チリリ、チリリと庭で鈴虫が鳴いている。  
真っ黒な夜空には真ん丸の大きなお月さまが顔を覗かせていた。  
 
今日は陰暦の八月十五日……いわゆる十五夜である。  
 
 一年の内一番月が綺麗に見える今日、例にもれずボカロ一家も名月を愛でようと  
お月見の用意をしていた。  
 
「すすき取ってきたよー」  
「ねえ、お団子どこに飾るの?」  
「あれー? 御酒どこおいたっけ?」  
 
 どたどた、とあっちへ行ったりこっちへ行ったり、お月見の準備で台所はてんやわんやだ。  
ミクはとってきたすすきを瓶に挿し、レンはピンクのエプロン姿でお団子を作っていた。  
リンはそれを月見台へと供えている。  
カイトとメイコは何かを探しているようだった。  
 
 そんな忙しなく動くさまを眺めながらがくぽはひとり溜息をついた。  
これではみなで月を望むのはまだまだのようだな、  
そう思いながら縁側の柱にもたれ座る。  
 
 あらかじめ作っておいた串団子を一口頬張ると、ふと月に目を移した。  
おあつらえむきに十五夜の今日は満月であった。  
 
 
 暗闇に浮かぶ黄色いそれ。  
時折、叢雲が月を隠すがそれでも尚、淡い光を放ち闇を照らしていた。  
 
――否。  
月は自ら光ったりはしない。  
太陽の恩恵を受けて輝いているだけにすぎないのだ。  
 
 光がなければ認めらぬ月……か、  
無意識にがくぽは自らを月に重ねていた。  
(我も彼らのような太陽がなければここにいなかったのかもしれないな)  
そう考え、遠い月に想い馳せる。  
 
 白き清らかな横顔に降り注ぐ銀色の光。  
憂いを秘めた瞳は切なげに天空を眺めていた。  
その様はどこか儚げな印象を持たせた。  
 
 
「見て見てーがっくんー!」  
 
 名を呼ばれはっと我に返る。  
声の主のほうを向くと太陽のように明るく無邪気な笑顔のリンがいた。  
 
「うさぎさんのお団子作ったの! えへへ上手でしょう」  
 
見ると差し出した掌の上に小さなうさぎの形をしたお団子がちょこんと乗っていた。  
食紅で塗ったのだろうか目もちゃんと赤い。  
 
「これは可愛らしい白兎だ、リン殿は器用じゃのう」  
 
得意げな顔で笑うその様も可愛らしいなとそう思っていると  
 
「あ!」  
 
いきなり大きな声を出され驚いた。  
何事かとリンの顔を覗くと、少女はくすくす笑いながら  
 
「がっくんほっぺにあんこついてるよ」  
と、右頬のに付いていた餡を摘みそのままパクッと食べてしまった。  
「かたじけないリン殿、恥ずかしいところを見られてしまったな」  
穏やかに笑いながらがくぽは返す。  
 
「と、リン殿も口の周りにお団子がついておるぞ?」  
 
そういうとリンの唇を指で丁寧になぞった後、  
彼女の真似かそのまま口に運んだ。  
 
 ぼふっという音と共にリンの顔が赤くなった気がした。  
自分でするのはいいが誰かにされるのはこっぱずかしい! しかもく、く……唇!!  
口をパクパクさせて何かを言おうとするが恥ずかしくて、顔が熱くて何も言葉を紡げない。  
それを知ってか知らずかがくぽは微笑ましげにリンの顔を覗くだけだった。  
 
「あんた達ー準備出来たからこっちに来なさい。あ、ミク! すすきと一緒にネギ挿すのやめなさい!」  
「めーちゃん、俺の月見大福どこー?」  
 
 見るとあとの四人は用意もそこそこに既にお月見を始めしていた。  
月にかかっていた雲も消えキラキラと月光が降り注ぐ。  
 
「さて、我らもそろそろ行くか」  
「ちょ……」  
 
 言うが早いかがくぽはまだ頬を朱に染めているリンを、軽々しく抱き上げスタスタと歩きだした。  
突然抱きかかえられたことに戸惑い、さらに赤くなった顔を見られまいとリンは隠すように  
その幅の広い胸に顔をうずめる。  
「がっくんのエッチ……」  
小さく呟いた抗議ははたして彼の耳に届いたのだろうか。  
 
 
 
仲秋の夜はゆっくりと更けていった。  
 
 
 
了  
 

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