間には絶対服従の僕らだが、いても立ってもいられず、  
メイコを庇い、二人の間に身を滑り込ませる。  
「僕らは歌を歌うためのボーカロイドです。それ以外の用途には適していません」  
そのとき、初めてマスターが僕の目を正面から見つめる。  
底が見えない暗くにごった目は、考えなしに飛び出してしまった僕を萎縮させるには十分だった。  
「あ、あの…マスター…」  
「俺がMEIKOを性欲処理に使うのと、お前が代わりになるのと、どっちがいいんだ」  
 
メイコが、僕の背後で息を呑むのが聞こえた。  
頭を殴られたようなショックだった。  
新しいマスターは僕たちを楽器としてではなく、  
セクサロイドとして買ってきたのだ、ということを理解するのに、しばらくの時間を要した。  
 
僕の上着をぎゅっと掴む彼女の手を、安心させるように、ゆっくり引き離し、  
メイコの上着を脱がせたままのマスターの手に、震えそうになる手を乗せ、引き剥がす。  
「僕がマスターのお相手をします。だから、メイコは許してやってください」  
「カ……カイト…!?」  
目の前の出来事が信じられない、といった調子で声を掠れさせるメイコに  
心配ない、と笑ってみせる。  
僕だって、恐くて仕方が無かった。でも、僕が代わりになることで彼女が傷つかずに済むのなら。  
メイコがひどい目に遭うのを黙ってみているなんて、とてもできっこない。  
僕がメイコを守ると誓ったのだから。  
 
 
マスターの部屋に呼ばれた僕は、精神と体の動きを弛緩させる薬を投与され、  
何度もマスターの欲望を受け止めた。  
解放された後、僕とメイコ用にあてがわれた  
物置のような狭い部屋で、メイコは僕を待っていてくれた。  
泣きじゃくる彼女を抱きしめながら、僕自身も悔しくて、悲しくて、二人で朝まで慰めあった。  
 
 
「好きな人ができたんだ。この歌を持って告白しにいくから、  
うまくいったらお前らにも紹介したいと思ってる」  
そう言って照れながら笑うマスターを、僕らは笑顔で送り出した。それが最期だった。  
優しかった前のマスター。大好きだったマスター。  
いつも僕とメイコに素敵な歌をくれて、僕らが歌うのを嬉しそうに見ていてくれた。  
三人で暮らした日々は短かったけど、毎日が穏やかで、明るくて。  
もう戻ってこない幸せな時間。それでも、メイコがいる限り、  
僕は簡単に壊れるわけにはいかなかった。彼女を守るのは僕の役目だ。  
そう作られたからじゃなく、彼女は僕のたった一人の家族で、一番大事な人だから。  
 
 
マスターは元からなのか、薬のせいなのか、所謂絶倫というやつで、  
満足してもらうまで、ずいぶん長い時間がかかる。  
自分の意思とは無関係に与えられる刺激と、薬のせいで初めてイかされてしまったときは  
メイコと顔を合わせるのが恐くて、何度も何度もトイレで吐いた。絶対に言えっこなかった。  
それも何日か続くと、感覚が麻痺してくる。繰り返される刺激にわずかな快感が混じることにも。  
 
僕が夜遅く部屋に戻ると、いつもメイコは抱きしめて迎えてくれる。  
メイコがいてくれるだけで幸せを感じられる。  
そういうと彼女は、ごめんねごめんねと言って泣いた。私のせいで、こんなひどい目に、と。  
ここに来てからというもの、出会ってからこれまでいつも気丈な笑顔で  
僕を包んでくれる彼女を、また泣かせてしまったことに、ずきりと胸が痛む。  
「僕は大丈夫だから、めーちゃんが無事ならそれだけで嬉しいんだよ」  
微笑んで答えてはみるものの、すすり泣きは止まる気配がなく、自分の無力さに歯噛みする。  
 
昔は、優しいけれど独り身だったマスターに隠れるようにして、夜をともにしたこともあった。  
今はそんなことも忘れてしまったかのように、  
僕らは狭い部屋で、毎晩子どものように抱き合って眠る。  
メイコの涙の筋の残る寝顔を見ていると、  
僕のやっていることには本当に意義があるのかと、疑問がわきあがってくることもあるが  
それでも僕は倒れるわけにはいかない。だってめーちゃんは僕が―――  
 
マスターの使う薬は、だんだん僕を蝕んでいく。僕は以前ほどマスターとの行為が  
嫌ではなくなってきていた。頭では拒否していても、体が堕ちていくのが分かる。  
僕の生活は、マスターから呼び出しを受け、解放されると、僕を待っている  
メイコと抱き合って眠る、二つのサイクルを繰り返すだけになっていた。  
僕は自分の精神を正常に保つことでいっぱいになり、メイコの状態にまで  
気を回すことが難しくなってきていた。  
だから、ある日マスターが僕とメイコの二人を一緒に呼び出したときに  
何も考えていなかった。  
 
「MEIKO、お前の番だ」  
簡潔なマスターの言葉は、僕の頭の中を3回ほど回って、その意味を脳に伝える。  
「マスター…?約束が…違うじゃないですか…?メイコの代わりに僕が」  
「俺はイエスともノーとも言ってない。お前が勝手に思い込んでるだけだろう」  
「そっ…そんな!」  
 
僕はメイコの前に立ちはだかり、マスターを睨み付ける。  
僕が今まで何のために耐えていたのか、堪えきれない怒りで口を開こうとしたとき、  
「いいのよ、カイト」  
メイコが僕の袖を引き、マスターの前に出る。  
 
「!…めーちゃん!何言って…っ!」  
「あんた一人がぼろぼろになっていくのを見るのは、もうたくさんなのよ」  
僕だけに聞こえるように言ったメイコは、マスターの後について行く。  
その声に混じっていたのは、苛立ちと諦め、僕への罪悪感。  
 
メイコは毎日毎日一人きりの部屋で、  
僕を待つだけの時間に、耐え難い罪の意識を感じていたのだろう。  
元来正義感の強い彼女にとって、許し難い事実だったのだろう。  
それを受け入れることを決めたとき、彼女はやっと僕の庇護から抜け出すことができる。  
同時に彼女の精神と身体は、汚らわしい肉欲に彩られた苦痛に晒され…  
―――そして僕の役目は崩壊する。  
このまま彼女だけを行かせるわけにはいかなかった。  
 
マスターは僕を感情のこもらない目で一瞥し、メイコの服を脱がせる。  
土下座までして、何とか前に挿れないことは約束してもらった。  
ぎこちない手つきで自ら下着を脱ぎ、床に落としたメイコは少し泣いていた。  
僕を見て、あんたが泣かないの、と言いながら、泣きながら微笑んでみせる。  
自分が今まで一人で被ってきた汚い泥を、彼女にも被せてしまうことが情けなくて、  
それでもマスターに抗いきれない自分の弱さが情けなくて、涙が流れてくる。  
マスターはメイコに例の薬を使い、僕にも服を脱ぐよう命令する。  
 
僕が脱ぎ終わる暇もなく、マスターはメイコを跪かせ、奉仕をさせていた。  
「んっ…ぅ…。う…むぅっ…」  
苦しそうにマスターのモノを咥える彼女の白い肌は、僕が大切に守りたかったものなのに。  
「KAITO、MEIKOの体を解してやれ」  
マスターの声に従い、のろのろと二人に近づく。  
すかさずマスターに薬を塗布された。  
じゅぷじゅぷと水音を立て、マスターの股間に顔を埋める彼女に  
ほんの僅かだが、ぞくりとした劣情を抱く。  
違う…そんなはずはない。彼女の恐怖を少しでも和らげてあげるためだ。  
メイコの体に負担をかけないためだ。そう自分に言い訳をして、  
僕は背後から彼女の胸を掬い上げる。大きめのそれは滑らかな弾力で、僕の手に吸い付く。  
先端をいじると、ひゃうっと声をあげた彼女の体が震え、背を仰け反らせる。  
 
メイコの口が、しゃぶっていた一物から離れてしまったことに、  
マスターは軽く舌打ちをし、彼女の髪を掴んで引き寄せる。  
「あぅ…すみませ…」  
最後まで言わせず、マスターは彼女の頭を押さえつけ、喉の奥まで一気に突っ込む。  
今のは僕のせいだ。ごめん、めーちゃん。心の中で呟き、次は背後からがっちりと抱きしめた上で  
彼女の秘部に手を伸ばす。そこは少しだけ濡れていて、  
僕の指を僅かに拒んだ後、ぎちぎちと軋みながら受け入れる。  
上下からぶつけられる痛みと、一握りの快楽に体を引き攣らせる彼女を暴れないように押さえながら  
ゆっくりと指を増やしていく。指先に感じる潤いが増えていくのに比例して、  
白い彼女の肌がだんだんピンク色に染まってくるのが分かる。  
 
大丈夫、薬のせいだから、めーちゃんが悪い訳じゃないから。  
耳元で、彼女だけに聞こえるよう囁きながら、愛液を掬い取り、  
マスターが薬をたっぷりと塗りつけた、もう一つの秘所に触れる。  
固く閉ざされているはずのそこは、僕の指を抵抗なく受け入れ、戸惑ってしまう。  
僕よりメイコの方がこの薬に弱いことに気付き、彼女の体の反応の良さに納得する。  
そうだ。薬のせいなんだから。かえって負担がかからなくて、いいことなはずなんだから。  
自分に言い聞かせることで、現実から目をそらしてしまう。  
 
マスターがメイコの頭をがくがくと揺さぶり、欲望を叩きつける。  
ぼろぼろと涙を零しながら、全部飲み干そうとするメイコが、  
哀れで、愛おしくて、僕は背中を優しく撫でてやる。  
 
マスターは僕らの体を気遣わない。メイコが痛みに泣き叫んだらうるさいし、  
挿れるときに濡れていなかったら、気持ちよくないから、という理由で僕を使ったのだろう。  
げほげほと咳き込み、肩で息をするメイコを、文字通り物を見る目で  
無感動に眺めたマスターは、僕に彼女をベッドに上げるよう、顎で指示する。  
 
僕は抱き上げたメイコをマスターの前に座らせる。  
彼女の体に触れていた手を離そうとすると、彼女の細い指がそれを引き止めた。  
不安げな顔で、僕を見上げ、震える指で僕の腕を離そうとしないメイコから  
耐え切れなくなり、目をそらしてしまう。ごめん。ごめんなさい。  
 
そのメイコの腕を掴み、マスターが自分の方に引き寄せる。  
自分の腕の中に抱き込み、彼女の臀部に指を這わせる。  
そこが指を飲み込めるくらい弛緩していることを確かめたマスターは  
自分の膝の上に座らせるような格好でメイコの腰をじりじり落としていく。  
恐怖に強張る彼女の口が、助けを求めるように何度か開きかける。  
見ていられなくなって俯き、掌を握り締める。  
 
「あ…や…ぁ…っ!いやぁぁっ…!」  
彼女の泣き声が耳に突き刺さる。できることなら代わってあげたかった。  
でももう女性型に味を占めたマスターは僕には見向きもせず、メイコを離しはしないだろう。  
リズミカルに響く水音と、あ、あ、と漏れ出る彼女の喘ぎ。  
それがだんだんと早くなり、激しくなる。  
「んっ…!あっ…か…かい…と…っ!いやっ…助け…」  
途切れ途切れに言葉を吐き出すメイコの口が、僕に助けを求める。  
お願い。見ないで。呼ばないで。僕は何もできないのに。  
 
メイコを下から突き上げていたマスターの動きが止まる。  
あー…と力の抜けたメイコの声が漏れる。  
本日二度目が終わったらしい。はぁはぁと荒い息遣いが二つ。  
立ち尽くしたままの僕も何故だか妙に心拍数が高い。  
「――KAITO、次はお前も加わるんだ」  
マスターの声にはっとする。俯いたままの目の焦点が合わさり、捕らえたものは  
興奮してそそり立つ僕自身。思わず顔を上げると、目に映ったのは  
あられもない姿を僕に晒し、背後からマスターに貫かれたままのメイコの裸身。  
じっとりと汗に濡れたメイコの白い腹部は、目に見えて上下を繰り返し淫靡さを煽る。  
喉がぎゅっとしまるような苦しい気分になる。  
僕がそのときメイコに感じたのは、庇護欲ではなく肉欲。  
 
マスターの命令だ。薬が効いているからしょうがないんだ。  
頭のどこかで違うと叫ぶ自分がいるのに、僕の伸ばした手はメイコの頬に向かう。  
メイコの顔に浮かぶ表情は虚ろで、それでも僕が唇を重ねると切なげに眉を寄せる。  
「…ちょっと苦しいだろうけど、我慢して」  
僕はメイコの秘裂に指を這わせ、拡げる。  
充分に潤っているそこに先端を擦り付け、ゆっくりと先に進む。  
「や…っ…!む…り……ぃ…」  
涙声で訴えるメイコの腰を掴み、マスターのモノが後ろに入っているせいで、  
ひどく狭い道を無理やり押し広げる。  
最奥までたどり着くと、メイコの膣が痛いくらい締め付けてくるのがよく分かった。  
こんな滅茶苦茶な状況になっているのに、お互いあまり騒ぎもせず、言葉少ななのは  
精神回路を鈍感にする、この薬のせいなんだろうか。  
呼吸を整えるのに精一杯で、僕の目を見ることもできないメイコを視界に収めながら  
霞がかった頭の片隅でそんなことを思う。  
 
マスターが再びメイコを突き上げ始める。僕もそのリズムに合わせて腰を動かす。  
前から後ろから交互に出し入れされる二本の感触に、メイコは体を震わせ、弱弱しく喘ぐ。  
一方で僕のモノを締め付ける感触は強い。  
充血した突起を指の腹で擦りあげると、一層その間隔は狭く激しくなる。  
マスターの乱暴な手とは違い、柔らかく締め付けてくる暖かいメイコの膣。  
最後に抱き合ったのはどれくらい前のことだったか。  
それでも僕は、彼女の感じるところをちゃんと覚えている。  
奥まったところにある、そのポイントを狙ってぐりぐりと腰を押し付ける。  
「あぁっ!?そ…こっ…!ら、め…ぇっ…!!」  
メイコがくしゃっと快楽に顔を歪める。その声が、表情が、ますます僕を駆り立てる。  
もう自分の限界が近いことを悟った。  
「めー、ちゃん…!も…そろそろ…!」  
言い終わる前に快感の矢が脳天を刺し貫いた。  
マスターに揺さぶられて上下する彼女の中に白濁を吐き出す。  
 
満足したのはつかの間で、与え続けられる刺激で、下腹部に熱が灯り始める。  
次は、めーちゃんを気持ちよくしてあげなくちゃ。  
ぷっくりとした陰核を指で摘みながら胸を愛撫する。  
早鐘のように鳴る心音を掌に感じ、首筋に舌を這わせた。  
「カ…カイ……トっ!私も……だ…めっ…!」  
メイコの手が僕の腕を掴み、びくっと体を硬直させる。  
ぐったりと僕にしなだれかかる彼女に口付ける。  
僕は笑っていた。笑っていたのだ。  
 
メイコの前後に抜き差しされる二本の棒の勢いは衰えず、  
狂宴の終わりが見えないことを暗示していた。  
大丈夫、薬のおかげだから。すぐにめーちゃんも僕みたいに楽しくなれるよ。  
 
メイコとした約束はなんだったのか、もう思い出せない。  
僕は、メイコの「安定剤」として、マスターの性処理の道具として呼び出されるメイコと  
毎晩マスターの部屋に向かう。マスターの気が向けばメイコと交わらせてもらえる。  
それだけが僕の生きがいになった。マスターに膣内を乱暴に犯されるメイコを見ながら、  
狂おしいほどの羨望を感じ、自分のモノを慰める。  
 
安定剤といいつつも、僕の脳は少しずつ壊れかけてきていた。  
もちろんメイコも同じで、二人とも長くは持たないことは薄々悟ってはいた。  
それでも、毎日与えられる強い快楽の前には屈服せざるを得ない。  
崩壊へと向かう悪循環だと分かっていても、僕らは逃げ出すことはできなかった。  
 
 
夜の情事が三人になってからは、マスターは僕とメイコに後処理をさせるようになった。  
メイコがマスター自身を舌で綺麗にし、僕はメイコの秘所からこぼれ出す、  
二人分の精液と愛液を内側まで舐め取る。  
マスターは極まれに、メイコと抱き合う僕に挿れてくることがあるが、  
そんなときは、メイコと69の形で、互いに掃除しあう。  
そこで再燃した僕らが交わり始めると、気分が乗れば加わるし、興醒めしているときは  
後片付けをきちんとするよう命令し、出て行ってしまう。  
 
マスターは何を考えているのか分からない。  
一つ確実なのは、彼という人間は、僕らをただの道具だとしか捕らえていない。  
性欲の捌け口にするためなら、気持ちよければ男性型であろうと女性型であろうとどうでもいい。  
快楽を得るためなら、相手は誰でもよく、変態的なプレイにも興味が無いようで、形式には拘らない。  
僕を最初に選んだのは好奇心からで、僕をメイコとまぐわわせるのもただの気まぐれだ。  
 
 
最近メイコはよく笑うようになった。昔と同じ、一点の曇りも無い純粋な笑顔で。  
それを見て、僕も何だか嬉しくなり、一緒に笑いあう。  
二人で部屋にいるときには、昔のように歌を歌うようになった。  
マスターの迷惑にならないよう、小さな声で、  
いつ、どこで覚えたかも忘れてしまった恋の歌をたくさん歌った。  
あるときメイコがふと口ずさんだその歌は、片思いの男性が  
女性に思いを伝える詩のものだった。  
 
一目あったそのときから、ずっと君に惹かれていた  
一緒にいても伝えられない思い もどかしくて、苦しくて  
今日 勇気を振り絞って 君に会いに行くよ  
その時俺は―――  
 
「この先がどうしても思い出せないの」  
「僕もだ。確かに歌ったことがあるはずなのに」  
「不思議ね」  
「不思議だね」  
 
メイコは僕の目を見つめて無邪気に首を傾げる。  
その仕草が可愛くて、思わず抱きしめてしまう。  
くすぐったいよ、と笑う彼女の声を聴き、残り僅になった幸せな時間をかみ締める。  
 
そろそろマスターからの呼び出しがくる時間だ。  
 
 
僕はメイコのことが大好きで、マスターのことも大好きだ。  
口に出さなくても、きっとメイコも僕のことが大好きで、マスターのことも大好きだ。  
 
 
END?  
 
 
 
 
 
蛇足 
 
 
 
「…そう考えていた時期が僕にもありました」  
「それは…また強烈な経験をしたものだな…」  
「まったくです。ボーカロイドが自分の稼ぎで家を持てる時代が来るなんて  
 あの頃は想像もしませんでしたよ!」  
「めいこ殿にそんな面影はまったくないように見えるが?」  
「そりゃあ、あの後、凄まじい量と種類のメンテを受けましたからね。  
 損傷した生体パーツも全部新調しましたし。すっかり正常です。  
 ただ…メモリーの消去はしていませんから、僕もめーちゃんも忘れはしませんよ」  
「ほう?」  
「辛い思い出も、楽しい思い出も、全部めーちゃんと過ごした大事な記憶ですから。  
 それにね…最初のマスターのこと、ちゃんと覚えていたかったんです」  
「…まだ世に出るか出ないかといった身の我には想像できぬが…  
 そなたらの絆が強いことは何となく分かるぞ」  
「がくぽさんにももうすぐ妹が来るじゃないっすか。きっと仲良くできますよ」  
「妹…か。ところで来週のみく殿の歌会の半券は余っておらぬか?  
 前回も頼んでおいたが、そうるどあうととやらで手に入らなかったと言っておったではないか」  
「あーチケットですか?(ミクに近づこうなんて100年早いわ)今回は会員限定ライブなんで  
 非会員の方にはお渡しできないんですよー」  
「なんと!そうであったか…(´・ω・`)」  
「(・∀・)ニヤニヤ」  
 
「カイトー、がくぽさん、お茶が入ったわよー」  
「めーちゃんありがとー」  
「かたじけないめいこ殿。それにしても今日も美し「おおっとー手が滑ったー」バシャー!  
「あつっ!!かいと殿何をしておるか!?」  
「止めなさいバカイト」ゴッ  
「めーちゃ…お盆の角は反則だって…」  
 
まぁ、何はともあれ幸せに暮らしております今日この頃。byカイト  
 
 

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