今日はがくぽさんと付き合い始めて、初めての地方での仕事。  
珍しく、リンちゃん、レンくん、がくぽさんと私の4人の仕事で、地方に来ている。  
と言っても、もう帰るところなのだけれど。  
がくぽさんとは、まだちょっと恥ずかしいけど、隠れて手を繋いだりキスしたりして、  
自分で言っちゃうけどラブラブだ(エヘッ☆)。  
マスターは仕事があるとかで先に帰ってしまった。  
4人で歌った曲のPV撮影のロケを無事に終えた私達は、  
夕食を済ませてから新幹線に乗るため駅に向かった。  
ところが…  
「止まってる!?」  
私が叫ぶと、がくぽさんが言った。  
「何やら事故があったそうだ。明日の朝まで動かないらしい」  
駅の構内は新幹線に乗るはずだった人達でごった返している。  
「今から明日の朝まで待つのかよ!」  
「えぇーーー!?絶対無理っ!!」  
リンレンが騒ぐ。  
とりあえずマスターに連絡すると、  
仕方ないから近くのホテルに泊まりなさい、とのこと。  
ホテル代はマスター持ち。  
せっかくだからと、駅前に立ち並ぶ安っぽいビジネスホテルではなく、  
駅から通路で繋がった大きなタワーの中の、ちょっといいホテルに泊まる事にした。  
ホテルのロビーはとても高級感があって広々としてる。  
 
「あたし達がきいてくるー!」  
リンちゃんとレンくんがフロントにバタバタと走って行き、しばらくして戻って来た。  
「二人用の部屋、隣同士で二部屋とってきたよ!」  
リンちゃんが得意げに言うと、レンくんが鍵を二つチャリンと見せた。  
リンちゃんと私のペア、レンくんとがくぽさんのペアで別れるのだろう。  
無事に部屋が取れてテンションが上がった私達は、  
早速エレベーターに乗り、部屋のある階へ向かう。  
エレベーターが上がるにつれて広がっていく夜景が、ロマンチックでとても綺麗。  
エレベーターを降りた後も、双子は滅多にないホテルでの宿泊にはしゃいでいて、  
がくぽさんと私はそれをほほえましく眺めて後ろを歩く。  
部屋の前に到着すると、  
「はい、これミク姉達の部屋の鍵」  
と、レンくんが私に鍵を渡してくれた。  
私が鍵を受け取ると、なぜかもう一つの鍵を持ったリンちゃんがドアを開けた。  
「じゃあね、ミク姉、がっくん!また明日!」  
(えっ?何言ってるの?)  
「ごゆっくり〜」  
ニヤニヤして手を振るレンくん。  
(まさか…!)  
私達は一瞬で双子の魂胆を理解した。  
双子はさっさと同じ部屋に入っていく。  
「ちょっっ…」  
「お、おいっ、待ちなさ…」  
パタン。  
無情にもドアが閉められ、私達は廊下に締め出された。  
 
ポカーン。  
数秒の沈黙の後、  
「…ミク殿と私が相部屋だった様だな」  
がくぽさんが諦めたように笑う。  
(う、うそ…二人で一夜を共にするって事!?)  
とりあえず、ずっと廊下に居るわけにもいかない。  
がくぽさんがドアを開け、入るように促すので恐る恐る入ってみる。  
部屋に入ると、私は目を疑った。  
だって、部屋には大きなベッド一つだけしか無かったのだ。  
(一つのベッドで一緒に寝ろと!?)  
私が固まっていると、後ろからがくぽさんも入って来た。  
固まっている。  
私と同じ事を考えたのだろう。  
付き合い始めて十数日。  
私達はキスまでしかしたことがない!  
(そんな…ひどいよリンちゃんレンくん!!  
いきなり一緒に寝ろと言われても…!)  
「とりあえず、荷物を置こう」  
がくぽさんが私の手をぎゅっと握って歩き出した。  
胸がきゅんとした。  
前を行くがくぽさんの表情はわからないけど、ほっぺが赤くなっているのはわかった。  
とにかく今日は疲れたから寝なきゃいけないのだ!  
すぐに、私からお風呂に入ることになり、緊張から回らない頭で体を洗い、  
ブラとパンツ、ホテルの浴衣を着て出た。  
がくぽさんがお風呂に入っている間、私は大きな窓ガラスの向こうの夜景を見て過ごした。  
 
とても綺麗な夜景…。  
だけど、私の意識はつい夜景ではなくバスルームから聞こえるシャワーの音にいってしまい、息をのむ。  
「……」  
(私とがくぽさんがエッチ!?いやいやそんなまさか!!  
でも、この状況はやっぱり…  
でも私色気ないし、そもそもがくぽさんはそんなやらしい事微塵も考えてないかもしれないじゃない!)  
手で顔を覆い、あれこれ考えているうちにガチャリとバスルームのドアが開く音がして、  
振り返るとがくぽさんが出てきた。  
お風呂あがりのがくぽさんの浴衣姿はいつも以上に色っぽくて、なんだか恥ずかしくて俯いた。  
するとがくぽさんにふわりと抱きしめられた。  
たくましい腕の感触にドキドキする。  
がくぽさんは私の頭に頬擦りをすると、ちゅ、とおでこにキスをしてくれた。  
固くなって腕の中に収まったままの私にがくぽさんが微笑む。  
「やっと二人きりになれたな、ミク殿…」  
真っ赤な私とは反対に、がくぽさんはいつもと変わらない優しい笑顔だった。  
変な心配してたのは、私だけかもしれない。  
「…うんっ」  
安心してニッコリと笑った私の頬に、がくぽさんの大きくてあったかい手が触れて、さらりと撫でる。  
気持ち良くて目を閉じると、がくぽさんの顔が下りてきて、キスをした。  
 
がくぽさんの温度と、柔らかくて滑らかな舌使いに溶けてしまいそうな気がした。  
(大好き…)  
途端に部屋は淡いピンクの甘い空気に包まれた。  
唇をゆっくりと話すと、なんだか照れ臭くて、二人で笑った。  
(そうよ。キスするだけでこんなに幸せなんだもの。私達は一生エッチなんてしなくていいじゃない。ね!)  
私は独りでそんな事を思い、ぎゅーっとがくぽさんを抱きしめる。  
その時だった。壁の向こうから女の子の泣き声らしきものが聞こえて来た。  
おばけ!?と、一瞬ぎょっとしたけど、隣の部屋にいるリンちゃんの声みたい。  
泣いてるんじゃないみたい。笑い声でもない。  
リズミカルに聞こえる甲高い声。  
(こ、これって……これってまさかもしかして…  
喘ぎ声っっ!?)  
一気に心臓が早鐘を打ち始め、顔に熱が集まる。  
(リンちゃん達ったら何やってるのよっ!?  
って言うか壁薄くない!?)  
仕舞いにはパンパンと体がぶつかる音まで聞こえてくる始末。  
…眩暈がする。  
私はあまりの恥ずかしさにがくぽさんの顔を見る事も出来ず、しがみついたまま、完全に動けなくなった。  
双子がわざと聞かせるようにやっているのかと思う程だ。  
容赦なく聞こえてくる声と音に、いたたまれなくてこの場から逃げ出したかったけれど、足は動かない。  
 
さらに追い撃ちをかけるように、私は気付いてしまった。  
キスしてる時からずっと、私のお腹に固いものが当たっている、という事に。  
それはまさしくがくぽさんの、アレ。  
思わず顔をあげると、がくぽさんが熱い眼差しで見つめてきた。  
…そりゃぁ…、いつかは大好きな人と心も体も結ばれたいと思ってたけど。  
がくぽさんなら全部あげてもいいと思ってたけど…  
お姉ちゃんやリンちゃんの話を聞くと、エッチって、裸を見られて、胸とか触られるばかりか、それ以上にもっと恥ずかしい事しなきゃいけないんでしょ…!?  
そんなの、私には無理だよ!!  
がくぽさんはそんな私の気持ちを察したように、抱きしめる腕を強くした。  
そして、涙目の私を見つめてこう言った。  
「ミク殿…君が欲しい」  
(…あぅ…それって私が夢見てた理想の言葉だよ…)  
がくぽさんがまさに少女マンガの王子様の如く、咲き乱れるバラの花をしょっている様に見えた。  
「がくぽさん…」  
私の意志は固まった。  
「私も…あなたが欲しい」  
私はリンちゃんの「イクぅーッ」という叫び声を聞き流しながら、  
がくぽさんにお姫様抱っこされてベッドの上へ運ばれた。  
今夜はきっと、一生忘れられない夜になるだろう。  
 
 
おわり。  
 
 

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