「カイト、AV借りに行こうぜ」  
 ボーカロイドなんてインドアな趣味を続けているせいか、マスターには女っ気がない。  
カイトにはメイコという彼女が居るのだが──このボーカロイド、ここで断るほどノリの  
悪い奴ではない。  
「金マスター持ちで俺にも一本選ばしてくれんなら行きますよ」  
「うわセコッ!彼女いるくせに!」  
 彼女もいないくせに、マスターが吠える。  
「あ、じゃ俺いいです。行きません」  
 彼女いますし。  
「なっ…!うぐ…わかったわかった、来てくれよ。一人でAV真剣に物色すると寂しすぎ  
て踏切りが無性に魅惑的に見えるんだよ」  
 まだ死にたくねーよ。  
 マスターはカイトの条件を飲んだ。  
「んじゃさっそく行きましょう!裏のロリ物ある店知ってるんですよ!洋物もあるし!」  
 このボーカロイド、ノリノリである。  
 
「あれ?どっか出掛けんの?」  
 ムネのタカナリを隠し切れないマスターとカイトが玄関で靴を履いていると、外から帰  
ってきたレンとはち合わせた。  
 マスターとカイトは互いの視線を交差させ、機密保持に関する重要会議を決行する。  
「レン三等陸士を連れて行けば我が家の漢衆全員で鑑賞会を開けるわけだが、如何致す?  
カイト軍曹」  
「仲間は多い方がいいであります。全部隊長殿」  
 閉会。  
 ──ガシっ  
 上背でレンに勝る男二人が、左右から腕を取り“連行される宇宙人”みたいにレンを吊  
り上げる。  
「え?ちょ、な、なんなの?」  
 レンの疑問には答えず、カイトとマスターはただ笑っている。満面の笑みだ。  
「こ、怖いよ二人とも…何?一体全体どうしちゃったの?僕これからどうなるの?」  
 無言の笑顔が二つ、少年を汚れた大人の階段へ連行した。  
 
───────  
 
 トイレに鍵が架かっている。  
 女性が一人、ヒーター付洋式トイレの便座に腰を下ろし、  
「うーん…」  
唸っていた。踏ん張っているのではない。  
 悩める乙女、メイコさんだ。  
 ミニスカートとパンツを足下に落とし、自分の陰部を見つめている。  
 そこには、成人女性なら有って然るべき体毛が、ほとんど無かった。  
 先日ムダ毛処理中にバグの襲来に遭い、自然に可愛く仕上げるつもりだったモノを根こ  
そぎ剃ってしまったのだ。  
 それから数日たった今、着実に毛は生えて来ているのだが──  
(すっごい恥ずかしい……)  
 なんかチョリチョリ半端に生えて来てるのが、見た目無精髭みたいでとても面白いこと  
になっている。  
 誰に見られているわけでも誰に見せるわけでも無いのに、メイコは自分の局部のオモシ  
ロイガグリ状態に赤面した。  
(あの日にヤって以来だし…そろそろカイト、溜ってるだろなぁ)  
 パイパンに興奮して、カイトはちゃっかりご相伴に与かっていた。  
(まず一回目は口に出されるだろ〜なぁ。セーシって変な味すんだよなぁ。でもカイトの  
だと思うと愛おしくて捨てれないんだよナー…)  
 妄想で思考が徐々にトリップし始めたメイコ。  
 メイコの脳内ではカイトの精液の感触が、匂いが、味が、ありありと再現されている。  
(次は挿…いやいや、まだだな。パイズリしてあげよう。挟むんじゃなくて、乳首でクリ  
クリするやつ)  
 クリクリ。  
「あ……」  
 指で自分の胸を弄り、ついセツナイ声が漏れる。  
(ああ…止めどき見失った……)  
 メイコの指がためらいがちに自らの腹部をなぞり──オモシロイガグリ峠を越えた。  
 毛の状態知られたら恥ずかしいけど、今日はカイトにしてもらおう……。  
 そう思いながらメイコは自分を慰め始めた。  
 
───────  
 
 発案者はリンであった。  
「ねぇねぇ、ヤローどものセーヘキ調査やろ」  
「え〜なにソレ〜?」  
 兄譲りなのか、ミクもなかなかノリのいい娘である。リンの突飛な話にツインテールを  
揺らしながら食い付いていった。  
「さっき玄関でキャツラが『AV借りに行きませう』って騒いでたの」  
「ふんふん」  
「だからしばらく帰って来ないはずだし、恥ずかしいセーヘキ暴いて後でいびるネタにし  
よーよ」  
 むしろ貴女がイビルです。  
「わ〜!すっごい楽しそ〜!やろやろ!」ノリノリ。  
──まずレンの部屋。  
「あたしレンのオナニー現場って遭遇したことないなー」  
「レンきゅん純情ちゃんだもんね」  
「? どゆこと?」  
「んふっふ〜、秘密〜」なぜかニヤニヤしているミク。  
「あ、ミク姉なんか知ってんでしょ!教えてよ」  
「だめだめ、禁則事項なのですぅ〜」  
 楽しそうだなお前ら。  
 二人はてきぱきとレンのベッドやら引きだしやらを物色してゆく。  
「ぬ、ハッケン発見!」  
 リンが声をあげた。楽譜の束が山を成しているスチールラックの引きだし──その一つ  
が巧妙な二重底になっていて、そこから写真の束とノートが出て来た。  
「で、デスノート…!」  
 日記だった。  
「見せて見せて〜」  
「駄目!リンが見っけたんだから!」  
 ミクから隠すようにリンがノートを開く。最新の日付を見た。  
【九月某日  
リンとミクにいじめられた。  
ミクが僕を羽飼絞めにし、リンが僕のアレにライターを近付け……  
熱かったけど、リンの手は暖かかった。  
ちょっと起ってしまったのに気付かれはしなかったろうか…それだけが心配だ。  
ああ!もっと僕をいじめて!愛してます、リン様!!】  
──バシン!  
 リンが顔を赤くしてノートを物凄い勢いで閉じた。  
「何なに?なんて書いてあったの?」  
「だだだ、駄目!見ちゃ駄目!レンのド変態な醜態と痴態が醜悪で憎悪な文章でドロドロ  
ネチネチ綴られてて嫌悪と吐気を催させるものに仕上がってるから!見たら目腐るから!  
ネクロノミコンとかメじゃないから!呪われる絶対呪われる!だから見ちゃ駄目!!」  
 逆に見たくなるような形容をしつつミクからノートを遠ざける。  
 写真の束にも、ミクから隠しながら目を通す。  
 リンの写真ばかりだった。寝顔、笑顔、泣き顔、衣装、普段着、水着。  
──うん、よく撮れてる。じゃねえ。  
 他人の性癖を笑い者にしようとしたら、突然自分が関わってしまったのだ。しかもレン  
の嘘偽りない内情を知ってしまい、リンはただ困惑した。  
(もう、レンのバカっ)  
 ──ただ、それは嫌な気分ではなかった。  
「次!次いってみよー!ほらミク姉早く!」  
 リンはノートと写真を荒っぽく隠し直して、ミクの手を引っ張って部屋から出た。  
「え〜、あーあ、私もレンの日記読みたかったなぁ〜」  
「駄目!」  
 ミクは気付かれないようにニヤニヤ。  
 実は、前に家じゅうを掃除したとき、全部まるっと調べがついているのであった。  
 
 ──次はカイトの部屋……は無いんだった。リンレンの部屋を創ったときにカイトの部  
屋は無くなったのだ。というわけでマスターの部屋。  
「マスターは紙媒体とかじゃなさそうだな〜」  
「PCが怪しいよね」  
 PCを起動させる。  
「科学〜の〜限界を〜越えてやってきたんだーよ〜♪」  
 ミクが鼻歌交じりにキーボードを連打/パスワード解除/事前取得済。  
 ファイル検索/JIF・PNG・JPG・JPEG・FLV・ISO/……ヒット無し=逆に疑惑増大。  
「んっん〜♪怪しいね怪しいね〜。リンちゃん、HDDとか記憶媒体隠してないか探しと  
いて」  
「らじゃ」  
 リンがあたりに散らばるPC関連の機材を漁りはじめる。  
 ミクが耳に付けたヘッドホンからジャックを引き出す/PCと接続=電脳プラグイン。  
 後はもう一瞬だった。  
 パスワード/解析=入力=解除/隠しファイル発見。  
 履歴=削除済/解析=復帰=追跡/エロサイト接続。  
 ダウンロード情報量分析=ファイル共有から大量ダウン/エロ動画疑惑/動画確認。  
 有料アダルトサイトに利用履歴=法外な請求/ネット警視庁接続。  
「あはははは!マスター必死すぎる!」  
「ミク姉、笑っちゃ悪いよ…でも、くふふ、きゃははは!これは笑える!」  
 ミクとリンは画面に次々表示されるマスターのネット上での行動に爆笑した。  
 引っ張りだしたマスターのオカズをデスクトップにアイコン表示させる。  
「さてさて、取りいだしたるはマスターの秘蔵っ子達!因美な醜態耽美な痴態!裸体肢体  
に貞操帯!欲情するはド変態!鬼だか蛇だかバイブだか!蠢く何かに御刮目!それでは早  
速ご開帳ー!」  
 ミクが地方のパチンコ屋よろしく泥臭いコールをする。  
 右から順にクリック。  
「うわ」  
「マジで…」  
 二つ目をクリック。  
「グロ…」  
「きっつ…」  
 三つ目。  
「…………」  
「…………」  
 四つ目──  
「ミク姉…も、止めとこ」  
「……うん」  
 二人はPCから痕跡を消し、静かにシャットダウンした。  
 正直ドン引きのラインナップであった。  
「世界って広いね、リン」  
「だね、ミク姉」  
遠い目をした二人はミクの部屋に行った。  
 
 ──ミクの部屋にて。  
 
「実は私もエッチなのキョーミあるんだ〜」  
 ミクは突然カミングアウトした。  
「リンちゃんには是非知っておいてもらいたくて」  
 くねくね。  
 恥ずかしげに指を絡ませる。  
「ふーん、私も嫌いじゃないよ?」  
 リンはちょっと意外な印象を受けながらも、話をあわせた。  
「ホント!?じゃ、私のコレクションも見ていって!」  
 ──コレクション?  
 雲行きが怪しい…私に見せたいエロ?コレクション?もしやミク姉って──  
「ホラ!DVD流すよ!」  
 ミクはリンの露出した肩に手を添え、テレビのほうに集中させた。  
 
 ろうそく。  
 中学生。  
 縄。  
 百合。  
 超コア超ユンファなロリレズSM映像だった。  
 
 リンの背筋に悪寒が走る。  
「リンちゃん……私、ずっと好きだったんだ」  
 荒い息。甘い声。  
 掴まれた肩が動かない。  
 
───────  
 
「ふぅ……」  
 メイコがトイレから出て来た。  
 30〜40分はトイレを占領してしまったが、誰も来なかった。皆でかけているのだろうか。  
 居間へ行き、油性マジックを探す。はたして何に使うのか。  
(黒だけだと不自然よね…茶色とかないかな)  
 自分の毛色を考慮しながら考える。  
 探すが、見当たらない。  
(…そういやミクが焼いたDVDのラベル書くのによくマジック持って行くわね)  
 ミクの部屋に行く。  
 ──ガチャ  
 お尻を突き出す形で拘束/亀甲縛り=ボールギャグ/泣きっ面で身動きの取れないリン。  
 ボンデージ=SM鞭/凄く興奮しているミク。  
 凍り付く時間/3sec。  
「…お邪魔しました」  
 メイコは静かに扉を閉めた。  
 
FIN  
 

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