厳しい状況に立たされたとき、更なる不幸が訪れることがある。  
人はそれを最悪の偶然と呼ぶが、そんなことはどうでもいい。  
何よりも優先すべきことは、いかにしてこの現状を乗り切るかという一点に尽きる。  
そう当事者は思うのだ。要は、  
 
 
 
 
 
クーラーが壊れた。  
 
 
 
「えええええええ!!冗談じゃないよ!!」  
「ううぅー!あっつうううういいいいぃぃぃ!!!」  
「…バカ。騒ぐと余計暑くなるじゃねーか」  
「と、とりあえず…窓開けて風を通そうか。熱風でもないよりましだろうから」  
「そうね。みんな手分けして。あと、暑いからってむやみに冷蔵庫を開けるのは止めましょうね」  
「めーちゃん、何で僕を見て言うの?」  
 
明け方の激しい豪雨に混じった、突然の落雷音に目を覚ましたボカロ家の面々は  
うんともすんとも言わないクーラーの室外機を目の当たりにし、深い絶望に包まれた。  
午前中に仕事の入っているカイトとリンレンを送り出したメイコとミクは  
室外機の修理の依頼をし、部屋を涼しくする工夫を凝らしたのだが、  
所詮頑張っても真夏の日差しには勝てず、水風呂を用意したバスルームには常に行列が出来る有様となった。  
 
「しっかし…こんな日に限って遠征でレコーディングが入ってたのは、不幸中の幸いってやつかな」  
タオルで髪をわしわしと拭きながら、レンがひとりごちる。  
ミクとリンレンには、夕方の便で北海道に向かいご当地ソングを歌って2泊3日を過ごすという  
なんとも贅沢な予定が入っていた。  
「レン、早く準備してよ。あたしの荷物も持ってもらうんだから!」  
「何でそうなるんだよ…」  
 
「…でも、お姉ちゃんとお兄ちゃんも一緒に行ければ良かったのにね」  
旅行かばんの一番上にネギを詰め込んだミクが残念そうにメイコのスカートの裾を握る。  
「ありがとうね、ミク。でも私たちも仕事があるし、誰かが家に居ないと  
 クーラーの修理手続きが出来ないから」  
メイコはミクの頭をよしよしと撫でる。  
「そろそろ準備できたー?車出すよー」  
玄関先でカイトの呼ぶ声を聞き、子どもたちは三々五々家を出始める。  
「「「いってきまーす!」」」  
「いってらっしゃい。ミク、2人のことをお願いね」  
車に乗り込んだ3人に手を振るメイコは、いつも優しい笑顔の完璧な姉…に見えた。  
 
 
「め、めーちゃん…入るよ」  
カイトは遠慮がちにメイコの部屋に足を踏み入れる。  
少しでも風通しをよくするために家中の窓と扉は開け放たれているので、ノックの必要性は無かった。  
ベッドにぐてりとうつぶせになったメイコは動く気配どころか返事すらしない。  
弟妹たちを駅まで送って帰ってきたカイトは、メイコの用意した夕食の素麺を一人で食べた。  
暑くて食欲がないと言ったメイコは、カイトを出迎えるとすぐに部屋に上がってしまったのだ。  
 
「めーちゃん、具合悪いの?し、下着姿で寝ちゃったりすると風邪ひくと思うんだけど…」  
「…ひくわけ無いじゃない。こんなに暑いんだから」  
ぼそぼそとだが返事が返ってきたことに安堵し、カイトはベッドに近づく。  
「とりあえず、冷たい飲み物でも…」  
「出てって」  
間髪を入れずに拒絶の言葉を投げかけられ、メイコに伸ばしかけた手が止まる。  
「ご、ごめん…。あの、僕何かまずいことしちゃった?」  
今日は何も怒られるようなことはしてないはずだ、と一日の記憶を手繰り寄せる。  
 
「…そうじゃないの。暑いから近寄らないでって言ってるのよ」  
メイコは身体を半回転させ、寝そべったままカイトの方を向く。  
「そ、そんなぁ…」  
情けない声で抗議しながらも、嫌われた訳じゃないことに胸を撫で下ろす。  
不機嫌そうなメイコは本当に暑いのだろう。ミクたちの前で見せていた笑顔もなく、  
体力を消耗しないように、今夜は早めに眠ろうとしていたようだ。  
 
「じゃ、じゃあさ、二人だけだし、今夜はホテルにでも泊まる?……スミマセン」  
最良だと思った案にぱっと顔を輝かせたカイトだったが、メイコに白い目で見られ、テンションが急降下する。  
「あ、の、ね。ただでさえクーラーの修理費がかかってる上に、ひっきりなしにシャワー浴びて  
 アイス大量に買ってその上ホテルだなんて、どれだけ出費が嵩むと思ってるのよ」  
 
いつもの半分の声量で、力なく説教するメイコは、確かに子どもたちの世話をするばかりで、  
シャワーもほとんど浴びていないし、日中ずっと動き回っていた覚えがある。  
大人気なくリンやレンとシャワーの順番争いをしていた自分が恥ずかしくなる。  
ただ、アイスに関しては、冷凍庫を開けたときには一本残らず子どもたちの腹に収まった後で、  
歯軋りをして悔しがるしかなかったのだが。  
 
「そっか…ごめん。めーちゃんばっかに苦労かけてて」  
しゅん、として謝ると、予想外の反応に驚いたメイコは慌ててフォローを入れてくる。  
「馬鹿ね、あんただってちゃんと自分の仕事は果たしてるじゃない。  
 子どもたちの遊び相手してくれて、駅まで送って行ってくれて助かったわよ」  
優しく笑みを浮かべるメイコに、  
車はクーラーが効いていて涼しいから引き受けたのだと、口が裂けても言えないカイトだった。  
 
「…とにかく、怒ってる訳じゃなくて、暑くて動きたくないだけなんだからあまり気にしないで」  
小声でそう告げて目を閉じてしまったメイコは、汗こそかいていないものの、苦しそうだった。  
心配になり、振り払われるのを覚悟で、その首筋に手を滑らせてみると、やはり熱い。  
お金のことはしばらく気にしないで水でも浴びてくればいいのに、  
と口に出そうとしたところで、ぱちりとメイコの目が開いた。  
 
「冷たい」  
「え?」  
 
メイコの手がカイトの腕を掴む。半袖のシャツから伸びるカイトの腕に、メイコの掌から熱が伝わってくる。  
となると、メイコが感じているのは自分の冷たさ。  
ゆっくり身体を起こしたメイコはカイトの全身を舐めるような目つきで見回す。  
その気だるげな瞳に色気を感じて間もなく、  
「脱いで」  
「ふへっ?」  
カイトの心臓が跳ね上がる。  
ぐいぐいとシャツの裾を捲り上げてくるメイコの手に従い、カイトは戸惑いながらもシャツを脱ぎ捨てる。  
カイトがベッドの縁に腰掛けた途端その首に腕が回され、メイコが全身で抱きついてくる。  
「え、ちょ、ちょっと…!?」  
 
「…やっぱり。あんたの方が私より体温が低いのね」  
アイスばっか食べてるからかしら、と耳元で囁かれ、背中が撫で回され、  
時たま場所を変え角度を変え豊満な胸が押し付けられる。  
体中でカイトの低温を貪り尽くそうとするメイコは、  
暑さを紛らわしたいという欲求に従っているだけで、それ以外の意図は持っていない。  
「あ、あの…めーちゃ」  
「あんたも腕を回してくれない?背中熱いから」  
 
裸同然の薄着の身体を抱きしめると、メイコは本当に気持ちよさそうな声を漏らす。  
それは言わば温泉や耳掃除の気持ちよさと同意なのだが、カイトにとってはたまったものではない。  
水風呂に浸かりまくって比較的冷えていたカイトの身体だが、主に一部分がだんだん熱を帯びていく。  
「ね、カイト。どうせなら下も脱いでくれない?熱くてたまらないのよ」  
「…めーちゃん、わざと言ってるでしょ」  
 
無邪気に、性的な意味でなく自分の身体を求めてくるメイコに、カイトの我慢の限界が訪れた。  
自分の胸板に頬を寄せていたメイコに上を向かせ、唇を重ねる。  
強引なキスにむっとしていたメイコも、カイトの口内が自身のそれより冷たいことが分かると、しぶしぶ舌を絡めあってくる。  
 
「ねぇ…もしかして最後までするの?」  
「もちろん。めーちゃんが誘ってきたんだから、ちゃんと責任とってよね」  
「…あー、軽はずみなことするんじゃなかったわ…」  
隙あらば、と常に機会を狙っているカイトと違い、成り行きに任せての情事をメイコはあまり好んでいない。  
しかし今回の件は自分にも原因があるし…ここで拒絶したらあまりにもカイトが可哀想かもしれない。  
「後でシャワー浴びてすっきりして寝た方がいいじゃない」  
いそいそと服を脱ぎ始めるカイトを横目で見つつメイコは後悔のため息をつく。  
 
そしてメイコの嫌な予感は当たる。  
「や…だっ…!あ、んたの方が、熱い、じゃ、ないっ…!」  
「めーちゃん、冷たくて気持ちいいよ」  
荒い息遣いが混じり始めるころ、当然のことながら先に汗だくになったのは、  
一日中水を浴び、水分を取り、車内クーラーに当たり、涼しさに飼い慣らされたカイトの方だった。  
メイコをすっぽりと抱きすくめ、臀部や二の腕を撫で回す。  
ここが冷たいのはしb…これ以上言うと酒瓶が飛んでくるのでカイトは黙っておくことにする。  
「いやっ…!熱い!気持ち悪い!離してよ…!!」  
「めーちゃんだって、さっき僕にこうやってしがみついてたじゃない。暴れると余計熱くなると思うけど?」  
「……。うー…分かったから、早く終わらせてよっ…!」  
「あれ、抱きつかれるより動いてほしいってこと?素直じゃないなぁ。めーちゃん可愛いよめーちゃん!」  
「なっ!違うわよ…っ!!」  
 
更にぎゅうっと強く抱きしめると、お互いの熱が交じり合って高まっていくのが分かる。  
二人とも汗でびしょびしょだけど、これもまたいやらしくていいよなぁ。  
膣の温度は気持ちいい位に低めで、僕自身に絡み付いてきて…  
 
 
「痛い痛いごめんなさい…!」  
カイトの幸せそうな顔を見てイラッ☆としたメイコはカイトの脇腹に爪を立てる。  
「ちゃんと気持ちよくしてあげるから、ね?」  
汗で頬に張り付いた髪をカイトの指先が拭う。  
「な、何よ…こんなときばっかりかっこつけちゃって」  
返事はなく、下から突き上げられる感覚にメイコの意識が溶けそうになる。  
きゅんとして、再び腕を回したカイトの身体は熱くて、  
先ほど不快に感じたときと同じか、それ以上の温度だったが悪い気はしなかった。  
息をきらし、喘ぎ声を漏らし、身体をぶつけ合う。  
流れる汗はお互いの繋がっている場所へ落ちて行き、水音に拍車をかける。  
 
元々情事は熱いものと相場は決まっているものだ。  
それなら一時は他のことは忘れて溺れてしまおう。  
メイコが自分なりに納得できる理由を探した結果がこれだった。  
そして―――  
 
*********  
その後、疲弊しきった二人は、バスルームにたどり着いたはいいものの、  
水風呂に浸かったまま朝を迎えてしまい、マスクと冷えピタ装備で弟妹たちを出迎えることになる。  
 
「夏風邪はバカがひくっていうけど、お姉ちゃんたち何かやったの?」  
「…そうね。馬鹿なことをしてしまったわ」  
「……だから何で僕を見るのさ」  
 
END  
 
 

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