「ただいまー…」
「只今戻りました…」
「つ、疲れた…」
夕飯が終わった頃にレコーディング室から返って来た男子3人はげっそりとしてい
て、そのまま布団に倒れ込もうならば3秒で寝てしまいそうな様子だ。ここ1週間ほ
ど、バナナイスの調教に目覚めたらしいマスターは、作り溜めてあった新曲だったり、
男性アーティストのカバーだったりを、レン、カイト、がくぽくんの3人に歌わせて
いる。その分、私たちは自主レッスンをしつつも、ゆっくりと過ごしていた。
「ご飯、どうする?」
今日の食事当番だったリンが、おずおずと問い掛ける。メニューは麻婆茄子だ。甲
斐甲斐しいわねぇ、なんてミクと見守っていた手前、がくぽくんには食べて欲しいと
ころである。不安そうに見るリンの頭を撫で、がくぽくんは「頂こう」と微笑んだ。
つられて、リンの表情もぱっと明るくなる。
「すぐに準備するから、座って待っててね!」
ぱたぱたとキッチンに駆けて行くリンの姿を見ながら、私は「青春ねー」とミクに
話かけた。ミクは、きょとんと目を丸くさせる。
「お姉ちゃんは、青春してないの?」
「…え……?」
思わず言葉に詰まってしまった。青春…していないわけでは、ないと思うんだけど。
そこのところ、はっきりとは言えない気がする。
ミクは私の様子をさほど気にしていないようで、「アイスも準備してあるよー」と
カイトの元に駆け寄った。疲れた表情をしていたカイトに、いつもの気の抜けた笑顔
が戻る。その顔を見て、ミクも嬉しそうに笑う。これがミクの青春か…と心の中で呟
いたら、こっちをじっと見ているレンと目が合った。思わず、目を逸らす。
……あ、まずかったかな…。そんな風に後悔しても、逸らしてしまってからではも
う遅い。
赤くなる顔を手で押さえながら横目でレンを見ると、既に椅子に腰掛けて夕飯を待
っていた。…さっき見ていたのは、気のせいだった?ううん、気のせいなんかじゃな
かったと思うんだけど。
だからと言って皆がいる前で、レンにそんなこと聞ける訳がない。
「私、先にお風呂入ってくるわね」
「はーい、いってらっしゃーい」
変に熱くなった頬を誤摩化す為に、そのまま風呂場へと向かった。
湯船に浸かりながら、私は目を閉じた。
レンと関係を持ってから、1ヶ月が経つ。あれからレンは夜になると、ほぼ毎日の
ように私の部屋にやってきた。……勿論、そういうことをするために。よくもまあそ
んな体力があるものだと、ある意味感心する。これが若いってことなのかしら。
そして、若いが故に色んなことをどんどんと吸収するレンは、どこで仕入れたのか
分からない知識(恐らくネットやマスターのエロゲだろう)をどんどんと私に試して
いった。なにが悔しいって、感じてしまって拒絶できない自分が悔しい。本当は、ま
だレンを受け入れることにだって、抵抗があるというのに。
レンは私の事が好きだという。その気持ちは嘘ではないと…思う。そう、思いたい。
でも、ふたりきりになると、してばかりだし……本当に、「恋愛」という意味で私の
事が好きなのか、不安になる…。
……って、これじゃあ私がレンのこと好きみたいじゃないの!!
「…そ、そんなこと……」
それ以上言葉が紡げなくて、私はぶんぶんと首を振った。なんでこんなにレンのこ
とばかり…。ここ1週間、疲れて帰って来てるためかレンが部屋に来ないから、こん
な風に変にぐるぐる考えすぎてる気がする。…別に、それが寂しいなんて思ってない。
思ってなんか、いない、のに。
鮮明に思い出される、指、吐息。1週間、していないというのに…いや、きっとし
ていないからなんだろう。欲求不満、という言葉が思い浮かんで、自分の頬が熱くな
ったのが分かった。
のぼせたのか、頭がぼーっとする。私は何かに惹かれるように、足の付け根に右手
を伸ばした。レンの指を思い出しながら、そっと触れる。周りをやわやわと揉んで、
それから、ゆっくりと割れ目をなぞって…時折、指先が陰核に触れて、その度に私は
反応してしまう。
「…んっ……」
気付くと、左手が乳首を捏ねくり回していた。レンは私の弱いところを同時に攻め
て来る。そんなのに抵抗なんて、できるわけがない。
「…んんっ…ふ…ぅん…」
陰核をくりくりと弄り始めたころには、私のそこはお湯の中でも分かるくらい濡れ
ていた。指先に粘り気のある愛液が絡み付く。それを陰核に擦り付けながら、膣へ指
を潜り込ませる。最初は1本。そのうちに、それだけじゃ足りなくなって、もう1本。
内部にお湯が入って来て、それさえも刺激となっていく。
『声、聴かせてよ』
ここにはいないレンの声が頭の中で再生される。同時にレンがそうするように、陰
核を潰すように摘んだ。
「あああっ!!」
浴室に響いた声が大きくて、私ははっと我に返った。…一体、今、私は何をしてい
た…?理解する前に頭に血が昇っていく。こんな、風呂場で…ひとりで、なんて…。
完全にイってしまう前だったが、冷静になった状態では続きなんてできるわけがな
い。まだ下腹部が切なく疼くけれど、私は慌てて風呂から上がった。
「……なに、してんのよ…」
部屋に戻ると、悩みの元凶がベッドの上で丸まって、すやすやと寝息を立てていた。
寝ている姿はまるで無邪気な子どもそのもので、私はさっきの自分を思い浮かべて恥
ずかしくなる。イク直前で行為をやめたからなのか、それだけで下着が濡れたのが分
かった。
「………早く、部屋に帰らせないと」
レンの身体を揺すりながら名前を呼ぶ。
「レン、起きなさい!寝るなら、自分の部屋で寝なさいよ」
よほど疲れているのか、どれだけ揺さぶってもレンは目を覚まさない。すやすやと
眠っている姿は、可愛い弟そのものだ。他の家の『鏡音レン』はこんな感じなのだろ
うか。元気で、ちょっと意地っ張りで、『MEIKO』を姉のように慕って…。
何故か、ちくりと胸が痛んだ。
「もう…っ!」
普段ならそのまま寝かせておくこともあるけれど、今は無理だ。
だって、身体が熱い。これは、入浴していたせいじゃない。まだ、興奮が収まって
いないのに。今だって、このままレンと…。
「…もう、バカ…っ」
「誰が?」
聴こえるはずのない声が聴こえ、私は思わず固まった。さっきまで目の前で眠って
いたレンが、目を開いてこっちをじっと見ている。何も言えない私を見て、にっこり
と笑った。
「な、なんで……」
「寝たフリでもしてれば、メイコ姉がキスとかしてくるかなーって思って」
「…ね、寝たフリ!?」
「うん。結局してくれなかったけどさ」
悪びれずに、しれっとレンは応える。
「で、誰がバカなの、メイコ姉?」
レンは、笑顔のまま無邪気に問い掛けた。こうやって年相応のように見えるときは、
何かを企んでいるときだ。
「あ、あんたに決まってるでしょ!寝たフリなんかして…」
「だって、さっきメイコ姉、オレから目を逸らしたでしょ」
「そ、れは…」
やっぱり、気のせいじゃなかった。その事実にほっとすると同時に、私を見ていた
ことなんて嘘のように椅子に座っていたレンに対して、妙なむかつきを覚える。
「目を逸らしたのは、悪かったわよ…でも…」
「どうせ、メイコ姉はあの場でオレに問いつめたりしないだろうと思って、部屋に来
たんだよ。いけなかった?」
ここで、ダメと言わなきゃいけないのに、何故か言えない。むすっと黙った私を見
て、レンは機嫌をよくしたようにくすくすと笑う。立ち尽くしたままの私の腕を引き、
ぎゅっと抱きしめられる。
「もう、レン!明日も朝早いんでしょ!早く寝なさいっ!」
「明日は1週間振りに休み。…明後日からまた怒濤だけど。だから、充電させてよ」
「じゅ、うでん…?」
「そ。疲れてるし、眠いけど…それ以上に、メイコ姉が足りないよ。…メイコ姉もそ
うでしょ?」
…え?
はっとしてレンを見る。レンは笑顔のままで、何を考えているのか分からない。
「聴こえちゃったんだ」
それだけで、全てを理解した。まさか、聴こえていたなんて…!一気に頬が熱くな
る。恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。
レンの腕から逃げ出そうと身体を捩らす前に、ベッドに押し倒された。そのまま、
パジャマ代わりのショートパンツと下着をずりおろされる。風呂場での中途半端な行
為のせいで、既にぐちょぐちょの割れ目にレンの指が触れた。
「れ、レン…!」
「すごい、ぐちょぐちょだよ、メイコ姉」
「やっ、ああ…っ!」
昂っていた身体は、焦る気持ちとは裏腹に刺激を喜んでいた。レンの指が秘裂を往
復するたびに、ぬちゅぬちゅと水音がして耳を塞ぎたくなる。やめさせようと、伸し
かかるレンの肩を押すが腕に力が入らない。私は喘ぎまじりに拒絶するしかなかった。
「や…んっ…やめ、て……あぁんっ!」
Tシャツの間から侵入した手が、固くなった乳首を乱暴に摘む。痛いはずの刺激す
ら気持ちよくて、愛液がどろっと零れるのが分かった。やめて欲しいのに、こんな風
に反応してしまう自分が嫌だ。
悔しくて悔しくて、目尻に涙が浮かぶ。映ったレンの表情が、確かに笑っているは
ずなのに、何故か泣きそうに見えた。
「すごいねメイコ姉、ひとりでして、こんなに濡らしてたんだ」
「ち、ちが…っ!」
「マスターのこと考えて?それとも、別のこと?」
ぽろっと零されたレンの言葉に、思考が停止する。…なんで、ここでマスターが出
てくるのよ。
呆然とレンを見る。レンは、「図星?」と呟いて、つらそうに眉を寄せた。
……ひょっとして、レンはまだ私がマスターのことを好きだと思っている?
確かに私は、マスターが好きだった。私はVOCALOIDで、マスターは人間で、叶う
はずのない恋だと分かっていたけれど、好きだった。でもその想いは既に消化して、
過去のことだ。それは、レンがいたからというのが、大きいだろう。
そう思うとだんだん目の前のレンに対して、腹が立ってくる。レンは、私がマスタ
ーを好きなまま、レンと身体を重ねていたと思っていたのだろうか。確かに最初は流
されたかもしれない。でも、そんな簡単じゃない。だって、今の私は…。
バチッ
両手で、レンの両頬を叩いた。
「…メイコ姉…?」
目を見開いて、レンは動きを止める。何故叩いたのか、理解していないようだ。腹
が立つ。むかむかと胸の奥から込み上げる苛立ちを、そのままレンにぶつけるように
叫んだ。
「マスターじゃないわよ!…あんたのこと考えてしてたに決まってるでしょ!?」
…後で考えたら、ものすごい台詞を言っていたことになる。でも、私は言わずには
いられなかったのだ。
鳩が豆鉄砲くらったような顔をして、レンはじっと私を見ていた。
「…うそ……」
「嘘なんかじゃないわよバカ!」
もう一度、今度は軽く、レンの頬を叩く。ぺち、という音が私の部屋に響いた。レ
ンは、まだ固まったままだ。
「………レン…?」
名前を呼んだ途端、痛いくらい強く抱きしめられた。レンのどこにこんな力がある
のだろうか。苦しいはずなのに、何故か心地いい。
「…………メイコ姉」
「何…?」
「オレ、メイコ姉のこと好き。すっげー、好き」
企みとか、そんなものない、混じりけのない笑顔でレンは言う。純粋に、その気持
ちが嬉しくて、頬が赤くなるのが分かる。私は何も言えずに、ぎゅっとレンの背中に
自分の両腕を回した。
「……それから、ごめん」
「え?」
言われたことの意味がよく分からない。こんな風に性急にことを進めたこと?それ
とも、マスターのことだと勘違いしていたこと?瞳でそう問い掛けると、レンは小さ
く首を振った。
「それもだけど…ごめん」
「え、きゃっ…ぁあああっ!」
不意に右足を持ち上げられ、一気にレンのものが突き立てられる。十分に潤ってい
たそこはレンを難なく受け入れる。頭の中が真っ白になり、膣内がひくひくと痙攣す
る。私は入れられただけで、軽くイってしまった。
それでもレンはやめようとしない。律動が始まり、無理矢理意識を戻される。
「や、レン…っ、ああっ、だ、だめっ、ま、まだぁ…!」
イったばかりで敏感になっている身体に、この刺激は強すぎる。腰を打ち付けられ
る度に意識が飛びそうになるが、動きは止まらないので余韻に浸る事すら出来ない。
肉がぶつかり合う音と、ぐちゃぐちゃという水音がいつもより大きく響いて、さらに
興奮を高めていく。
「ひゃ、ぁあ、あっ、あぁン、ああっ」
今日の行為はいつもより激しい。それは、一週間ぶりというせいなのか、それとも
私の言葉が原因なのか。分からないけれど、生理的に浮かぶ涙で滲んだ視界に映るレ
ンの姿は、いつもより余裕がないように見えた。
片手がぎゅっと強く絡められる。ピンと張りつめた陰核をレンの指が擦りあげ、私
は自分でも驚くくらい高い声を上げた。
「ひぃあああっ!!」
「メイコ姉…メイコ姉…っ!」
唇を求められ、私もそれに応える。レンの舌が私の口腔内をなぞり上げ、私もレン
の舌裏を舐める。
「ふ…ぅん…っ」
貪るようなキス。お互いの唾液が混じり合って頬を伝い、シーツに染みを作ってい
く。その間もレンの動きは止まらない。片足をぐっと肩に押し付けられ、さらに奥を
責め立てられる。
「ああっ、はぁあっ、あぁッ!」
脚がぶるぶると震える。だんだんと何も考えられなくなり、快感に全てを委ねそう
になる。繋いだ手を強く握り、私はレンの名前を何度も何度も呼んだ。
「あっ、ああっ、レン、レンっ、レン…っ!」
「メイコ姉…ッ!」
一度抜けそうなほど引き抜かれ、一気に奥まで挿入される。身体がびくびくと震え、
膣内が収縮してレンのものを締め付ける。最奥に吐き出されるものを感じながら、私
は意識を手放した。
実際、気を失っていたのは数秒だったのだろう。隣にレンが倒れ込んだ衝撃で私は
目を覚ました。
「メイコ、姉…」
荒い息でレンが私の名前を呼ぶ。未だ繋がれた手に、きゅっと力がこもった。朦朧
としながら視線を動かすと、レンは普段のような作りものでない、心から笑っていた。
「好きだ……」
それだけ言って、目を閉じた。じきに規則正しい寝息が聴こえて来る。ここ1週間
朝から晩まで歌いっぱなしで、そんな身体であんなに激しい行為をしたのだから、眠
ってしまっても仕方ない。
後処理をしたくても、レンの手は私の手を握ったまま離れない。無理矢理剥がすこ
ともできるけど…そうはしたくなくてそのまま、レンの身体に身を寄せる。
レンが起きたら、自分の気持ちを言おう。
そう心に決めて、閉じられたレンの瞼にキスをした。
END