「彼女、ですか…」  
 
 ある日のこと、オレたちはマスターにそんな報告をされた。そんな報告、わざわざ  
全員呼び出してまですることかと疑問に思ったが、ミク姉とリンは無邪気に「おめで  
とうございますー!」と笑いながら、がくぽは「目出度いことですし、宴でも開きま  
すか」なんて真剣な顔をしながら、カイト兄なんて「マスターにもやっと、やっと春  
が来たんですね…!」と失礼な感動をしながら祝福しているので、オレもとりあえず  
「マスターおめでとう」と笑った。  
 嬉しそうにへらへらとしているマスターを尻目に、オレは黙ったままのメイコ姉に  
意識を移す。メイコ姉は一瞬複雑そうな表情を浮かべた後、それはとても綺麗に微笑  
んだ。  
 
「おめでとうございます、マスター」  
「ありがとう、メイコ!」  
 
 それ宴の準備だなんだと、マスターたちは盛り上がって行く。そんな中、メイコ姉  
は気付かれないよう静かに部屋へと戻って行った。…え?なんでオレが気付いたんだ  
って?そんなの、オレはメイコ姉を見ていたからに決まってるじゃないか。  
 メイコ姉が部屋に入った頃を見計らって、オレもその場から離れる。みんな変にテ  
ンションが上がっているから、オレたちになんて気付かないだろう。大体、マスター  
に彼女が出来たからって、そんなに盛り上がる事か?結婚する、とかだったらまだわ  
かるけどさ。  
 オレは自分の部屋には戻らずに、そのさらに奥にあるメイコ姉の部屋の前で足を止  
めた。ぴったりと閉じられた扉は、鍵はかかっていないようだ。メイコ姉にしては珍  
しい。それだけ、動転していたという事なのだろう。  
 オレは、一度だけ深呼吸して、メイコ姉の部屋の扉をノックすると同時に開けた。  
 
「メイコ姉ー!」  
「……っ!!」  
 
 ベッドの上に座っていたメイコ姉が、驚いたようにこっちを振り向く。その目から  
は、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。こんな姿、普段のメイコ姉からは考えら  
れないだろう。オレは、わざとらしく驚いてみせた。  
 
「…メイコ姉、どうかしたの?」  
 
 我ながら、分かりきった事を聞いていると思う。いやでも、何も知らない『弟のレ  
ン』なら、メイコ姉こんな姿を見たらまずこう問い掛けるだろう。そしてメイコ姉は、  
乱暴に涙を拭い「なんでもないのよ、気にしないで」なんて、にっこりと笑うんだ。  
なんでもないわけがないというのにね。  
 呆然とオレを見つめていたメイコ姉は、はっと我に返ると両手で乱暴に涙を拭い、  
にっこりと笑った。  
 
「なんでもないのよ、気にしないで」  
 
 ここまで行動も言動も想像通りだと、オレの想像力もたいしたものだと思う。  
 
「なんでもないわけないじゃん、メイコ姉が泣くなんて…!」  
「あー…ちょっと目にゴミが入っちゃったのよ。まったく、痛くて仕方ないわ」  
 
 他のみんななら、その理由で納得するんだろう。でも、オレはそんなことでは引き  
下がらないよ。だってオレは、メイコ姉が泣いている理由を、知っているから。  
 
「だから、気にしなくていいから……」  
「メイコ姉は、本当強がりだよね」  
「……え?」  
 
 きょとんと目を丸くしているメイコ姉に近づく。勿論、警戒するそぶりなんてない。  
悲しい事に。だってメイコ姉の中で、オレは『弟のレン』だから。実際、他の家では、  
オレが『MEIKOの弟』ということもあるのだろう。そして目の前にいるメイコ姉も、  
オレがそうだと信じている。  
 でもね、オレは違うんだよ、メイコ姉。  
 
「大丈夫。オレは、全部知ってるよ」  
 
 オレは、メイコ姉の唇に、ちゅっと高い音を立ててキスをした。  
 
「…え?」  
 
 今のオレの行動が理解できないかのように、メイコ姉は「え?え?」と何度も繰り  
返している。まぁ、あれくらいのキスなら、外国では挨拶みたいなもんだし。そんな  
風に誤摩化されちゃたまったもんじゃないので、オレはメイコ姉の頬にある涙の跡を  
舌で辿り、目許に口付けた。  
 
「これじゃあ明日、目が腫れちゃうかもね。後で冷やした方がいいんじゃない?」  
「ええ、そうね…って、そうじゃないわよ!な、なにするのよレン!!」  
 
 やっと現状が把握できたらしい。メイコ姉は顔を赤くしてオレを叱りつけるけど、  
今更遅いんだよね。オレはメイコ姉と額をくっつけ、両手で頬を包み込む。  
 
「メイコ姉は、マスターが好きだったんでしょ?」  
「な…!?」  
「必死に隠してたみたいだから、オレしか知らないと思うけど」  
 
 そう、メイコ姉はマスターへの気持ちをひた隠しにしていた。きっと、マスターだ  
けでなく、ミク姉もリンもがくぽも、カイト兄だって知らないと思う。でもオレは、  
気付いてしまった。  
 
「レン、何言って…」  
「だから、泣いてたんでしょ?」  
 
 かああと、目に見て分かる程にメイコ姉の顔が真っ赤に染まる。言葉にしなくても、  
誰だってそれが肯定の意だと分かるだろう。  
 
「だ、だからって、なんでこんなこと…!」  
「ん?そんなの決まってるじゃん。オレ、メイコ姉が好きだし」  
「……はぁ!?」  
「……さすがに、その反応は傷付くんだけど…」  
 
 仮にも…いや、仮じゃなくて本気だけど…告白にその反応は酷いと思う。あーでも、  
メイコ姉は混乱してるし、仕方ないのかな。うん。  
 オレはにっこりと笑って、もう一度メイコ姉にキスをした。  
 
「だからさ、オレがメイコ姉を慰めてあげる」  
 
 ベッドの上に座っていたのは好都合、神様の思し召しとしか思えない。オレはメイ  
コ姉の両腕を掴んで、そのまま押し倒した。ふたりの体重で、ベッドが大きく軋んだ。  
 じたばたと暴れるメイコ姉の両腕を押さえながら、額、瞼、頬、鼻の頭、唇へとキ  
スを落として行く。  
 
「ちょ、レン!冗談もいい加減にしなさいっ!」  
「冗談でこんなことしないよ」  
 
 真面目な顔で応えると、さすがにメイコ姉もオレの気持ちを悟ったらしい。先ほど  
までは怒っていた表情が、みるみるうちに困惑に変わって行く。暴れるのも止めて、  
身体の力を抜いた。  
 
「……あんたが、本気だってのは分かった。でも、こんなことするのはダメよ」  
「なんで?」  
「だって……レンは、私の弟で…」  
「別にオレはメイコ姉の弟じゃないよ」  
 
 確かに弟設定が多いけど、あくまで『設定』だ。オレたちはVOCALOIDだから血の繋  
がりとかもないし、それにオレとメイコ姉は内蔵エンジンすら違う。親戚あたりが関  
の山だ。  
 
「そ、それはそうだけど……年だって離れてるし」  
「メイコ姉は年齢なんてないじゃん。それに、そんなの関係ないよ」  
「関係なくなんて……!」  
「じゃあ、メイコ姉はオレのこと嫌いなの?」  
 
 じっと目を見つめてそう問うと、メイコ姉は言葉をつまらせた。  
 
「……き、嫌いじゃないけど…」  
「じゃあいいじゃん。オレはメイコ姉が好き、メイコ姉もオレは嫌いじゃない。それ  
で十分でしょ」  
「そういう問題じゃ……きゃぁ!」  
 
 反論される前に、オレはメイコ姉の上着を、下着ごと勢いよくずり上げた。両胸が、  
まるでぷるんっと音がするかのように震えて現れる。  
 
「れ、レン!」  
 
 仰向けなのに、メイコ姉の胸はまったく形が変わらない。その事に少し感動しつつ、  
そっと触れる。柔らかい。手を広げても溢れ出る乳房をゆっくりと揉み始めると、制  
止しようとするメイコ姉の声に覇気がなくなってゆく。オレは見えないように笑って、  
もう片方の胸の先端を口に含んだ。  
 
「ぁあっ!」  
「メイコ姉、乳首弱いの?」  
「な、何言って…やっ…!」  
 
 揉んでいた方の胸の乳首も、指できゅっと摘むと、メイコ姉の身体がびくっと大き  
く跳ねた。やっぱり、乳首が弱いらしい。すでにぴんと勃ち上がっている。指で捏ね  
くり回し、唇で挟む。メイコ姉の声が、だんだんと艶っぽくなっていく。  
 なんだか、ぞくぞくした。  
 
「んっ…あ、ああっ…」  
「気持ちいい?」  
「そんなわけ…ぁんっ!」  
 
 反論の途中で弾かれて、喘ぎ声なんて上げたら、説得力皆無だよなぁ。でもそんな  
風に、強情なところがメイコ姉の魅力だと思うし、オレも好きだからいいんだけど。  
 胸の頂に軽くキスをして、オレはメイコ姉の太ももに触れた。驚いたメイコ姉が身  
体を起こす前に、そのまま片足を持ち上げる。黒い下着だから分かりにくいけど、中  
心は確かに湿っていた。  
 
「ほら、やっぱり感じてた」  
「バカ言ってるんじゃないわよ…!ねぇ、レン…いい加減やめて」  
「どうして?」  
「どうしてって…」  
 
 オレは顔を上げてメイコ姉を見た。  
 
「本当に嫌なら、もっと暴れればいいじゃん。大声出せばいいじゃん。もっと、オレ  
を拒絶してよ。それならオレも諦められる」  
「…………そんな…」  
「中途半端に優しくするなよ。オレは弟じゃない。メイコ姉が好きな、ただの男だよ」  
 
 メイコ姉の言葉が無くなる。困ったようにオレを見ていたが、そのまま目を伏せた。  
暴れる様子も、大声を出す様子も無い。オレは、いつもみたいににっこりと笑った。  
 
「別に、メイコ姉がオレを好きじゃなくてもいいよ。…いや、好きでいて欲しいけど。  
オレが、メイコ姉を好きだってことだけ、覚えてて」  
「……うん」  
「それと、悪いけどもう今日は止められないんだ。ごめんね」  
 
 いい終わらない内に、メイコ姉に口付ける。舌をねじ込むと、メイコ姉の舌もそれ  
に従った。長い長いキス。メイコ姉の腕がオレの首に回る。唇と唇が離れると、唾液  
が糸を引いてその内に切れた。  
 下着をずらし、直接メイコ姉の割れ目に触れる。ただでさえ潤っているというのに、  
なぞるたびにぬるぬると愛液が溢れて来る。メイコ姉は、唇を噛み必死に声を押さえ  
ていた。  
 
「んっ…ぁんんっ…!」  
「メイコ姉、声出して。聴きたい」  
「そんな…んぁあっ…こと…っ!」  
「いいじゃん、聴かせてよ」  
 
 このままじゃ、唇だって傷がつくかもしれないし。オレは、ちゅっと軽く口付け、  
唇が離れた瞬間に陰核を擦り上げた。  
 
「ふあぁっ!」  
 
 油断していたメイコ姉が、ひどく高い声を上げた。休む暇を与えないよう、親指と  
人差し指でくりくりと陰核を弄り、膣内に中指を挿入する。最初の悲鳴が刺激になっ  
たのか、メイコ姉は唇を閉じる事すら出来ず、オレにしがみついたまま息を乱して喘  
いでいる。  
 
「やっ、だ、だめぇ…!あっ、ああんっ!」  
 
 指を二本に増やし、バラバラに動かす。ぬちゅぬちゅと粘り気のある水音が、部屋  
の中に響く。メイコ姉の両足が、がくがくと震え始める。限界が近いのだろう。  
 オレは、ぷっくりと隆起している陰核に愛液をなすりつけ、そのまま潰すように摘  
んだ。弓なりに仰け反ったメイコ姉の身体が、痙攣する。  
 
「――――ッ!!」  
 
 声にならない悲鳴を上げ、メイコ姉は達した。まだ愛液を溢れさせる膣内から指を  
抜くとほぼ同時に、メイコ姉の身体から力が抜ける。荒い息をし、涙を浮かべて、意  
識がを朦朧とさせているメイコ姉の目許にキスをした。  
 
「イっちゃうメイコ姉、可愛かった」  
「何言って…ひゃぅ!」  
 
 濡れすぎて用を成さない下着を脱がし、まだひくひくと痙攣している秘裂にオレの  
ものを宛てがうと、メイコ姉は少し怯えたように顔を上げた。  
 
「レ、レン…まだ…!」  
「うん、でもオレも限界だから。いくよ」  
「ちょ、待っ……ふぅああっ!!」  
 
 十分に潤っているそこは、オレを容易に受け入れる。ず、ず、と奥へ腰を進めるた  
びに、メイコ姉は短い喘ぎ声を響かせた。メイコ姉の中は、きゅうきゅうとオレを締  
め付ける。ようやく根元まで収まって、オレは無意識のうちに食いしばっていた歯を  
緩め、小さく息を吐いた。  
 これは、やばい。  
 
「メイコ姉…」  
「…な、に…?」  
 
 問い掛けるメイコ姉を抱きしめる。  
 
「メイコ姉の中、すっごく、気持ちいい」  
 
 そう言った途端、メイコ姉の顔が真っ赤に染まり、膣内が収縮してオレを締め付け  
た。たまらない。あたたかく、やわらかなメイコ姉の中は、想像以上に気持ちよくて、  
今にも果ててしまいそうだ。  
 
 繋がったままどちらともなく唇を重ねる。口内を舌で貪り、名残惜しげに離れる。  
オレは、ゆっくりと抽送を開始した。  
 
「あっ、はぁっ、んっ、ああンっ…!」  
 
 腰を打ち付けるたび、メイコ姉が短い喘ぎ声を上げる。オレは、ひたすらメイコ姉  
を突き上げた。律動に合わせてぷるん、ぷるんと揺れるメイコ姉の胸と、繋がってい  
る部分からするぐちゃぐちゃという水音が、さらに興奮を高めていく。  
 びくびくと震えるメイコ姉の脚を、肩に近づけて押さえつける。先端がさらに奥を  
刺激し、メイコ姉は唇から唾液をだらしなく垂らしながら喘いだ。  
 
「ひっ、ゃあっ、あっ、だめっ、あっ、やああ…っ!」  
「め、メイコ姉、も、オレも、やば、…っ」  
「あ、やあっ、んっ、あああんっ!」  
 
 メイコ姉の焦点の定まらない瞳に、余裕の無いオレの姿が映る。オレも、メイコ姉  
も限界だった。  
 
「ぁあ、はぁんッ、れ、レンっ、レンッ……ぁあああっ!」  
「……っ!」  
 
 ぶるぶると身体を震わせ、メイコ姉は一際高い嬌声を上げる。ぎゅうぎゅうと搾り  
取るように内壁が締め付け、耐えきれずにオレもメイコ姉の中に全てを吐き出した。  
 
「…はぁ…はぁ……」  
 
 力が抜けて、オレはメイコ姉の上に倒れ込んだ。受け止めるように、メイコ姉がオ  
レを抱きしめる。暫く、そのまま抱き合っていて、漸く上がった息が落ち着いたころ  
に、オレはぽそりと呟いた。  
 
「すっげ、気持ちよかったぁ…」  
「…何言ってんのよ」  
「気持ちよかったのは、気持ちよかったから仕方ないじゃん。…メイコ姉は?」  
「えっ…?」  
「気持ちよく無かったの?」  
 
 わざとらしく首を傾げて、そう問い掛ける。顔を真っ赤にしてぱくぱくと口を動か  
していたメイコ姉は、ふいっと目を逸らした。  
 
「そんなこと、言えるわけないでしょ、バカ」  
 
 分かりにくくて分かりやすい肯定に、オレは笑った。メイコ姉もつられたように笑  
う。オレはその頬に、子どものようにちゅっと口付けた。  
 
END  
 

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