いつもと同じ様にレコーディング。今日は私の番。  
結構偏り無く使ってくれるみたいです、うちのマスターは。  
所によって私の同機種は不遇な扱いだったりするっぽいけど、  
うちにおいてはそんな事は無いみたい。  
 
「MEIKOさんー、なんつーか、もうちょい、色気出ないかなー?」  
「…いや、それはマスターの調整の問題では…」  
「そーじゃなくてぇ!!こう、こうさーーーー!!あーーーわからーん!!」  
 
マスターもマスターで丸っきりのDTM初心者。  
ボーカロイド揃えちゃったらDAWとか買うお金が無くなっちゃったって。  
無計画にも程があるよなぁー。全然不満は無いけど。  
 
手探りながらも頑張ってくれているし、こうやって歌わせてもらえる。  
「お前らはどこの子らよりも可愛いよ。くっはーーー萌えーーーー!!!」  
って言ってくれるし。  
 
ネタ歌だって、まじめな歌だって、歌います。  
でも、それはマスターの打ち込み次第だってば……。  
 
「っかーーー色気色気!なんで出ないんだー?!  
 お前は生娘なんかーーー!?そのせいか!!?」  
「っはっ?!何てこと言うんですか!そんなの関係無いじゃないですか!」  
「んじゃー今私がここで奪 」  
「 ふ ざ け ん な !!」  
鈍い音が私の拳に響く。   
「女に捧げるような操はございません!!ばかーーー!!」  
 
どうも今回は何だかえっちい曲みたいです。  
でも、歌詞に直接表現が無いのでちょっとよくわからない。  
それを艶かしい歌い方をして欲しいとの事で。  
 
「こう、堪え切れない様な、すんげー求めるような、切なげな!!  
 そんな声で、うああああああ!!出来ないーーー!!」  
 
マスターはペンタブを片手にパラメーターを弄りつつ、  
自分で声に出しながら明らかに変な抑揚で曲を表現しようとしている。  
ありゃ、完全に煮えちゃってます。  
 
「マスター、大まかに作ってから、作りこみする方向でどうですか?」  
「ううぅーーーお前はいい子だなぁーーー!!」  
そういいながら私に抱きついてくる。  
丁度頭の高さが胸の位置。  
…うわ、わざとだ、わざとパフパフしてるよこの人!!  
 
「まぁ、私も私なりに研究してみますから…」  
「そうだ!」  
「はい?」  
谷間でマスターが叫ぶ。  
「次まで下着無しで過ごして。マスター命令だ」  
「はぁ?」  
「恥じらいと緊張とその他もろもろがお手軽体験!!頭いいね私!!」  
「ちょ!この格好でですか?」  
「うん、そう!」  
 
上下のセパレーツ、上は体の線が出るタイプだし、スカートはミニだし。  
この格好で家族と過ごすのはちょっと…。  
「大丈夫、この後コーラス隊の録音するから。顔合わせないで済むし姉の威厳保てるよ!」  
そういうとマスターはビシィっと親指を立てて見せる。  
 
うーん、まぁ問題ないのなら別にいいかなぁ。  
とか思ってるうちに。  
マスター、私の下着取ってるんですけど!!  
「紐パン設定万歳!!」  
 
「やーーー何だかすっごく心許ないんですけどー……」  
「いい乳の形してるねぇ。ノーブラでも全然崩れないし。くっはー!!」  
「痛い痛いーー掴まないでください!!」  
 
妙にスキンシップが激しい気がするけど、この人の仕様なんだろうなぁ。  
特に誰も文句言ってるのを聞いてないからこれがデフォって事かと。  
 
そんなこんなで。今日はもう自室に。  
これで何か変わるのかなぁ。よくわからない。とりあえずスースーします。  
 
「みんなコーラス入れかぁー……」  
私が歌い歌い上げないと仕上がらないのかぁ。  
あ、同じ曲なのか知らないや。  
お子様交えてえっちい曲ってのもアレよね。  
 
「めーちゃーーん、入るよー?」  
あれ?ちょ!コーラス行ってるんじゃなかったの?!  
「マスターがお酒くれたんだよー!煮詰まってるだろうから、呑めって」  
 
…気を遣ってくれたのかー。なんか悪いなぁ。  
 
「うん、じゃ、そこ置いといて。コーラス頑張ってね!」  
「え、俺今日呼ばれてないけど?酒持って行ってって言われただけ」  
「あれ?」  
「で、たまには2人で呑みなさい、って。ダッツもくれたよ」  
そう言ってKAITOはもう片方の手にあるコンビニの袋を見せる。  
 
まずいまずいまずい、この格好で2人で酒を呑めって事ですか!  
 
「どうしたの?体調悪い?」  
いや、そんな事は無いって知ってるでしょ。調子悪かったらPCのせい。  
「ううん、元気よ…?」  
「じゃ、呑もう!俺もちょっと位なら付き合えるしさ!」  
 
…威厳を保てるも何も、一番ヤバイのはこの男でしょうが!!  
バレちゃダメだバレちゃダメだ…。  
「なんかめーちゃんおかしいよ?」  
「いや、全然っ!!大丈夫!!呑みましょ!!」  
これ以上近づかれたら何かバレそうな気がする!  
バレるだけじゃ済まない気もする!!  
 
しかしまぁ、どうしたものか。  
私の部屋で飲むときは、床の上か、このガラスのテーブル位しか無い。  
今思えば行儀が悪かったかもしれない。スカートなのに。  
しばし考えた後、KAITOから少し離れて横で正座。真正面はマズい。  
 
「マスターから聞いたよ。行き詰ってるんだって?」  
「う、うん、まあね。」  
しばしの音楽談義。  
「俺もなんだよねー。なんと言うか、歌詞読むだけじゃわからないっていうか。  
 こう、実体験が伴わないから想像だけじゃ限界がある、ってカンジかなぁ?」  
「そうそう、それなのよねー。だからちょっと時間もらってるところなの」  
 
KAITOもそうなんだ。  
ネタもその場で体当たりでやってるもんね。これは尊敬する。  
そのネタがどんなものであれ。うん。  
 
「呑みなよ、いつもよりピッチ遅いよ」  
「あのね……、KAITOも同じなのかーって思ったら、少し気が楽になった」  
「そっか、よかった。がんばろうね。じゃ、改めて乾杯!」  
うん、美味しい。胸のつかえも少しは和らいだ。  
 
甘いものとお酒の組み合わせって結構好き。  
でもアイスは急いで食べないと溶けちゃう。  
「あ、おつまみ取ってくるから待ってて」  
晩御飯、まだだったからおかず持ってこよう、と私は立ち上がった。  
 
あれ?  
ふわっとしたと思ったら、次の瞬間には尻餅をついてしまっていた。  
「いったーーい!!」  
すきっ腹にアイスとお酒だから、酔いが早く回っちゃったのかな?  
正座も慣れてないしなぁ、とか、いろいろ考えてたら。  
 
なんか、一点凝視してる人がいるんですが。  
そして、私は我に帰る。  
「いっ、いやあああぁああああああ!!!」  
必死でスカートの裾を押さえるけど、遅かった。  
 
「こっ、これはマスターの命令で…!!」  
「そうか、俺を誘ってるんだね?!嬉しいよMEIKO!」  
「ちがーーーー!!!」  
反論は完全に無視。いとも簡単に床に押し倒される。  
「ちょっと!!なにするのよーーーーー!?」  
いつもなら軽くあしらえてたのに。  
こんな格好を見られたせいか、完全に冷静さが欠如している。  
ヤバイマジヤバイ。  
 
「知ってた?うちのマスターってカプ厨なんだよ?しかもカイメイ派」  
「は?」  
そうなの?それは知らなかったわ。  
って、それで今まで私に絡んできてたのはその嗜好を満たそうとして?  
「ん?一応これも、マスター命令。俺ももちろんしたいしー。  
 いやだったら止めるよ?無理強いしたくないしさ」  
 
「でっ、でもっ!!こーゆー事はっ!!」  
好きな人同士じゃなきゃダメでしょ?!と続きを言う間もなく。  
「俺、MEIKOの事好きだし、こーゆー事したいと思ってるし」  
次の瞬間にはあっさりとKAITOは答えを出してしまっていた。  
「あとはMEIKOの問題。…でも俺我慢できないかも。10秒で答えを出して」  
 
マスター命令って何よ!?KAITOもグルなの?  
ってかこのタイミングで好きだとかしたいとか?  
あと私の問題だけ?何よ何よ何なのよ?  
10秒って制限は何よ?え?10秒?  
 
「はい、タイムアウト。沈黙をもって同意したと見なします」  
「ちょ!待ってって……んむっ」  
反論する間もなく私の口はKAITOの唇で塞がれていた。  
 
うーん、多分これは計画通り、なんだろうなぁ。  
……まぁ、いいか。  
 
 
 

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