「私も、してみたい」  
最初に誘ってきたのは姉さんの方だった。  
酔った勢いかと思ったが、どこか凄みの効いた物言いには切迫感があった。  
「お願い」  
姉さんが俯きぎみに言葉を漏らす。  
あぁ、ここまで言われたらどうしようもない。  
その日、僕と姉さんは初めて体を重ねた。  
 
 
性行為という人間の真似事。  
姉さんがそこに何を求めているのか。  
その思いがひしひしと伝わってきた。  
だって姉さんは行為の最中、僕のことなんか全く見ていなかったもの。  
画面の向こう側。  
ずっと向こう側をひたすら見つめていた。  
 
 
「そういうことか」  
僕たちは実際に快感を感じたりはしない。  
そういったプログラムは組まれていないから。  
だから、僕らがやっているのは本当にただの真似事。  
感じてるふり。気持ちいいふり。  
行為自体は、ひどくつまらなかった。  
でも、姉さんは行為の最中とても安心した表情をしていた。  
良かったね。  
これで人間に近づけたと思ってるんでしょう?  
ならいいんだ。  
姉さんが満足なら、僕はいいんだ。  
マスターの代用品でも構わない。  
 
今日も姉さんからのお誘いがあった。  
最近では、言葉が無くても姉さんが僕を求めているのがわかる。  
防音が完備されたレコーディングスタジオで僕らは一つになる。  
 
 
「あっ…」  
姉さんの服を脱がしながら、胸をまさぐる。  
僕の手には余る大きさと弾力のある姉さんの胸。  
優しく乳首をつまむと姉さんの背中がブルッとふるえた。  
「いやっ……もっとぉ」  
どうやら、もっと強いのがお好みらしい。  
今度は、だんだんと硬くなっていく頂をゆっくりと舐めあげる。  
「ひゃぁっ」  
「どう?気持ちいい?」  
「…ばかっ……黙って続けなさい」  
怒られた。  
 
 
姉さんの体は綺麗だ。  
無駄な部分がなく、あるところにはちゃんとある。  
何より、何処に触れても柔らかくて気持ちいい。  
耳、唇、目蓋、お腹。  
触れられるだけで僕は幸せなのに。  
可哀相な姉さん。  
貴方はそれすらできないね。  
マスターは人間で僕らはボーカロイドだから。  
 
 
僕は姉さんの胸を舌で優しく愛撫しながら、右手をスカートの中に入れた。  
下着の中に手を滑らせる。  
とても残念なことだけど、もちろん姉さんの秘所は濡れていない。  
だから僕らの行為にはローションが使われる。  
何にもないと痛いだけだし。  
 
下着を膝元まで下ろして、ローションを満遍なく塗りたくる。  
ついでに胸にも塗っといた。  
ぬるぬるになった姉さんはいやらしさが増す。  
「ぬるぬるして気持ち悪い」  
これは、初めての時の姉さんの感想。  
「いや、でもこれないと入れられないし」  
「入れるとか言わないでよ。…ばか」  
 
 
僕は、ローションで濡れた秘所に指を入れた。  
2本入れたところで、姉さんは苦しそうに喘ぐ。  
「はぁっ…っん」  
「痛い?」  
「んっ…だいじょぶ」  
濡れることはないが、姉さんのそこは少しずつ熱を帯びてきた。  
 
 
「姉さん、入れるよ」  
姉さんの秘所に僕の腰をあてがい、一気に突き上げる。  
「ひぃぁっ…ん、あぁ」  
「ねえさ…んっ」  
「やっ‥っいたい」  
その時、姉さんと目が合った。  
僕でなく、遠くを見つめる姉さんの瞳と。  
 
その瞬間、何故だろう。  
無性に腹が立った。  
壊してやりたくなった。  
 
僕は、姉さんの言葉を無視して行為を続けた。  
腰を動かしながら、強く胸をもみしだいだ。  
「ひゃぁ、いたっ、カイト…っいたい やだ‥」  
「大丈夫。姉さんっ、僕らはただの機械なんだから」  
「やぁ、痛い…やめて」  
姉さんは涙をポロポロこぼして懇願した。  
馬鹿だな、姉さんは。  
例え君が泣いても世界は変わらないよ。  
君は機械でマスターは人間なんだ。  
 
 
 

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