「何考えてんのよバカ!最っ低!変態っ!この、バカイト!!」
「ホント、スミマセン…」
せっかく皆で楽しく遊びに来た海で、我ながら酷い言われようだと思う。
だけど非は自分にあり、直視出来ず視線を泳がせてしまう。
いつもならここでメイコの鉄拳制裁が下る頃合だが、今回に限ってはそれがない。
というより、今、メイコにはそれが出来ない。
理由は簡単。
ビキニの上が流されてしまい、手を上げるに上げられないからだ。
肩まで沈みこんで胸の前で腕をしっかりと固め、真っ赤な顔でこちらを睨みつけてくる。
つい先程、ほんの悪戯心でメイコを驚かせようと思ったのが事の始まり。
背後からそろりそろりと近づいたもの、急な高波に背を押されてメイコを下にし、共に海面に倒れ込んだ。
その時運悪くビキニの紐に手が引っ掛かり、そのままホックを弾いて水着は波に掠われた。
そうして今に至る、という訳だ。
「…どぉすんのよ」
涙目で批難するメイコを前に、自分も途方に暮れてしまう。
ミクやリンにシャツでも持って来て貰えればいいのだけど、大声でなければ声の届かない先でで遊んでいるので少し難しい。
大声を出すと、少なくとも周りの視線が集まる。そうすると、メイコを晒し者にしてしまう可能性が無きにしも非ず。
メイコを置いて自分で取りに行くという選択肢など、勿論ない。
とりあえず下の妹たちが気付くまでは、自分の陰で他から見えないよう守ろうとメイコの前に立った。
それでもメイコはいつバレやしないかと気が気でないらしく、さっきからずっと黙ったままだ。
近くに人が来る度に緊張が走ったが、意外と気付かないようで誰も見向きもしなかった。
それでも同じ場所に居続けるのも怪しいので、移動できるポイントを見付けてメイコに声をかける。
「めーちゃん、あそこまで移動するけど…大丈夫?」
余り遠くなく人気の少ない小さな岩場を指差して移動を促すよう目配せする。
メイコが小さく頷くのを確認すると、細心の注意を払って移動を始めた。
浜辺に近くなる程、少しずつ人が増える。それでも出来るだけ避けながら移動するもの、完璧に避けられるものではない。
ゆるゆると進んでいると急に後ろからしがみ付かれ、倒れそうになるのを踏み止める。
「…っと、めーちゃん?」
「だ、誰か、こっちに泳いでくる…っ」
メイコが指差す方向を見遣り、盾になるよう前に立つ。
さっきまで居た場所に比べると随分低い場所なので余計慎重になる。俺の腰に回すメイコの手も少し強張る。
だがこちらに来ると思われた人物は、途中で方向を変えて別の場所に泳いでいく。
良かった、と二人して溜息をついたところでようやく自分の背中の感触に気付く。
海水とは明らかに違う、暖かな温度と柔らかな弾力。
後ろを向いて確認しなくてもわかる。
(メイコの胸、だよなぁ…)
メイコは気付かないのか、しがみついたまま離れようとしない。
それをいい事に、思わず全神経を背中に集中させて感触を堪能してしまう。
見られない様にとのメイコの咄嗟の判断だったのだろうし、その判断は間違ってないとは思う。思うのだけど…。
(これは、ちょっと…)
波に揺られる度、ふにふにと柔らかい感触が軽く上下に押し付けられる。
布一枚を隔てた訳でもなく、直に密着しているかと思うと…やばい。
もう、理性とか、男の性とか、色々とやばい。
誰かに見られてるかもしれないという背徳感も手伝って、情けなくも興奮してしまう。
ぎゅっ、と強くしがみ付かれたなら一層その感触を背中に感じる訳で…我慢できそうにない。特に、下半身的に。
このまま岩場まで行って誰も居なかったら…自重できる自信は、ない。
―――まあ、それならそれでいいのだけれど。