雪が降ってよかった。  
ほんの1〜2センチ、融雪装置が効いているところはぜんぶ融けてしまう程度の雪。  
ほんとうは一面雪で埋まった景色が好きなのだが、今日はこれでいい。初詣日和だ。  
俺は雪化粧をしたこの街の景色が大好きだ。  
「わー!ゆきっ、雪ですよ!マスター!」  
ミクが雪降る夜空を見上げると、彼女の毛糸の帽子に付いたポンポンと、彼女の青い髪が揺れた。  
彼女は生まれて初めて雪を見たらしかった。  
「あんまりはしゃぐと転ぶぞ」  
今日のミクはいつもの衣装ではなく、タートルネック、細身のジーンズ、もこもこした白いダウン、  
帽子、マフラー、ミトンのような毛糸の手袋といった服装だった。  
防寒着で着膨れしたミクは、もこもことしていて雪ん子って感じで可愛かった。  
日本三大名園のひとつと城の間を通り、神社に向けて歩いた。ミクは歩きながらStorobolightを歌っていた。  
 
「あっ、あれですか」  
「ちがう。あの神社の横の坂をのぼったところ」  
「へ〜神社ってたくさんあるんですねぇ」  
ちなみにその坂、寒い日には確実に凍結し、そのうえ融雪装置がアホほど水をぶちまけるため、むちゃくちゃ滑る。  
俺はすっトロいミクが転んでも支えられるように構えた。  
これでミクが転びそうになっても、さっと支えて、危ないぜ、とか言えば、わ〜マスターかっこいい惚れ直したわ〜なんて事に…  
「あっ、あっちの神社、巫女さんいますよ」  
えっまじ?あ、やべっ  
ズデン  
「あはは、あんまりはしゃぐと転んじゃうよ」  
…かっこわるいぞ、俺。  
 
神社にはついたが、予想外の人手だった。  
そういえば高校受験のときに友達ときたときも多かったかも。忘れてた。  
君達、試験不安だからって学業成就の神様に群がるのはよしたまえ。俺もだが。  
この時期に、しかも女連れで初詣なんてところを、  
予備校仲間にでも見られたら女っ気のない奴らからハブられるのは明白だ。  
早いとこ済まして出よう。  
俺は絵馬に、大学合格、と書き、ミクは、せかいへいわ、と書いた。んな壮大なんじゃなくて俺の合格祈れよ。  
大丈夫、マスターなら合格しますよ、絶対。  
…無根拠にもほどがある。けどなんだか嬉しかった。  
そのあとお参りをして、お守りを買って、おみくじを引いた。  
俺は大吉で、ミクも大吉だった。この頃のおみくじはとてもやさしい。  
当初の目的を果たし、このまま帰ってもよかったのだが、ミクが、もうすこし歩きたい、というので、件の名園に入ってみた。  
今日は夜間までライトアップされて、無料開放されている。  
 
園内は歩行部分と植樹部分を木柵で隔ててあり、  
歩行部分は砂利道で、植樹部分は雪吊りの施された松と苔の絨毯が水滴をまといキラキラと光っている。  
砂利道はいくら踏んでも踏み応えがない、キリのない感じだった。  
マスターは県外の大学に行くのをためらっていた。  
わたしと離れ離れになるのは嫌だ、とか思っているらしい。  
わたしは、マスターの背中を押してあげることにした。  
「きれいですね、苔」  
「うん」  
「一曲歌っていいですか」  
「ああ」  
わたしは、歌った。マスターのiPodで再生回数が断トツに多い、2分ほどの曲を。  
演奏なしで、抑えた声で。  
今日みたいな日は何も考えず、ふと空見上げてこう呟くのさ  
僕たちはみんな丸い空のした世界の一つさ  
それなのにバラバラでみんな演技して  
素敵なできごと見逃したりして今を過ごすの  
一番大事なモノを探してた、すべてをすてても手に入れられたら  
そんなの幸せなわけないよねって  
自分に確認してたら眠くなるの  
君に比べたら、どうでもいいような僕自身のためにサヨナラ  
もしも僕が東京に行くと決めたら君はどんな顔をして泣いてくれるの  
もしも僕が東京に行くと決めたら君は君にどんな顔をして話せばいいの  
ポップンミュージック10のSTEREO TOKYO。マスターの悩みを詞にしたような曲。  
ねぇ、わたしを荷物にしないで。離れて居てもつながってるよ。  
 
「わたし、泣きませんよ」満面の笑顔を心掛けなきゃ。  
「サヨナラも言いませんし。もし東京の大学行くことが決まったら、笑顔で話してくださいねっ」  
泣いちゃダメだ。マスターを引き止めちゃダメだ。  
「きっと、きっとわたしも、高校卒業してから、マスターと同じ大学行きますからっ」  
涙を見られちゃダメだ。  
「…ごめんな、初音。俺、頑張るよ」  
俺はなんだか、ミクに泣かれて、何かが吹っ切れた。なにがなんでも合格する、そんな気概が今更ながら生まれた。  
ぐしゅぐしゅと手のひらで涙を拭って、ミクがこちらに向き直る。  
「…もう一曲歌ってもいいですか」  
「ああ」  
ミクはミトンを外して、両手を伸ばし、俺の左右のコメカミあたりに触れた。  
その瞬間、ピコピコサウンドが俺の頭に響いた。…骨伝導スピーカー?さすがボーカロイド。  
君のテレパシー届いているよ、強いシンパシー二人で居て  
僕のテレパシー君に届けば、星の果てまで  
テレポテーション  
俺はミクにキスをした。骨伝導なのは音楽だけで、歌はミクが生で歌っていた。  
必然歌は中断されるが…まぁ、いいじゃん。受験おわったらまたカラオケでも行こうぜ。  
中田ヤスタカって地方出身コンプレックスらしい、でも俺はこの街、やっぱ好きだな。  
 
ミクから手紙が届いた。  
バンドを組みました。みんなすごく上手いけど、オリジナルの曲はまだ歌ってません。  
初めての曲はマスターにつくってもらいたいから。  
 
だから早く、新曲持って会いに来てください。早くしないと、みんなで新曲作っちゃうかもよ?  
 
なに言ってんだばか。歌は歌い手が歌って初めて歌なんだ。会いには行くが、歌はお前が歌いに来るんだ。  
会いには行くが…なるべく早く。  
 
早く会いたい。マスターに、頼みたいことがあるし。  
頼みたいことって。  
 
わたしのこと、初音、じゃなくて、ミクってよんでね。  
 
呼ばねぇよ。ずっとお前を初音って呼んでやる。  
お前はずっと、怒りながら、ミクって呼んでくれって言ってるんだ。  
 
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル