がくぽは常々思っていた。
「カイト殿は良いな、ミク殿にあんなにも好いて貰えて」
ミクは大好きな兄に唯一の不満を持っている。
「おにいちゃんのイケズ。がくっぽいどばかり構ってる。…いいなぁ」
そんな訳である。
入れ替り
「どんな訳だ!?」
真っ青な瞳をした『初音ミク』は激昂し、紫の瞳をした『KAITO』の脇を蹴り飛ばした。
飛びかかって来たのだ。正当防衛である。
「えっ?ミク殿がカイト殿?!」
蹴り飛ばされ、足蹴にされる『KAITO』。
「えっ?がくぽがおにいちゃん?おにいちゃんがミク?」
口元に拳をそえ、シナを作りやたら愛らしくショックを表現している水色の瞳の『がくっぽいど』とくれば理解頂けると思う。
「頂け無い!」
『初音ミク』に超睨まれたので解説しよう。
ボーカロイドは基本アプリケーションソフトウェアである。
そのソフトをパソコンから発売元のC社やI社発売の専用ハードに移し変えて実体化をする。
メンテナンス時以外はパソコンから出て、普通に生活するのだ。
アングラでは初音ミクをMEIKOのボディに入れた『弱音ハク』
MEIKOをKAITOのボディに入れた『AKAITO』
など、亜種づくりがブームである。
それがこの場合、二人の変態の妄念によりマスターが望まないのに勝手入れ替った。
ので1番戸惑っているのは気の優しいマスターである。
「ぇっとぉ…」
でも、やることはやってくれた。
「カイト、ヘルプデスクに問合せたら、昼過ぎにスタッフの人が来てくれるって」
「そうですか」
収拾の目処がついてカイトはホッとした。
「じゃ、仕事行くな。対応お願い」
「お気をつけて」
そして、柔かな笑顔でマスターを見送る。『KAITO』を踏みつけたまま。
がくぽは思った。
世の中上手く行かないものだ。踏んでいる『初音ミク』はカイト殿。
・・・せっかく自分は『KAITO』なのに。
何、このやんちゃなツンミクは?
スカートを穿きなれないカイトだからパンチラ放題。
今もがくぽの位置からモロに見えている。
中はカイトでも外は『初音ミク』。
普段も萌えだがツン属性美少女を無理矢理…………
「うわっ」
立ち上がれば、尻餅をついてスカートは捲れ見事なパンチラをがくぽに拝ませてくれる。
「何を!っ…?!」
肩に手を置き体重をかけると『初音ミク』はアッサリ押し倒された。
体格差を理解しきれていないカイト故、隙だらけ。
その半開いた口に吸い付いた。
片手で手を一纏めに頭の上にまとめ、小振りな胸を服の上から揉んでみる。
可愛い…
カイトは本気で状況が理解出来ず、完璧にフリーズした。
カイト、絶体絶命。
その時、チュインっと有り得ない音をしてネギが投摘。
その亜高速物体は『KAITO』の後頭部を霞め、見事に壁に突き刺さった。
「おにいちゃんに何すんのよ?がくっぽいど」
そう言った『がくっぽいど』の目は座っていた。
兄大好きなミクは理想とする兄妹の構図(乱暴に押し倒されキスを無理矢理される)をかぶりつきでガン見していた。
が、やっと気付いたようだ。
これ、おにいちゃんとミクじゃない。
おにいちゃんに害なすヤツは殺。
ミクの思考回路はアホの子故に単純。
「お、お待ち下され!ミク殿!!」
慌てて何か言い募るがくぽにミクはただ、ネギを構えた。
次はハズサナイ。
「既成事実の好機ですぞ」
「キセイジジツ?」
なにそれ?
「つまり、『KAITO』が『初音ミク』に乱暴をする」
「?」
「ソレの証拠を残せば格好の既成事実になるであろう!!」
「キセイジジツ」
「つまりは、ずっと一緒に居れるという事!!」
「キセイジジツ!」
『がくっぽいど』の瞳はキラキラ輝いた。
「わかって頂けたか!ミク殿!!」
「ちょっと待っててね!マスターのデジカメ持ってくる!!」
一眼レフのヤツ。
ミクは急いだ。
マスターの部屋でデジカメ探して戻って来る迄一分かからなかった。
で、目を疑う光景に出くわした。
起動停止している『KAITO』と不機嫌低気圧を発生させている『初音ミク』。
決まり手、金蹴りと人中ヘのグーパンチ。
敗因、ミクとの会話中カイトから意識を離して居たこと。
それから、二時間がくぽはひっくり返ったまま、カイトは不機嫌を垂れ流し、ミクはその不機嫌にあてられうっとりとしている。
メカニックさんはその空気の悪さにそれはそれはびびったそうな。