(注)日にちをジェバンニ
温泉旅行にくっついてきたがくぽに、メイコと弟妹たちをとられるのが悔しいカイト
「ね、ねぇ、がくぽさん」
風呂上りの卓球でフィーバーした後、コーヒー牛乳を買いにいった女性陣(+レン)。
カイトは卓球台をたたみながら、ラケットと球を集めて回るがくぽに話しかける。
「ん?」
振り返るがくぽは汗一つかいておらず、やはり神秘的な機械といった風貌だ。
「そろそろ帰った方がいいんじゃないですか?」
カイトの下手に出つつも優越感の混じった問いかけに、がくぽはむ、と眉を顰める。
「何故だ。せっかく宿泊に来たというのに、
夜も更けたこのような時間に興ざめするようなことを言うのか」
「だって、もうそろそろ日付が変わりますよ」
「それが何だと……ん?」
今日は7月30日。明日は31日。言わずとしれた―――
「リリースの当日、初っ端から穴を空けるつもりですか?」
「しまった…。そういえば付き人が出がけに何か言っておった気がしたが…」
にやにやと心底嬉しそうなカイトに、頭を抱えるがくぽ。
「ううむ…。流石に歌手を生業とする以上は、仕事に穴を開けるわけにはいくまい…」
「そうでしょうそうでしょうとも」
うんうんと頷くカイト。
このまま邪魔者が帰れば、めーちゃんがこいつにお酌をするのを指を咥えて見ているなんて屈辱的なこともない。
この後はもう一度温泉につかりなおして、二人で熱燗を飲んで、
部屋で眠りこけているレンを適当に女部屋に放り込んで、その後はゆっくり……。
カイトの妄想を、ひやりと頬に触れた冷たい感触が断ち切る。
「うわッ!?」
「へへーびっくりしたでしょー」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、浴衣姿のミクがよく冷えたコーヒー牛乳のビンを差し出してくる。
メイコたちが帰ってきたようだ。
リンとレンはフルーツ牛乳…バナナとイチゴ?を一口頂戴いやそっちこそ、とわいわい争っている。
「はい、どうぞ」
心なしか落胆しているように見えるがくぽに缶の緑茶を渡したのはメイコ。
かたじけない、といいつつ受け取るがくぽに、嫉妬の舌打ちをする。
あ、別にミクのことが嫌いなわけじゃないんだよ、などと心の中で言い訳していると、
「何かあったの?」
とメイコが男性陣の顔を見比べながら尋ねてくる。
その言葉に再び気を良くするカイト。今からハイパーカイメイタイムの始まりじゃないか。
「いやー、実はさ、がくぽさん急に帰る用事ができちゃったみたいで。ね?」
「ああ、誠に無念ではあるが、ここでお暇せねばならぬようだ」
あっさりと認めるがくぽに、カイトは喜びを隠し切れない。
「うそー、がっくん帰っちゃうのー?」
「えー!今夜トランプに付き合ってくれるって言ってたじゃん!」
「ミクも花札教えてもらいたかったですー」
不満そうな顔で口々にがくぽに言い寄る子どもたちの頭をがくぽは優しく撫でてやる。
「すまぬ。どうしても外せない用があったのだ。そなたらも、歌に関わる仕事をしているのなら、
この責任感を理解してもらえぬか?」
その苦笑でありながらも爽やかな顔、優美な仕草。
「んー…お仕事じゃしょうがないよね」
「がっくん、また今度お泊りで旅行行こうね、絶対だよ」
顔を見合わせて、素直に諦めの表情を見せる子どもたち。
奴の大人びた包容力のある紳士ぶりが微妙にむかつく。
その様子を黙って見ていたメイコが腑に落ちたように、ぽん、と手を叩く。
そうかそうか、めーちゃんも分かってくれるよね。それじゃお酒を持っていざ露天風呂へレッツg
「カイト、あんたも帰んなさい」
「えーー!!!?」
予想外の言葉に思わずずっこけそうになる。
「ななな…何でさ!!」
情けない顔でメイコに詰め寄る。
「だって、明日ががくぽさんの新曲ラッシュなら、対抗馬であんたの動画もたくさん上がりそうじゃない」
「それはありがたい。かいと殿、帰りの道案内をしてくれぬか。初めて来た場所ゆえ、地理に疎くてかなわぬ」
かたや弟の活躍を心待ちにする姉、かたや先輩として、好敵手として頼ってくる後輩(?)。
ナイスアイディアとばかりに晴れやかな笑顔を向けてくる二人に―――。
「…………」
***********
「いやはや、終電に間に合う時間で幸いだったな。
ふむ、車内に他の乗客も乗っておらぬようだし、歌合戦の練習でもしてみようぞ」
「……うぜぇ(小声)……僕寝ときたいんで、話しかけないでもらえませんか」
「?」
(BAD)END