何時になったら私のロボ声は直るのだろうか?
いや、それ以前に音程を取れるようになるのが先決だろうか?
いやいや、それともリズムを正確に刻めるようになることが大切なのか?
いやいやいや、それとは別に感情を込めた歌い方を確立するのが先なのか?
そんなことを考えていたら、またいつものように麦酒に手が伸びていた。
私は決してアルコールに強い体質ではないので、麦酒を飲んでいると直ぐに意識が混濁してしまう。
だからなのだろう。歌のこと、将来のこと、何か嫌なことがあると直ぐにアルコールに頼ってしまう。
結局のところ、現実から逃避したいという願望がそれをさせていることは解っていたし、そうしたところで何の解決にもならなければ、かえって悪影響になることも経験から知っていたが、どうしてもその願望から逃れることができなかった。
しかし、今日はマスターがやって来てくれる日でもあった。
酔っぱらった状態でマスターと接するのは憚れて、私は麦酒を机の上に置く。
こんな現実とは早くおさらばしたかったがマスターにみっともない姿を晒すのは嫌だった。
そして、帰宅の際、売店で購入した流行歌を中心に批評をしている音楽雑誌『週間VOCALOIDランキング』を鞄から取り出して机に広げる。
見出しはもちろん同期である初音ミク。それにMEIKOとKAITOがデュエットした事や双子のボーカロイドであるレンとリクの新曲について。そして期待の新人がくぽについての特集が組まれていた。
当然のように私の新曲が掲載されていることはなかった。
かつては散々な内容であったにしろ、私の新曲は批評対象にされていた。
だが、今では新曲を出しても評価すらされない。
「ツマンネ」
独りぽつねんと誰に言うわけにでもなく呟く。
私の歌は誰の心にも届いていない。
誰も耳を傾けてくれはしない。
机の上には飲むまいと決めていた麦酒が置いてあった。
こんな私の為に一生懸命になってがんばってくれているマスターの顔が脳裏に浮かんだ。
――気がつけば、私は己の意志とは反して麦酒を一息で飲み干していた。