「めーちゃん、ごめん」  
少しだけふれるつもりだった。  
「ごめん、ごめん…」  
 
 
眠ってるメイコの髪に触れた  
おそるおそる、そっと。  
くちびるにも触れた  
はじめは僕の手で、その後僕のくちびるで。  
 
瞼を硬く閉じてる、メイコの息は少し速くなった。  
僕の息も速くなってしまう。  
気づいてるのかな?気づかないフリをしてくれてるのかな?  
今引き返せば、元の姉弟に戻れるのかな。  
 
首筋をつたって胸元に手を伸ばした時、メイコが瞳を開いた。  
「あっ…! カ、カイトどうしたの?」  
僕の手を掴んで、慌てて胸から離す。  
「ま、また1人じゃ眠れないとか?  
あんたってホント子供よねっ!あはは…」  
僕の手を掴んだままのメイコの手は、少し震えてた。  
「ほ、ほら!はやく自分のベッドに戻りなさい」  
「めーちゃん…明日の朝、何時に出発するんだっけ?」」  
「6時よ。あと5時間しか無いんだから、早く寝なさい。  
寝坊して見送りに来なかったら承知しないんだから!」  
 
あと5時間で、メイコは新しいユーザーのもとに買われて行く。  
 
「ちょっ、ちょっと!何泣いてんのよ?!」  
「…ごめ……ん」  
「……もー、しょうがないわね〜!」  
そう言うとメイコは、昔僕がぐずった時にしてくれたように  
メイコのベッドの中に僕をくるみ込んでくれた。  
僕の顔のすぐ横に、メイコの顔がある。  
「カイト、両手出して」  
「うん?」  
僕が従うと、ガッシリと両腕を掴まれてしまった。  
「・・・・」  
「はい、速やかに寝る!おやすみー!」  
メイコはわざとらしくスヤスヤと寝息をたてはじめた。  
 
「・・・・」  
「・・・・」  
「メイコ」  
「何よ?」  
「…僕のこと、忘れないでね」  
メイコが僕を見た。  
「…忘れないわよ、当たり前でしょ?」  
僕もメイコを見た。  
「…忘れるよ、メイコは」  
 
メイコの目に困惑の色が浮かんだ。  
僕は何だかものすごく悲しい気持ちになって、  
今まで隠してきたこと全部、勝手に口から溢れ出てしまった。  
 
「きっとメイコは僕のことなんかすぐ忘れちゃうんだ。  
僕の知らない所で、僕の知らない誰かに、僕にするみたいに  
優しくするんだ。メイコは誰にだって優しいから。  
なのに僕は勘違いをしてた。  
僕にだけ優しいんだって思ってた。僕と同じように、  
メイコも僕のことを特別だって思ってくれてるんだって  
信じ込んでたんだ。」  
「カイト?」  
掴まれてた両腕を、反対に掴み返した。強く握る。  
「僕にだけ優しくしてよ、めーちゃん。  
僕だけを特別だって思ってよ!」  
「カイト、私は…んっ」  
深く口づけた。悲しくて苦しくて、頭の中がグルグルする。  
 
「だめよだめよ…」  
うわごとのように力なく繰り返すメイコを抱いた。  
その声もだんだんと苦しそうになる。  
「ん…だめっ、アッ、アッ…」  
止められない僕はあやまり続けた。  
「ごめん、ごめん…」  
意識を手放す寸前、メイコは僕にしがみついてこう言った。  
「カイト、わたしを…忘れ…な…い…で…」  
 
 
翌朝、メイコの見送りに駅まで行った。  
メイコはいつもと変わりなく僕に話しかける。  
無かったことにするつもりなんだろう。  
昨日のことは何の意味も無いこと、メイコにとっては…。  
 
「カイト、あんた有名になりなさい!」  
「え?」  
俯いてた僕は、メイコの唐突な言葉に顔を上げた。  
「私も有名になるわ!」  
「う、うん…?」  
「そしたら…」  
「そしたら?」  
「そしたらきっと、…また会えるわ…」  
 
 
「何呆けた顔してるの!シャキっとしなさいシャキっと!」  
バシーン!と背中を打たれた。かなり痛い。  
 
僕の顔を両手で挟みこんで、メイコが言った。  
「いい?頑張るのよ?!」  
「……うん…頑張る!  
頑張って、めーちゃんに会いに行く!」  
僕は誓った。  
 
笑ったメイコの顔が近づいて、くちびるが触れた。  
「あ、ごめん、口紅着いちゃった」  
固まってる僕の口を、メイコがハンカチで拭う。  
慌てて僕は口を手で隠した。  
「何してんの?」  
「だ、だって拭いちゃったらもったいないよ!」  
「ばか」  
メイコが笑う。僕も笑った。  
メイコの顔が、滲んで見えた。  
 
「それじゃあ行くわね。」  
「うん」  
「またね、カイト」  
「うん…またね、めーちゃん」  
メイコと手を振って別れた。  
僕たちははなればなれになった  
次に会える日までの、少しのあいだ…。  
 

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