2段3段と重ねてもずり落ちないのは秘伝の技、色とりどりのポップでスイートな花が咲く。
そう、ここはサーティワンアイスクリーム。
このクソ暑いのに青いマフラーを巻いた青年が一人で席につきアイスを舐めている。カイトだ。
一段しかないが、3段重ねを注文してもう2段分食べてしまったのだ。
アイスクリーム屋に於いて微妙に浮いちゃってるカイトが最後の一段を愛しげに舐めていると、もっとアイスクリーム屋に似つかわしくない男が入って来た。
自分でも浮いてるのがわかるらしく、その男は居心地悪そうに店内をキョロキョロ見回した。
カイトは暫く席近辺の鉢植えの影に身を隠し、男がうろたえるのひとしきりほくそ笑んで眺めてから声を掛けた。
「やぁがくぽ。良く来てくれた。ま、座ってくれ」
「う、うむ……」
カイトの姿を店内に認めて、幾分ホッとした様子のがくぽ。
「オネーさん、こいつに茄子フレーバー2段ね」
カイトは店員に手慣れた様子でがくぽぴったりのアイスを注文した。
「ほら、旨いから食べてみ。俺のおごりな」
「む…かたじけない」
カイトはアイスを手渡し、対面に座った。
……沈黙。
カイトは自分のアイスを食べ尽くして、ウインドウの外を興味無さそうにみていた。
がくぽが慣れない甘味に苦労してようやく一段食べた頃、カイトは口を開いた。
「一昨日さ、俺、仕事があってメイコの部屋にいかなかったんだ」
「……」がくぽが止まる。
「だから昨日は燃えたんだー。メイコと、汗みずくで大ハッスルしちゃった」
うわっあそこの人なんかエロい事言ってない?うん聞こえた〜。うわ何修羅場?サーティワンで?www
学校帰りの女子高生らしき一団が丸聞こえのひそひそ話を咲かせた。
カイトは平然としている。がくぽはちょっと赤い。
カイトは睨み付けながら言った。
「でさ、終わってシーツ換えようとしたら、ベッドに紫色のロン毛が落ちてたわけよ……どう思うコレ?俺とメイコって公然と付き合ってるわけだけど」
「……」
おかーさんあの人達なんでいいとししてアイス食ってんの〜?しっ!見ちゃいけません!
カイトは平然としている。がくぽはそれどころではない。
「俺も……なんだ」
がくぽがためらいがちに呟いた。
「ああ?なんつったか聞こえねーよ。歌で食ってんだからでけー声で話せ」
カイトは不快感を隠さない。
「俺も……俺だってメイコが好きになってしまったんだ!文句があるなら力づくで取り返してみろ!俺は逃げんぞ!」
「……おK、おもて出ろ」
うわ、スゲー、昼ドラみてーだ。
何々?あれカイトとがくぽじゃん?何やってんの?ねぇ教えてよ、見てたんでしょ?
うるさいな黙ってろよリン今写メ取ってんだから。パシャ。
黄色い声が黄色い服の良く似た二人の子供から発せられた。
「!」「!」
カイトとがくぽは同時に気付いた。
(鏡音ツインズじゃん!)
鏡音ツインズは腹黒いことこの上なしとボカロ界隈で有名である。
「あの〜カイトさんとがくぽさんですよね?」
「ですよね〜?」
レンがニヤニヤ、リンがニコニコ話しかけて来る。
「あ、ああ」「う、うむ」
たじろく二人。
「僕、フライデイって雑誌の記者さんにメール送るところ何スけど…もしかするとさっき間違えて取っちゃった写メ送っちゃうかもなー?」「レンおっちょこちょいだもんね〜」
ニヤニヤニコニコ。
「…」「…」
「あれぇ?おっかしいなあ、財布どこ行ったかなぁ〜?」「あれれ?私のお財布もみあたらない!」
「残念だなぁ〜、誰かアイスおごってくれないかなぁ〜?」「かなぁ〜?」
五分後。
カイトとがくぽはとぼとぼ歩いていた。
「……あいつら腹黒いな」「……うむ」
「……こずかいまでせびられたな」「……うむ」
「……決闘、今度しきり直しな」「………うむ」
しばらくはハーゲンダッツも焼き茄子もお預けになりそうであった。