しとしと降る雨が、自分の心の内を代弁しているようだ、とメイコは思った。  
窓の外を憂鬱そうに眺め、はぁ、と息を吐く。  
秋風は冷たくなり、室温もそれほど高くない10月の午後。  
メイコの肩にはいつものジャケットがかかってはいるが、インナーは付けていない。  
両手で支えている裸の胸にはタオルが押し付けられていた。  
一般的に見ても大きめのメイコの胸は、現状、一目で分かる程度に普段より質量を増している。  
折りたたんだ胸元のタオルを指先で摘むと、爪の隙間に白い液体が滲む。  
きもちがわるい、とメイコは思った。  
 
隠しパラメータを発見した、と興奮気味にパソコンの画面を弄っていたマスターは  
メイコの身体をしばらく観察していたが、いつまで経ってもメイコが反応しないので  
飽きて先ほどコンビニに買い物に行ってしまった。  
マスターを見送った後、胸の痛みと窮屈さに服を脱いで見ると  
何ともおぞましいことに、人間の女性のように(それもかなり特殊な状況の)  
胸の先端から母乳が分泌されているのを見てしまった。  
服が濡れてしまうので、下着まで取り払い、ひとまずタオルで押さえてみるが、  
じくじくと滲むそれは止まる気配がない。  
何が何だか訳が分からなかった。  
寒いし、痛いし、恐いし、心細い。  
こんな目に遭わせた張本人はマスター自身であるが、頼れる人もまた彼しかいない。  
 
「ま、すたー……早く帰ってきて、くださ、い……」  
 
ぽつりと呟いた自分の声があまりにも頼りなくて、ますます気持ちが沈んでいく。  
じりじりと待ち続けた挙句、やっと玄関の鍵が開く音がし、  
メイコは安堵のため息を漏らす。  
 
 
「ただいまメイコ、どうした?その格好」  
「マ、マスター……、これ、早く治してくださいっ!」  
 
コンビニの袋をテーブルの上に置いたマスターは、メイコのタオルに手をかける。  
「ま、まさか……やった!大成功じゃないか!」  
「……」  
ガッツポーズで喜ぶマスターをジト目で睨むメイコ。  
 
「なあなあ、今どんな感じ?胸も更に大きくなってるし、イケナイ気分になってたりする?」  
「……不愉快です。痛いし、自分の身体なのに変な感じで、不安になります。  
 はっきり言って私は嫌です」  
「ん?そうなのか…?」  
メイコの反応を意外に思ったようで、マスターは少し残念そうな顔をする。  
 
「だから、早く元に戻してください。こんなんじゃまともに歌も歌えません」  
「うーん…ちょっとだけ。ちょっとだけ見せて」  
露わになった胸に釘付けのマスターは、メイコの懇願にも生返事である。  
「どこが痛い?…うわっパンパンに張ってる。いい眺めだけどもしかして相当きつい?」  
「やっ…やだっ!離してください…っ!」  
無遠慮にメイコの胸を掴んだマスターは、いつも指が埋まるほど柔らかいそれが、  
跳ね返すような弾力を持っていることに感嘆の声を上げる。  
感嘆…この男は明らかに喜んでいた。  
指の圧力で、また胸の突起から液体が溢れてくる。  
それに口を付けようとした彼を、痛みで顔を顰めていたメイコは慌てて制止しようとした。  
「ちょ、ちょっと何を…!」  
「まあまあいいから。んー…ん?甘い?日本の技術力すごすぎだろjk」  
口に含まれた先端を吸われる度、歯が当たる度、鋭い痛みが走る。  
しゃぶられていない方は彼の指先で弄くられているのだが、こちらも痛い。  
 
そして、段々切ない気持ちが押し寄せてくる。  
性的な快感とはかけ離れた、夕暮れの公園に独り取り残されたような不安、  
自分が自分でなくなっていくような心細さに、ブルーな気持ちになってくる。  
 
「マスター…私、こわ、い…。変な気持ち、して。元に、戻してください…っ」  
縋るように彼の手首を握ると、ようやくマスターは顔を上げる。  
「あー……、すまんすまん。置いてけぼりにしちゃったみたいだな」  
マスターはすっかり落ち込んだメイコの頭を撫でてやる。  
「優しくするから、メイコも一緒に気持ちよくなろうな」  
マスターの手が、態度を改めたように繊細な動きで、メイコの胸を撫で擦る。  
「いえ…あの、そうでなくて…」  
「どうだ、少し揉んで中身を出してしまった方が楽になるだろ?」  
……そう言われてみれば、先ほどより胸の張りはましになった気がする。  
「全部絞ったら治るかもしれないしな」  
 
ゆるゆると零れ落ちるしずくを下から舐め上げられ、身体を硬直させるメイコだったが  
マスターの言うことなら、と許容し始めている自分を自覚する。  
ぐうたらな性格で恋人もおらず、休日は安っぽいアパートで  
一日ゴロゴロしていたりする人だが、自分を家族として扱ってくれて  
歌を歌わせてくれるこの男のことが、メイコは決して嫌いではなかった。  
むしろマスターとして、尊敬している部類に入るだろう。  
 
楽器も多少は扱える彼の指は、絶妙な力加減でメイコの胸を解していく。  
彼の口に入る以外の液体は、すべて彼女のスカートの膝の上に滴り落ちているのだが、  
出るものを出してしまえば楽になると思うと、先ほどまでの嫌悪感は感じられなかった。  
純粋無垢なメイコの頭には「搾乳プレイ」といった言葉は見つからず、  
前にテレビで見た、農家の牛の乳搾りの風景が思い浮かび、  
間抜けな構図に笑いがこみ上げてくるくらいだ。  
 
「なぁ、メイコ。これもったいないから後で啜っていい?」  
「き、気色悪いこと言わないでください!」  
 
現実に引き戻され、こんなものを口にするなんてどういう神経をしているのだろうか、  
と考えていたところで、マスターが乳首から口を離す。  
「どうだ、そろそろ痛くなくなってきたか?」  
「え?ええ、最初よりは大分ましに…」  
「そうか、それは良かった!」  
にこやかに頷いたマスターは、ベルトを外し、ズボンの前を寛げ始める。  
 
「マスター…、まさかとは思いますが……」  
「男のロマン、分かってくれるよな?」  
「分かりたくありません…。マスターは変態的な趣味をお持ちだったんですね」  
侮蔑を込めて言ったつもりだったが、マスターにはどこ吹く風で  
「いやいや。潜在的には決してマイナーな願望じゃないはずだぜ。  
 こないだ気の迷いでブログに書いてみたら、『お前は俺か』のコメントが10個くらいきたし」  
と返され、何をやっているんだ自分の持ち主は…とメイコは情けなくて泣きたくなった。  
はぁ、と肩を落とし、自分の手で胸に触れてみる。  
確かに触れるのすら痛くて億劫だった状態よりは随分と楽になっており、  
普段の柔らかさ、大きさにも近づいている…ような気がする。  
 
 
気がしただけで、やはりそう簡単に治るものではなかった。  
「いやー、実にいい眺めだなぁ」  
マスターは、自分の猛りを両胸で挟み込み奉仕するメイコの髪をさらさらと掬い上げる。  
「んっ…まだですか……?」  
ひざまづいたメイコは不満気に、嬉しそうな彼の顔を見上げる。  
溢れ出る母乳と、先走りの液と、二人の汗、といった  
色々な液体が絡まりあう様子が、たいそう彼のお気に召したらしい。  
「俺はそんなに早漏じゃないぞ。もう少し力込められないのか?」  
刺激に物足りないのか、マスターは胸を支えているメイコの腕を掴み、両側から押さえつける。  
「いたっ!マスター…これ以上はっ…無理です!」  
「あー、まだ出てるしなぁ。しょうがない。一旦止めるか」  
「え?もういいんですか?」  
あっさりと手を引く彼に、メイコは少し戸惑う。  
 
「それじゃあ本番入りまーす」  
「そういうことですか…」  
スカートのホックを外し、下着をずらそうとするマスターに、抵抗はしないものの、  
自分から動こうとはしないメイコだった。  
 
「何言ってんだよ。濡れてない訳じゃないだろ?」  
秘所に指を差し込まれ、ぐちりと鳴る水音に、恥ずかしくて俯いてしまう。  
彼に引きずられるようにここまで来てしまったが、段々気持ちが昂ぶってきていたことは  
事実として認めざるを得ない。  
「メイコ、おいで。メイコの好きなペースでいいから」  
ベッドの縁に腰掛けたマスターは、彼女の手を取り立ち上がらせる。  
これも彼なりの気遣いなのだろう。  
「はい…」  
メイコは髪をかき上げ、マスターの肩に手を付くと、  
深呼吸をして、ゆっくりと彼の膝の上に腰を落としていく。  
前戯がほとんどなかったため、少し潤いは足りなかったが、  
初めての行為という訳ではないので、時間をかければ、  
さほど苦労もせず全てを収めることができた。  
「全部、入りました…」  
「よしよし。よく頑張った」  
傍観していただけのマスターの腕が背中に回され、柔らかく抱きしめられる。  
どちらからともなく唇を求め合う。メイコはこの瞬間が好きだった。  
 
「こうやって見ると、思ったより扇情的だな…」  
対面した状態で見下ろすマスターの視線には、うっすらと濡れたメイコの胸と腹が映る。  
そしてほんのりと漂う、香水などとは違う甘い香り。  
「そんなにジロジロ見ないでください」  
メイコはむっとした顔でマスターを睨む。  
「メイコ可愛いよメイコ」  
でれでれと笑いながらマスターは下からメイコを突き上げ始める。  
「んっ…!や…ん……っ!」  
メイコのマスターにしがみ付く腕に力が篭る。  
揺さぶられる度に、メイコの胸の先端からしずくが散り、それがまた  
マスターの気を良くする原因となる。  
 
「は…ぁ……っ!あ…っ…ま、すた…激しい……っ!」  
弱いところにぶつけられる刺激が心地良くて、  
快感を貪るように気持ちが高まっていくのだが、揺らされている胸が少し痛い。  
固定すれば少しは良くなるだろうかと、マスターの胸板に抱きついてみる。  
胸の重みによる振動は軽減されたが、今度は乳首が肌に擦れてじんじんする。  
ただ、今のこの状況を自覚すると、何だかとても恥ずかしいことのように思えて  
抱きついている腕に、繋がっている部分に力が入ってしまう。  
 
「メイコ、どうした?やっぱり辛い?」  
それを痛みによるものだと解釈したマスターが、動きを止めて顔を覗き込んでくる。  
「いえ、そうではなくて…」  
恥じらいに顔を背け、もう一度強く抱きつくと、密着する肌の間で、ぴちゃりと水音が弾け、  
あっ、と声が漏れ出てしまう。  
「ははー、恥ずかしいのか。こうやっておっぱい垂れ流しながら、  
 いやらしく腰振ってて。何か淫乱人妻のAVみたいだよなー」  
マスターはそんなAVが好みなのか、といらない知識が手に入るのと同時に、  
よく意味が分からないけど卑猥な言葉攻めに、少しぞくぞくしてしまう。  
 
「うー……」  
「メイコ。めーこちゃんはエロくて可愛いねー。いいよいいよー」  
ニヤニヤしたマスターが鬱陶しく頭を撫で回してくる。  
もう片手はメイコの胸を揉みしだくのに夢中だ。  
力の加減によって、たまにびゅく、と噴出す生暖かい乳液は、  
彼の腕を伝って二人の下腹部に滑り落ちていき、むずがゆい感覚に心がざわざわする。  
幸せそうな彼の顔は嫌いではないが、一方的にやられっぱなしの状態に  
ちょっと悔しくなってきたメイコである。  
 
「マスター…、オヤジキャラには後3年は早いんじゃないですか?」  
手を振り払いながら睨みつけてやると  
「せめて後5年と言ってくれよ…」  
と、そこそこいい歳をしたマスターは肩を落とす。  
一矢報いた、と優越感を感じたのだが、絶好調のマスターは落ち込んだのもつかの間。  
「まったく失礼なこと言いやがって!」  
「ひゃっ!?」  
ぎゅうっと強めに乳房を鷲掴みにされ、突起を吸い上げられる。  
マスターの口の中に勢いよく液体が流れ込んでいくのが感じられた。  
そのまま、今度はやわやわと揉み解され、胸の中身が先端に寄せられていく。  
 
マスターは器用だ、と思った。定期的に下からメイコを揺さぶりながら  
胸のしこりを、痛みを感じさせない手つきで解し、乳汁を搾り取っていく。  
「メイコ、いっぱい出てる…」  
その言葉にびくりと反応してしまう。このシチュエーションはまるで男の自慰行為だ。  
搾られているというより、扱いて抜かれていると言うべきなのだろうか。  
「そう…いうこと、言わな、いで…、くださ…っ!は、ずかしいですっ!」  
自分の声に媚びたような喘ぎが混じっていることに、羞恥で顔が赤くなる。  
「お、気持ちよくなってきてる?良かったな、おっぱい搾られて感じてるなら  
 これでメイコも変態の仲間入りじゃん」  
「ち、違っ…!!ぅ…ああぁ…っ…や、だぁ…マスターの馬鹿!」  
「ごめんごめん、泣くなって。早く欲しくて我慢できないんだよな。あーもう可愛い」  
 
そうじゃない、このド変態マスター!と怒鳴り返してやりたかったが、  
再び激しく突き上げてくるのに加えて、中核を指で攻められるとメイコの身体はもう限界だった。  
「ぁ、ま、マスター……っ!も、だめっ!……あ、ああぁあ!!」  
回路が焼き切れるような感覚とともに、頭の中が真っ白になる。  
背骨をしならせたまま、びくびくと快感の余韻を堪能し、マスターの腕の中に倒れこむ。  
 
荒い呼吸で酸素を貪っていると、メイコの中に入ったままだった、  
まだ勢いを保っている彼の一物がゆっくり抜き差しされ始める。  
「う、ぁ…先にイってしま、って…すみま、せん…。で、も、ちょっと待って、くださ…っ!」  
「いや、俺もそろそろ出るから…っ」  
言い終わらぬうちに、マスターはメイコを抱きかかえたままベッドに転がり、  
メイコを下にした状態で、結合を解いた。  
「マ、スター…?」  
息を弾ませたメイコの目には、今にも暴発しそうなマスター自身が映る。  
 
「いや、せっかくだから最後はこっちでフィニッシュしようかと思って」  
ベッドに横たわるメイコの胸の谷間に、愛液で淫靡にぬめるそれがぴったりと当てられた。  
両手で柔肉を包み寄せると、裏技で改造された胸の先端からは、  
尚もとろとろと母乳が吐き出されてくる。  
「痛くない?」  
「は、はい…もう大丈夫です」  
「良かった。メイコ、イくよ」  
困惑気味のメイコに笑いかけると、マスターはついに本懐を遂げる。  
挟み込んだままで何度か腰を動かすと、上り詰める一瞬の快楽とともに、  
先端の穴が痙攣し、メイコの胸に白いトッピングが追加された。  
 
 
「うあー…最高だった…」  
「それは良かったですね」  
ぐったりしたメイコは、手探りで掴んだタオルで身体を拭こうとする。  
「ちょっと待った!」  
その手をマスターが俊敏な動作で阻止する。  
「もうちょっとこのままで。何なら写真を撮るだけでいいから……」  
「お断りですっ!」  
メイコはがばりと身体を起こす。どろどろと肢体を伝う白濁が艶めかしいが、  
マスターがそれを視姦して楽しむ余韻を与えず、浴室に向かってしまう。  
 
心底残念そうにため息をつくマスターだったが、シャワーの音が響き出すと  
つけたままだったパソコンに向き直る。  
「設定解除…っと。あ、この数値は保存しとこう。  
 一夜漬けだったけど、俺のプログラミングの腕も捨てたもんじゃないってことだよな…」  
 
隠しパラメータなど存在しないことを、メイコは知る由も無かった。  
 
 
END  
 
 

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