お姉ちゃんが大好き。  
きりっとした美人さんで、女性らしい胸、引き締まった腰周りにすらっと長い手足…。  
わたしがこの家に来たときに「ついに妹ができたのね!」と  
思いっきり抱きしめて喜んでくれたっけ。  
あの時は、不安でいっぱいだった気持ちがすっと軽くなって  
すぐに打ち解けることができて、本当に嬉しかった。  
 
お兄ちゃんが大好き。  
背はわたしよりだいぶ高いけど、あんまり恐くはなくて  
わたしやリンたちと話すときは目線を合わせてくれる。  
お兄ちゃんのほわほわした笑顔は、いつもみんなを癒してくれるし  
わたしが落ち込んだときは、黙って隣にいてくれる。  
 
リンとレンが大好き。  
リンは元気がよくて、遠慮がちなわたしを楽しい遊びに誘ってくれるし  
(その後でよく怒られるんだけど)、おやつを食べながら、仕事のことや  
最近面白いドラマのこと、色々教えてくれる。  
レンは無愛想だけど、わたしがリンと羽目を外して怒られたときは  
後でこっそり「リンのせいでごめん」って謝ってくれる大人びた弟だ。  
時々わたしに発声練習のやり方を聞いてきたりして、そんなときは  
歌の話で思いっきり話せるんだけどなぁ。  
 
わたしの家族はみんな仲良しで、この家に来て本当によかったと思う。  
これからもずっとみんなで仲良くしていけたらなって思ってたんだけど…。  
 
きっかけは数日前の出来事。  
その日は夕方からリンとレンがケンカをして  
珍しくお姉ちゃんが本気でレンを叱った。  
優しいお姉ちゃんが、本気で怒鳴って怒ったのは初めてで  
すごくびっくりしたしショックだった。わたしがは自分が怒られた訳でもないのに  
逃げるように部屋に戻って、ベッドに膝を抱えて座ってた。  
 
夕方帰ってきたお兄ちゃんに事情を話すと、お兄ちゃんはすぐに理解したみたいで  
お姉ちゃんが帰ってくる頃には、リンとレンもちゃんと仲直りできたし、  
レンがお姉ちゃんに謝って、すべては丸く収まってた。  
こういう時お兄ちゃんは、お姉ちゃんに一番近いところにいるんだなって実感する。  
わたしよりも長く一緒にいる訳だし、  
お姉ちゃんもお兄ちゃんのこと頼りにしてるのが分かる。  
わたしもいつかお姉ちゃんに頼りにされるような妹に、  
そして、リンとレンに頼ってもらえるお姉さんになりたいと強く思った。  
 
その日の夜遅く、喉が渇いて目が覚めて、  
キッチンに水を飲もうと降りてきたとき。  
リビングにまだ明かりが点いているのに気付いた。  
お兄ちゃんとお姉ちゃん、まだ起きてるのかな?  
ドアを少し開けてみる。  
「それくらい僕のこと信用してよね。長い付き合いなんだからさ」  
お兄ちゃんがお酒を飲みながら、お姉ちゃんに笑いかけてる。  
お姉ちゃんも笑いながらそれに何か返してるけど、ここからじゃ遠くてよく聞こえない。  
リンとレンが来る前、3人で暮らしてた頃もたまに感じてたこと。  
2人ともわたしのことを可愛がってくれるけど、わたしはそれ以上には上がれない。  
頑張るお姉ちゃんを支えるのはお兄ちゃんだし、  
無理してるお兄ちゃんに、一番に気付いて励ますのはお姉ちゃん。  
わたしたちは守られてるだけで、まだまだ助けにはなれないってことなのかな…。  
 
「めーちゃん、僕だって男だよ。それに僕はめーちゃんのことが大好きだし!」  
 
…あれ?今なんて……?  
お酒のせいか顔を真っ赤にしたお兄ちゃんが、上機嫌でお姉ちゃんに顔を近づける。  
男って、好きって、姉弟同士の好きとは違うの?  
お兄ちゃんはお姉ちゃんに寄りかかって、でれでれしてる。  
お姉ちゃんも、いつもわたしたちが見てる前では、絶対にしないような優しい顔で  
お兄ちゃんの頬に手を伸ばしたりなんかしてる。  
これは…一体どういう状況?  
挙句お兄ちゃんはお姉ちゃんの…お、おっぱいを掴んじゃったりなんかして!  
さすがに怒られてたけど「部屋に移動してからになさい」ってどういうことなのお姉ちゃーん!?  
 
 
「という訳なんですけど…」  
「ふむ…それからどうなったのだ」  
いつものように突然押しかけてくるがくぽさんにお茶を出して、この前の夜のことを相談してみた。  
家には珍しくわたし1人しかいなくて、人恋しかったのもあり、上がってもらったのだ。  
「えーと…お姉ちゃんたちに見つかったら大変だと思って、そっと部屋に帰りました」  
答えると、がくぽさんはちょっとがっかりしたように、最後まで見ておかぬか、とため息をつく。  
と言われましても…あの状況は何だか見てはいけないものだった気がする。  
 
「みく殿は、めいこ殿とかいと殿が、何をしているのか見たくはなかったのか?」  
がくぽさんがわたしの顔を覗き込んでくる。  
整った色白の顔と、紫の瞳を、ちょっとかっこいいなと思ってしまう。  
「うーん…確かに気にはなりましたけど…」  
できれば隠し事なんて無くして、わたしにも教えて欲しい気持ちはあった。  
リンとレンはいつも2人でいるし、夕べも同じ布団でくっついて眠ってた。  
お兄ちゃんとお姉ちゃんも2人でいることが多いし、わたしの入れないような雰囲気もたまにある。  
みんなわたしが寄っていくと、快く仲間に入れてくれるけど、たまに独りぼっちのような  
寂しい気持ちを感じてしまうのだ。  
「やっぱり気になるかも…秘密にされると寂しいし」  
ぽつりと呟くと、がくぽさんは優しい笑みを浮かべて、わたしの肩をそっと引き寄せる。  
 
「がくぽさん?」  
「寂しいときには、肌を合わせてお互いに癒しあうものだ」  
がくぽさんはわたしを後ろから抱きしめる。  
右手がわたしの腰に巻きつき、もう片手がニーソックスとスカートの間の太ももに伸びた。  
「あ、それだったら少し分かるかも…」  
恐い夢を見て、お姉ちゃんの部屋に逃げ込んだとき、お姉ちゃんが抱きしめてくれた温もりを思い出す。  
お姉ちゃんの腕の中にいると安心して、朝までそのまんまぐっすり眠れた。  
がくぽさんは、家族じゃなくてそこまで親しい訳ではないけど、わたしを抱きしめてくれる手は  
優しく、ここに居ていいんだ、と思えるような安心感を覚える。  
…お腹と太ももは、少し恥ずかしいところなんだけど…。  
 
「2人の関係をもっと知りたいのだろう?」  
がくぽさんはわたしのスカートの中の肢をゆっくりと撫で、耳元で囁く。  
ちょっと低い声…色気があるっていうのかな。  
「えと、あの…あの…?」  
突然顔が真っ赤になるのを感じた。心臓の音がどくどくと大きく響いて、  
体がかぁっと熱くなる。今まであまり考えたことがなかったのに、  
私をすっぽりと抱きしめてしまうがくぽさんの  
「男の人」の部分を意識してしまう。  
 
「次に進むには、着物を脱がねばなるまい」  
がくぽさんがわたしのネクタイを外そうとする。  
「え!そうなんですか…?でも服はちょっと…」  
その「次」を知ってみたい気持ちと、恥ずかしい気持ちの間で揺れ動いてしまう。  
あ、でも、お姉ちゃんにも人前でぱんつが見えるような座り方しちゃだめって  
最近言われたばっかりだし…。  
 
ごつっという何かがぶつかる音がして、体がぐらっと揺れた。  
がくぽさんのうめきに振り向くと、拳を震わせたお兄ちゃんが。  
「何やってるんすかあんたは…」  
お兄ちゃん恐い…。ゴゴゴゴゴゴという地響きがどこからともなく聞こえてくるようだ。  
「ミク!何をされた!?」  
慌てた表情でがくぽさんから私を引き離すお兄ちゃん。  
同時にがくぽさんを家から追い出す。主に足で。  
…ごめんなさいがくぽさん。後日謝りに行きますから。  
 
「あの…別に何もされてないよ?」  
おずおずとお兄ちゃんを見上げると、お兄ちゃんは厳しい顔をして  
「誰もいないときに部屋に人をあげちゃだめだよ」  
とわたしを諭す。特にあの人は、と付け加えて。  
がくぽさんは変だけどそんなに悪い人には見えないんだけどなぁ…。  
隣に引っ越してくる前に、お姉ちゃんががくぽさんの家に行ったときも  
怒ってたのはお兄ちゃんだけで、お姉ちゃんは、ちょっとお話してただけよ、って言ってたし。  
 
「とにかく、無事でよかった」  
はぁっとため息をついて、お兄ちゃんがいつもの優しい顔に戻る。  
「で、何の話をしてたの?」  
「えーと…」  
お兄ちゃんとお姉ちゃんの秘密を教えてもらいたかった、ってことは言っちゃいけない気がして  
黙っておくことにした。  
 
 
「寂しいときには、肌を合わせるのがいいんだって」  
お兄ちゃんの顔が何故か笑顔のまま強張る。  
 
「それと、もっと仲良くするには服を脱ぐんだって」  
あれ?何でお兄ちゃんの顔が真っ青なんだろう。  
 
「だから、お兄ちゃんたちが仲がいいのもいいんだけど、たまにはわたしも  
寂しいとき(ぎゅっと)抱いてほしいし、(仲間に)入れてほしいなって思ったの」  
 
 
「……ミク、今日はめーちゃんのご飯当番の手伝いして、絶対家から出ちゃダメだよ」  
「う、うん…」  
険しい形相で私の肩に手を置いたお兄ちゃんは、すごい勢いで家を飛び出していった。  
その雰囲気に気圧されて思わず頷いてしまったけど、わたし何かいけないこと言っちゃったのかな?  
 
 
その夜、お鍋の味見をするお姉ちゃんの横で、野菜を切っていたわたしは  
ふとお姉ちゃんにがくぽさんのことを聞いてみたくなった。  
「…そうねぇ。私も悪い人じゃないと思うわ」  
ちょっと歯切れ悪く言ったお姉ちゃんは、私に困ったように笑ってみせる。  
「今日ね、がくぽさんがうちに来たとき、ぎゅってされたの。  
寂しいときにはこうするんだって。確かにそれは分かるんだけど、  
何だかどきどきしちゃって…。不思議な気持ちだったの」  
お姉ちゃんは目をぱちくりと開いてわたしを見ていたけど、  
うんうん、と納得するように頷いて、さっきがくぽさんがしたように、わたしを後ろから抱きすくめる。  
ふわりと香るお姉ちゃんの甘い匂いにうっとりしてしまう。  
 
「今どういう気持ち?」  
「うーん。嬉しい!あと安心する!」  
「それじゃあ、これがカイトならどう?」  
「んー…。おんなじ?やっぱり嬉しいし、ほっとするよ?」  
素直に答えた私の頭をお姉ちゃんは優しく撫でてくれる。  
「どきどきしたのはさっきが初めてだった?」  
「えーと…うん。びっくりしたから」  
それだけだったかな…と考えて、思い出す。  
 
「あと、なんだか恥ずかしくて、胸がきゅんとして、でももっと  
抱きしめてほしいような、そんなどきどきだった…かも」  
 
そっかそっか、と言いながら、お姉ちゃんがわたしをもっと強くぎゅってしてくれる。  
「ねぇミク、あなたはもしかしたら、新しい気持ちを学ぼうとしてるのかもしれないわ。  
難しいけど、自分の気持ちが一番分かるのは自分自身なんだから、  
よく考えて、しっかり選ぶのよ。いいわね?」  
お姉ちゃんの言うことはちょっと難解で、分からないところもあったけど、  
新しい気持ちってところにワクワクして、はーいと返事をしてみる。  
 
もう一品作ろうかしら、と冷蔵庫に向かうお姉ちゃん。  
背中が寂しくなってふと思う。お姉ちゃんははっきり言わなかったけど。  
これがもしかしたら恋なのかな。  
恋の歌はたくさん歌うけど…、きっと素敵なものなんだろうなぁと憧れたことも何度もあるけど…  
私の生活とは無縁な感じがして。  
この気持ちが何なのか、じっくり向き合って考えるのは、私自身だよね、とひとりごちる。  
 
冷蔵庫から取り出した茄子をぼんやりと見ながら、そうよね、独りは寂しいものね、と  
呟くお姉ちゃんを視界の端にとどめながら、  
わたしはとりあえず、まな板の上のにんじんとピーマンを刻んでしまうことに集中することにした。  
 
「がくぽさん、妹に変なこと吹き込むの止めてもらえませんか?」(#^ω^)ピキピキ  
「我は何もおかしなことは言っておらぬぞ。大体そなたらの無用心が招いたことではないか」  
「僕らが何ですって?」  
「そなたがめいこ殿に夜の合戦を申し込むところ、みく殿に見られておったようだぞ」(・∀・)ニヤニヤ  
「なっ…!」  
「これに懲りて、居間でじゃれ合うのは自重すべきだな」  
「しょうがないじゃないっすか、うち狭いんだし…そうじゃなくて。  
 とにかくミクにあんまり近寄らないでください。  
 …あとめーちゃんに今度何かしたら殺します」  
「ふふ…まぁ何を言われても、みく殿は可憐で我の好みだからな。  
 めいこ殿には結局あしらわれてしまって、我もそれなりに落ち込んでおるのだぞ」  
「ちょ……!」  
「冗談だ」  
「どこからどこまでが?」  
「一つ前の科白が」  
「……(やな人が越してきたなぁ…)」  
 
 
 
 
 
 
END  
 
 

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