「ま、マスター……そういう趣味が御有りだったんですか?」  
マスターであるハクを見つめるカイトの視線は、ハクの頭の辺りをさまよっている。  
「ほら、我が家のなんとか、ってあるじゃない……人気出るかなぁ、って……」  
ハクは絶望的な声でそう言った。  
目線が行くのも仕方ない。  
ハクの頭には白くてフワフワした、俗にいうケモミミが付いていたのだ。  
どう対応すべきか、カイトの顔が微笑むべきか困るべきか逡巡して引きつる。  
家の中で戯れにケモミミを付けていたなら、  
「うわ! マスターかわいいです! ケモミミ萌えで庇護愛を催しますです!」とでも言えようものの、ハクは今バイトから帰ったところである。  
「バイト中にストックのビール切れてさ……急きょドンキで箱買いして凌いだんだけど……そのときケモミミが着けて見たくなって……買ってみたの」  
そうですか。  
「な、何もずっと着けてなくても」  
カイトが思わずそう言ってしまうと、ハクの顔はますます曇り、梅雨空を一週間分ぶち込んで愚鈍にダラダラ過剰にグツグツ煮詰めたような様相を呈した。  
「ノロワレテタノ……」  
「え? なんですってマスター?」  
「呪われてたのよ……ドラクエに装備したら外せないアイテムあるでしょ……」  
薄利多売大量仕入れ大量放出を旨とするドンキでたまたま買ったコスプレグッズがノロワレテタ。  
もう生まれつきツイてない人間てのは意外と居るものである。ハクのような。  
「しかも、ほら……尻尾が……」  
ハクが少し恥ずかしげに服をずり下げると、  
 
ふもっふバッサリーノ  
 
といった感じでフッサフサもっふもっふの真っ白い尻尾が現れた。  
ぱっと見、尻尾風アナルプラグに見えない事もない。  
が、良く観察して見ると尾底骨の有るべきあたりから尻尾が“生えて”いるのがわかる。  
「ええと」  
カイトはなんと言ってよいかわからない。当たり前だ。  
「……ほんとに生えてるんですね」  
「ひゃ!」  
カイトがハクの尻尾を掴むと、ハクの頭の上の三角形の耳がバサリと立ち上がった。  
「や、止めてよカイト、尻尾、触られるとすっごくこしょがしい……あっ……くぅ」  
「へ? あ! す、すみませんマスター!」  
 
「メイコ!ウイルスに感染したって本当!?」  
「カイト…」  
俺がメイコの部屋に駆け込むと、メイコが頭まで毛布を被って布団の上でうずくまっていた。  
「大丈夫!?気分とか悪くない!?」  
「うん、体調は大丈夫。ただ、ちょっと身体の方が、ね…」  
メイコは少し青ざめた顔で笑う。その顔は心なしかひきつっている。  
「身体?」  
「笑わない?」  
メイコの言葉に俺は勢いよく頷く。俺がメイコを笑うわけないじゃないか!  
「…そう」  
俺の仕草を見て、メイコは少し躊躇いながらも被っていた毛布を剥ぐ。  
「!!」  
俺は目に入ってきたものに驚愕した。メイコの頭から生えているもの。それはどう見ても猫の耳だった。  
「〜〜!あー、やっぱり恥ずかしい!」  
そう叫ぶとメイコは再び毛布を被ってしまう。  
「な…なんでそんなものが?」  
俺はつい声が上ずってしまう。だって思いの外可愛くて…って、そうじゃない!  
「知らないわよ!どうせどっかの変な趣味の馬鹿がウイルスを流したんでしょ!?」  
少しだけ顔を出したメイコの顔は真っ赤だ。  
「マスターがワクチン用意してくれてるからすぐ治るみたいだけど…本当に迷惑だわ!」  
 

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