「めーちゃん、リンは何処?見あたらないんだけど」
「リンなら朝からお隣行ってるわよ。最近べったりなんだから」
…僕たちは本当に仲のいい兄妹だった。
彼女は甘えた声で僕の名前を呼ぶ。僕はその声が大好きだった。
過剰なスキンシップも、元気いっぱいな仕草も本当にかわいかった。
けしていやらしい意味はない。だって「かぁいと〜!」なんて幼いボイスで
飛びつかれたら、誰だって目尻が下がってにやにやしちゃうだろう。
唯一のお兄ちゃんである僕だけの特権だった。
だが、それもここ最近までの事。
隣に越してきたがくぽにその権利を奪われたのだ。
別に、僕だけのものじゃないし誰に懐こうがリンの自由なんだけど。
「レンく〜ん」
「…何」
「リンがまたお隣に行ってるらしいよ」
「ふ〜ん、あいつも飽きねぇな」
…無関心。朝からだよ?心配じゃないの?リンだって女の子だし
ていうか僕とリンが仲良くすると、凄い機嫌悪くなってたのに!!
レンも彼に懐いてるのかな。いい事だけど露骨に態度違うとへこむなぁ。
とぼとぼ歩く僕にめーちゃんが何処行くの、と声をかける。
「お隣さーん、そろそろ迷惑だろうからリンを連れて帰るよ」
「…妹離れしないわねあいつもー」
「自分に懐いてたのが、他に捕られた気ぃして悔しんじゃねぇの」
「レン、あんたはact2になってから随分余裕になったわね」
「……別にact2とか関係ないし。俺は元々こんなんだし」
「…あ、カイト帰ってきた」
家に戻るとめーちゃんがにやにやした顔でこっちを見ていた。
我が家の男性陣が大人になるのはいつかしらね、なんて言ってる。
色々見透かされてるようで恥ずかしい。だけど。
「お兄ちゃん、今度一緒にお隣行こ!」
握られた手を、ぎゅっと握り返す。
「そうだね。僕も連れてってよ」
―この手を繋げるうちは繋いでおきたいんだ。
いずれ僕らは消えてなくなってしまうから。