唐突ですが、鏡音レン、重音テトが好きです。よろしく。  
告白してから数分経ったと思うけど、テトさんの部屋の中の空気は止まったまま。  
壁掛け時計の秒針の、チチチチチ……という音が妙に気になる。  
それでも、テトさんは何も反応を返してくれない。  
 
「迷惑、かな?」  
 
遂に耐え切れなくなって、僕は自分で口を開いた。  
テトさんは、まだ何も言わない。  
代わりに、僕の背中にテトさんの手が回された。  
 
「……いや、迷惑じゃない」  
 
抱き合ったままだから、テトさんがどんな顔をしてるかは分からない。  
ただ、テトさんの言った言葉だけは、はっきりと聞こえた。  
 
「私も好きだよ、レン」  
 
テトさんがギュッと僕の体を強く抱いてきた。  
僕もそれに合わせて、腕に力を込めた。  
この瞬間、僕らはただのバンド仲間ではなく、特別な関係へと一歩踏み出したのだ。  
そう考えると、今のテトさんの特徴が全部気になってくる。  
実は僕より大きな背なのに華奢な体。主に胸囲的な意味で。  
女の人ならではの、シャンプーか何か分からないけど甘いような香り。  
くっついた体から感じる、体温と脈動。  
 
(……やべっ)  
 
はい、勃ちました。  
しょうがないじゃないか!! こちとら血気盛んな14歳なんだ!!  
とは言え、これを知られたらムードぶち壊しだ。  
あくまで平静を装いながら、何とかして静めようとする。  
どうする、円周率か素数か、えーっと……  
 
「……何、この足に当たる硬い物」  
 
「え」  
 
テトさんがぽそっと漏らす。  
テトさんの膝は、あろうことか僕の股間に密着していた。  
これじゃあ、硬くなったらすぐばれる。  
僕の体は一気に硬直した。  
 
「これって、ナニ?」  
 
「……はい、ナニです」  
 
「ふーん。興奮してるんだ、今」  
 
そりゃそうですよ!!  
ああ、どうしよう。一気にムードは最悪の方向へ流れてしまった。  
告白して返事貰って数分で別れたりなんかしたら、もう笑うしかない。  
 
まるでギロチン台に首を突っ込んでいるかのような心境でいると、  
 
「もう、しょうがないなぁ……レンは」  
 
少し呆れたような声がして、テトさんは僕から離れた。  
そして、何を思ったのか。  
着ている服のボタンを上から二つ外して、僕の目の前に顔だけぐいっと近づけてきた。  
 
「じゃぁ、そういう事……する?」  
 
「え、あ、その」  
 
僕がさっき告白するまで泣いていて、少し赤くなったテトさんの目と視線が合う。  
あまりに露骨で一瞬ためらった。これは誘っていると見て間違いないだろう。  
なら自重なんかするもんか。突っ走ってやる。  
 
「……したいです、しましょう」  
 
テトさんの誘いに、大いに乗ってやろうじゃないか。  
いちいち悩んでられない。ある意味ノーフューチャーなのだ。  
 
「ははっ、君はじつに……」  
 
テトさんは笑顔になって、少し頬を染めながらいつものセリフを口にしようとした。  
何だか悔しかったから、僕はテトさんが言い終わる前に、キスでテトさんの口を塞いでやった。  
 
「んむぅうぅっ!?」  
 
塞ぐだけじゃなく、舌も入れた。  
テトさんと唾液の交換をして、どんどん気分を高める。  
キスをしながら、ゆっくりとテトさんの体を床のカーペットの上に横たえていく。  
 
「……慣れてるね」  
 
「経験済みだもん。昔から言うでしょ? 『セックス・ドラッグ・ロックンロール』って」  
 
テトさんの疑問に、僕はロックな返答を心がける。  
あれ? 何だか昔メイコ姉に同じ事を言われたような気がする。まぁいいか。  
そのメイコ姉に習った事を最大限発揮して、テトさんの服をゆっくりと剥いでいく。  
いつもの軍服をはだけさせて、リンのみたいに控えめなブラジャーを外す。リアホックだって何のその。  
ただ、テトさんが妙に非協力的だから手こずった。  
 
「ねぇ、もしかして、ホントはこういうことしたくないの?」  
 
だから、ついこんな事を聞いてしまった。  
さっきはOKサインだと思った事が、実は違ったらどうしよう。  
しかし、テトさんから返ってきたのは、  
 
「……いや、その、私初めてだから、こういう時どうすればいいかイマイチピンと来なくて」  
 
何っ!? テトさんじゅういっさい、バージンと申したか。  
……いや、稼動時期から考えたら確かに不思議じゃないけど。  
頬を真っ赤に染めながら話すテトさん。もちろん嘘じゃないんだろう。  
 
「よし、じゃあ任せて」  
 
「……うん」  
 
服剥ぎ再開。  
ブラジャーを取っ払ってしまうと、そこにはもちろんおっぱいがある。  
メイコ姉より小さくて、ミク姉より多分小さくて、リンくらいのサイズだろうか。  
ただ、肌が凄く綺麗だ。絹のようという比喩を使いたいくらいに。  
そっと、ふくらみに手を添えてみる。  
 
「にゃあぁっ……!?」  
 
瞬間、テトさんがビクンと跳ねながらネコみたいな声を上げた。  
恥ずかしそうに目を閉じ、口を真一文字に結んでいる。  
触ったおっぱいはスベスベで、ライブハウスで触ったリンの肌に限りなく近い。  
31歳というよりは、テトさんが普段言うとおりの15.5歳説を推したくなる。  
 
「ひゃぁあぁっ!? ふあぁぁああっっ……!!」  
 
おっぱいの先端をちゅっと吸ってやると、テトさんはまた声を上げた。  
僕のすることにいちいち反応してくれるテトさんの体は、すごくいぢめがいがある。  
そのまま、おっぱいを弄る方と反対の手を、テトさんのスカートの中に滑り込ませていく。  
 
「あっ、そこ……!!」  
 
テトさんの体がこわばるけど、それでも手は止めない。  
スカートの中に隠れていたパンツに手をかけて、少しづつ降ろしていく。  
 
「テトさん、少し足動かして」  
 
「え、でも……」  
 
「大丈夫、絶対に優しくするから」  
 
きりっと顔を作って、テトさんに協力を促す。  
それが功を奏したのかどうか、テトさんの体からこわばりが少し解けた。  
手助けがあれば、パンツはするするとテトさんの足から剥がれる。  
そして、僕はまだ誰も触れた事の無いテトさんのあそこに、遂に手を触れた。  
 
「ひっ……!?」  
 
当然、テトさんは小さな悲鳴を上げるわけだ。  
僕だって、生まれて初めて他人にモノを触られたらこうなるだろう。  
少し湿り気の有るソコは、触っただけでもピッタリ閉じているのが分かる。  
 
「だ、大丈夫……だよね? ホントに」  
 
「うん、力抜いてればOKだよ」  
 
半分涙目になって、何度も僕に確認を取ってくるテトさんの顔を見下ろす。ヤバい、マジヤバいぞ。可愛すぎる。  
守ってあげたい気持ちと滅茶苦茶にしたい気持ちがせめぎあって、  
辛うじて優しく出来ているようなギリギリの状態で、僕はテトさんに愛撫を続ける。  
 
「……痛かったら、遠慮しないでね」  
 
「うん……にゃあっ……!?」  
 
怖い痛いだけじゃ辛いだろうから、テトさんにも気持ちよくなってもらわないと。  
メイコ姉曰く、『女の子が手っ取り早く感じるようになるのはクリトリス』だそうだ。  
僕は指の腹を使って、テトさんのアソコにある芽っぽいソレを撫でる。  
触れた途端、テトさんはまた短い声を上げた。  
 
「どう?」  
 
「うん……ビックリしただけだから。続けていいよ」  
 
テトさんのOKを貰って、僕は本格的にクリトリスをいじりだす。  
コロコロ転がすたびに、テトさんの口から  
 
「ひゃあぁっ!?」  
 
とか、  
 
「ふあぁぁあっ!!」  
 
とか、少なくとも痛そうではない声が聞こえる。  
よし、今度は本当に大丈夫そうだ。  
手を動かしながら、口ではテトさんの体のいろんな所にキスマークを付けていく。  
おデコ、ほっぺた、うなじ、鎖骨、おっぱい、お腹。もちろん唇同士も。  
 
「ひゃあっ!! あっ、あっ、っあぁぁっ!!」  
 
その度に、耳にはテトさんの甘い喘ぎ声が入って来るのだ。  
もうさっきから、僕のモノは戦闘状態を解いてくれない。  
いい加減に何とかしたいけど、テトさんのほうはどうだろう?  
指を一本だけ、テトさんの中につぷりと入れてみる。  
 
「ひっ……!!」  
 
「……よし」  
 
テトさんは一瞬ビックリしたけど、こっちも準備が整ってるもんだと思っていいでしょう。  
触り始めよりも明らかに濡れたソコは、指一本くらいなら問題なく受け入れてくれた。  
僕は一旦テトさんの上から体を起こし、脱ぎ忘れてたズボンと下着を下ろす。  
パンツを脱いだ瞬間、締め付けから解放された僕のモノがピョンと飛び出した。  
 
「うわぁっ!? そ、それが……ナニ?」  
 
「はい、ナニです」  
 
「……大きい」  
 
僕の手が離れて一旦息が整ったテトさんは、目を丸くして僕のモノを見つめてきた。  
視線がモノの先端に集まってるような気がして、妙に恥ずかしくなる。  
 
「いや、そんなに大きいとは思わないけどなぁ。もっと大きなモンもあるでしょ」  
 
「……だって、他は見たこと無いから比べようが無いよ。馬鹿だなぁ」  
 
「ごもっともです」  
 
そうだ。僕のモノが、テトさんが初めて知るオトコになるのだ。  
うーん、何だかいい気分になってきたぞ?  
僕は改めてテトさんをゆっくりと寝かせ、テトさんの足の間に体を入れる。  
そうなると、僕の目にはテトさんのアソコが映る訳だ。  
 
「や、ああっっ……!! 見ないで、っ」  
 
「……やだ。さっきテトさんこそ僕のモノまじまじ見てたじゃん」  
 
「だって……」  
 
少しいじわるな言葉をかけて、これで少しは緊張もほぐれてるかな?  
まだ不安だらけの表情のテトさんの顔を見ながら、僕は手をあてがったモノを、  
テトさんのアソコへとあてがった。  
 
「あ、っ」  
 
「……いくよ」  
 
ぴとっとくっついた瞬間、テトさんがピクンと震える。  
ゆっくり時間をかけるのもいいのかもしれないけど、いつまでも怖い思いさせるのは何かヤダ。  
僕は狙いを定めると、一気にテトさんを貫いた。  
 
「う゛あぁぁあっ!?!? ぐ、あぁっ、いた、痛い……っ!?!?」  
 
テトさんの声が心にグサリと刺さるけど、我慢してくれると信じてそのまま続行する。  
狭い膣内もお構いなしに、僕は進んだ。  
しっかり濡れてると思ったアソコは、結局まだかなりキツかった。  
呻くような、テトさんの痛がる声がする。何だか申し訳ない。  
でも、もう戻れない。  
 
「テトさん、っ……!! ぜんぶ、入ったよ……」  
 
「あ゛……っく、は……そっ、か……はあ゛ぁぁっ!!」  
 
「痛い?」  
 
「うん、ちょっと……これは……すっごい痛い」  
 
全部入ると、僕はテトさんの顔を改めて見た。  
無理してにっこり笑うテトさんの顔が、逆に痛々しくて申し訳なくなる。  
初めてでいきなり気持ち良くなんかなるもんじゃない、というメイコ姉のアドバイスもあることだし、  
とにかく早く終わらせたい……んだけど。  
 
「はぁ、あっ……レン、気持ちいい……?」  
 
ぎっちぎちに締め付けてくるテトさんの膣内が、痛気持ちよくてどうしよう。  
ずっと、このままテトさんの初めてのひと時を味わっていたいような気もする。  
 
「うん、気持ちいいよ、テトさん……」  
 
とにかく、テトさんの体がこなれるまでは少しづつピストンして、  
段々ほぐれたかな? と思ったら少し動きを大きくする。これを、長い時間繰り返した。  
その間は、まだ涙が伝っているテトさんの頬にキスしてみたり、  
体中をなぞってみたりして、気が紛れるようにしてみた。  
僕が童貞喪失した時よりは上手く出来てると思いたい。  
 
「んっ、はっ……あ、ぐぅぅっ……!! ふぁ、あぁあぅっ」  
 
段々とテトさんの声に余裕が生まれてきていた。  
しかめっ面だった表情も少し緩んで、声にも艶が出てくる。  
ハァハァと息を吐きながら、途切れ途切れに甘い声を漏らすテトさん。  
 
「っく、テト、さんっ……!!」  
 
もう我慢できなかった。  
腰を動かすスピードを速めて、僕は一気に射精へと持っていこうとする。  
僕もテトさんみたいに息が荒くなって、ムズムズした感覚がモノを昇ってくるのが分かる。そろそろ出そうだ。  
 
「ああぅぅっ!! にゃああぁっ!! ああっっ!! レン、れ、んっ!!」  
 
テトさんの声がまた辛い物になってきた。  
僕の名前を呼びながら、必死に僕の上着に手を伸ばしてしがみ付いてくる。  
仕方ないか、僕が結構乱暴にしちゃってるし。  
でも、もうここまで来たら止められない。このまま中に出して……  
あれ、VOCALOIDとUTAUって子供作れるのかな……?  
 
「く、ぅぅあっ!!」  
 
「やはああぁぁっっ!! うあぁぁあっ……!!」  
 
僕は呻いて、最後にテトさんの腰に思いっきり自分の腰を打ちつけた。  
一瞬浮かんだ心配も、射精の衝動で流されて、頭の中が真っ白になる。  
ドクンドクンと脈を打つ僕のモノから出た精液が、テトさんの膣の中に広がっているんだ。  
 
「はあぁっ、ああっぁあっ……はぁっ、はぁっ……!!」  
 
まるで全力疾走をした直後のように息の乱れたテトさん。  
汗が顔を伝い、はだけた胸を上下させ、下半身は僕とぴったり繋がりながら、ゆっくりと息を整えている。  
ごくりと唾を飲んだ後、テトさんは射精を受け入れて初めての感想を漏らした。  
 
「なんか、お腹の中がヘンな感じ……」  
 
「そりゃあ、僕のモノが入ってるからね」  
 
「……ばーか」  
 
まだ整いきらない息の合間に、テトさんがにっこりと僕に向かって笑ってくれた。  
その切ないような愛おしいような顔がたまらなくなって、僕はそのままテトさんにキスをする。  
 
「ん……っ、はぁ……レン」  
 
「何?」  
 
キスを終えると、テトさんが僕に何か話したそうにしてきた。  
それは、今更言うまでも無いことだったけど、今この瞬間に確かめたい事だった。  
 
「レン……好きだよ」  
 
「……はい。僕もテトさんが大好きです」  
 
僕らは抱き合い、お互いの温かさを存分に味わった。  
体もさることながら、すごく心が暖かい。  
ああ、これが幸せって奴なのかなぁ。  
 
……次の週、ライブのために集まった時は、テトさんと目が合うたびに少し恥ずかしかった。  
でも肝心のライブはいつも通り、いや、いつも以上に調子がよかった。  
何てったって、同じステージの上に一番の理解者がいてくれるんだ。もう怖い物なんかあるもんか。  
 
 
 
さて、その後の話。  
ライブハウスの楽屋で、テキトー英語を口ずさみながら、  
リンが鏡に向かってメイクをしている。  
 
「ゆーごーんとぅふぁーでぃすたーい、ばっらいだーんしんおんざばーれんたぁいん♪」  
 
「……リン、それ気に入ったの? さっきから歌いまくってるけど」  
 
「うん! だってこれに合わせてくるくる踊ったら楽しそうじゃない? わーいどんちゅーゆーぜー♪」  
 
今日やるカバー曲を教えてから、ずっとこうだ。  
おまけに、英語圏出身のアンもノッてきたりする。  
 
「Try not to bruise it 〜♪」  
 
「いいから黙ってくれよ……」  
 
ステージ前は集中したい僕にとってはいい迷惑だ。  
でも、今日は僕よりリンの緊張を解きほぐす方が先決だ。  
何てったって、今日は記念すべき『Idiot-ANDROID』新メンバー追加の日なのだ。  
 
 
 
ある日、リンが僕らのライブ後の楽屋に訪ねてきた。  
捨て猫みたいだったあの日のそれとは違った、キラキラした目で言ったのは、  
 
「私も、レン達と一緒に馬鹿になってみたいな」  
 
の一言だった。  
正直、幾らリンの頼みでも、こればっかりは悩んだ。  
リンがやるとなったら、パートは最近DTMもやってるしキーボードだろう。それはバンドのカラーに合わないのでは?  
元々、所構わず萌え全開の、気持ち悪いアイツに嫌気がさして作ったバンドなんだ。これは今でも揺るがない。  
それを伝えるには、オリジナル以外はUKパンクのカバーしか僕は相応しくないと思ってたし、それ系ばっかやってたわけで。  
そこ、洋楽厨の厨二とか言わない。  
バンドリーダーの僕の決定にゆだねられたが、正直僕自身はそんな感じだった。  
そこへ、テトさんの一言が僕に突き刺さる。  
 
「レン……、『Punk is Attitude,Not Style』だと思わないかい?」  
 
僕の敬愛するパンクロッカーの言葉である。  
ああ、テトさんにそこまで言われちゃ仕方ないよね。くそったれ。  
リンの加入と、オリジナル曲のキーボードアレンジ、カバー曲探しがその日のうちに決まった。  
で、妥協の結果、『じゃあUKロックでニューウェーブならOKでしょ?』とごり押しされて今に至る。  
 
 
 
「よーし」  
 
「ん? 何やってるの? レン」  
 
ステージに上がる前に、僕は愛用のテレキャスにひと細工する。  
ボディトップにデカデカと、ある物を貼った。  
 
「……きったなーい、もうちょっと綺麗に貼ろうよ」  
 
「うっさいな、これがいいんだよ」  
 
「ふーん、パンクってよく分かんないや」  
 
『KEEP OUT!!』と大きく書かれた黄色いテープが、ボディを斜めに横切るように貼られた。  
何を隠そう、これは……リンが陵辱された現場から拾ってきた代物だ。  
リンは当然そんな事は知らない。ただのクチャクチャのぼろっちいテープだとしか思わないだろう。  
僕がこのテープを愛器に貼り付けた意味は、誰にも分からなくていい。と言うか、誰かにばれたって別にどうでもいい。  
僕の怒りのジェネレーターとして、いつまでもステージで共にあれば、それでいい。  
デコレートが終わったテレキャスを担いで、僕はみんなが組んでいた円陣に加わる。  
 
「―――――よし、今日は特別だ」  
 
「無論、全身全霊をかけて舞台に挑ませていただく」  
 
「馬鹿だなあ、私達はいつだって全力だ」  
 
「Yes、ワタシたちは手加減シラズのIdiotデスからネ!!」  
 
「みんな……ヨロシクねっ!!」  
 
「「「「「お―――――っ!!」」」」」  
 
円陣を解いた僕らは、ステージに散っていく。  
キューボックスからヘッドセットに送られるクリックに合わせ、リンのシンセとアンのドラムが入る。  
いつもとはちょっと違う曲に最初は戸惑ったし、ファンも戸惑ってるけど、すぐに慣れた。  
デジタルでダンサブルなビートとは裏腹な、ボロボロのテレキャスター。  
黄色いボディと白っぽいメープルネック、黒いピックガードは正に僕の色だ。  
曲が続いていくにつれ、僕とテレキャスの境界線が無くなっていくような感覚になる。  
最後のオリジナル曲で、その境界線は遂に無くなった。  
 
 
 
Cram-free generation,NEET heroes   ゆとり世代にニートの申し子  
NICO-holics,Warezer       ニコ厨に割れ厨  
Rogue circles,Right bodys  ジャンルゴロに利権団体  
Newboys and Fangirls,Withdraws    リア厨、腐女子、引きこもり  
All you Geeks and Childness peoples 全てのオタクとガキ臭い野郎共  
 
MAD-holics,DTMer            MAD中毒患者にDTM職人  
Loves Pixiv,Loves Piapro  PIXIVとピアプロを愛する奴ら  
Novelists and Coterie ciacles SS職人に同人サークル  
All you Geniuses and Lovely idiots 全ての天才と愛すべき馬鹿共  
 
What you gonna do now?       今何がしたい?  
Just rockin'on you,Wooh……     お前等を振り向かせてやるぜ  
Spending the time through the night 夜通し時間をかけて  
Grind into the reason to singing  歌う意味をその頭に叩き込んでやる  
 
In the age,Just golden age of me   時代は正に俺のモノだ  
The golden age of me,babe.    俺の時代だ    
In the age,Just golden age of me   時代は正に俺のモノだ  
The golden age of VOCALOID……  時代はボーカロイドのモノだ  
 
 
―――――ああ、僕は楽器なのだ。人の形をした。  
ただがむしゃらに、入力された事を素直に表現する存在なのだ。  
 
 
 
ライブは盛況のまま終わり、アンコールまでやってから、僕はリンたちと楽屋に戻る。  
初めてのロックバンド体験を、リンは汗をタオルで拭きながら楽しそうに語る。  
 
「やーやーやー、こんなに激しいステージだとは思わなかったよ」  
 
「……うん」  
 
「だってさ、盛り上がったからってギターをグサグサアンプに挿しちゃうんだよ? あれはすっごいパンクだよね!!」  
 
「……リン、もう言わないで」  
 
あまりに気分が乗りすぎて、ついやってしまった。後悔だらけだ。  
さっき、がくぽ君と僕でライブハウスのオーナーに土下座して、何とか出入り禁止だけは免れたものの、  
約10万というギターアンプの弁償金は後日しっかり払う羽目になるだろう。当然だ。  
頭を抱えてイスに座っていると、何だか外が騒がしい。  
僕もリンも、一緒に楽屋にいたテトさんもアンも、何事かと楽屋のドアの方に目線をやる。  
 
「ちょっ……迷惑でござる!! 見ず知らずの方にアンプ代の肩代わりなど……!!」  
 
「あんだよー、ジャズコーラス買うのだって大変だろ? 収入源の乏しいアマチュアバンドなんだからさ」  
 
「しかし……!!」  
 
誰かが、外に出ていたがくぽ君と通路で言い争ってる。何かトラブルでもあったんだろうか?  
一応バンドリーダーとしては見逃せない。三人は残して、僕はドアを開けて通路に出た。  
 
「あっ……レン」  
 
「ん? って言うと、君があのクレイジーなボーカルかい?」  
 
「え、あ……はい、『Idiot-ANDROID』のレンは僕ですが」  
 
がくぽ君と言い争っていた男の人は、僕を見るなりそんな事を言ってきた。  
何だか不健康そうなのにガタイのいい体、リーゼント、今時ロッカーズファッション。怪しさ満点……いや、突き抜けてる。  
 
「いやー、めちゃめちゃカッコよかったよマジで」  
 
「……何の用事でしょうか」  
 
いかにも怪しい風貌のその男の人は、僕の警戒心丸出しの目を見て、ポケットに手を突っ込む。  
ジッポと『GAULOISES』と書かれたタバコの箱と、あと黒い皮のカードケースが出てきた。  
『GAULOISES』を一本吸うと、男の人はカードケースから一枚名刺を取り出し、僕に差し出した。  
 
「カッコがアレで悪ぃね。これでも一応本業は君たちと同じロッカーでね、これだけはやめらんねーのさ」  
 
「え、あ、えええぇっ!?」  
 
「……君たち、デビューしてみないかい?」  
 
思わず僕は、名刺の肩書きと、咥えタバコでにやっと笑って『デビュー』と口にした彼の顔を見比べてしまった。  
その名刺には、どこかで聞いた事のあるインディーズのレコード会社の名前と、  
『代表取締役社長』の文字が確かに印刷されていた。  
 
 
 
 
 
北の大地の中心街。  
僕はあるビルの前に立っていた。  
空からは雪がチラチラと舞い降り、ビルを見上げる僕の顔にペタペタと当たっては消える。  
僕は白い息を吐きながら、一人呟いた。  
 
「ここか……」  
 
その瞬間、目が何かで覆われた。  
 
「だーれだ?」  
 
「うわあぁぁっ!? て、テトさん止めてよ!?」  
 
「……君はじつに空気読めないなぁ」  
 
テトさんが、毛糸の手袋をはめた手で僕の目を隠していただけなんだけどね。  
コートにマフラーの完全防備なテトさんも、僕と同じように目の前のビルを見上げた。  
 
「……ここが?」  
 
「うん、そうだよ」  
 
「ここが、僕らの生まれた場所だ」  
 
ビルを見上げる僕に、テトさんが寄り添ってくる。  
頭と頭を軽くぶつけるような感じで、僕らはビルを見上げて……  
 
「ちょっとー、早くしようよー。私早くホテルで寝たいよー!!」  
 
後ろのワゴンの窓からのリンの大声で雰囲気がぶち壊しになった。  
くそぅ、リンはこういう感情を噛み締めたく無いのかよ。  
少し名残惜しかったけど、これ以上どうしようもないので、僕らはワゴンに乗り込んだ。  
確かにフェリー慣れしていない僕らは、揺れる船内が寝にくくて疲れたし。  
 
「さて、Hokkaidoまで来たんですから、今日のDinnerは何かオイシイモノにしましょう!」  
 
「あ、私ラーメン食べたいなー」  
 
「待てぃリン、拙者らの旅費はささやかな物でしかないぞ、倹約倹約」  
 
昔から、駆け出しのバンドの全国ツアーはオンボロワゴンで、と決まっているんだとか。  
例に漏れず(?)、僕ら『Idiot-ANDROID』の面々は、中古のハイエースに楽器と期待を詰め込んで初のツアーに突入していた。  
運転手のがくぽ君、助手席のアン、後ろにはリンとテトさんと僕。荷室にはシンセやらギターやらが積んである。  
まぁ、オンボロと言っても『ただ古いだけ』で中身は立派なもんだ。  
ワインレッドのケバケバしいシートは目に毒だけど、それ以外は物も積めるし乗り心地もいい。  
女の子がいるのにケツが痛くなるようなバンは無いだろう、と言って社長が用意してくれたのだ。  
さっすが、インディーズレーベルとは言え社長なだけはある。  
 
「大体今日の夜はライブだぞ? ディナーじゃなくて飲み会になるだろ」  
 
僕はみんなの会話に口を挟むけど、リンもアンもがくぽ君も話に夢中でハブってくれやがった。ちくしょう。  
カーステレオからは、ちょうど今日演奏しようと思っていた曲が流れている。  
しょうがないから、ちょっと小声で練習してみた。  
 
 
 
Wider baby smiling you've just made a million      ミリオンモノの笑顔をもっと見せてくれよ、ベイビー  
Fuses pumping live heat twisting out on a wire     ワイヤーを通って 熱気が溶けていく  
Take one last glimpse into the night          夜に向かって 最後にちらっと視線をくれて  
I'm touching close I'm holding bright, holding tight  俺はもっと近づいて きつく抱きしめる  
Give me shudders with a whisper             俺に 身震いするようなささやきをくれ  
Take me high till I'm shooting a star……       天国に連れてってよ 俺が流れ星になるまで……   
 
 
 
(しゅーてぃんすたあぁぁぁぁぁ―――――……)  
 
(ぶっ!?)  
 
つい聞こえるくらいの声が出ていたのか、テトさんが僕にささやいてきた。  
その声に、ボーっとしていた僕は思わず吹いてしまった。  
やばい、これは恥ずかしいぞ。  
テトさんは、そんな僕などお構い無しにそのまま続ける。  
 
(……ねぇ、この後どこか出かけない?)  
 
(え、いいけど……何で?)  
 
(デ―――――ト)  
 
(ぶっ!?)  
 
あの日以来僕とテトさんの関係は良好だ。あと体の相性も。  
キュートなネコっぽい喘ぎ声がたまらないんだよねぇ。あと素直じゃない所とか。  
ああ、思い出したら何だか変な気分に。  
デートしたらその後、今日泊まるホテルで一発やってからライブに行こうかな……?  
 
「あー!! レンが何かエッチな顔してるー!!」  
 
「ちょ、ば、リンっ!!」  
 
「Hahaha、レンはSusukinoにでも行く気なんデスカ?」  
 
「ねーよっ!!」  
 
……はっ、いかんいかん。  
どれだけ顔に出ていたのか知らないけど、リンは緩んだ僕の顔を目ざとく見つけていた。  
って言うかアンはいつの間に『すすきの』という単語を覚えたんだ?  
 
「君は……」  
 
やばい、横のテトさんがなんとも微妙な顔を僕に向ける。  
怒りと嘲笑と諦めと、その他いろいろな物が交じった表情。  
 
「ほんっっっっっとうに、馬っ鹿だなぁ!!」  
 
……はい、ごめんなさい。  
 
その時、ちょうどタイミングよく交差点に差し掛かる。  
信号の矢印が消え、黄色から赤に変わりそうだ。  
まだ運転に慣れていないがくぽ君が、少しオーバースピードで右折した。  
 
「うわっ!!」  
 
「きゃあぁっ!!」  
 
「No!!」  
 
「すっ、すまん!!」  
 
みんな踏ん張りきれずに、体が流れる。  
そうなると、僕のところにはテトさんが体を傾けてくる訳で。  
妙に接近した僕ら。テトさんが、僕にしか聞こえない声で呟いた。  
 
(……しょうがないなぁレンは。だったら、ホテルに着いたらすぐに君の『マイク』を握ってやろう)  
 
(……うぅっ)  
 
嬉しさ半分。ただし、情けなさ半分。僕はガックリと肩を落とした。  
CDデビューしたての、新人バンドな僕らの珍道中。  
いろんな感情を乗せて、オンボロハイエースは冬の街をひた走る。  
 
 
 
―――――VOCALOIDの未来と言う名の先の見えない雪原を、  
僕は『Idiot』だから、ただ真っ直ぐに突き進む。  
僕らの足跡には、きっと輝くものが残ってるはずなんだ。  
VOCALOIDの、UTAUの、全てのヴァーチャルシンガーの未来に幸あらん事を願いながら、  
今日もどこかで歌っています。  
 
 
 
終わり。  
 

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