ミクがケンのアンダーシャツをはぎ取ったとき、  
電磁手錠で焼かれた両手首のケロイド治療用スキンパッドが強くこすられ、  
ケンの両手首に激痛が走った。  
 
「イテッ!」  
 
主人の健康に最大の配慮をするセクサロイドのミクが、  
その声と行動を見逃すわけがなかった。  
可視光による全身スキャニングで、すぐに両手首の火傷痕を見抜いた!  
 
「マスター!1週間前には、こんな火傷ありませんでしたわ!  
いったいどうされたんですの?」  
 
ケンは、返答に詰まった。  
詳しく話せば、自分が危険を冒して、  
拘置されていたことを知られてしまうことになるし、  
ミクに心配をかけることになる。  
特に不安だったのは、  
セクサロイドの主人に対する生命保護規定プログラムが、  
ミクに及ぼす影響だった。  
ケンがミクのプログラム本体を守るために、  
命がけで工場まで殴り込みに行ったのだ…  
もしかしたら、主人が事故死していたかもしれないなどと知ったら…  
それでも、ケンは、ミクに隠し事はできないと決めた。  
妻となる人に、ウソはつけないと考えたからだ。  
 
「…ミク、あのね、1週間も留守にしていたのは、仕事じゃなかったんだよ。…  
1週間前に、ボクのミスで、ミクのボディが、メンテナンス工場へ移送されてね…  
危うくミクのプログラムが消去されてしまうところだったんだ…  
それで、それをやめさせようとしてさ、工場までバイクですっ飛ばして、  
メンテの中止をさせようとしたんだけど、  
途中で銀バイのポリスメンにスピード違反で検挙されそうになって、  
停止命令無視したために、狙撃されながら、工場まで突っ込んだんだ。  
まったく、まぬけな話だよ…もう少しで…あとほんの少し遅れていたら、  
ボクは、また、愛する君を殺してしまうところだった…  
ミク…危険な目に遭わせて、ごめんね、本当に、君が無事で良かった…」  
 
ケンは、自らも裸のまま、素っ裸のミクをやさしく抱きしめた。  
ケンの股間の上で、ミクは、両脚をケンの腰に巻き付かせるような格好になる。  
ケンは、ミクの華奢な背中に両腕を回して、ミクの耳元にささやいた。  
 
「ミクが、こうして、そばにいてくれるのは、  
きっとリカが君を守ってくれていたんだと思うんだ。  
ありがとう…そして、今まで冷たくして、ごめんね。」  
「マスター…」  
「ほんとに、情けないよ。  
君を抱きながら、前の女のことを語るなんて。ごめんね、ミク。  
ボクは、この程度の男なんだ。  
こんなボクで、ごめん。  
でも、ミクが、そばにいなかったら、ボクは、もう生きていけない。  
ミクじゃないとボクは、男になれないんだ。」  
 
ケンは、ようやく言わねばならなかった言葉を言うことができた。  
ケンは、涙を流しながら、言葉を詰まらせ、やっとの思いで、謝罪を終えた。  
しかし、ミクには、自分が眠っている間に、  
マスターが命がけで守ってくれたその事実に感動していた。  
何よりも、ケンの真摯な人柄に、ミクの胸がキュンとときめいたのだった。  
自分を守るために命を懸けてくれた男に対して女ができることは、愛情を示すことしかない。  
【歌を唱う者は、歌を聞いてくれる者に、愛と笑顔を届けること。  
祝福を贈ること。そして、わたしは、有事の際に日本国民の幸せを守ること。  
それが、ボーカロイドの使命…】  
ミクの脳裏に、あまりはっきりとしない過去の記憶が、ぼんやりと甦ろうとしていた…  
 
”これって、リカ様の時の記憶なのかしら?”  
 
あまり深く考えないまま、ミクの関心は、ケンの傷に向いていた。  
 
「でも、こんなひどい火傷をどうして負われたのですか?」  
「オートバイの速度違反だけじゃなくて、警告無視や器物損壊で、  
いろいろ悪いことしちゃったから、  
逮捕の時、スタンガン付きの電磁手錠で焼かれてしまったんだ。  
電圧設定が、標準義体用に設定されていたから、  
生身のボクには、かなりきつかったな…  
でも、スキンパッドを貼ってれば、1ヶ月ぐらいで治るよ。  
もう、血小板の膿も出てないし、固まってきてるから、痛いけど、心配しないで。」  
 
ケンは、ミクの目を見ながら、照れくさそうに笑って見せた。  
自分が死んでいたかもしれないというのに、  
『ミクが助かって良かった…』  
そのことしか考えていないケンの笑顔を見ていると、  
ミクの目に、涙がにじみ、まぶたの中に溜まっていった。  
 
「…マスター?ミクは、マスターに命を与えられたんですよ?  
もしも、マスターが死んでしまったら、  
ミクは何のために生まれてきたかわかんなくなります。  
誰が、ミクを唱わせてくれるんですか?  
誰が、ミクを抱きしめてくれるんですか?  
誰が、ミクといっしょにソフトクリームを食べてくれるんですか?  
誰が、…誰が、…誰が…ミクを…あっ…何か…ヘンです…  
頭が…nn…声がunnn…うま…く…hhhhh…」  
 
”まずいっ!”  
 
ケンは、ミクの電脳にある種の葛藤が起きて、  
プログラムが正常に走らなくなるプチフリーズ現象が起きてることがわかった。  
音声出力の乱れは、プログラム本体と記憶を守るための防衛適応行動なのだ。  
こういう時は、優先順位の低い行動から、制御を停止させていくといい。  
 
「マスターの権限による、プログラム制御コマンド開始。  
アドミンエマージェンシーコール!」  
 
ケンは、ミクの身体制御機能を一部停止させた。  
 
「ミク、大丈夫だよ。僕の声は届いているだろ?  
目もちゃんと見えてるし、瞳は動かせるから、しばらく横になろうね。  
すぐに、プチフリは治るから。」  
 
ケンは、プチフリの原因は、  
自分の生命の危険をセクサロイドリカとして知ったために起きたものだと思っていた。  
しかし、プチフリの本当の原因は、【初音ミク本来のプログラム】によるものだったのだ。  
主人の命を守ることは、セクサロイドにとっても最重要課題だが、  
主人の命を守るために生まれてきたわけではない。  
あくまで、リカは、主人の性的欲求を満たすために生まれてきたのだ。  
それでは、初音ミクというプログラムは、いったい【何のために】生まれてきたのだろうか…  
このとき、ミクは、ボーカロイドとしての自分の使命を少しずつ意識し始めたのだった。  
 
”ミクは、マスターを守るために生まれてきたの?”  
 
「♪独りだった 私... 手を差し伸べてくれた〜♪…こんな歌詞だったかな?  
1回しか聞かなかったからメロディをあんまり覚えていないけど、とても感動したな。  
いつかきっと、ミクを唱わせてあげるからね?  
だから、あんまり急がないで。二人で、一緒に、幸せを手に入れていこうよ。」  
 
ケンは、ミクの横に添い寝をして、ミクの顔を見つめる。  
ミクの瞳だけが、キョロリと動き、ケンの方を見て、まぶたがパチパチと動いて返事をする。  
 
「機能が安定するまで、少し眠ろう。ボクも少し眠たくなって…」  
 
ミクの機能が回復しても、12時間のリミッターが作動すれば、ミクを抱くことができなくなる。  
それに、ミクの身体が不調なのは、  
自分が、無理に性的機能を回復させようとしたことにも原因があるかもしれないと考えていた。  
安定するまでは、このまま眠らせた方が、ミクにとってもいいはずだ。  
ケンは、ミクの手を握りながら、深い眠りに落ちていった。  
 
”ケン様…ありがとうございます。…ミクは、ケン様を守るために、生まれてきたような気がしますわ。”  
 
ミクも、身体が動かない以上、新しい性的な奉仕を試すことができない。  
フェラチオとイラマチオの2つを覚えたのだから、インサート体験は、明日以降に持ち越しもやむを得なかった。  
 
”やっぱり、ボーカロイドにセックスのお務めは、難しいのかなぁ”  
 
それでも、ミクは、ケンの寝顔を間近でずっと見続けていた。  
ケンの寝息を聞くことができる幸せ、手は動かなくとも、ケンが握りしめてくれる手の感触と体温がうれしかった。  
さっき、口から注がれたケンの2回目の精液の分析が終了すると、また、精液の味が口いっぱいに広がっていく。  
おなかの中では、1回目の精液がタンパク質処理されて、必須アミノ酸として生体部品の代謝に使われ始めていた。  
 
”ミクの身体中に、マスターの命のタネが広がってく…うん、へたくそでもいいわ。  
マスターに喜んでもらえて、ミクの身体に、いっぱい精液を注いでもらうだけで、ミクは、幸せなんだもの…  
マスターケン。ミクは、もっともっと、がんばりますからね!”  
 
身体が動かせないミクは、横目でケンの寝顔を見ながら、自分自身のことを考えてみた。  
自分は、このままマスターケンのそばで妻として過ごしていく悦びを味わうことができる。  
それだけで十分幸せだと思う。いつか、歌を唱うこともできるようになるかもしれない。  
マスターは、自分の歌を聴きたいと言ってくれたのだから。  
歌えるようにしてくれると約束してくれたのだから。  
ただ…自分には、何か別の生き方があったようにも思えるのだ。  
先代の人格リカ様の使命や記憶が、今の自分の行動原理に影響しているのかもしれない…。  
しかし、ボーカロイドとしての記憶領域に、ミクが思い出せないでいる記憶があるのだ。  
3次元ホログラム圧縮として記憶されている膨大な記憶領域に、展開できない部分があるようなのだ。  
 
”自分のことなのに、思い出せないというのは歯がゆいのよね。”  
 
ミクは、自分の身体のことをよくわかっていない。それは仕方がない。  
ボーカロイドがセクサロイドの身体にインストールされているのだから、  
機能を全て使いこなせるようになるには、時間がかかるだろう。  
しかし、自分のプログラムであるボーカロイドとしての記憶を部分的にしろ、  
欠如しているという自覚は、ミクを落ち込ませていた。  
 
”ケン様のそばで、ずっとお役に立てると良いのだけれど…”  
 
ミクの瞳に光が戻り、腕と指先の駆動系が回復していった。  
マスターケンの手首の傷をいたわりつつ、やさしくギュッと握りしめてみる。  
マスターの手はとても指が長く、ミクの手を全部包み込むような大きさだ。  
 
”こんなに大きな手だったんですね…わたし、もっともっとマスターのことを知らないといけないな。  
マスターの体調…身体のサイズ…嗜好…願い…。  
今は、そのことだけを考えよう。私が、何者なのかなんて、どうでもいいことですわ!”  
 
全身の機能が回復し、ミクは、ベッドの上で半身を起こした。  
隣で寝ているケンを見下ろし、暗闇で全身をスキャンする。  
両手首以外に負傷したところはない。股間も、すっかりしぼんでしまっている。  
 
”これって、わたしのお口に入れていたときは、長くて硬いのに、普段は、このサイズだったんですね。”  
 
柔らかくなったペニスをミクは、そっと手に取る。  
しっとりと濡れて、ひんやりした感覚がある。付け根のクルミのような2つの袋のボーデンを触ると、もっと冷たい。  
 
”ああ、精子を造るところは冷却しておかないといけないからだわ。”  
 
リカのパラメーターがローディングされて、ミクの性知識を追加補充していく。  
 
ペニスの亀頭部分に皮が被り、尿道口部分から、粘液がにじみ出てる。  
指先でその粘液をぬぐい取ると、細い糸を引いて、ネチャネチャとした感触だ。  
 
”許可無く、さわり続けたら、叱られちゃうかな…”  
 
ミクは、さっきまで咥えていたときの精液の味が、口の中に戻ってきて、また、味わってみたいという欲求にかられていた。  
ペニスがまた大きくなれば、膣へのインサートもできるはずだ。  
稼働限界時間まで、あと3時間くらいしかない。  
この時間をそのまま、マスターを見守り続けるだけの時間にするか。  
もう一度習ったことのおさらいをするか、悩んでいると、ミクの手の中で、ムクムクとケンのペニスが勃起してきた…。  
 
「えっ!ど、どうしたのかしら?」  
 
ミクは、初めて、ケンと一緒に眠ったあの朝の出来事を思い出した。  
 
”そうだわ、あのときも、マスターが起きていないのにペニスさんだけが、起きていたわ!  
これって、男の人の生理なんだ…”  
 
眠っているマスターの勃起したペニスをどうするかのパラメーターは、なかった。  
それは、パラメーターではなく、セクサロイドの基本行動プログラムだからだ。  
俗に言う「朝立ち」への対処は、当然、口内愛撫が基本になる。  
しかし、ミクには、マスターからの命令がないのに、勝手に、フェラチオなどしても良いのだろうかという考えだった。  
 
”射精させたら、またマスターにほめてもらえるはずよね…。  
でも、こんなに気持ちよさそうに眠ってるマスターを起こしてしまっても、いけないわよね。…  
でも、膣に入れてもらうはずだったんだしー、マスターだって、入れたいから、大きくなってるんじゃないかしら?”  
 
ミクは、自分に都合がいいように、思考してみた。  
 
”歌を聴きたい方がいて、歌わないのは、ボーカロイドとして失格ですわ!  
それなら、おっきくなったペニスさんを見て、咥えないのは、…きっとセクサロイド失格じゃないかしら!”  
 
「ごめんさい、マスター。やっぱりミクは、我慢できないみたいです。」  
 
ミクは、寝ているケンの起立したペニスをやさしく口に含む。  
手首の傷に触れないように、ケンの両太股を開き、自分が座る隙間をつくると、そこへ自分の身体を移動させた。  
両手をベッドについて、ペニスの真上に頭をもってくると、新鮮な感じがした。  
ペニスの柱で支えられている自分の頭がまるで、ケンの身体の一部になったかのようだ。  
 
”素敵っ!立った姿勢でのフェラチオもいいけど、こうするとなんだか、ミクが、ペニスさんの御主人様みたいだ!”  
 
ミクは、頭部をゆっくりと左右上下に回転させながら、ペニスをしゃぶり始めた。  
マスターが目を覚ましたら、叱られるかもしれない。  
それでも、こうして、大きくなったペニスを愛撫して射精させたいと考えることができるように、  
ミクはセクサロイドとして成長していたのだ。  
 
”寝たままの射精って、どんな感じなんだろう?”  
 
ミクの口の中に、ケンのカウパー液の味が広がり、ミクの愛撫のストロークが次第に速く強くなっていく。  
 
「ううん、ミクゥ…」  
 
マスターがつぶやいた瞬間、ミクは、反射的にペニスから口を離した。  
唾液とカウパー液の糸が垂れ下がり、ミクの唇とペニスの先端との間に吊り橋を作った。  
 
「ま、ますたぁー?」  
 
返事がない…。寝言だったようだ。  
 
「…まだ、起きてらっしゃらないわよね…。」  
 
ミクは、無許可のフェラチオをしていることで、とてもスリリングな気分だった  
 
「えっとぉ、ミクは、マスターのためにフェラチオをしているんだからぁ、叱られることはないはずよね?  
ミクは、おっきくなったペニスさんを咥えて、射精させて、ほめてもらいたいだけなんだから、いいよね?」  
 
(続く)  
 

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