がくぽはメイコのマンションに着いても未だバイクのことでメソメソしていた。  
「んっ……んっ……」  
「もー。いつまで泣いてんだよ、がくぅ〜」  
 ほらほら、オッパイだよ。  
 膝に顔を埋ずめメソメソ泣いているがくぽに、後ろから抱き付いてみるメイコ。もちろ  
ん、殊更にオッパイを押し付けて元気付けるのを忘れない。ムニムニ。  
「……あーざーっス、メイコさん。元気づけてくれてるのわかるっス、パネェ嬉しいっス  
……でも……でもバイクが…うああ…バイク〜……」  
「泣くなって」  
 よしよし。  
 がくぽの姿勢をほぐすように、首に腕を絡める。がくぽの頭を撫でるメイコは、なんだ  
か子犬をあやして居るような気分になった。  
「俺……俺、メイコさんとツーリング行きたかったんス……だから無理して買ったのに……」  
「ふーん。そういや私バイク乗るって話したねぇ」  
 私の影響だったのか。メイコは今更気がついた。  
「……んじゃさ、私ので行こーぜ。ツーリング。タンデムシート乗せてやるよ」  
「マジスか!?」  
 行く行く!絶対行きます!  
 さっきまで泣いていた余韻が残る赤い目は、嬉しそうに輝いていた。  
「なんだよ、現金な野郎だな。心配して損した」  
 呆れながら、メイコもにっこり笑って──がくぽの前髪を指で払い、額にキスした。  
「あ、えと、口、口にもお願いしまス。メイコさん」  
「さて、ツーリング行きますよ〜。最近乗ってないからナー、エンジンかかるかナー」  
「あ、ああ!メイコさんのいじわる!俺、ぶっちゃけ弄ばれてるっス!トリコっス!」  
 
───────  
 
 先行ってバイク見といて、赤いドゥカティだから。  
 そう言われて、がくぽはバイクのキーを握り締めて駐車場に向かった。  
「コレ……スか?」  
 パネェ。  
 血のように真っ赤なボディが、更に血を求めて深く鈍い輝やきを放っていた。  
 言われたとおりにバイクを確認するが、エンジンが掛からないどころか、鏡のように磨  
きあげられていてとてつもなく絶好調に見えた。初心者のがくぽですらそのカリカリのチ  
ューンに目を見張り、触れたら怪我するんじゃないかと恐れてしまうほどだ。  
 
 ──チーン  
 
 がくぽがバイクに見ほれていると、間抜けな音がして駐車場にエレベータが到着した。  
「お待たせ」  
 エレベータから出て来たメイコは、シックなワインレッドのライダースーツに身を包ん  
でいた。ツナギのぴったりしたライダースーツは身体の線がよく出ていて、しかもサービ  
スのつもりか胸元までファスナーが降りていて、かなりエロい。  
しかしそれ以上に──  
「か、かっけぇーーっス!」  
 がくぽの琴線に触れた。  
「だろ?」  
 メイコも得意げだ。  
 ヘアバンドで髪をまとめ、フルフェイスのメットをかぶる。スーツと同じワインレッド  
に黒の炎があしらわれたメットを付ければ、さながら血塗れのデュラハンである。良い意  
味で。  
「ぶっちゃけマジパネェっスよ!!やっべぇ、バイク、クラッシュってむしろ良かったか  
も知れないっスよコレ……!」  
 大興奮のがくぽ。  
「早く後ろから抱き付きたいっス!」  
「そっちかよ」  
 からからとメイコが笑った。  
「ほら、がくもメットとグラブ着けな。走ってっと寒みーから」  
「あざーっス、うわ!メットおそろじゃないスか!いつの間に用意してくれたんスか?!」  
「え?いや、その、それは……いつか乗せてやろうと思ってさー!あははー(……実はカ  
イトのお下がりだったり)」  
「え、なんか最後ボソッとウィスパったっスか?」  
「いや?な〜んにも言ってないよ〜?」  
 見ぬ者清し知らぬが仏。メイコはそれっぽい諺を反芻した。  
 
「……メイコさん、手袋って着けないとだめなんスか?」  
 がくぽがメットともに渡されたレザーグラブの厚さを確かめながら言った。  
「だって、無いと寒いぞ?がくだって前のバイク乗ってたときグラブ着けてたろ?」  
「でも……なんか……その……」  
 グラブ着けたらメイコさんとの密着感減るじゃないスか……。  
 メイコはがくぽの内心に気付けない。  
「? ま、嫌なら着けなくてもいいけど、多分寒いぞ」  
「いいっス、着けないっス。風なんかに負けないっスよ俺」  
 メイコさんの体温で暖めてもらうっス。うふふ。  
 このときがくぽはまだ、秋風とメイコの本気を嘗めていた。  
 
───────  
 
「結構寒みースね」  
 高速道路にのりかかったとき、フェイスカバーを上げてがくぽが聞いた。風に負けない  
ように若干大声だ。  
「ツーリングって景色の良い山道とか走るイメージあったんスけど、なんで高速なんスか?」  
「景色のいい山までは高速使うんだよ。てか腕下げろ。さっきからずっと揉んでるだろ」  
「え……うあ?! さーせんした!」  
 実は確信犯である。  
「別に減らないからいいって。わかってて揉んでたんだろ?どう?私のオッパイ気持ちい  
い?」  
「……き、きもちいース」  
 バレてた。  
「高速乗ってる間はさすがに危ないかんな〜。した道ならヤりながら走っても大丈夫だっ  
たけど」  
「……あの、メイコさん……“大丈夫だった”って……」  
「え゛?……と、友達、トモダチカラキイタンデスヨ?」  
 一瞬、メイコの顔が迷子になった気がした。  
「ほ、ほら、スピードあげるぞ!メット閉めて!舌噛まないようにしとけ!」  
「了解ウィッシュ!」決めポーズ!……をメイコに掴まったままやろうとして、今度こそ  
無意識にメイコの胸を揉む。  
 メイコは驚いて、きゃっ、とか女の子っぽい声を出してしまった。  
 出してしまった声とか胸を押すがくぽの手とかが恥ずかしくて、ちょっとハンドルを誤  
る。  
 大きくバイクが動揺。  
 ようやくバイクが安定してから、メイコは怒りをたっぷりつめて、区切りながら言葉を  
発した。  
「や め ろ っつってんだろ」  
 
 ──ガチン!  
 
「……ごめんなさい……っス」  
 メットを激しく打ち付けられ、さすがにおとなしくなったがくぽ。  
 彼はそのとき思った。  
(ああ……叱ってくれる女性って痺れるっス……)  
 全然懲りてない。  
 
───────  
 
 バイクで70km/hくらい出してすっ転べば普通に死ねるわけだが、メイコはタンデムで198  
km/h出して走っていた。もし転べば身体が六つになる速度である。首、四肢、胴体。  
(寒みぃぃぃ!)  
 がくぽはもう、しがみついてるだけで必死だ。  
 衣装のまま乗っちゃったものだから、ヒラヒラの袖や裾とかが半端じゃなく風を孕んで  
ズババババと鳴っている。バイクも、カアアアアアと鋭いエンジン音を風の轟音すら掻き  
分けて響かせていて、全然まったく会話とか出来る状態ではない。  
『速度、落として、欲しいっスぅぅぅ!』  
 メットの中で声を張って見るが、風に巻かれて一切メイコには届かない。  
 指がかじかんで来て、ものすごく不安感が募ってゆく。指先に全然感覚がない。グラブ  
しとけば良かった……。  
 
 半死半生のがくぽを尻目に、メイコはすっごく楽しんでいた。  
(ああ……やっぱり気持ちいい……)  
 一瞬でも気を抜けば、即、死に繋がる。メイコはそういう速度で走るとき、全身に電流  
が流れるような快感を感じる。  
 危ないのは自分でも分かっているが──止められない。  
 根っからのスピード狂なのだ。  
(んっ、イイ……)  
 なんだかいつも以上に気持ちが良い。それこそエクスタシーに達してしまいそうな快感  
が下腹部から……下腹部?  
 メイコはやっと気がついた。  
 がくぽの手が、自分の股ぐらとシートの間に潜り込んで蠢いているのに。  
『やあぁんっ!』  
 思わずメイコが叫び、バイクがふらついて速度を落とす。  
 
───────  
 
 決死の速度で走る鉄騎の馬上で、がくぽはかじかむ指先の不安感を少しでも減らそうと  
必死だった。  
(どうにかして指を暖めねばならんっス……!)  
 別に指に力が入って無くとも、腕にさえ力がこもっていればそうそう落とされないもの  
だが、バイク歴の浅いがくぽにそんな知識はない。  
 まず指を屈伸させてみる。  
 ぐっぱっぐっぱっ。  
(……意味ねー!)  
 意味なかった。  
(どっか風のない場所無いんスか?!‥‥あ、“ここ”に手ぇ突っ込めば暖かいっス!俺  
ってば頭いいっぽい感じじゃね?!)  
 がくぽの思考回路はもう、寒かったり怖かったりで馬鹿になっていた。とてもロードロ  
ーラーを切り刻んだ男とは思えない。  
 女性のそこに手をのばすことの意味も忘れて、メイコの股とシートの間に手を差し入れ  
た。  
(やっぱり暖かいっス!うっわ、パネェ、マジでアイデアの勝利!)  
 がくぽの思考は明後日の方向にバックトゥザフューチャー。  
(ここで動かしてれば暖まって指の感覚ももどるはずっス!)  
 メイコの股の下で、がくぽはゆっくりと指を屈伸させ始めた。  
 
───────  
 
 メイコが背筋をこわ張らせ、上げた嬌声が風に消えたときに、やっとがくぽは自分のし  
ていることに気が付いた。  
(やべっ……!無意識に手マ……ん?)  
 速度が緩んだ?   
(も、もしやコレはメイコさんをイかせれば降ろしてもらえる系なんじゃ……?前は公道  
でヤってたって言ってたし……)  
 がくぽの思考は未だデロリアンの中だ。  
(よーし、そうと判れば俺、ぶっちゃけ頑張っちゃいまスよ〜!)  
 出生地不明の余裕が生まれ始める。  
『メイコさん、俺頑張っちゃいまス!』  
『何してんだよガク!あぶねーから止めろって……ああん!』  
 互いの声は風に阻まれ届かない。  
 がくぽの指がより性感を刺激する動きに変わり、左手が下から胸を掴む。  
『メイコさんのオッパイ、マジ気持ちいいっス!』  
『くあっ……ひゃあぁん!』  
 互いの声はメットに阻まれ届かない。  
 がくぽの指がスーツ越しに秘芯を啄む。左手がメイコのスーツのファスナーを降ろし、  
よりダイレクトに胸を刺激する。  
 がくぽ自身も因美な手触りに興奮し、自らが昂ぶるのを抑えられなくなる。  
『ああ、メイコさん、俺も気持ち良くして欲しいっス』  
 がくぽはメイコのお尻に、服の下でいきり立つ自らの雄槍を押しつけた。  
『いやあぁ、やめてぇ……』  
 やっぱりお互いの声は届かない。  
 嫌がり押し返そうとするメイコの動きが、がくぽに快感を与える。  
 がくぽの指使いが、くびりだされた乳首を転がす左手が、メイコに快感を与える。  
 二人のツーリングは100km/h前後のスピードで、なかなか順調に進んで行った。  
 
───────  
 
 高速のパーキングエリア、紳士用のトイレの個室から二人の声が聞こえて来る。  
「ガク……中に出していいよ」  
「はいっス」  
「んっ…………熱いの、出てる」  
 しばらくの間、個室からは口付けの水音が響く。  
 
 その後、トイレの水を流す現実的な水音がして、二人は同じ個室からでてきた。  
「いやあ、ツーリングって最高っスね」  
「こんなんツーリングって言わねーよ。ガクの馬鹿」  
 そっぽを向いたメイコだったが、鏡に映ったがくぽの笑顔と目が合ってしまう。  
「メイコさん、大好きっス」  
「……ほんと、馬鹿」  
 芳香剤臭いトイレのなか、二人は甘い気持ちでいっぱいだった。  
「んじゃ、峠攻めてから帰るぞガク。言っとくけど帰りの高速はガクが前だからな。覚悟  
しとけ」  
「じ、事故りそうっス……」  
 無事に帰るまでがツーリングである。  
 
 
終  
 

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