初めての夏。初めての祭。初めての花火。
初めてづくしを余すことなく満喫し、後ろを見る余裕もなかったリンがようやく気付いて訊ねた。
「あれ?ミク姉とがっくんは?」
「はぐれた」
否。置いてきた、が正しいかもしれない。
ミク姉とがくぽが途中で立ち止まったのは知っていた。
けれど、はしゃぎながら前を歩いていくリンを人の波で見失わないように追うのが精一杯で、立ち止まる余裕がなかった。
結果、そこに置き去りにする羽目になった。
悪いとは思ったけれど、はぐれた時は適当に祭を見て各自で家に帰ると最初に決めていたし、何より二人一緒だったから心配はないはず。
「ちぇー、つまんない」
リンは口を尖らせて愚痴を零したかと思えば、まあいっかとオレの手を繋ぐ。
急に握られた手の感触に思わず振り払いそうになったもの、何とかそれを留めた。
「はぐれない様に、ね!」
「…なんか恥ずかしいんだけど」
「何で?久しぶりだから?」
「…そっか。久しぶりだから、かな」
言われて、そういえば二人きりなんて久しぶりだとぼんやり思う。
少し前までお互い二人で一人のようにべったり、手を繋ぐのも一緒に寝るのも平気だった。
最近では家族が居たり、隣人が居たり、二人だけの機会がめっきり減ってしまった。
だからそれまで当たり前だった事が少し新鮮で、妙にくすぐったい気がする。
「じゃあ前みたいにずっと手を繋いでれば慣れるよね」
コロコロ笑いながら腕に絡みつくリンから香る仄かなコロン。
いつもと違う髪形に纏め上げられた場所から覗くうなじ。
ああ、彼女もオンナノコなんだと今更ながらに思う。
これからきっと、手を繋ぐだけじゃ足りなくなる。