「お、お兄ちゃん……もっ、や、だ!…んぁ…は…っ」
ミクの吐息が部屋からもれる。
いつもならこの時間はメイコ、レンリン達と夕飯を食べている頃だが
今日はマスターと出掛けてて留守だった。家にはカイトとミクしか居ない。
が、当のカイトは防音の利いた部屋で新しい曲を練習中。
そうここはミクの部屋で、ベッドの上で動いているのは服を着たままのミクただ一人。
右手が敏感な所を擦りあげる。
「んん……っやっ。お兄ちゃ、ん…」
自分のそれがお兄ちゃんのものだと思うと、すごく興奮した。
いつからか解らないけれどそのことに気づいてからはずっと
「お兄ちゃん」を相手に一人遊びをしている。
これはミクだけの秘密だ。
執拗につぼみを弄りながらも、ぼんやりと時計を確認する。
(ああ、駄目もうすぐお兄ちゃん練習終えて出てきちゃうのに…)
だがそう思えば思うほど、蜜は溢れ出る。
もしかしたら見られてしまうかもしれない、という緊張感が更にミクを煽っていた。
我慢出来ずに指を秘所に滑り込ませる。あっという間に2本、3本と飲み込んだ。
無規則にぐちゃぐちゃと掻き混ぜれば、卑猥な音が部屋に響く。
その音が耳に届くと、更に興奮した。
「…あ、はぁ……お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」
何度も何度もその名を呼んだ。
叶わないからこそ、目の前にいないからこそ、名前を呼んで慰める。
脳裏を掠めるのはいつもの優しいお兄ちゃんの顔。
お兄ちゃんの静かな瞳、優しい手。
少しごつごつした―――指。
―――ああ、あの指にぐちゃぐちゃにされたらどんなにか幸せだろう。
あの優しい声が私の名を呼んで切なそうに果てる姿は、どんなにか扇情的だろう。
全ては想像だ。想像に過ぎない美しさがそこにはあった。
指が勝手に動く。
声が勝手に喘ぐ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん―――、おに、い、ちゃん…!」
お兄ちゃん、と名を呼ぶたびにジュクジュクとそこが潤い快感が走る。
もう我慢なんて出来ない、今すぐどうにかなっちゃいたい。
お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。
もう声も出せない。
一人で乱れて、一人で、果てた。
「はぁ…はあ………んっ……」
ゆっくりとミクは指を引き抜いた。
とぷん、とでも音がしそうなほどにそこは濡れていて胸がきゅっとなった。
一人遊びの後はいつも少しの倦怠感と、少しの罪悪感が入り混じった複雑な気分になる。
確かにイク事で快感は得られるけど、それで心が満たされる訳じゃない。
ミクは小さく嘆息をついた。
結局は、余計寂しくなるだけ。
人肌が恋しくて―――寂しくなるだけ。
いつもはこんな事じゃ泣かないのに、今日は何でか泣けてきた。
「…ふ…ひぃっく……お兄ちゃんっ……」
なんでだろう。
今日はとても寂しい。すごく寂しい。
今同じ家に居るのに、私は一人でこんなことしてるから?
一度そう思ったら涙が止まらなくなってしまった。
スカートの乱れもそのままに、声を抑えるのに必死だった。
袖で口元を覆った。
どうしよう、寂しいよ、お兄ちゃん。
――――寂しいよ、お兄ちゃん。
カイトは、とても困惑していた。
ミクの涙を見たことに。
ミクの一人の―――その、あの、だから―――それ、を見たことに。
そしてなおかつ、名を呼ばれていたのが。
自分だった事に。
練習が巧く歌えたので気分が良くて、練習を早く切り上げたんだ。
晩御飯何にしようか聴こうと思ってミクの部屋の前まで来た。
でもそこで、時間が止まった。
それは、聴いたことの無いミクの声だった。
見たことも無い、あられもない、ミクの姿だった。
言っておくけど、ドアは最初から少し開いていたんだ。
まさか僕だってそんな声が聴こえてるのに、その部屋を覗くほど無神経じゃない。
ああ、だけど、そんな、まさか。
ミクはずっと妹で、家族で、子供みたいな存在で。そりゃ女の子だけど
女の人―――ではなくて。やっぱり僕には妹で。
なのに、ミクの呼んだ名前が自分だったことを僕は今少し喜んでいる。
いや少しどころか、実はとても喜んでいる気がしている。
(この気持ちは―――なんだ?)
顔が熱くて熱くて堪らない。
ああでもミクはきっと見られたくなかっただろうに。どうしよう、どうすれば。
この場から立ち去るのが一番だと思うのに体は一歩も動かない。
金縛りにでもあってしまったかのようだ。
頭の中で、さっきの扇情的なミクの姿と、呼ばれたことの無い艶のある声色の
"お兄ちゃん"の単語がただぐるぐるしている。
ああ、解らない思考回路はショート寸前★とかいう歌を前マスターが教えてくれたっけ
などど今はどうでもいいことが頭を過ぎる。
しっかりしろ!と自分を叱咤するけれど、隙間から見えるのは今は何故か泣きじゃくるミクの姿だけ。
―――なんで。
(泣いているんだろう……。)
それは本能に近かった。
カイトの兄としての本能、男としての本能、そのどちらでもありどちらでも無かった。
もともと目の前で泣いている女の子が居ればそれが誰でも手を差し出すような優しさを持っていた。
それが大事な大事な妹なら、そしてそれが――本人はいまだ自覚していないが――
大切な一人の女の子であるなら。
その行為は必然だったと言っても良い。
足が室内へと一歩動いた。
ドアの音にミクの体が飛び跳ねた。
それはそうだろう今の今まで、誰かが居るなんて思っても居なかっただろうから。
入ってきたのがカイトだと解ると、ミクの顔色がサッと青ざめた。
どこから見られていたのだろうか、
泣いているところからだろうか、
まさかさっきのを見られていたんじゃ―――
いろんな思考が脳裏を掠めて、青くなっていいのか赤くなるべきなのか解らない。
ただ小さく息を呑む。
一方カイトは足を踏み出してしまったものの、何を言うべきか解らずドアのそばに立ちすくんでいた。
ミクがこっちを見ている。と、思えば思うほど頭がぐるぐるした。
さっきの色っぽいミクがチラチラと思い出されて顔がひたすらに熱い。
自分のことを考えながらミクが自慰をしていた、というのは紛れも泣くカイトにショックを与えていた。
それは多分いい意味でも、悪い意味でも。
何か言わなくちゃ何か言わなくちゃ何か言わなくちゃ気の聞いたことを!!!
ミクを見たら自分がどうにかなってしまいそうな気がして、カイトはじっと自分の足元を見ている。
空気が静かに張り詰めていくのがわかる、ミクの緊張が伝わる。
頭が―――ぐらぐらする。
ああ早く何か言わなくちゃ――――
「ど、どうして。僕…なの…?」
ポツリと言葉を発してから、自分が言った言葉の意味をカイトは理解した。
―――直球過ぎ!
今更ながら自分の間抜けさ加減を心底呪った。
ミクをきっと傷つけてしまった、そう思って慌てて顔をあげると、案の定
ぼろぼろと大きな涙を零すミクと目がかち合った。
「み、ミク!違うんだ、そうじゃなくて、最初から見てたんじゃなくて…!!」
あああまた墓穴!と思った瞬間にはミクの泣き声が響いた。
「いや!!言わないで!!」
ミクはもうこっちを見ていなかった。
恥かしさに耐え切れないように顔を両手で隠して泣いている。
カイトは唇をかみ締めた。
言いようの無い苛立ちがむくむくと沸いてきて抑えられそうに無かった。
何で僕はこうなんだ―――泣かせたくなんか無いのに。
ミクを泣かせたくなんか無いのに!
「ミク…その―――ごめん、見るつもりなんか無かったんだ…」
そう心底誤ったけれど、ミクはふるふると頭を振るばかりで此方を見ようとはしなかった。
ベッドの上で乱れたスカートもそのままに、真っ赤な顔を必死で隠して小さく震えている。
「…ミク…、僕の話を聴いて…?」
一歩ずつカイトはベッドに近づいた。
いつもは見慣れた筈のミクのベッドが今日は何故だかとても卑猥に見える。
乱れたスカートから覗く陶器のように美しい太ももがやけに視線に入る。
小さく息を呑んだまま、そっとミクが泣くじゃくる隣に僕は腰掛けた。
ミクはそれでも顔を隠したまま小さく泣いている。
肩に触れるとビクっと震えたけれど、手が振り払われることは無かった。
そのままそっと優しく、ミクを自分のほうへと抱き寄せる。
極度の緊張のためか、口の中がひどく乾くな、とぼんやりと思った。
「…ミク、聴こえてる?」
ポツリとそういうと、小さくミクの頭が動いた。
「あのね、どういえばいいのかうまく言えないんだけど…。ミクが…その…
呼んでいたのは、僕…で…いいのかな…。お兄ちゃんって僕…だよね…?
僕しか居ないもんね…うん…そうだよね…」
ミクの体が強張っていくのが解る。
「ああ、ちがくて…だから、そうじゃなくて…ミク、怖がらないで、僕は別に怒ってなくて…
そのうまくどういえばいいのかな…だから…その…」
口の中が乾いて乾いて仕方ない。
顔が熱くて熱くてたまらない。
自然とミクを抱きしめる腕にも力が入った。
「う、嬉かったんだ!!!そ、その…僕!は…ミ、ミクのその想像の相手が…僕、で…」
言ってから恥かしさで死にそうな気分になった。
でもそれはミクのほうがもっと恥かしいだろうから、僕だって自分のそんな様子を
ミクに見られてしまったら恥かしくて恥かしくて死にそうになるだろうから、
せめてこれ以上ミクを傷つけたくは無かった。
「だ、だから、その……ええっと…だから…」
ふと気付けばミクの肩が小さく震えてる。
わあ余計に泣かせてしまった!とショックを受けていると、クスクスとした
可愛らしい笑い声が胸の中から聞こえた。
え?と思っていると、真っ赤な瞳のミクが顔を上げた。
「お兄ちゃん、テンパリすぎ…おかし……」
「あ、あは、ははは…おかし…かったかな」
「おかしいよ、お兄ちゃん」
「そっかな…あはは」
少し気分が軽くなって笑顔が浮かんだ。
ミクはそれをみて、笑ってくれるかと思ったけど、少し泣き出しそうな顔になった。
もうさっきまでたくさん泣いていたというのに。
「ミク?」
不安げに尋ねる僕に、ミクは小さく哀しそうに笑った。
「驚かせて、ごめんね。お兄ちゃん。吃驚、したでしょ…、え、えっちな妹で…」
声が震えている。泣くのを我慢しているのが見えみえだった。
どうしよう、胸が悲鳴を上げたようにひどく痛い。
こんなミクの顔は見たくない。
けれど哀しいミクの言葉は続いた。
「だからそんな風に慰めてくれなくて、いいよ…、嫌いなら嫌ってくれて、いいから…
き、気持ち悪かったよね、あんな、風、に―――」
「馬鹿!!!」
今までこんな大声出したこと無いかもってくらいな、大声が自分から出て
カイト自身も驚いていた。驚いていたけど、どうにも言葉に出来ない気持ちが渦巻いていて
その勢いは自分でも止める事なんて出来そうになかった。
「ミクの馬鹿っ!!!慰めるために言ったんじゃない!僕は本当に嬉しかったんだ!
あの時違う名前が呼ばれていたら僕はきっと死にそうなくらいにショックだった!それがどういう意味か解る!?
僕はミクが好きなんだから、そんな風に思われてるって知って嬉しくないわけ無いじゃないか!!
可愛い妹が僕を想いながら自慰してるなんて、可愛すぎて僕が死にそうだよばか!ミクの馬鹿!
あんなの見せられて冷静で居られる訳ないだろミクは何も解ってないよ僕の気持ちをわかってないよ!
僕だってミクと――――――」
そこまで一気に叫んで、何がもうなんだか解らなくなった。
頭がショートしてしまったみたいだ。
目の前にミクがいて、僕はミクを抱きしめられる傍にいて。
「お、にい…ちゃ…?」
困惑するミクに、僕はそのまま力強く口付けた。
「ん、…んん……っ」
始めは少し抵抗していたミクも、舌を入れ口内を蹂躙していく内に力が弱くなって
そのうち震えるようにすがりつくようにミクの手が僕の服を握っていた。
「んぁ…はぁ…んんっ!」
何かが焼ききれるような切なさが体中を走る。
聴いたことも無い、いや、さっき聞いた声よりも更に色っぽいミクの声がそれを更に煽る。
ああ、駄目だ、もっと、もっと、もっと。
聴きたい。
この声を。
熱に浮かされるようにそのままミクのスカートの中を弄った。
「いや、ぁ!おに、ちゃ!」
「駄目――ミク、駄目…、その声やめて。僕なんだか死にそうになる」
茂みを抜けるとそこは既にひどく濡れていた。
当たり前だ先ほどまでミクは自慰をしていたのだから、濡れていて当たり前だ。
でもその行為も、自分を相手に想いながらしていたもので―――その事が脳裏を掠めると
下半身の一部にひどく熱が集まって痛い位だった。
最初はチュクチュクと入り口を弄っていたけど、焦れるミクの腰に我慢が出来ずにすぐに指を入れる。
「んぁ……!や、だ!お兄ちゃん、やだよぅ、ね、抜いて、やぁ、んぁっ、はっ」
ミクの声は聴こえている。
頭の隅で届いている。
だけど、駄目だ、届かない。とめられそうに無い。
「ミク、ミク…」
既に涙で濡れている頬にキスを落としそれからまた唇を蹂躙する。
どちらともつかない唾液が汚らしく首筋をたどる。
だが今はそれさえも性感を高ぶらせるものでしかなく。
ミクの両手が怖がるように僕の胸を押してくけれど構わずに、唇と膣内を犯し続ける。
「ん、ふ……んんっ」
苦しそうなミクがさすがに可哀想で唇を解放すると、切なそうなミクの瞳が僕を映していた。
ああ―――
なんて、綺麗なんだろう?
勝手に僕の腕が意思に反して動いていく。
じゅぷじゅぷというなんともいえない音が室内に響いて熱情が煽られる。
「ぁあっ、や、やん…や、…は、や、やだ…おに、ちゃ…!」
ミクの声が甲高くなるたびに僕の指の動きが早くなる。
ああ、ミク、ミク。
可愛いミク、僕のミク。
僕だけのミク。
もう愛液はだらだらと僕の指を腕を流れ、シーツまで沢山濡らしていた。
激しく動く僕の腕を、すがりつく様にミクが両手で掴む。
「……あっ…あっ、やっ、お、に……や、やだ、とめ、て、んぁ…や、や、っだあ!!」
泣き叫ぶようにしながら、ミクが僕の指でイッた。
興奮を抑えきれないまま指を抜いて、呆然と自身の手を眺めた。
ミクが、僕の、指で。
―――不思議な気持ちでそれを眺めていたら
「う、う、ひぃっく、うぁ、ん、おに、ちゃ、酷い、よ…ひど、い
ミク、もうヤだって、言ったのに…おに、ちゃ、ミク、こんなの嫌、だったのにぃ…」
息も絶え絶えにそうミクが抗議する。
涙をぼろぼろと流して、両手で両目をぐしぐしと拭っている。
ああそんな風に拭ったら明日の朝きっと目がはれてしまうのに。
スカートはもう原型を留めてないほど乱れていて、膝はピッタリともう
閉じられているけれど、その奥はまだテラテラと光ってカイト自身を誘っている。
ミクのその様子が一瞬納まりかけた熱をジクリとまた煽る。
だけどミクはもうぐしゃぐしゃに泣いていて―――
それは正にカッとなって我を失った自分の所為であり―――
何をどういえば良いのか解らずに、カイトはただ謝った。
「ごめん―――」
「出てって…」
「でも、ミク」
「で、出て行って、よ!」
ミクそのその悲鳴のような拒絶の言葉に、胸が痛む。
だけどここで引いたらもう前のような関係には戻れない事は明白だったし
自身の気持ちが解ってしまった以上、前のような関係に戻る気もカイトには無かった。
「嫌だ。僕は出て行かない」
そのはっきりとした言葉に、ミクの泣き声がやんだ。
鼻を啜ったままのミクがカイトを驚いた目で見ている。
カイトは瞳を真っ直ぐに受け止めて、はっきりと一言一言、丁寧に言った。
「僕は出て行かないし、このことも後悔してない。少し無理やりだった事は謝るけど…
ミクが男としての僕を好きなら、僕の答えはたった一つしかないよ。
僕もミクが好きだ――――そして、男としてミクを抱きたい。」
カイトの言葉に、ミクは信じられないように目を見開いた。
そして直ぐに顔を痛そうに歪めて言った。
「嘘だよ……そんなの…嘘だよ…」
そういってまたボロボロと涙を流す。
「お兄ちゃん優しいから、ミクのあんな様子見たから、そう言ってるんだ…
だってお兄ちゃん今までミクの事一度でもそんな風に見たことあった?無いでしょ?
ミク子供じゃないもん、解るもん…そんな事くらいわかるもん…
酷いよお兄ちゃん… そんな嘘つくなんて、酷いよ…酷い…」
ミクはもうカイトを見ていなかった。
辛くて辛くて堪らないといった様に、目をきつく閉じてカイトを拒否していた。
「…ミク……」
カイトの声にミクはただ頭をふるふると振る。
「ミク」
呼びかけるカイトの声は悲しそうだった。
酷く悲しそうだった。今までに聴いた事がないくらい、悲しそうだった。
それはミクにも伝わっていたけれど、心がついていかなかった。
自慰を見られただけでも死にそうに恥かしかったのに、半無理やりにキスされて
その後も(一応ミクなりに)頑張って必死に抗議したのに聞き入れてもらえず
そのまま指でイかされたなんて心をレイプされたのと一緒だった。
あんなにお兄ちゃんの指でいけたら幸せなのかな?と考えていた夢みたいな気持ちは
もう何処にもなくて、ただただ、悲しい気持ちで胸がいっぱいだった。
「どうしたら許して貰える…?どうしたら、僕の気持ちをわかって貰える?」
だけど、カイトの泣きそうな声にミクの胸もひどく痛かった。
兄妹の関係は壊れてしまった。明日からどんな顔をすればいいのだろう。
何も無かったように笑う事なんてきっと出来やしない。
ミクは俯いたまま小さく唇を噛み、それを見つめたままカイトの情けない声が続ける。
「……僕はね…本当にミクの事は可愛いと思っていたんだ…。だけど妹のようなもので
家族のようなもので、そういう可愛いなんだと自分でもそう思って居た…。
ううん。今思えばそう思い込もうとしていたのかも知れないね…ミクは可愛いから
マスターにも、お隣のがくぽさんにも人気で…きっとそのうち彼氏が普通に
出来るんだろうと思ってたんだ…だけど…」
「……だけど…?」
思わず促したミクの言葉にカイトは小さく笑った。
「僕はいつも気付くのが遅いね…。ミクが僕を呼んでくれていたのを見てやっと気付いたんだ。
嬉しくて嬉しくて、溜まらなかったよ。その名がミクの大好きなマスターや
他の誰でもない、僕だった事―――」
ミクはただ俯いて静かにカイトの言葉を聴いていた。
「今なら、大声で言えるよ、ミクが好きだよ、ミクを抱きたい。ミクを―――他の誰にも渡したくない。」
あんなにさっきも泣いたのに、どうしてこんなに涙が零れるんだろう。
ミクは呆然と自分の目から落ちるそれを眺めている。
「…まだ信じてもらえない…?どうすれば…信じてもらえる…?ミク…好きだよ。ミク」
ゆっくりと伸ばしたカイトの手を、ミクは拒絶しなかった。
優しくミクの頬に触れ、そのまま涙を拭い、そっと顔を上げさせる。
「…酷い顔…」
カイトが笑うとミクはボロボロ泣いたままお兄ちゃんの所為だもんと口を尖らせた。
「そうだね。全部僕の所為だ。僕が悪い―――今日の事は全部、僕の所為にして良いよ…」
優しくミクの涙を唇で拭う。
「んっ…」
「ごめんね。いっぱい傷つけて、ごめんね、ミク」
それから可愛らしい瞼に、おでこに――――そっと、唇に。
小鳥が啄ばむような可愛いキスを。
何度も何度も繰り返して。
静かに瞳を開ければ、すごく近くで、潤んだミクの瞳とぶつかった。
「ミク」
「良い…よ、信じる…。お兄ちゃんの言葉信じる…」
「…ミク!」
一気にぱあああと明るくなったカイトの表情にやっとミクにも小さな笑顔が浮かんだ。
「えへへ、お兄ちゃん、大好き」
「僕もだよ、ミク!」
許された喜びにカイトはまたミクの唇にチュ!と勢い良く口付ける。
それを受けてミクは擽ったそうに笑った。
でもミクは直ぐに心配そうな顔になって、顔を真っ赤なままおずおずとカイトに告げた。
「で、でも……お兄ちゃん、ミ、ミクの体、で、興奮、する、の?」
可憐な声で、胸とかも小さいのにと少し悲しそうに続ける。
カイトは、そんな事を言うミクが可愛くて可愛くて仕方なかった。
「馬鹿だなあ。ミク。」
「むう、馬鹿じゃないもん」
「ミクじゃなきゃ、駄目なんだよ―――」
言いながらカイトはミクの唇をそっと覆って、今度は味わうようにゆっくりと舌をもぐりこませる。
「ん、ふぅ…んn」
今度はミク自身も頑張って、カイトの動きに舌を絡めてくる。
先ほどとは違って応えて来るミクの反応がただただカイトには嬉しかった。
幸せに満ちたまま優しく唇を開放すると、ミクがとろんとした瞳で見つめている。
カイトはとても切なそうに、けれどどこかとても幸せそうに笑顔を浮かべた。
「ミクの身体じゃなきゃ、ミクの声じゃなきゃ、僕はもう興奮なんてしないんだ。
例えば…そうだな、めーちゃんのあの豊満な胸が目の前にあっても
僕はミクの小さな胸を選ぶよ。きっとね。」
「絶対?」
「うん、絶対」
「ほんとにほんとに絶対?」
「うん、絶対
「ほんとのほんとのほんとに、おっきい胸よりもちいさいのが良い?」
「……うん。絶対……」
厳しい追及にうっかり本音がにじみ出ると、ミクが今お兄ちゃん躊躇したあああ!!と泣きそうな声を上げた。
「ちが!!躊躇なんてしてない!!小さい胸のがいいよ!!ミクの胸の方が全然可愛いよ!!」
「ううう〜〜〜やっぱりお兄ちゃんも巨乳好きなんだあああ」
「違うよ!僕はミクの胸が一番好きだよ!!」
…はた、と恥ずかしい事を言っている事に気付いてカイトがとても今更に赤面した。
言われたミクも自身の追求の所為だったのだけれど、余りにストレートな言葉に赤面した。
「…ええ、と。だから…その、そう言う事だよ!解った!?ミク!」
何がそう言う事なのか良く解らない。言ったカイト自身も良く解っていない。
ミクも真っ赤なまま返事をした。
「う、うん。解った…」
「…え…と」
「…………」
今まで散々恥ずかしい事を言ってはいるのだが、なんだが正気に意識が戻ってしまった。
「ぼ、ぼく、やっぱり今日はもう出て、くね…!そうだそれがいい、それがいい」
明後日の方を向いて真っ赤なままカイトは捲くし立てる様に告げた。
正直下半身はとっくに限界だったし、どうにか欲望を吐き出してしまいたかったのが
本音だったけど、またミクを傷つけてしまうようで怖かった。
自分の欲望を止められる自信がカイトには1oも残ってはいなかった。
「じゃ、じゃあみく、またあした!」
そう言いながらわたわたと情けないほどに慌ててベッドから降りようとするカイトの袖を
ミクの手がそっと掴んだ。
「い、行っちゃ、やだよ…。さっきは出て行かないって言った…のに。」
「で、でも、ミク」
ミクの顔は俯いていてカイトからは見えない。
袖を掴んでいるミクの手が小さく震えているのだけが認識できた。
「……続き、良い、…よ」
どれほどの勇気で言っているのだろう。
そう思うと、胸が痛くなるほど切なくなった。
声が震えるのが解る。
「本当に良いの…?ミク…」
「お兄ちゃんなら、良い、よ……」
「さっきみたいに優しく出来ないかも知れないよ…?」
ミクの震える手をそっと剥がして、両手で掴む。
それからカイト自身もまたベッドへと腰を降ろして、まっすぐにミクと向かい合った。
ミクは真っ直ぐにカイトに告げた。
「このままお兄ちゃんが行っちゃう方がイヤなの……
お兄ちゃんが本当にミクを好きなら―――今すぐここで抱いて」
ココロが、震えた。
泣き虫で、いつだって僕の後をくっついて歩いていた可愛い女の子。
いつのまにこんな強さを秘めていたのだろう。
ふわふわでにこにこで可愛らしいイメージはもう彼女にはなかった。
真っ直ぐな瞳に射抜かれたように、カイトは言葉を失った。
「……お兄ちゃん?」
でもすぐに不安そうなミクの声で、我に返った。
それから思わず自嘲気味に笑った。
「―――いつの間にか、ミクはこんなにも成長していたんだね…」
「?」
「なんでも、ないよ。……ほんとに、良いんだね」
ミクの瞳をじっと見つめた。
あまりにも澄んでいて、そこには迷いがなくて。
美しかった。
「うん。お兄ちゃんが、大好き」
「僕も―――好きだよ、ミク」
今日何度目の言葉だろう、カイトはミクに優しく口付けながらぼんやりと思う。
でも不思議と、何度言っても足りない位だった。
溢れる想いに、言葉がついていかない。
言葉だけじゃ、全てに足りない。
―――ああ。
だから人は―――。
身体を、繋げるのか。
カイトは無性に泣きそうになって、ミクの小さな胸に顔を埋めた。
続く。