「ねえ。リン、変じゃないかな?」  
 姿見の前で、豪華なドレスに身を包んだリンは不安げに眉を寄せた。傍で見ていたミク  
がにこにこしながら請け合う。  
「変じゃないよ。そのお洋服、リンちゃんによく似合ってると思う」  
「ほんと?」  
 身体ごとくるりと振り返ると、ミクと視線が合った。ミクはこくりと頷いた。  
「うん、ほんと。本物のお姫様みたいだよ」  
 リンの表情がぱっと明るくなった。  
「そっか、お姫様みたいかあ。えへへ」  
 リンは小さな手のひらを合わせて、はにかんだような笑みを浮かべた。ミクはその様子  
を見て首を傾げていたが、すぐに何かを理解したような顔つきになって言った。  
「リンちゃん、がくぽさん控え室にいたよ」  
「えっ」  
「リンちゃん、いま絶対がくぽさんのこと考えてたよね」  
 一瞬きょとんとした後、リンのほっぺたがりんごのように赤くなる。  
「そ、そんなことないよ……」  
「顔、赤いよ」  
 リンは黙り込んで、両手のひらを頬に押し当てた。頬が熱い。  
 ミクはくすくすと笑いながら言った。  
「見せておいでよ。まだ撮影まで時間あるし」  
「で、でも」  
「その衣装、撮影が終わったら脱がなきゃいけないんだよ? いいから、行きなよ」  
 リンはしばらく何か言いたそうに目を瞬かせていたが、やがてちらりとミクを見やると、  
小さく頷いた。  
「行ってくる」  
 
 長いドレスの裾を踏まないように気をつけながら、リンは急ぎ足で控え室に向かった。  
心臓がどきどきして、今にも口から飛び出してしまいそうだ。  
 遠慮がちに、ドアをノックする。  
 返事はなかった。  
 リンは小さく深呼吸をしてから、静かに部屋のドアを開いた。  
 果たして、目当ての人物はそこにいた。  
 彼にはノックに応えるという習慣がないらしい。  
「がっくん」  
 声をかけると、こちらに背を向けていた彼が肩越しに振り返ってリンを見た。  
 目が合ったが、言葉はなかった。  
「邪魔だった?」  
 後ろ手にドアを閉めながら問うと、彼はただ一言「いや」とだけ発し、また前を向いた。  
 ゆっくりと彼の腰掛けるソファに歩み寄り、リンは緊張した面持ちで目の前に立った。  
手の中にある楽譜を眺めていた彼が紙面から目を逸らし、傍に立つリンの姿を見て僅かに  
目を細める。  
「新しい曲の衣装、です」  
 口を開くと、何故か敬語が出てきた。何やら恥ずかしい。さっきミクに図星を指された  
時のように顔が熱くなったが、目の前にいる男は無頓着な様子だった。  
 やっぱり、とリンは思った。こんな時、カイトだったらきっと手放しでリンの衣装を褒  
めてくれたことだろう。彼はそういう男だ。しかし今、リンの目の前にいる碧い目をした  
男──神威がくぽが相手ではそうもいかない。  
 やっぱり来なければよかったとくじけそうになる気持ちを奮い立たせて、リンは切り出  
した。  
「変かな?」  
 一拍おいて、がくぽが口を開いた。  
「変ではない」  
 その一言だけで、リンの胸のどきどきがまた一層激しくなった。  
「似合う?」  
「うむ。似合っている」  
 
 気が付いたら、息を詰めてしまっていたらしい。ほっと息を吐くと、とたんに気持ちま  
で軽くなった。どうもこの男は口数が少ないせいもあって、何を考えているのか分からな  
いところがある。氷った湖面を思わせる碧い瞳は、どこかいつも眠たげだとリンは日頃か  
ら思っていた。  
「お膝、乗ってもいい?」  
 今にも消え入りそうな声だったが、勇気を出して訊ねてみた。好きにしろ、いう風に、  
がくぽが頷いた。  
 窮屈なヒールを脱いで、リンはがくぽの膝の上に乗ろうとした。その動作を助けるよう  
にがくぽがリンの脇に手を差し入れて抱き上げる。そうして彼の膝の上に落ち着くと、一  
度は収まっていた鼓動がまた早くなってきた。密着した身体から伝わっていなければいい  
──リンは密かに願った。  
 ちらと上目遣いにがくぽを盗み見ると、ばっちり視線が合ってしまった。その距離の近  
さに恥ずかしくなって、リンは彼の首に腕を回してきゅっと抱きついた。こうしてしまえ  
ば、互いに表情も見えなくなる。  
「どうした」  
 低音が身体から直に伝わってきてくすぐったい。リンは抱きついた腕に更に力を込めた。  
「がっくん、だいすき」  
 抱きついたのは照れ隠しのつもりだったのに、口をついて出たのは告白の言葉。鼓動は  
もう限界まで高鳴って、働きすぎた心臓が今すぐ止まって死んでしまっても不思議ではな  
いくらいだった。  
 ふいに、がくぽの手がリンの髪を撫でた。あやすように優しく。温かいその感触に胸が  
締め付けられる。リンはめいっぱいがくぽに甘えることにした。  
「がっくん、ちゅ、して?」  
 静かな部屋に自分の甘える声だけが響く。がくぽの大きな手がリンの前髪をどかして、  
露わになった額に柔らかいものが触れた。  
 
 リンはがくぽが好きだったが、彼のやり方にはいつも不満があった。がくぽはリンが  
「ちゅーして」と言えばその通りにしてくれる。初めは「ちゅー」の意味が分からなかっ  
たがくぽに、どうすべきなのかを教えたのはリンだ。が、いつもそれ以上には踏み込んで  
きてくれないのがもどかしい。  
 彼を独占したい、彼に独占されたい──色々な想いが錯綜する。すぐ目の前に、整った  
彼の顔が見える。リンは少し首を傾け、ぎゅっと目をつぶってその唇に自分の唇を押し当  
てた。がくぽが微かに身じろぎする。リンはそうしたままそっと唇を開いて、おずおずと  
彼の口内に舌を差し入れた。  
 初めて味わう感触だった。温かく、湿った感触。だが嫌ではない。頭の中でずっと想像  
していた、大人がするみたいな深いキス。リンは夢中になってキスを続けた。そのうちに  
、だんだん呼吸も荒くなってくる。苦しい。でもやめられない。どうやらリンはこの朴念  
仁のことが好きで仕方がないらしい。  
「んぅ……はっ……」  
 ふと、がくぽの手のひらがリンの後頭部に触れた。リンの舌の動きに応えるように、彼  
も首の角度を変えながら唇を開き舌を絡めてくる。 ちゅっ、ちゅっと音を立てて、互い  
に唇を深く貪り合う。飲み下しきれなかった唾液が口の端から零れて、リンの細い顎を伝  
った。  
 身体の奥に熱いものが生まれる。下腹のあたりがきゅんと疼いて、愛しい気持ちがこみ  
上げてくる。いけないと思いつつ、薄く瞳を開いて盗み見ると、眉根を寄せて目を閉じた  
彼の顔が見えた。  
 夢中でキスを続けるうちにいつの間にか、リンは脚を開いてがくぽの膝に跨るような体  
勢になっていたらしい。綺麗なドレスの裾がめくれて、白い脚が太ももまで露わになって  
いる。なんだかいけないことをしているような気持ちになってきた。あまりにも扇情的だ。  
「あ……」  
 突然抱きすくめられ、リンの身体が強ばった。いつになく性急なやり方だった。背中に  
回された手はそのまま腰を伝って、なだらかな丘陵にたどり着き、ドレスの上からそこを  
揉みしだくようにまさぐる。耳元で彼の吐息が聞こえたとき、じゅん、と下腹部が熱くな  
った。  
 
 下着が濡れているような感触がある。生地が貼り付いて気持ちが悪い。体勢を変えよう  
と少し身をよじると、リンの柔らかい太ももに、熱く硬いものが当たった。  
 それが何なのかに思い当たり、リンの頬にさっと朱が差した。  
 がくぽの唇はリンの顎を伝って、首筋へと位置を変えていた。強く吸われた肌にピリッ  
とした痛みが走る。衣擦れの音がやけにうるさく感じるのは、いつもと違うドレスのせい  
だろうか──ぼんやりする頭の片隅でそんなことを考えていると、がくぽの手がスカート  
の中に入ってきて、直にリンの肌を撫でた。  
「あっ……」  
 うわずったような声が出て、リンは慌てて両手で口を塞いだ。出そうと思って出したわ  
けではない。太ももの内側を直に撫でられて、自然と出てしまったのだ。がくぽの唇が微  
かに笑みを形作った──ように見えた。見たこともないようなその表情にぞくぞくする。  
「がっくん、リン、なんだか変。身体が、あつい」  
 掠れた声が出た。もっと色んなところに触れて欲しい。  
「がっくん、お願い。もっと強く抱きしめて。ドキドキするの。なんか変なの。ほら」  
 リンはがくぽの手首を捕らえて、自ら己の胸へ導いた。大きな手が、小さな膨らみに重  
なった。  
「ドキドキしてるの、分かる?」  
「ああ」  
「もっと触って。リンのこと、たくさん触って」  
 泣きそうな声で訴えると、がくぽが観念したように大きく息を吐いた。  
 と同時に、背中のファスナーが下ろされ、リンの身体を包んでいたドレスワンピースが  
ふわりとはだけた。まだがくぽに下着を見せたことはない。急に恥ずかしくなって両腕で  
隠すと、弱い力でその腕をどけられた。  
 彼に身体を見られるのが恥ずかしい。自分はメイコのように女性らしい体つきをしては  
いないから。  
 
「あんまり見ないで」  
「何故」  
「胸、ちいさいし。恥ずかしいよ」  
「そのようなことを気にしていたのか」  
「だって」  
「リンは可愛らしい。このままで十分だ」  
「ほんと?」  
「これまで私がリンに嘘をついたことなどあったか?」  
「ううん、ない。がっくんだいすき」  
 熱を帯びた視線が絡み、二人はもう一度、深く口付けあった。  
 それが合図だった。  
 がくぽは上から覆い被さるようにして、リンの身体をソファに横たえた。金色の髪の毛  
が、黒い革張りの上に広がる。オレンジ色のドット柄のスポーツブラをたくし上げると、  
未発達な乳房がぷるんと顔を覗かせた。  
 上半身をかがめて、がくぽがピンク色の突起を口に含んだ。  
「んっ……あぁ……」  
 ちゅっちゅっと音を立てて吸ったり、舌先で転がしたりする度に、リンが可愛い声で喘  
いだ。そうして片方の乳首を舌で責めながら、もう片方は乳房ごと揉んだり、乳首をくり  
くりとつまんだりする。乳輪ごと咥え込んで、レロレロと舌ではじくように舐めると、ひ  
ときわ高い声でリンが喘いだ。  
「あ、やぁ……! だめ……!」  
 相当感じているのか、リンの腰がふわふわと浮く。そのたびに身体が揺れ、可愛らしい  
乳房もぷるぷると揺れた。  
 がくぽはショーツの股の部分から指を差し込み、そこの濡れ具合を確かめた。リンの身  
体がビクンと跳ねる。  
「ああっ!」  
「濡れているな」  
「やぁ……恥ずかしい……言わないで」  
 
 掠れた声で抗議しても、説得力は皆無だ。がくぽの指先が円を描くようにクリトリスを  
刺激する。感じやすいリンのソコからは止めどなく蜜があふれ、がくぽの指を濡らした。  
 ツプ……と、がくぽの指先がリンの中に埋め込まれた。  
「ああっ……やぁ…っ!」  
 中は狭いが、十分に濡れている。中指を根本まで入れて動かすと、クチュクチュと水音  
が鳴った。  
「あっ、あ……だめ、や、んんっ……!」  
 がくぽが中で指を動かす度に、リンがうわずった声で喘いだ。艶やかな頬がピンク色に  
染まり、切なそうに眉を顰めて、無意識のうちなのか己の指の甲を甘噛みしている。荒い  
呼吸を繰り返す度に、リンの小振りな乳房が上下する。  
 がくぽが不意にリンの中に埋め込んでいた指をずるりと引き抜いた。  
「やっ……」  
 リンは瞳に涙を浮かべながら、ねだるような視線をがくぽに向けた。がくぽは手早く自  
分の帯を解いて下着を脱ぎ去り、既にカチカチに勃起している自身を取り出した。そのま  
ま、先端をリンのソコにあてがうが、すぐには挿れない。十分に濡れたリンの入り口と、  
ガムシロップのような先走りをこぼしているがくぽの亀頭を、ゆっくりとこすり合わせる。  
「ん……はぁっ……! きもちい、がっくんの……すごい、きもちいい……っ!」  
 にちゃにちゃと卑猥な音を立てて、リンの割れ目とがくぽの先端が擦れ合う。リンはが  
くぽの動きに合わせて、自ら拙い動きで一生懸命に腰を動かしていた。位置がずれないよ  
うにという意図なのか、擦れ合っている性器を必死に、泣きそうな顔で見ている。  
 もう互いに準備は万端で、リンのそこは今にもがくぽをぱっくりと飲み込んでしまいそ  
うだ。  
 がくぽが低く呻くように告げた。  
「挿れるぞ」  
 
「うん、がっくんの、リンの中に挿れて……」  
 熱に浮かされたようにリンが呟く。  
 ズプププ……  
「あ、はぁん……!」  
 がくぽの先端が、リンの割れ目に埋め込まれた。リンの中がキュッと締まって、がくぽ  
自身を締めつける。中は狭く、奥までたどり着くのも容易ではない。がくぽはゆっくりと  
腰を進め、少しずつ襞をかき分けて熱いリンの膣内に己のペニスを挿入していった。  
「あぅ……いっ……」  
 リンの表情は辛そうに歪んでいる。根本まで入ったとき、がくぽが小さく嘆息した。  
「痛いか?」  
 その問いに、リンは逆に問い返した。  
「がっくん、きもちいい?」  
 質問の意味を図りかねたがくぽは一瞬、眉を顰めたが、すぐに「ああ」と言って頷いた。  
 リンが小さく笑った。  
「じゃあ、へいき」  
 どちらからともなく唇が重なり、やがてゆっくりと抽送が始まる。  
「んっ、んんっ……あ、はぁっ……! はっ、ゃぁ……!」  
 ぐっと押し込む度に、リンが吐息混じりの嬌声を上げる。幼い声が普段の彼女からは想  
像もつかないほどの熱を帯びて響く。小さな身体で、リンは懸命にがくぽの全てを受け容  
れていた。  
「あぁっ、ふぁっ……! がっく、すき……だいすきっ……!」  
 リンは熱に浮かされたように好きと繰り返した。がくぽは無言でそれに応えるかのよう  
にリンの身体を揺さぶった。その衝撃でがくぽの長い髪が紫色の滝のようにさらさらとこ  
ぼれ落ち、金色の髪と混ざり合う。  
「リンっ……!」  
 喉の奥でがくぽがリンの名前を呼ぶと、膣内がギュウッと収縮した。熱く湿った内襞が  
がくぽの肉茎に絡みつき、容赦なく締め上げる。強烈な快感が背筋を駆け上がり、がくぽ  
は正常な思考を手放した。  
 
「あっ、あっ、あっ、あああっ! や、だめ、はあああんっ!」  
 突然激しくなった抽送に、リンが甲高い悲鳴を上げた。がくぽは荒い呼吸を繰り返しな  
がら、ズブズブとリンの膣内をかき回し、はち切れんばかりに膨脹した肉茎で最奥を突き  
まくった。二人の乗ったソファがギシギシと軋み、肌と肌のぶつかり合う乾いた音が響く。  
「ふあぁっ……! がっくんの、おっきい、の……リンの中、いっぱいはいってる……っ!  
んっ……もっと、もっと激しく、して……! いっぱいしてぇっ!」  
 もう何も考えられなくなったリンは、恥じらいも何も捨てて喘ぎまくった。ずっと開き  
っ放しの脚には、もう力が入らない。がくぽが腰を打ち付ける度にリンの膝ががくがくと  
揺れ、その動きに連動してぷっくりと小さな乳房もぷるぷる揺れる。  
 限界が近い。  
 がくぽがリンの膝をがっちりと掴んで固定し、殊更に激しく肉杭を打ち込んだ。どちら  
のものとの分からない蜜で結合部はもうグチョグチョだ。突き入れる度にがくぽの先端が  
リンの子宮口をガツンガツンとほぜり上げ、引き抜く度に精液を全て搾り取ろうとするか  
のように熱い内壁がネットリと絡みつく。  
「あっ、あ、だめ、イク、イク、イッちゃ……あ、あああああっ!」  
 リンの小さな身体がぶるぶると震え、一際高い嬌声と共にガックリと脱力した。  
「……っ!」  
 直後、声にならない呻き声を上げながら、がくぽがリンの中で絶頂を迎えた。  
 肉茎が熱い膣内でビクビクと収縮を繰り返し、その中に容赦なく精液を吐き出す。  
「はぁ、はぁ……あ、なんか、なんかでてる……。がっくんの、リンの中でびくびく  
って……」  
 リンは上がった呼吸のままで、うわごとのように呟いた。  
 全てを吐きだして、がくぽがズルリとペニスを引き抜くと、それと一緒に白濁の液がリ  
ンの中からトロリと溢れ出した。  
 果てた後の余韻から抜け出せず虚ろなままのリンの視線が宙を彷徨い、やがてがくぽの  
それとかち合った。  
「がっくん……ちゅ、して……」  
 リンが小さく懇願し、がくぽに向かって細い腕を伸ばす。彼は唇に薄く笑みをはき、伸  
ばされた手首を掴んでそっとその指に口付けた。  
 
「で、一体これはどういうことなの?」  
 しゅんと項垂れたリン。その前で仁王立ちになっているのはメイコ。がくぽはどこ吹く  
風といった様子で目を逸らしたままだ。ミクは傍でおろおろしており、レンとカイトはド  
アの影からその様子を窺っていた。ツノが見える、とレンが呟き、カイトが慌ててその口  
を塞ぐ。  
「大事な撮影に遅刻してきた上に、こんなに衣装を皺にして。一体どこで何をしていたの」  
「……ごめんなさい」  
 リンは小さな声で謝ったが、メイコの質問には答えない。いや、答えられないと言った  
方が正しいか。しかし、それが余計にメイコの神経を逆撫でしたようだった。  
「大事な撮影だと言ってあったでしょう!」  
 メイコの声が高くなる。リンがびくっと首を竦ませた。  
「理由を言いなさい」  
 今度はメイコの声が低くなった。リンは黙ったまま、ちらちらとメイコの顔色を窺って  
いたが、もう一度同じ言葉を繰り返した。  
「ごめんなさい」  
「リンっ!」  
 メイコの怒声に、リンは今にも泣き出しそうだった。が、それでも口は割らなかった。  
 気まずい沈黙が流れる。  
「メイコどの」  
 意外な人物が静寂を破った。  
 がくぽだ。  
 それまでずっと無言だったがくぽは、リンとメイコの間に立ちふさがるように前へ出た。  
「リンは何もしていない。悪いのは私だ」  
 
 淡々と告げるがくぽを、メイコがじろりと見やった。  
「あなたには関係ないでしょう」  
「いや、関係ある」  
「じゃあ、説明してちょうだい。この状況を」  
「悪いがそれはできぬ。リンは何もしていない。悪いのはこの私だ。それしか言えん。そ  
れが事実だ。責めるのなら私を責めるがいい。責任も私が取る。どうすればよいのか言っ  
てくれ。さすれば、貴女の言うとおりにいたそう」  
 いつになく饒舌に語り尽くし、がくぽは再び貝のように口を閉ざした。メイコは黙った  
まま、がくぽを睨んでいる。さっきまでおろおろしていたミクは呆気にとられ、ぽかんと  
口を開けてがくぽの顔を見ていた。  
 何か言おうとしてメイコは口を開きかけ、深くため息をついた。  
「もういいわ。何かのっぴきならない事情があるんでしょ。そう思っておくことにするわ」  
「かたじけない」  
「二度目はないわよ。リンも、いいわね?」  
「はい」  
 しっかりと釘を刺しておいてから、メイコは部屋を出て行った。その後をカイトが追い  
かけていくのが見えた。  
「腹減ったな。コンビニでも行ってくるか」  
 空気を読んだのかそうでないのか、レンが呟いて踵を返した。  
「あ、レンくん待って! わたしも行く!」  
 レンの後を追おうとしたミクが、去り際にリンを振り返る。  
「あの、リンちゃん。ごめんね、わたしがあんなこと言ったから」  
「ミクちゃんはちっとも悪くないよ。悪いのはリンだから。気にしないで」  
 リンが笑いかけると、ミクは申し訳なさそうに何度もごめんねごめんね、と謝りながら  
部屋を出て行った。がくぽとリンの二人だけが部屋に取り残され、辺りが途端に静かにな  
る。  
「がっくん」  
 リンががくぽの着物の袖を引っ張った。気づいたがくぽがリンを見下ろす。リンはがく  
ぽの腰にぎゅっと腕を回してしがみついた。  
「ありがと」  
 どういたしまして、という代わりに、がくぽが無言でリンの頭を撫でた。  
 
-了-  
 

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