ああ、なんでこんなことになっちゃったんだろう。  
 背後から声がして、しまった、と思った時にはもう遅かった。  
 僕の、お風呂上りの秘密のお楽しみが、ミク姉ちゃんに見つかってしまうなんて。  
 
 しかも、ただ見つかるだけならまだしも、ミク姉ちゃんはそれに興味を持ってしまった。  
 目を輝かせたようにして、僕の大事なものを物珍しそうにじっと見つめている。  
 「すごい、かちかち、だあ」  
 しばらく眺めてから、ミク姉ちゃんはそれを、当たり前のように口に含んだ。  
 「ん」  
 そしてぎこちなくそろそろと顔を傾ける。  
 優しい姉の突然のその行動に、僕はかなりのショックを受けた。  
 
 もっと見つからないように気をつけておけばよかった。  
 頭を抱えたいような気持ちで、僕は後悔する。  
 …だけど、まあ。  
 ミク姉ちゃんなら、いいかな、という気持ちも、僕の心のどこかにはあった。  
 
 ミク姉ちゃんが口内のそれに薄く歯を立てたので、僕は少し顔をしかめる。  
 「ミク姉ちゃん、噛んじゃ駄目だよ」  
 僕が慌てて言うと、ミク姉ちゃんは、えっ!と声をあげた。  
 「だ、駄目なの?どうして?」  
 どうしてって。  
 ミク姉ちゃんはなんだかしゅんとしている。  
 「ど、どうするのがいい、の?」  
 そしてあたふたとそう僕に尋ねた。  
 
 「ちゃんとうまいやり方があるんだ。僕が言うみたいにしてみて」  
 僕が言うと、ミク姉ちゃんはこくりと頷く。  
 「えっと、もっとゆっくり舐めるみたいにして」  
 「こ、う?」  
 ミク姉ちゃんはゆっくりと舌を這わせる。  
 「うん、そんな感じ」  
 なんだかハラハラしながら僕は見守る。  
 「あ、すごい、」  
 姉ちゃんの表情が変わる。  
 「とろとろしてきた、よ」  
 「おいしい?」  
 僕が聞くと、  
 「ま、まだわ、わかんな、い」  
 そう答えて、ミク姉ちゃんはまた舌を動かす。  
 「あ、なんか、」  
 ミク姉ちゃんは何かに気づいたようにして、先端を軽くちゅっと吸う。  
 そしてくわえこんだ唇を、突然きゅっと狭める。  
 「あっ姉ちゃん、そんな風にしたらっ」  
 
 僕の言葉は間に合わず。  
 ミク姉ちゃんはびくっと肩を震わせて、眉根を寄せた。  
 桃色の唇の端から、とろっと白い液体が垂れている。  
   
 「ちょっとこぼしちゃった」  
 ミク姉ちゃんはてへへと笑う。  
 「ああ、だから言ったのに」  
 僕はミク姉ちゃんに口を拭うためのティッシュを手渡してあげる。  
 「それ、外側は凍ったバナナだけど、中にクリームが入ってるんだ」  
 あーあ、口で、ちょっとずつちょっとずつとかしながら食べるのが一番おいしいのに。  
 「ありがと、レンくん。ご、ごめんね」  
 姉ちゃんがティッシュで口元を拭いながら言う。  
 「でもこれ、すっごくおいしいよ!レンくんが作ったの!?」  
 「う、うん」  
 僕が答えると、すごーい!と姉ちゃんは目を輝かせる。  
 「どうやって作るの?」  
 「バナナの皮を剥いて、縦に半分に切って、内側の果肉をスプーンで削ってね。外側を器みたいにするんだ。それで、削った果肉を生クリームと混ぜて、バナナの中に戻してあるんだよ」  
 「それで凍らせるの?」  
 「うん。アルミホイルで包んでね」  
 ほんとは今日のお風呂あがりに食べようと思って、大事に作っておいたのになあ。  
 
 「バナナってこんなにちゃんと固まるものなんだねえ」  
 姉ちゃんは感心したように頷いている。  
 「レンくんは料理もできるんだねえ、すごいねえ」  
 にこにこしながらミク姉ちゃんはおいしそうにバナナとクリームを頬張る。  
 そんな、料理というほどのものじゃないのだけれど。手放しで褒められて、ちょっと照れくさい。  
 当たり前のように横取りされてしまったが、本当においしそうにそれを食べてくれるミク姉ちゃんを見ていると、僕はなんだか嬉しくなってきた。  
 この家でバナナを好んで食べるのは僕だけだと思って、今まではこっそり一人分しか作っていなかったのだけれど。  
 今度からは姉ちゃんたちや、リンの分も作ろうかな。  
 (カイト兄ちゃんの分は保留だ。あまりアイスという土俵では勝負をしたくない相手のような気がする。)  
 
 「ごちそうさま!」  
 
 ミク姉ちゃんは僕の特製バナナアイスを満足そうにたいらげて、また作ってね、レンくん、とにっこりと笑った。  
 
 

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