「ねえマスター。おかしいです」
「何がだ」
「僕はこんなにメイコのことが好きなのに、何でメイコは僕を避けるんですか?」
「は?」
「メイコが僕を避けるんです。怯えた目で、後ずさって」
「……お前…メイコに何かしたのか」
「そんなに酷いことはしてないはずなんですけどね」
「絶対変じゃないですか。僕はメイコのこと大好きなのに、ずっと一緒にいたいのに、
僕だけのものでいてほしいのに、メイコは僕が触れようとすると泣きながら拒むんです」
「両手で自分を庇うように身を竦ませて、鬼か悪魔を見る目で睨みつけてくるんです」
「僕はメイコが好きなんだから、メイコも僕を好きなはずなのにどうしてですか、マスター」
「お前どこかおかしいのか?」
「いたって正常ですよ。エラーも出ていませんし、歌もちゃんと歌えます。
昨日音入れをしたばかりじゃないですか」
「……質問を変えよう。メイコはどこにいる」
「部屋だと思いますが」
「メイコは無事なのか」
「無事…とはどういう状態を指すのか分かりませんが、少なくとも外傷はありません」
「どういう…」
「ずっと泣いているだけで、僕の言葉なんか聞きやしない。
なんとかこっちを向いてもらいたかったんですけど…―――ああ、そうだ。
マスター、メイコを壊してもいいですか?」
「な……っ!?」
「壊れたボーカロイドはもうマスターには必要ないでしょう?メイコを僕にくれませんか」
「……カイト、壊れてるのはお前の方だ。頭脳回路のどこかが狂っちまってる。
メンテナンスを受けるんだ。一度スリープモードに移行させて…」
「イヤです!マスターも僕の邪魔をするんですか?どうして僕の気持ちを分かってくれないんですか?」
「カイト!自分が何を言ってるのか自覚してるのか!?」
「もちろんです。僕はメイコを手に入れるためなら何でもする覚悟があります。
メイコを壊して、逃げられないように閉じ込めて、そしたらメイコは僕だけのものに」
「なるわけないでしょ」
「メイコ!!大丈夫か!カイトに何された!?」
「めーちゃん…何で?何で僕を避けるの?僕のこと本当に嫌いになったの……?」
「近寄らないで。私はあんたのものになる気なんかさらっさら無いわ。私は私自身のものよ。
私を壊すですって?調子に乗るんじゃないわ!もっぺん言ってみなさいよこのバカイト!!」
「うぅ…めーちゃんの意地悪……」
「事情を説明してくれないか、メイコ」
「お騒がせしてすみません、マスター。こいつが染まりやすい性格なのはご存知でしょう。
どうせどこかでヤンデレ小説でも読んできたに違いありません」
「……。何を馬鹿やってんだお前は」
「だ、だって…めーちゃんが朝から冷たくて……僕のこと嫌いになったのかと思って、
僕、どうすればいいか……っ」
「いくら私だって……G(黒い悪魔)掴んだ手で寄ってこられたりしたらヒくに決まってるでしょうが!」
「そんなぁ…ちゃんと仕留めたのに…褒めてもらいたかったのに……」
「いいからさっさと手を洗ってきなさい!」
「はい……」
「ご迷惑をおかけしました。後でしっかり締めときますからご心配なく」
「まったく…本気で壊れたかと思ったぜ。同調性に優れた製品特徴ってのも厄介なもんだな」
「本人の個性が発達するまでにはもう少しかかりそうですね。まだ来たばかりですし、大目に見てあげてください」
「へいへい。それにしても…メイコにも可愛い所があるじゃないか」
「さすがの私にも苦手なものくらいはありますって…」
「めーちゃん!手洗ってたらゲジゲジ見つけたよー。ほら見て見て!」
「こ、こら、俺の後ろに隠れるんじゃ…ぎゃああぁぁぁ!!」
END