「お前、男のくせに乳首がいいの?」  
「いえ、そんな、ことは…あっ」  
「カワイイよ、カイト。…なぁ、もっと、俺だけのために歌ってくれよ…なぁ、いいだろう」  
………  
マスターの性癖が少しズレているのは、ここにきたときからうすうす気付いていた。  
梶井基次郎、椎名林檎、TAGRO、川端康成、、ナンバーガール、オノナツメ、ジョンゾーン、金原ひとみ、ドグラマグラ。  
マスターのお気に入りはみな、文芸、音楽、漫画、ジャンルを問わずデカダンスとオルタナティブに染まっている。  
それらがきっかけなのか、もとからそういう嗜好なのか、彼は厭世的なものを好み、そのうえで社会との折り合いに悩みを抱いている。  
まぁ、ボクが解決できる問題ではない。  
ボクができるは、彼の慰みモノとなってあげることだけだ。  
彼が社会との折り合いを付けるために、一般とのズレを隠すために、文字通り一肌脱ぐしかできない。  
「ごめん」  
「大丈夫です。謝らないで」  
マスターは達すると、すぐにふらりと立上がり、シャワーを浴びながら「ごめん」とボクに謝る。  
 
これでいい、とボクは思った。  
たくさんは助けられないけど、少なくとも、ボクの声は、マスターに届いている。  
これで、いい。  
 

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