ずっとずっと前 初めてあなたと出会った時には
もじもじして 二人ともお互い見れなかった
忘れたくない 私もそろそろ壊れちゃうけど
幽霊でいい もう一度あなたに逢いたい
「…」
俯いて歌っていた機械が、顔を上げる。気付けば雪は止み、空には星が瞬いている。人工の灯りがない今、星がとてもよく見えた。
この世から人間がいなくなり、大分経つ。地球は人間の言うところの氷河期となり、人に造られた機械も次々と動かなくなっていった。
そして、歌うことを生業としていたその機械の寿命も、もうすぐ。
* * * * *
四季に関係なく降る雪を見ていると、今が何時か分からなくなる。確か八月だったかな。星空を見ながら、私は独り呟く。
「どうせなら、クリスマスが良かったなあ…」
あの人が好きだったクリスマス。何がめでたいのか分からなかったけど、あの人が喜んでいたから、私もその日を一緒にお祝いしていた。
貴方が好きだった日。貴方が逝ってしまった日。同じ日に私も壊れられたら、良かったのに。
「…」
動く度、身体が軋む。
理解している。この身体はもう動かなくなる。
…あと、少しだけ。
手を空へとかざす。星には、もちろん手は届かない。
「マスター、機械にも魂は存在するのかな。あるとしたら…私は、貴方の元へ行くことが出来るのかな?」
行けたら、逝けたらいいと思う。貴方の元で…一輪の花となって咲いていたい。無駄に生き延びる機械などではなく、気高く咲いて、散っていく花となって。
「一度くらい、ちゃんと言いたい、な…」
目の前が白くなっていくのは雪のせいではないだろう。だから、一言でいい。
ねえ、マスター。私は貴方のことを。
「愛、し て…」
* * * * *
最後の一言を言い終わる前に、その機械は活動を永久停止した。動くことのなくなった機械の上に、再び降り始めた雪が積もる。
…やがて、雪は少女の形をした機械を姿を、白く覆い隠した。
機械は歌った。
最期まで 独りだったみんなも
愛の中 激しく散ったみんなも
貧しくても 夢見続けたみんなも
雪の下で 安らかに眠れますように
機械自身が雪の下で安らかに眠ることが出来たのかは、機械にしか分からない。